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    spring10152

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    spring10152

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    千智さんに恋するモブの話

    #彼女の箱庭
    #檻の箱庭

    主役になれない男の片思いそれは大学の入学オリエンテーションの時だった。偶然隣に座っていた女子に俺は一目惚れをした。
    透き通るような白い肌に綺麗に切りそろえられたショートカット、やや神経質そうな知的な瞳によく似合う眼鏡。大人しめな印象に反して意外と大きさがありシャツを押し上げる胸。そのどれもがとても魅力的に見えた。

    「あ、あの、君名前は?俺は佐々木優斗」
    「文月千智です」
    「出身は?俺は千葉から来たんだけど」
    「私は地元です」

    打っても響かない会話に焦りを感じるが、きっと人見知りなのだろうと好意的に解釈し、今は彼女の落ち着きある凛とした声を聞くことができたことに興奮していた。
     それからも授業の度に彼女の姿を探して近くの席に座ってみたりして慣れてきた頃には彼女の隣の席に座ってみたりして声を掛けてみた。

    「文月さん、久しぶり。俺の事覚えてる?」
    彼女は困ったように視線を泳がせ、助けを求めるようにもう片方の隣に居た男に視線を向けた。

    「オリエンテーションの時に話してた人だろ。佐々木優斗さん」

     男がこう答えると彼女は此方に視線を戻して「……すまない」と一言覚えていなかったことに対する謝罪を述べたが、ホームルームの無い大学で人を覚えることが大変なことくらいは分かっているのでそう大してショックではなく、「いーよいーよ、人覚えるのって難しいよね」とフォローを入れた。それよりも話し掛けた覚えのない男の方が俺の事を覚えていた事に驚いた。
     睦月智彰。つり目でやや視線が鋭く見えるが、それを補って余りある人懐っこさで男女両方からの人気を集めるイケメンだ。彼女とはどんな関係なのだろうか。

    「もしかして二人って付き合ってたりするの?」
    「ただの高校からの知り合いだ」

    動悸のする胸を押さえながら恐る恐る聞いてみると彼女があっさりと俺の問いを否定した。
    ああ、高校からの知り合い、それならいつも一緒に居るのも納得がいく。そうだよな、だっていつも見てたけど別段距離が近いわけでもなければ親しく会話をしているわけでもなくとりあえず一緒に居るだけって感じだし。だったら俺でもワンチャンあるよな。
     そう思い授業の度に彼女の隣の席を確保し、こまめに話し掛けて何とか顔と名前を憶えてもらった。連絡先の交換は他人と雑談等のやりとりをしたくない、とのことで断られてしまったけれど。
     そんなある日、文月さんが居ない時に睦月に話し掛けられた。

    「あんた千智の事狙ってんだろ」
    「ま、まぁ……友達には変わってるって言われるけど、彼女可愛いと思うし、あの硬派な感じがいい」
    「ふーん、よくわかってんじゃん。あんた見る目あるね」

    けん制されるのかと思ったらなんだただの恋バナかとほっと胸をなでおろしていると「でも」と彼は続けた。

    「彼女が欲しいんなら千智はやめといた方がいい。あいつは恋愛が嫌いで誰にも靡かない」

    3年一緒に居た俺がまだ『知り合い』扱いなんだぜ?と肩を竦めながら彼は笑った。けれどもそれはお前が彼女の好みじゃないだけなんじゃないのか、と心の中で呟いた。俺はまだ彼女を諦める気は無かった。
     それから何年か経ち、彼女の後を追い続けて同じ研究室に配属になり、それなりに雑談にも付き合ってもらえるような仲になった。ああ、長い道のりだったなぁ。彼女は見ている限りでは人嫌いを拗らせたままで相変わらず友達を増やそうとせず他人とは必要以上に話さないという態度を貫いていた。だから普通に話してもらえる俺は特別なんだと思っていたし、何なら俺に気があるとも思っていた。よって告白すれば当然受け入れてもらえるんだと思っていた矢先の出来事だった。彼女が右手の薬指に指輪をつけてきた。いやでも、右手だし。左手じゃないし。と動揺しつつ「指輪なんて珍しいね、今までつけてなかったのに」と指摘すれば「智彰がつけろと言うから」と返事され、谷底に突き落とされたような心地がした。

    「実験の邪魔になるし外したら?」
    「私もそう言ったんだが、虫よけにと言われて」
    「そんなのつけなくたって、俺が虫よけになるよ」

    俺の発言に、鈍い彼女もようやく理解したらしい。そして眉間に皺を寄せ、軽蔑するような表情を浮かべたかと思うと

    「今まで、下心を持って私と接していたのか」

    と心底気持ち悪い、という思いが込められた低い声でゆっくりと言い放った。
    それ以来彼女には口をきいてもらっていない。俺の何がいけなかったというんだ?下心を持っていたのは睦月も同じじゃないのか?とやけくそになって睦月の下へ行き掴みかかって思わず怒鳴るようにして叫んだ。

