檸檬15 ⅶ. 新たな決意
岩の隙間から流れ落ちる雪解け水に触れると目が覚めるような冷ややかさだった。掬って顔にかけると、スッと煮詰まった頭が冷える。
「ん〜〜冷たい! でも気持ちいいわね」
「甘露寺さん……」
向かいで同じように顔に水をかけているのは、今回の監視役である恋柱・甘露寺蜜璃である。ちなみに苗字で呼んでいるのは本人からの要望があったからである。
彼女の豊満な乳房に水が垂れてしまっているのを見て、炭治郎は失礼のないよう直視しないように目を背けながら、懐から手拭いを取り出して恋柱へ差し出す。
「気を付けてください。どうぞ、これは使っていないので」
「うふふ、優しいのね。ありがとう」
「ところで、俺達は何処に向かっているのですか? 山に入ってからかなり経ちますけど、鬼らしき気配はしませんし……」
「えっ。あ、うん。そうね、そうよね。気になるわよね? でももうすぐ着くわ」
行き先を尋ねた途端に挙動不審になる恋柱に怪訝な視線を向けつつ、再び歩き出す。
「そういえば、禰󠄀豆子ちゃんとは兄妹なのよね? 目元の辺りがよく似ていると思うわ。二人ともクリクリで可愛いもの」
「そうですか? まあ確かに、おでこの広さとかは似てるのかもしれません」
「うふふ、確かに二人ともおでこ出してるわね。そういえば、炭治郎くんのその痣は昔からあるものなの?」
「これですか? はい、痣自体は小さい頃……鬼になってからの話ですが、幼い頃からありました。でも今みたいにこんな赤くなくて、気づいた時にはこんな形に」
額に触れ、炎のように波打つ痣の形を指先で撫でる。
「たぶん呼吸を会得した辺りからだったと思います。身近に同じような痣を持つ人がいたので然程気になりませんでしたけど、人間には珍しいですよね」
「そうねぇ。確かに鬼は肌に柄がある子もよく見るし、鬼特有のものなのかもしれない。私は素敵だと思うわ。カッコイイ」
「ありがとうございます」
カッコイイかどうかは置いといて、褒められて悪い気はしない。何せこれは師匠(黒死牟)とお揃いなのだ。
『痣が発現するということはまた一歩高みに近づいたと言うことだ。お前に剣技を教えた者として誇らしいと思うぞ、炭治郎』
そう言って頭を撫でてもらった時のことは今でも鮮明に覚えている。
炭治郎にとって、黒死牟は大人の指針だった。憧れていた。無惨の隣に並んで立つ後ろ姿に、幾度となく目を奪われた。自分もあんなふうになりたいと思った。儚く美しい主人の隣に立つのに相応しい凛々しく強い男になりたいと思った。手始めに髪型や格好を真似したし、大体無惨の前では素に戻ってしまうのだが、落ち着いた言葉選びをするように意識したこともある。
しかし、それももう過去の話だ。黒死牟は失望した事だろう。たかだか色恋如きに現を抜かし、主従関係に私情を挟むなんて臣下としてあるまじきことだ。
(師匠には合わせる顔がないな。俺のせいで無惨様に誤解されて叱責されたりして、迷惑をかけてしまったし……)
あの時の事は今でも不意に脳裏に過る。どうすれば良かったのだろうかと何度も考えたけれど、結局答えは今も見つからないままだ。けれど、それを考えることに意味はあると炭治郎は思っている。きっとその答えが分かった時、己が辿るべき運命が定まる気がするのだ。
「炭治郎くん、炭治郎くん」
「、」
名前を呼ばれ、ハッとして前を向く。そこには恋柱が顔を覗き込むように屈んでいて、「難しい顔をしていたけれど大丈夫?」と声をかけてきたので、頷いて問題ないことを伝える。すると、恋柱は深く詮索することもなく前を向き直り、先を指差してパッと明るい顔をする。
