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    u_modayo

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    u_modayo

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    執筆中の炭鬼舞長編小説の進歩記録。
    今回は〝反抗期〟の回です。
    可愛いと思います。炭治郎くんの体に心が追いついてきます。
    お楽しみまでもう少しです(^ ^)

    #炭鬼舞
    charcoalGhostDance
    #長編進歩

    檸檬④  Ⅰ. SIDE:M
       ⅳ. 拗ねる娘と綾す父



    「準備は順調か、お前達」
    「おや無惨様! おお、やはり無惨様は何を着ていらしても見目潤しいですねぇ。お似合いでございます」
    「えっ! 無惨様もう来てるの? 俺も見た…へブシッ!」
    「こォら、ジッとしてよ。紅がはみ出ちゃうじゃない! それに唾が飛んだわよ、汚いわねぇ」
    「ご、ごめん」

     部屋に入って真っ先に駆け寄ってきたのは童磨だった。仕事が終わって暇を持て余していたらしい。彼と話途中だった妓夫太郎も後ろについてきていてペコリと会釈をした。「素敵です、無惨様」と一言添えてきたので、「そうか」と言って一つ微笑んでやれば照れ臭そうに痩けた頬を指で掻いた。

    「どうだ、炭治郎は。人前に出せるようになったか」
    「はい。言われた通りそれなりの処世術は伝授しました。上流階級の作法に通ずる信者の手など借りて、淑女の嗜みや踊りの方も仕込んであります」
    「そうか。擬態の方は……問題なさそうだな」

     堕姫、と名を呼べば、化粧道具を片付けていた手を止め、黄緑色の花が咲いているような瞳が無惨を見上げた。

    「はい、無惨様」
    「流石だな。よくやった。お前は今度、女相手の化粧教室でも開いてみるといい。それか着付け屋か」
    「無惨様のお言いつけとあらば喜んでやりますけれど、それは遊郭よりも儲かるのですか?」
    「そうだな。評判が上がれば或いは。経理は妓夫太郎に任せて、お前はお行儀良く美人の相手をしていればおのずと金は入ってくるだろうよ」

     側へしゃがめば、堕姫は飼い猫の如く擦り寄ってくるので、その肢体の美しい曲線美を嗜むように撫でてやる。すると兄猫も近寄ってきて、一仕事終えた妹の頬に触れ「お疲れさん」と優しく呟く。妹猫は嬉しそうに目を細め、主人に一礼して兄猫の懐に潜り込んだ。

    「化粧は女が学ぶものだからなぁ。イイのがいれば、堕姫の好みに育てて隙を見て食えばいい。これでムカつく客の男共の面を拝まなくて済む。流石無惨様だ。妙案を思いつきなさる」
    「お兄ちゃんが言うならそうするわ! ねぇ童磨様、どこか良い街知らないかしら?」
    「ん〜そうだなぁ。お化粧教室なんて通えるのはそれなりの資産家のご令嬢くらいだろうし、○○はどうだろう? あそこは起業家や財閥が多く住んでいるから、多少金額を釣り上げても払ってくれると思うよ」

     次の狩場の話で盛り上がる三人はソッとしておいて、無惨は炭治郎へと視線を移した。
     しかし、目が合うとパッと背けられてしまったので、首を傾げる。

    「炭治郎、何を俯いている」
    「ッ、……えと、その……無惨様を直視出来なくて」
    「何故だ? 似合っていないか?」
    「そんなことない! むしろその逆っていうか、凄く……カッコいいよ」

     そう告げる炭治郎は耳まで真っ赤に染まっていた。
     いつもは可愛いとよく言う口が今日は珍しいことだ。
     だが悪く無い。無惨も生物学的に言えば雄に分類されるので、可愛いよりはカッコイイと言われた方が気分がいいのである。

    「そうか。お前も似合っているぞ。擬態も上手くなったな」
    「本当? 俺ちゃんと女の子に見えるかな?」
    「ああ。そのドレスも似合っている。今のお前は誰が見ても花のように可憐な少女だ」

     頬に指を添え、瞳を重ねて囁いてみる。すると、炭治郎の上気した頬は益々紅く染まり上がり、瞬く水晶の瞳が膜を張って揺らめいた。
     炭治郎を着飾るドレスは一言で表すならば向日葵のようだった。目を惹く華やかな黄色のレースは引き締められた腰から穏やかな波が流れるように裾野へと広がる。胸には大輪の花を模したリボンがあしらわれ、射干玉の黒髪を束ねて飾るのは向日葵の花だ。首元には細身のネックレスがかけられており、健康的な肌と美しい鎖骨を際立たせている。
     素がいいので化粧は薄く、本来の良さを引き出すような仕上げである。故に子供特有のあどけなさは抜けておらず、それがまた独特な香気を感じさせる。
     一方で、無惨はタキシードを身に纏っていた。黒を基調としたスーツに、黒地に金のペイズリー柄の刺繍されたベスト。ネックには中心にシルバーの宝飾の施された大きめの蝶ネクタイ。いつもはセンターで分けている髪の分け目をずらし、少ない方の側を耳にかけている。
     二人とも普段とは異なる雰囲気に着飾っているのは、とある目的のためである。

    「よいか、お前は今から柊雪姫(ひいらぎ・ゆきひめ)だ。私はその父である柊月彦。私の事は〝お父様〟と呼びなさい」
    「はい。むざ…あっ、お、お父様」

     呼んだ後に照れ臭そうにはにかむ炭治郎は可愛らしい。声帯もしっかり少女仕様に変えられている。高すぎず低すぎず、耳馴染みの良い丸い声だ。
     しかし、少し離れた所で様子を見ていた童磨の(何だか犯罪臭いなぁ)という心のボヤキは見過ごせない。無惨は服を汚さないように伸ばした触手で童磨の首をパシュッと落として鬱憤を晴らす。

