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PROGRESS檸檬18 ⅲ. 昇天
青い彼岸花を見つけてから一ヶ月も経たないうちに、無惨は太陽を克服した。抽出した毒となる蜜を炭治郎の血液で中和することで薬は完成した。今までの費やした時間と苦労はなんだったのかと思うほど、呆気ないものだった。
積年の夢を漸く果たしたはずなのに、満足感どころか達成感すら感じない。もっとやりたい事とか沢山あったはずなのに何も思い浮かばなかった。心にポッカリと空いた穴はこれだけで埋められるほど浅くはなかった。
ただ、良かったこともある。この虚無感を紛らわせる方法を手に入れることが出来たのだ。窓辺の陽当たりのいい場所で日向ぼっこをしたり、干したての布団に包まって眠ったりしている時だけは傷心が一時的だが癒えた気がした。陽だまりは炭治郎を思い出させてくれる。意志とは関係なく日に日に薄れていく彼の記憶を自分の中に留めておきたくて、無惨は天気のいい日は毎日布団と市松模様の羽織りを干して、夜はそれに包まれて眠っていた。
3448青い彼岸花を見つけてから一ヶ月も経たないうちに、無惨は太陽を克服した。抽出した毒となる蜜を炭治郎の血液で中和することで薬は完成した。今までの費やした時間と苦労はなんだったのかと思うほど、呆気ないものだった。
積年の夢を漸く果たしたはずなのに、満足感どころか達成感すら感じない。もっとやりたい事とか沢山あったはずなのに何も思い浮かばなかった。心にポッカリと空いた穴はこれだけで埋められるほど浅くはなかった。
ただ、良かったこともある。この虚無感を紛らわせる方法を手に入れることが出来たのだ。窓辺の陽当たりのいい場所で日向ぼっこをしたり、干したての布団に包まって眠ったりしている時だけは傷心が一時的だが癒えた気がした。陽だまりは炭治郎を思い出させてくれる。意志とは関係なく日に日に薄れていく彼の記憶を自分の中に留めておきたくて、無惨は天気のいい日は毎日布団と市松模様の羽織りを干して、夜はそれに包まれて眠っていた。
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PROGRESS無惨様のその後です檸檬17 ⅱ. 失って得たもの
下駄を鳴らして山道を進む。振り返れば地面に太めの二本線が連なって、ずっと下まで続いている。
初夏だ。梅雨の湿気がまだ残っているからだろう。晴れているがジメッとしている。
無惨は額を垂れた汗をクイッと拭い、笠から垂れる黒幕越しに空を見上げた。
放心状態だった無惨が正気を取り戻したのは、眠りから醒めたのと同時だった。目覚めた場所は無限城ではなくあの別荘だった。寝室のベッドの真ん中で炭治郎の羽織りを大事に抱えたまま気を失っていた。
どうやってここに移動したのか記憶はない。しかし、この別荘の存在を知っているのは炭治郎を除けば、後は自身と鳴女しかいない。無惨はそれ以上考える気力がなく、鬼に施した呪いを全員分発動し、また意識を飛ばした。
6242下駄を鳴らして山道を進む。振り返れば地面に太めの二本線が連なって、ずっと下まで続いている。
初夏だ。梅雨の湿気がまだ残っているからだろう。晴れているがジメッとしている。
無惨は額を垂れた汗をクイッと拭い、笠から垂れる黒幕越しに空を見上げた。
放心状態だった無惨が正気を取り戻したのは、眠りから醒めたのと同時だった。目覚めた場所は無限城ではなくあの別荘だった。寝室のベッドの真ん中で炭治郎の羽織りを大事に抱えたまま気を失っていた。
どうやってここに移動したのか記憶はない。しかし、この別荘の存在を知っているのは炭治郎を除けば、後は自身と鳴女しかいない。無惨はそれ以上考える気力がなく、鬼に施した呪いを全員分発動し、また意識を飛ばした。
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PROGRESS二章完結、三章も一節のみなので載せてます。四章は力を入れて書きたいと思っているので、もしかしたら更新延期するかもです。(とりあえず来週はピクシブにまとめるので更新は無しです)
早くエチチなシーン書きたい……
檸檬15 ⅶ. 新たな決意