「目的地はすぐそこよ。ほら見て、あそこ!」
視線を向けると、こんな山奥にポツンと一軒小さな家があった。
(でも何だろう………どこか懐かしい気がする)
特に縁のない場所のはずだが、何故だろうか。記憶に靄がかかっているような違和感がある。それを探るように家を眺めながら進んでいくと、中から人影が出てきた。
「あれ、あの子は……」
「禰󠄀豆子ちゃんだわ! おーい、禰󠄀豆子ちゃーんっ!」
名前を聞いて腑に落ちた。
記憶の違和感は晴れていないが、連れてこられた意味も何故思い出せないのかも理解した。
「甘露寺さん、お待ちしておりました。それにお兄ちゃんも、待ってたよ」
「禰󠄀豆子、そうか。通りで鬼の気配がしないわけだ。今日は任務ではないのだな。と言う事はこの家が前に言ってた俺達の暮らしていた場所なのか?」
「うん。ここは私達のお家だよ」
そう言われて改めて眺めてみるも、都合よく記憶が蘇ってくるわけではない。やはりどこか見覚えがある気もするが、気がする止まりである。
「鬼に襲われた時に壊れちゃったって聞いてたけど、思ったよりも綺麗なのね」
「鱗滝さんと町の人が協力して直してくれたんです。雪崩にあったみたいに潰れてしまっていたのですが、殆ど元通りにしてくれて………わたし、感動しちゃって……」
尻窄みになる声は震えていた。よく見ると禰󠄀豆子の目元は少し赤らんでいる。
「私達のためにありがとうございます、甘露寺さん」
「いいのいいの。気にしないで。私も兄妹がいるから、二人のこと応援したくなっちゃうのよ」
恋柱の言葉に炭治郎は首を傾げる。てっきり禰󠄀豆子が提案したものと思っていたが違うのだろうか?
その疑問を察したのか、「今回のことは、甘露寺さんが発案なの」と禰󠄀豆子が教えてくれた。
恋柱に詳しい話を聞くと、炭治郎と禰󠄀豆子が兄妹である話は炎柱の鎹鴉伝いに知ったらしい。炎柱は恋柱の師匠だそうだ。彼女も四人の妹弟を持つ長女であるので、兄のことで悩む禰󠄀豆子を放っておけなかったらしい。
つまるところ恋柱に善意からお節介を焼かれてしまったわけだが、いつもはする側であるからか、なんだか居た堪れない気持ちになる。「炭治郎くんは柱が一緒に居ないと自由に行動出来ないでしょう? だから、私の時ならお手伝い出来るかもって思ったの。えへへ」と、下心のない可愛らしい微笑みを向けられてしまって炭治郎は思わず顔を背けてしまった。
「迷惑、だったかな……?」
「……い、いえ、ありがとうございます。俺も記憶は取り戻したいと思っていたので、助かります」
「本当? よかった」
「禰󠄀豆子も、……ありがとうな」
「! ……うん。お兄ちゃんが記憶を取り戻したいって思ってくれてるって分かって嬉しい。早速中に入ってみよう?」
「ああ」
開かれた戸の敷居を跨ぎ、〝我が家〟に足を踏み入れる。
「おかえり、お兄ちゃん」
「………ただいま」
それから部屋の中をゆっくり散策した。
一階建で、間取りは台所・居間・玄関・風呂というシンプルな造りだ。寝る時は押入れから布団を出して居間で川の字だろうか。それは少し憧れる。炭治郎にとっての家族……無惨や上弦達ともそんなふうに寝てみたかった。
(付き合ってくれるのは童磨くらいだろうな……他の人は鬼に睡眠は不要だとか言って相手にしてくれなさそうだ。それにしても、古めかしい間取りと家具だよな。一般家庭ではこれが普通なのか……?)