    「どうしてお前なんだ!」
    「あんたとは掛けてきた年数と手間暇努力の量が圧倒的に違うんだよ。そもそも千智と『恋愛』をしようってのが間違ってる。あんたはそんなのもわからない程度しか千智を見てなかったんだよ」

    みっともないぜ、あんた。と言われて俺は睦月の胸倉をつかんでいた手を放し、その場で涙を流した。
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    spring10152

    DONE烏丸さんが芽衣ちゃんを育てて食べようと決意する話
    捕食者と被食者の出会い「おじさんあたしを隠して!」
    彼女との出会いはこの一言だった。私は彼女の通う小学校の学校医で、職務を終えて自分の病院へと帰ろうと丁度車のドアを開けたところに彼女が飛び込んできたのだ。何事かと事情を問おうにも彼女はしっかりと車に入り込んでしまい後部座席の足元に姿を隠して早く発車しろと怒鳴るばかりで取り付く島もないので、仕方なく私は彼女を車に乗せたまま出発した。
     到着するとひとまず彼女を病院に上げて事情を聴くことにした。何でも担任が気に食わなくて鋏で刺してきて追われていたところを私は保護してしまったらしい。そういえば健康診断の時に問題児が居るから怪我を負わされないよう注意しろと言われていたが、もしやこの子の事だったか、と面倒事を抱え込んでしまった事にため息を吐いた。食べて隠蔽しようかとも思ったが、事前準備もなく連れてきたのでは警察に捕まってしまうかもしれないし、聞いてみれば4年生だという彼女は食べるにはやや大きい。どうしたものか、とりあえず学校に帰そうかとすると「どうせ明日には処分が決まるんだから今日はここに居させてよ」とふてぶてしい態度の彼女は病院内の備品に張り付いて離れない。しぶしぶ私は彼女を病院に置いたままその日の診察を終わらせた。
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    spring10152

    DONEひなたに彼氏の肉を食わせる静さんの話
    幸福な食卓私はルームシェアをしているひなたの為に毎日食事の用意をする。それが私達の役割分担だったから。私は正直料理の腕には自信がある。毎日一汁三菜、ほかほかと湯気を立てる温かい食事を、愛を込めて用意していた。そう私は彼女の愛していた。
    私が彼女の愛していたというのは、友愛や親愛ではない。恋愛感情だ。私は彼女が欲しいと思っているし、彼女が他人と話していれば嫉妬する。正真正銘欲を持って愛していた。
    けれど彼女が同性愛者でない事は分かっていたし、私はこのルームシェア生活が続きさえすればそれで良かった。想いを伝えるつもりなどなかった。あの日までは。
    彼女が男の恋人を作ってきたのだ。今まで恋愛にはあまり興味が無い、彼氏はいらないと言っていた彼女が。私の見知らぬ男の隣で幸せそうに笑っていたのだ。許し難かった。そんな男の何がいいのだ。背なら私だってひなたよりも高いし、性格だって女の子に好かれやすい。顔だって悪くないはずだ。私の方がひなたの事を何でも知っていて気遣いができて最高の恋人になれる筈なのに。それなのに、あいつは男というだけで私からその座を奪い取ったのだ。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE #不穏なお題30日チャレンジ 1(2).「お肉」(傭オフェ)
    ※あんまり気持ちよくない描写
    (傭オフェ) ウィリアム・ウェッブ・エリスは、同じく試合の招待客であるナワーブと共に、荘園の屋敷で試合開始の案内を待っていた。
     ここ数日の間、窓の外はいかにも12月らしい有様で吹雪いており、「試合が終わるまでの間、ここからは誰も出られない」という制約がなかろうが、とても外に出られる天候ではない。空は雪雲によって分厚く遮られ、薄暗い屋敷の中は昼間から薄暗く、日記を書くには蝋燭を灯かなければいけないほどだった。しかも、室内の空気は、窓を締め切っていても吐く息が白く染まる程に冷やされているため、招待客(サバイバー)自ら薪木を入れることのできるストーブのある台所に集まって寝泊まりをするようになっていた。
     果たして荘園主は、やがて行われるべき「試合」のことを――彼がウィリアムを招待し、ウィリアムが起死回生を掛けて挑む筈の試合のことを、覚えているのだろうか? という不安を、ウィリアムは、敢えてはっきりと口にしたことはない。(言ったところで仕方がない)と彼は鷹揚に振る舞うフリをするが、実のところ、その不安を口に出して、現実を改めて認識することが恐ろしいのだ。野人の“失踪”による欠員は速やかに補填されたにも関わらず、新しく誰かがここを訪れる気配もないどころか、屋敷に招かれたときには(姿は見えないのだが)使用人がやっていたのだろう館内のあらゆること――食事の提供や清掃、各部屋に暖気を行き渡らせる仕事等――の一切が滞り、屋敷からは、人の滞在しているらしい気配がまるで失せていた。
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