岩の隙間から流れ落ちる雪解け水に触れると目が覚めるような冷ややかさだった。掬って顔にかけると、スッと煮詰まった頭が冷える。
「ん〜〜冷たい! でも気持ちいいわね」
「甘露寺さん……」
向かいで同じように顔に水をかけているのは、今回の監視役である恋柱・甘露寺蜜璃である。ちなみに苗字で呼んでいるのは本人からの要望があったからである。
彼女の豊満な乳房に水が垂れてしまっているのを見て、炭治郎は失礼のないよう直視しないように目を背けながら、懐から手拭いを取り出して恋柱へ差し出す。
「気を付けてください。どうぞ、これは使っていないので」
「うふふ、優しいのね。ありがとう」
「ところで、俺達は何処に向かっているのですか? 山に入ってからかなり経ちますけど、鬼らしき気配はしませんし……」
7944岩の隙間から流れ落ちる雪解け水に触れると目が覚めるような冷ややかさだった。掬って顔にかけると、スッと煮詰まった頭が冷える。
「ん〜〜冷たい! でも気持ちいいわね」
「甘露寺さん……」
向かいで同じように顔に水をかけているのは、今回の監視役である恋柱・甘露寺蜜璃である。ちなみに苗字で呼んでいるのは本人からの要望があったからである。
彼女の豊満な乳房に水が垂れてしまっているのを見て、炭治郎は失礼のないよう直視しないように目を背けながら、懐から手拭いを取り出して恋柱へ差し出す。
「気を付けてください。どうぞ、これは使っていないので」
「うふふ、優しいのね。ありがとう」
「ところで、俺達は何処に向かっているのですか? 山に入ってからかなり経ちますけど、鬼らしき気配はしませんし……」
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PROGRESS次で第二章はお終いです。檸檬14 ⅵ. 水柱と妹弟子
猗窩座との戦闘は苛烈を極めた。
そもそも鬼同士の戦いは不毛だが、その上お互いに手の内を知り合うもの同士となれば、技も決まりにくくなる。日輪刀を手にしている炭治郎の方が若干の優位であるように思えるが、炭治郎は炭治郎で途中負傷した炎柱のフォローにも回っていたので実際は鍔迫り合いだった。
「それで、長期戦になった結果夜明けと共に幕引きですか。こちらは煉獄さんが深傷を負い、あちらは実質無傷。炭治郎さんの忠告を素直に聞き入れていた方が良かったのでは?」
猗窩座の拳に抉られた右脇腹やその他の傷の手当てを終え、事の次第を聞いた蟲柱は可愛い顔をして辛辣な言葉を放つ。包帯ぐるぐる巻きでベッドに横になっている炎柱は、「面目ない!!! 穴があったら入りたい!!!」と怪我人とは思えない声量で答えるので、炭治郎はヤレヤレと首を振る。
4757猗窩座との戦闘は苛烈を極めた。
そもそも鬼同士の戦いは不毛だが、その上お互いに手の内を知り合うもの同士となれば、技も決まりにくくなる。日輪刀を手にしている炭治郎の方が若干の優位であるように思えるが、炭治郎は炭治郎で途中負傷した炎柱のフォローにも回っていたので実際は鍔迫り合いだった。
「それで、長期戦になった結果夜明けと共に幕引きですか。こちらは煉獄さんが深傷を負い、あちらは実質無傷。炭治郎さんの忠告を素直に聞き入れていた方が良かったのでは?」
猗窩座の拳に抉られた右脇腹やその他の傷の手当てを終え、事の次第を聞いた蟲柱は可愛い顔をして辛辣な言葉を放つ。包帯ぐるぐる巻きでベッドに横になっている炎柱は、「面目ない!!! 穴があったら入りたい!!!」と怪我人とは思えない声量で答えるので、炭治郎はヤレヤレと首を振る。
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PROGRESSなんだかんだ一番仲の良かった鬼との再会です。原作と同じキャスティングにして見ました。
檸檬13 ⅴ. 本意
それから、炭治郎は鬼殺隊の任務をこなすため各地を飛び回っていた。御館様より勅命を受けたとは言え、鬼の炭治郎が野放しにされると言うことはなく、柱が一名監視の役割として交代で同行することになっている。
炭治郎としては折角仲良くなったら善逸や伊之助の二人と共に行動したかったが、こればかりは致し方ない。一般隊士では、怪しい動きがあった時に即刻首を刎ねられる技量と判断力を有しているのは、どうしたって柱の方だ。
これまで三名の柱と行動を共にしてきた。初めは岩柱、次が水柱、霞柱と続き、今回で四人目の彼は炎柱である。