無惨と暮らしていると、彼が流行り物好きだからと言うこともあって異国風の物に触れる機会が多かったが、この家は古き良き日本の暮らしをしていたように感じられる。それを懐かしいと感じる気もするがやはりそれだけだ。
(でも、不思議と落ち着くんだよな。無惨様が用意してくれるお洋服は服に着られている感じがしてたけど、ここの箪笥に入っている衣服には親近感が湧くし。……やっぱり俺じゃ、何もかも無惨様に釣り合ってなかったんだろうな……)
もう傷口は瘡蓋になっているから簡単には開かないだろう。それでも、瘡蓋の上から押したりすると鈍い痛みは走るもので、炭治郎はハァと溜息を吐く。何度考えたって追い出された事実は変わらないのに、いつまでも引き摺っているのは良くない。長男であるならば過去のことをクヨクヨするよりも前に進むべきなのだ。
(あれ……? 長男って、俺は一体何を……)
ふと感じた匂いに炭治郎は足を止めた。
この黒い塊はなんだろうか。ちょうど近くに来た禰󠄀豆子に問うてみる。
「禰󠄀豆子、これは……」
「ああ。ウチは炭売りだったから。お兄ちゃんはよくこれを背負って町に降りていたのよ。町のみんなもお兄ちゃんのことを頼りにしてたから、色々手伝ってから帰ってくる頃にはこの籠いっぱいの炭が空になってるの」
藁で編まれた籠を受け取る。
「へぇ……、ッ!」
ズキンッ。
頭に刺すような痛みが走った。咄嗟に片手で押さえるもズキズキと痛みは響く。隣で禰󠄀豆子が心配する声をかけてながら背中を摩ってくれるが、あまり効果はない。
「ねぇねぇこれ見て! なんだか凄いの発見しちゃった!」
「甘露寺さん、お兄ちゃんが……!」
「えっ! きゃあ大変! 大丈夫?」
甘露寺が駆け寄ってくると、しゃがみ込んだ拍子に床に何かがヒラリと落ちた。写真だ。炭治郎は無意識に手を伸ばし、写っている画像を見つめる。
「あ、それは箪笥の隙間に挟まっていたの。少し幼いけれど炭治郎くんや禰󠄀豆子ちゃんに似た子が写っているから、竈門家の家族写真かなって思って……」
「かぞく、しゃしん……ッグ、ぅ……ッ!」
ズキンッ、ズキンッ。
益々酷くなる痛みに炭治郎は呻き声を上げ、とうとう頭を抱えて蹲った。
「炭治郎くんッ!」
「お兄ちゃん……ッ! 記憶が戻りそうなのね。甘露寺さんの言う通りです。その写真は、偶々家に泊めた旅人さんが一晩のお礼にと撮ってくれて……。お兄ちゃん、辛いかもしれないけどもう一度見て。ここに写っているのが、私達の家族だよ。母さんに竹男に花子に茂に、それから赤ちゃんだけど六太も写ってる」
「ハァハァ…ッ、みんな、おれの……」
「そうだよ。皆んなで仲良く暮らしてた家族。確かに貧しい暮らしだったかもしれないけど、何も不自由なんてしてなかった。皆んなで助け合って生きてきた。幸せに過ごしていたの。思い出して、お兄ちゃん……ッ! 鬼の血なんかに負けないで、私達のことを思い出してよ……ッ!」
「ハッ、ハ…ッ、う、…ッ、ああアアッッ!!」
この世のものとは思えない激痛に襲われている。まるで脳味噌が頭蓋骨という殻を割ってまろび出ようとしているような苦痛だ。
断片的な映像が脳裏を過っては消えていく。それが幾度となく繰り返され、その度に増えていく情報量に脳の処理が追いついていないのだ。……否、きっとそれだけではない。炭治郎自身が記憶を取り戻すことに抗っているのだ。思い出して仕舞えば、何もかもが変わってしまう。それが正しい姿であったとしても、無惨の為になるのだと分かっていても、今までの炭治郎の想いや過ごしてきた日々を否定することになるのが怖かった。炭治郎は無惨のことを愛しているし、共に過ごした上弦達のことが好きだから、彼らのことを嫌いになってしまうのではないかという恐怖に苛まれ、記憶を取り戻そうとする意志とぶつかり合っていた。
