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    執筆中の炭鬼舞長編小説の進歩記録。
    今回は〝告白〟の回です。
    ここから少しずつ拗れていきます笑。
    短いです。

    #炭鬼舞
    charcoalGhostDance
    #長編進歩

    檸檬⑤   ⅴ. 転機


    「無惨様、好きです」

     それは今朝の出来事だった。
     珍しく身なりを綺麗に整えてから姿を現した炭治郎が、挨拶より先にこの言葉を口にした。
     しかし、特に驚きはしなかった。炭治郎は普段から無惨への好意を告げてくる。無惨様大好き、なんて調子のいい言葉は耳にタコができるくらいに聞いてきた。子が親に向ける親愛だ。情欲を伴うそれではない。
     今回もそうだろうと思い、無惨は適当に流そうとした。はいはい分かったよありがとう、と言うつもりで参照していた医療文献から顔を上げたのだが、その前に炭治郎は言った。

    「今までのとは違うよ。ライクじゃなくてラブの方。夏目漱石っていう明治の文豪は〝月が綺麗ですね〟って表現してた。俺は無惨様のこと、独り占めしたいっていう意味で好き。俺は貴方の一番深い所に居たい。だから、」

     ───俺と恋人になって下さい。

     その双眸は真っ直ぐに無惨を射抜いていた。
     よく見ると頬は紅く染まり、ギュッと握り締められた拳は白くなり、肩は緊張で震えている。
     本気なのか。元よりこの類の冗談を言うような奴ではないが、少し驚いた。

    「……あ、あの、返事は今度でいいから。今すぐにとは言わないよ。突然ごめんね。それじゃ、俺はこれで……」
    「待て」

     部屋を出て行こうとした炭治郎の手を掴み、引き留める。振り返った彼は驚いているようだった。「えっ」と間抜けに口を開け、固まっている。
     正直なところ、無惨には恋愛感情と言うものが分からない。言葉の意味としては理解できる。昔から和歌や小説、演劇などの嗜みは文化としてあった。無惨もそれに触れることはあるし、その中で描かれる人間関係に男女又は同性同士の惚れた腫れたの話は付き物である。それらの複雑な感情が絡み合うことで物語に深みが増す事は理解しているし、見たり読んだりしている中でその部分に突っかかりを覚えるわけではない。
     ただ、無惨本人は他人にそういう感情を持った事はないという話である。誰かを好きになった事もないし、誰かに愛された経験もない。小説や演劇から得た知識で偽りの夫婦を演じたり、嘘の感情を顔面に貼り付けて人間の生活に紛れ込む事はあっても、無惨がなんの企みや建前もなく純粋な好意を他人へ向ける事は皆無に等しい。
     特に色恋沙汰は面倒だ。恋は盲目とはよく言ったもので、人間は恋愛となると感情に任せた突飛な行動を取る場合が多い。痴情のもつれと言われる類のものには巻き込まれて損をする事はあっても得をすることはまずないだろう。
     しかし、だからと言って今炭治郎を手放すわけにはいかない。太陽克服の兆しがあるし、これで彼を蔑ろにして謀反でも起こされたら困るのだ。
     となると、無惨が取るべき選択肢は一つしかない。

    「分かった。なってやる」
    「……へ?」
    「お前の恋人になってやると言っているのだ。嬉しくないのか?」
    「あ、ああいや、嬉しい。嬉しいに決まってるよ! ただ驚いて……受け入れてもらえるなんて思っていなかったから……」

     俯いた炭治郎の目元は恥ずかしそうに緩んでいた。耳も赤く、キュと結んだ唇が震えている。

    (嬉しそうだな。それでいて泣きそうだ)

     どこか他人事のように思った。
     目の前にいる今にも泣きそうな彼は、今日から息子ではなく恋人になる。潤んだ瞳を誤魔化すようにグシグシと腕で拭い、持ち上がった顔と目があった。すると、赤くなった瞼を細めてニシッと弾けるような明るい笑顔を向けてくるものだから、無惨もついコロッと破顔してしまった。




    【続】



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