特徴的な黄色と赤色の燃え盛るような髪に、何処を見ているか分からないギョロ目。耳がキーンとするような溌剌とした声でよく喋る男。炭治郎の彼に対する第一印象はそんな感じだったが、今はそれに〝そそっかしく騒がしい〟が加わっている。
3051それから、炭治郎は鬼殺隊の任務をこなすため各地を飛び回っていた。御館様より勅命を受けたとは言え、鬼の炭治郎が野放しにされると言うことはなく、柱が一名監視の役割として交代で同行することになっている。
炭治郎としては折角仲良くなったら善逸や伊之助の二人と共に行動したかったが、こればかりは致し方ない。一般隊士では、怪しい動きがあった時に即刻首を刎ねられる技量と判断力を有しているのは、どうしたって柱の方だ。
これまで三名の柱と行動を共にしてきた。初めは岩柱、次が水柱、霞柱と続き、今回で四人目の彼は炎柱である。
特徴的な黄色と赤色の燃え盛るような髪に、何処を見ているか分からないギョロ目。耳がキーンとするような溌剌とした声でよく喋る男。炭治郎の彼に対する第一印象はそんな感じだったが、今はそれに〝そそっかしく騒がしい〟が加わっている。
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PROGRESS鬼殺隊サイドの登場です。まずはやっぱりお馴染みの彼ら⚡️🐗
今年もよろしくお願いします。
檸檬11 ⅲ. 猪頭と寝太郎のタンポポ
「なぁおい紋逸」
「何? 今ちょっと忙しいから話しかけないで欲しいんだけど。ていうか、いつになったら俺の名前マトモに呼べるようになるのさ」
「俺様の背中にしがみついてるだけのクセによく言うぜ。本当にこの先が出口であってるんだよな?」
「そ、そのはずだけど……? 雨と風の音がするし、それに混じって焚き火の音もする。もしかしたら雨宿りしてる人がいるのかも………あ、ほら。あそこに灯りが」
「猪突猛進ッ……!」
「ウッッソデショッッ! ちょっと待ってよイノスケェエエ!! この洞窟なんか怖いんだよォオ!! 変な感じするのぉっ! 置いてかないでェエエ!!!」
洞窟の奥の方から何やら汚い叫び声が響いてきて、炭治郎は膝に埋めていた顔を上げた。横を向いて暗闇をジッと見つめていると、段々と足音が近づいてくる。
5174「なぁおい紋逸」
「何? 今ちょっと忙しいから話しかけないで欲しいんだけど。ていうか、いつになったら俺の名前マトモに呼べるようになるのさ」
「俺様の背中にしがみついてるだけのクセによく言うぜ。本当にこの先が出口であってるんだよな?」
「そ、そのはずだけど……? 雨と風の音がするし、それに混じって焚き火の音もする。もしかしたら雨宿りしてる人がいるのかも………あ、ほら。あそこに灯りが」
「猪突猛進ッ……!」
「ウッッソデショッッ! ちょっと待ってよイノスケェエエ!! この洞窟なんか怖いんだよォオ!! 変な感じするのぉっ! 置いてかないでェエエ!!!」
洞窟の奥の方から何やら汚い叫び声が響いてきて、炭治郎は膝に埋めていた顔を上げた。横を向いて暗闇をジッと見つめていると、段々と足音が近づいてくる。
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PROGRESS第二章です。炭治郎視点に変わります。
今回は二節纏めて出します。
彼の抱えていた想いが明らかになります。
檸檬⑩Ⅱ. SIDE:T
ⅰ. 幸せな夢
瞼を開くとそこは陽だまりだった。
暖かな陽射しが眩しくて思わず顔を顰める。
グルグルと目を擦り、欠伸をすれば慣れてくる。
隣を見れば、ウネウネと波打つ黒い塊がある。
丸く縁取った形からそれは頭だと分かって、炭治郎はおずおずと黒髪を捲った。
煌めく絹肌と翼のような睫毛。
筋の通った高い鼻。
花びらのような薄い唇。
鈍い頭が誰だか認識したその時、腕の中にいる彼の身体がビクりと震えた。
『ん、……ぁれ、もぅあさ……』
酷く間延びした声だった。
気が抜けているというか、寝ぼけているというか。
とにかく警戒心が薄い。
紅い瞳がコロンと上向いて、目が合う。
ぱち、ぱち。瞬き二回。ゆっくりと。
12825ⅰ. 幸せな夢
瞼を開くとそこは陽だまりだった。
暖かな陽射しが眩しくて思わず顔を顰める。
グルグルと目を擦り、欠伸をすれば慣れてくる。