けれども、それの力は拮抗しているわけではない。やがて湯水のように溢れる記憶が本人も無意識の抵抗を押し流し、しばらくすれば荒れ狂っていた脳内はシンと凪いだ。頭痛も治まり、炭治郎は顔中の穴という穴から体液を垂らしてグチャグチャになっている顔をゆっくりと持ち上げる。
「お兄ちゃん、大丈夫……?」
「………………こ、」
「えっ?」
「……ね、ずこ……ごめ、……ごめん、なぁ……」
「! お兄ちゃん、記憶が……戻ったのね」
抱き締められておずおずと腕を回すと、ギューッと力を込められる。
「ごめん、ごめんなぁ禰󠄀豆子、守れなくてごめん。皆んなを、家族を、忘れてごめんなさい」
「ううん、いいの。私こそごめんね。無理矢理記憶を取り戻させて、辛い思いをさせてしまったね。でもありがとう。思い出してくれて嬉しい」
「俺の方こそありがとう。おかげで大切な記憶を思い出せたよ」
禰󠄀豆子を抱き締め、肩口に顔を埋めながら心の中で炭治郎は何度も何度も謝った。
今までのこと、そしてこれからのこと。
どうしようもない兄であることを許さないで欲しいと切に願い、その一方で新たな決意を胸に漲らせていた。
Ⅲ. SIDE:Another
その時、産屋敷は空を見上げた。視力はとうの昔に失っているが、何処かで何かが起こった気がした。
この数年の鬼の動向には違和感があった。それは全ての鬼というわけではなく、ある程度鬼舞辻の血を濃く与えられ、それなりの強さを持っていて何かしらの指示を受けているだろう鬼達の動きだ。
以前に比べて、出現の頻度が増している気がする。今までは見つからないよう潜んでいた鬼の存在が、敢えて鬼殺隊に目をつけられるようなことをして隊士を誘き寄せているように感じられる。犠牲になった隊士の割合は着実に増え、今まで防戦だった鬼が鬼殺隊を殺すことにも力を向け始めていると見て取れる。
そして、最近入隊を希望してきた鬼の存在を知って、その違和感は確信に変わった。
「御館様、炎柱・煉獄杏寿郎様がお見えになりました」
「分かった。通していいよ」
息子の手を借り、布団から重たい上体を起こしながら扉の方を見やると、赤と金の印象的な髪の青年が一礼して部屋に入ってくる。
「よく来たね、杏寿郎。こんな格好ですまない。体調はもういいのかい?」
「はい。長らく任務に穴を開けてしまい申し訳ございませんでした。炎柱・煉獄杏寿郎、今を持って復帰致します」
「それはよかった。みんな喜ぶよ。勿論、私も嬉しい」
「身に余るお言葉、恐悦至極に存じます」
洗練された作法で頭を下げた煉獄に楽にして座るよう促して、産屋敷は少し世間話を交えつつ、本題を告げる。
「上弦の参との戦いについて、要や隠しから報告は受けているのだけど、杏寿郎から直接話を聞きたいと思ってね。何があったのか話してくれるかい?」
「はい」
煉獄の話は、産屋敷の推測を裏付けるには十分な情報だった。炭治郎が鬼殺隊への入隊を望んだ真意。それはやはり自分を見限った鬼への復讐などではなかった。そして、鬼舞辻は炭治郎を連れ戻そうとしている。つまり二人の間には認識の齟齬がある。仲違いした原因までは分からないが、恐らくは炭治郎の特異な体質に関係しているのだろう。太陽を克服する鬼を鬼舞辻が長年探していることは珠代の協力により明らかになっている。何としても捕らえに来るだろう。
「杏寿郎、このことはおそらく上弦の参を通して鬼舞辻の耳にも入る。そうなればこの先待つのは戦争だ。鬼殺隊と鬼との総力戦になるだろう」
「!? それは誠ですか、御館様! しかし何を根拠に……今まで防戦一方だった鬼達がこちらに攻め入ってくるとでも仰るのですか?」
「その通りだよ」
喉が詰まって、産屋敷は咳払いをした。
煉獄が駆け寄ろうとしたのを制し、口元を手拭いで拭いながら話を続ける。
