愛とは智彰の誕生日が近く迫っていた。私は奴を愛してこそいないが、日頃世話になっていること自体には深く感謝しており、出来る限りの礼はしたいと考えている。故に祝い事は忘れずまめに贈り物をしているつもりだ。
けれど付き合いが長くなってくれば贈る品のバリエーションも尽きてくる。そもそも私は男に興味がないのだから、男性はなにを貰えば嬉しいのか分からないのだ。
そこで今年は人嫌いの私が不思議と嫌悪感を抱かず、自然に懐に入ってきて会話を引き出してくれる、比較的好ましく接しやすい上司に相談する事にした。すると休日に一緒に選びに行ってくれるという。
上司は妻と思しき女性を伴ってやってきた。美しいブロンドに長い睫毛、深い海のような色の瞳。一目で日本人ではないと分かる容姿だった。
「ごめんね、彼女日本に慣れてないから家に一人で置いておくのは心配で」
上司の腕に腕を絡め、頰を摺り寄せる彼女の頬を指の背で撫で、暖かい視線を向けながら彼はばつが悪そうに謝罪した。これが世間一般に言う惚気というものだろうか、とぼんやり考えつつも興味がなかったので構いません、と一言返して上司御用達のお店を紹介してもらい、それらを回りながら智彰への贈り物を吟味していた。
上司とその妻は似た者夫婦なのか、妻の方も初対面だというのに馴れ馴れしく、けれど不快感は無くするりと懐に入り込んでくる。おまけになんとも言えないいい香りまでして、その香りを嗅いでいると心が安らぐようだった。
「ねぇ、あなたの恋人はどんな見た目をしているの?写真とかないの?」
と上司の妻に問われ、自分のスマートフォンを取り出しカメラロールを漁っていると奇跡的に1枚だけ奴の映った写真があった。それを見せると
「まぁ、素敵な人ね!あなたを愛しているのが目だけで分かるわ!」
と愛らしい歓声を上げ、「瞳が金色だから紺色のネクタイなんかどうかしら。夜の海の水面に映る月みたいできっと綺麗よ」ね、と上司に同意を求めつつ彼女に勧められたネクタイを手に取る。確かにネクタイなら沢山あっても困らないし、紺色なら使い勝手も悪くないだろう、とそれを購入した。
ついでに折角だから、とお茶にも誘ってもらい、コーヒーを飲みながら上司夫婦を眺めていたが、愛し合う者達とはこういうものなのかと密かにカルチャーショックを受けていた。世間一般に言うような馬鹿ップルではないが、細やかな仕草が、触れ合いが、視線が、声のトーンが、相手を思いやっていて、はたから見ていても愛し合っているのがよく分かった。
私も智彰とこうであるべきだったのだろうか。
家に帰ればいつものように智彰が夕飯を作りながら「お帰り」と私を出迎える。その屈託のない笑みは、上司とその妻がお互いに向けあっていたもので、私が彼に向けないもので。
「お前は哀れだな」
ぽつり、言葉が溢れた。