隣を見れば、ウネウネと波打つ黒い塊がある。
丸く縁取った形からそれは頭だと分かって、炭治郎はおずおずと黒髪を捲った。
煌めく絹肌と翼のような睫毛。
筋の通った高い鼻。
花びらのような薄い唇。
鈍い頭が誰だか認識したその時、腕の中にいる彼の身体がビクりと震えた。
『ん、……ぁれ、もぅあさ……』
酷く間延びした声だった。
気が抜けているというか、寝ぼけているというか。
とにかく警戒心が薄い。
紅い瞳がコロンと上向いて、目が合う。
ぱち、ぱち。瞬き二回。ゆっくりと。
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PROGRESS執筆中の炭鬼舞長編小説の進歩です。心苦しい回です。
二人の間に生じていた些細なヒビがある事をきっかけに修復不可能な亀裂になってしまいます。
蜜月は静かに終わりを迎えます。
檸檬⑧ ⅷ. その時
月日は流れ、その時は突然やってきた。
「無惨様ッ!!! 俺、ついにやったよッ!!!!」
炭治郎が〝太陽を克服〟したのだ。
けたたましい叫び声は城中に響き渡り、鳴女を解して上弦の全員がその場に集結した。別に呼び出せと命じたわけではないのだが、鳴女の心境を覗くに(衝撃のあまり奇行に走ってしまった……どうしよう……)だそうだ。今回ばかりは仕方ないので免除してやる。
(私も甘くなったものだな……)
とか考えている無惨もまた、平常心を保とうと必死であった。飛び込んできた炭治郎を力強く抱き締めたままピクリとも動かず硬直しているのが、そのいい証拠である。
「……む、むざんさま……抱き締めてくれるのは嬉しいんだけど、ちょっと……苦しい、かな」
7766月日は流れ、その時は突然やってきた。
「無惨様ッ!!! 俺、ついにやったよッ!!!!」
炭治郎が〝太陽を克服〟したのだ。
けたたましい叫び声は城中に響き渡り、鳴女を解して上弦の全員がその場に集結した。別に呼び出せと命じたわけではないのだが、鳴女の心境を覗くに(衝撃のあまり奇行に走ってしまった……どうしよう……)だそうだ。今回ばかりは仕方ないので免除してやる。
(私も甘くなったものだな……)
とか考えている無惨もまた、平常心を保とうと必死であった。飛び込んできた炭治郎を力強く抱き締めたままピクリとも動かず硬直しているのが、そのいい証拠である。
「……む、むざんさま……抱き締めてくれるのは嬉しいんだけど、ちょっと……苦しい、かな」
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PROGRESS執筆中の炭鬼舞長編小説の進歩記録。今回は〝告白〟の回です。
ここから少しずつ拗れていきます笑。
短いです。
檸檬⑤ ⅴ. 転機
「無惨様、好きです」
それは今朝の出来事だった。
珍しく身なりを綺麗に整えてから姿を現した炭治郎が、挨拶より先にこの言葉を口にした。
しかし、特に驚きはしなかった。炭治郎は普段から無惨への好意を告げてくる。無惨様大好き、なんて調子のいい言葉は耳にタコができるくらいに聞いてきた。子が親に向ける親愛だ。情欲を伴うそれではない。
今回もそうだろうと思い、無惨は適当に流そうとした。はいはい分かったよありがとう、と言うつもりで参照していた医療文献から顔を上げたのだが、その前に炭治郎は言った。
「今までのとは違うよ。ライクじゃなくてラブの方。夏目漱石っていう明治の文豪は〝月が綺麗ですね〟って表現してた。俺は無惨様のこと、独り占めしたいっていう意味で好き。俺は貴方の一番深い所に居たい。だから、」
1484「無惨様、好きです」
それは今朝の出来事だった。
珍しく身なりを綺麗に整えてから姿を現した炭治郎が、挨拶より先にこの言葉を口にした。
しかし、特に驚きはしなかった。炭治郎は普段から無惨への好意を告げてくる。無惨様大好き、なんて調子のいい言葉は耳にタコができるくらいに聞いてきた。子が親に向ける親愛だ。情欲を伴うそれではない。
今回もそうだろうと思い、無惨は適当に流そうとした。はいはい分かったよありがとう、と言うつもりで参照していた医療文献から顔を上げたのだが、その前に炭治郎は言った。
「今までのとは違うよ。ライクじゃなくてラブの方。夏目漱石っていう明治の文豪は〝月が綺麗ですね〟って表現してた。俺は無惨様のこと、独り占めしたいっていう意味で好き。俺は貴方の一番深い所に居たい。だから、」