「私はね、杏寿郎。竈門炭治郎という存在は鬼舞辻にとってそれだけ大きなものだと思うのだよ。あの臆病で狡猾な男がやっと見せた尻尾を掴んで離したくはない。全面戦争になるというのなら受けてたとう。今の柱は鬼殺隊創設以来の実力者であると私は考えている。君達なら必ず悪鬼を打ち滅ぼすことができると思うんだ」
「御館様……ッ」
「ああ、いけないね。前線に立って戦うわけでも無い私が何を語っているのだろう。つい熱が入ってしまったみたいだ。今から柱合会議を開いて、皆の意見を聞いてみよう」
「いいえ、御館様。その必要はございません」
「え?」
煉獄の背後に広がる藤の花が描かれた襖がザンッ、と開いた。そこには跪く他の柱達の姿があり、産屋敷は気配でそれを悟った。後から娘に恋柱以外の柱が勢揃いしていることを伝えられ、彼らには敵わないと口角をほんのり上げる。
「皆んな……そうか、聞いていたのだね」
「はい。我ら柱一同、御館様の手足となって憎き悪鬼を滅ぼします」
「甘露寺さんには先程鴉を飛ばしました。そろそろ返事が来る頃でしょう」
噂をすれば、鎹鴉が庭に二羽降りた。艶と麗。それぞれ胡蝶と甘露寺の鎹鴉である。麗の話によれば、甘露寺は「御館様に従います♡」だそうだ。また、彼女からは別の報告も受けた。屋敷までわざわざ飛んできたのはこちらを伝えることが目的だったらしい。
「そうか。炭治郎の記憶が……」
「つまり、禰󠄀豆子のことや殺された家族のことを思い出したってことか」
「南無阿弥陀仏……鬼の少年はさぞ苦しんだことだろう」
「失った記憶を蘇らせるという事は脳に相当の負担をかけますからね。しかし、良い兆候です。炭治郎くんが我々の味方になってくれるのであれば、戦力としては申し分ないですから」
「……それは、どうだろうね」
確かに鬼である彼の力があれば、鬼の優位である再生と回復、そして数において対抗できるかもしれない。
しかし、産屋敷は一つの懸念があった。鬼舞辻にとって炭治郎の存在は大きなものであるが、それはまた逆もあり得るということだ。炭治郎にとっての鬼舞辻無惨という存在がどういう位置付けにあるのか、産屋敷は測りかねている。煉獄の話では炭治郎は見限られたことに酷く傷付いている様子であると伺えたが、それがただ主人に対する忠誠心なのか、はたまた別種の感情を向けているのか……。
「御館様」
「……なんだい、実弥」
ふと意識を呼び戻され、声の持ち主の居る方へ顔を向ける。
「柱はともかく、今の若い隊士達の実力では鬼に餌を与えるだけです。肉体・精神ともに鍛え直す必要があるかと思います。柱稽古を行うと言うのはどうでしょう? 俺達が舐め腐った隊士共を叩き直してやります」
「それはいい案かもしれねぇな。俺ァ引退した身だが、子守くらいなら手を貸せる」
「いいと思う。俺も最近の隊士の質に関しては問題があると前々から感じていた」
「そうだね。おそらく鬼勢力の活動も穏やかになるだろうし、私も賛成だ。無一郎と義勇、二人はどうかな?」
時透はすぐに異論なしと答えた。そもそも興味がないようだった。
冨岡は沈黙の末、「俺は参加しない」と端的に答えた。
その反応にビキッ、と青筋を立てたのは不死川だ。拳を握りしめることで飛びかかるのを寸でで堪え、首を締められている時のような声で理由を問うた。それに対する返答がたっぷり溜めた後の「俺はお前達とは違うから」だったので、不死川はいよいよ刀を鞘から抜こうと構えたが、後ろにいた悲鳴嶼に肩を叩かれ仕方なく怒りを沈めた。
「義勇は炭治郎の監視についてくれるかな。参加してくれる気になったら、いつでも言っておくれ」
「……はい」
そこで会議は解散となり、柱達は柱稽古前に残っている討伐任務をこなすべく各々散り散りとなった。静かになった部屋でこれからの子供達の行く末を憂い、産屋敷は再び空を見上げた。
【続】