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PROGRESS執筆中の炭鬼舞長編小説の進歩記録。今回は〝反抗期〟の回です。
可愛いと思います。炭治郎くんの体に心が追いついてきます。
お楽しみまでもう少しです(^ ^)
檸檬④ Ⅰ. SIDE:M
ⅳ. 拗ねる娘と綾す父
「準備は順調か、お前達」
「おや無惨様! おお、やはり無惨様は何を着ていらしても見目潤しいですねぇ。お似合いでございます」
「えっ! 無惨様もう来てるの? 俺も見た…へブシッ!」
「こォら、ジッとしてよ。紅がはみ出ちゃうじゃない! それに唾が飛んだわよ、汚いわねぇ」
「ご、ごめん」
部屋に入って真っ先に駆け寄ってきたのは童磨だった。仕事が終わって暇を持て余していたらしい。彼と話途中だった妓夫太郎も後ろについてきていてペコリと会釈をした。「素敵です、無惨様」と一言添えてきたので、「そうか」と言って一つ微笑んでやれば照れ臭そうに痩けた頬を指で掻いた。
「どうだ、炭治郎は。人前に出せるようになったか」
6172ⅳ. 拗ねる娘と綾す父
「準備は順調か、お前達」
「おや無惨様! おお、やはり無惨様は何を着ていらしても見目潤しいですねぇ。お似合いでございます」
「えっ! 無惨様もう来てるの? 俺も見た…へブシッ!」
「こォら、ジッとしてよ。紅がはみ出ちゃうじゃない! それに唾が飛んだわよ、汚いわねぇ」
「ご、ごめん」
部屋に入って真っ先に駆け寄ってきたのは童磨だった。仕事が終わって暇を持て余していたらしい。彼と話途中だった妓夫太郎も後ろについてきていてペコリと会釈をした。「素敵です、無惨様」と一言添えてきたので、「そうか」と言って一つ微笑んでやれば照れ臭そうに痩けた頬を指で掻いた。
「どうだ、炭治郎は。人前に出せるようになったか」
u_modayo
PROGRESS執筆中の炭鬼舞長編小説の進歩記録。節ごとに更新します。毎週金曜日にして行く予定ですがズレることもあります。
ある程度まとまったらpixivに載せます。
最終的には本にしたいと思ってはいますが未定です。
※今回は微エロ回なのでフォロ限にしてます。 9811
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PROGRESS執筆中の炭鬼舞長編小説の進歩記録。節ごとに更新します。頻度は不定期。
ある程度まとまったらpixivに載せます。
最終的には本にしたいと思ってはいますが未定です。
※途中、微エロを含むR18相当の描写を挟む場合はフォロ限にしますので悪しからず。
檸檬①Ⅰ. SIDE:M
ⅰ. 拾う神
時は大正XX年。
無惨は一人の童を拾った。
深い雪の日の話だ。
青い彼岸花についての噂を聞いて、とある山奥に出向いた。そこにポツリと一軒、小屋といって差し支えない草臥れた家が建っていた。小脇からモクモクと湯気が立っていたから人が住んでいると見え、ついでに太陽を克服する鬼探しでもするかと寄り道感覚で足を向けた。
その時、後ろから声をかけられた。
「まっ、待って下さい! 俺の家に何か御用ですか?」
振り向くと、赤みがかった癖毛を無造作に纏めた瞳の大きな子どもがそこに立っていた。背中に中身が空の籠を抱えているところを見るに出稼ぎから帰ってきたところだったのだろう。息が上がり、襟巻きに籠った白い呼気が途切れ途切れに少年の顔を覆っている。
2234ⅰ. 拾う神
時は大正XX年。
無惨は一人の童を拾った。
深い雪の日の話だ。
青い彼岸花についての噂を聞いて、とある山奥に出向いた。そこにポツリと一軒、小屋といって差し支えない草臥れた家が建っていた。小脇からモクモクと湯気が立っていたから人が住んでいると見え、ついでに太陽を克服する鬼探しでもするかと寄り道感覚で足を向けた。
その時、後ろから声をかけられた。
「まっ、待って下さい! 俺の家に何か御用ですか?」
振り向くと、赤みがかった癖毛を無造作に纏めた瞳の大きな子どもがそこに立っていた。背中に中身が空の籠を抱えているところを見るに出稼ぎから帰ってきたところだったのだろう。息が上がり、襟巻きに籠った白い呼気が途切れ途切れに少年の顔を覆っている。