    「お父様。特に理由がなければよいのですが、何故私の名前は雪姫なのでしょうか?」
    「ふむ。お前を拾ったのが雪の日だったからだ。姫をつけたのは父親にとって娘は総じて姫のように大切だからだ」
    「なるほど……」
    「なんだ。何か引っ掛かるのか?」
    「ああいえ。雪姫なのに向日葵のドレスというのは些かあべこべな印象を受けるなぁと」
    「確かに。しかしお前の性格には向日葵が合っている。必ずしも名前と性格が一致しない事はよくある事だ。細かい事はあまり気にするでない」
    「はい。分かりました」
    「さて、そろそろ時間だ。行くぞ、雪姫。その調子で言葉遣いにも気を配るように」
    「はい」

     頷き、差し出された無惨の手を取り、丁寧な所作で立ち上がる炭治郎に無惨は感心する。普段からそこまで粗暴に振る舞うわけではないが、男性特有の荒っぽい部分はやはりある。それをきちんと女性らしく細やかな部分にまで気を遣ったお淑やかな仕草が身についているようだ。
     期間としては二週間と少々性急だったかと思っていたが、指導者の三人はよくやってくれた。褒美はしっかり取らせようと無惨は頭の片隅に留め置いた。

       *

     用意させていた馬車に乗り込むと、無惨は確認のためもう一度炭治郎に今回の潜入に関する目的と注意点することにした。

    「前にも話したが、今日参加する舞踏会は資金源としている貴族達との社交場だ。お前を連れていくのは擬態の訓練も兼ねている。くれぐれも粗相のないように」
    「はい」
    「万が一にも擬態が解けそうになったら、わざと転けるなりしてドレスを汚せ。そうすれば自然に私と外へ出られる」
    「このドレスを? せっかく綺麗なのに、勿体無くてそのような事はできません」
    「ならば最後まで演じ切って見せよ。一つ助言しておくならば、お前は嘘が下手だから変に会話を弾ませようとしなくていい。相槌しながらたまに微笑んでいれば、相手が勝手に浮かれて話を盛り上げる」
    「それは童磨にも言われました。顔に出ないように気をつけます」
    「ああ。だが無表情にはなるなよ。無愛想よりは下手でも笑っていた方がいい。返答に困ったら目線を逸らして向こうが話題を変えてくれるのを待て」

     無惨の言葉に炭治郎は素直に頷いていた。
     緊張しているらしく、少し表情が硬い。肩にも力が入っている。
     無惨は炭治郎の隣に座り直し、ソッと手を握った。

    「そう硬くなる事はない。擬態は完璧だ。声も見た目もそこらを歩く少女と変わらん。今のお前はどこを切り取っても私の娘にしか見えぬ」
    「……お父様」

     見上げてくる瞳に微笑みかければ、炭治郎はそのまま見つめた動かない。
     黙っていれば幼気な少女だ。吸い込まれそうなほど大きな瞳。透き通るような絹肌の頬。無惨と血縁に見せるために黒く染めた髪は艶やかで、花びらのような唇は薄く瑞々しい。今は少女に擬態しているから手脚は華奢で身長も普段よりやや低い。
     ここでふと、無惨に新たな懸念が生まれた。
     こんなに可憐な紅顔の美少女がいれば、必ず人目を引くだろう。ともすれば良からぬ輩に目をつけられるやもしれぬ。思いつくのは誘拐・強姦・監禁の三拍子。炭治郎は鬼なので肉体的に負ける事はないだろうが、真面目で頭の硬い素直な奴だ。騙されてあれやこれやヤらされる可能性はなきにしもあらず。

    「炭治郎」
    「へ? おと……無惨様?」
    「どんな奴に話しかけられても絶対について行ってはいけない。大広間を出る時は必ず私に許可を取れ。分かったな?」
    「う、うん。……ふふ」
    「なんだ? 何がおかしい?」
    「ええ、いやだって……クク。無惨様そんな必死に、俺が誘拐でもされないかって思ったんでしょ? 大丈夫だよ。人の良さそうな顔してる人ほど何考えてるか分かんないってのはよく分かってる。身近にいい例がいるからね」

     童磨のことだろう。確かに、炭治郎は昔から彼を本能的に避けている節がある。嗅覚が鋭く、人の嘘を見抜く力もあるからそう易々と騙されやしないのだろう。

    「心配してくれてありがとう。俺頑張るね。擬態上手くなったら、無惨様のお仕事もっと手伝えるようになるし、街へのお出かけの幅も広がるから楽しみなんだ」
    「ああ。お前には期待している」

     頭を撫でてやれば、炭治郎は嬉しそうに笑った。
     そんなことをしているうちに馬車は会場に到着し、二人は父と娘の仮面を被って煌びやかな世界へと紛れていった。

       *

     結果的に言えば、なんの問題もなく舞踏会は終了した。
     可愛い愛娘が誘拐されるかもしれないという無惨の心配は杞憂に終わり、二人はそれぞれペアと社交ダンスをこなし、談笑の中で交友を広げているうちに広間に閉幕の鐘が鳴り響いた。
     ただ一つ問題があるとすれば、それは炭治郎の機嫌にあった。

    「先程から妙に静かだな、炭治郎。具合でも悪いのか?」
    「…………別に」
    「疲れたのか? 少しならいいぞ、隣へ来い」
    「いい。要らない」
    「は、」

     柄にもなく声を出して驚いてしまった。
     会場を離れてから、というよりも舞踏会が始まってからと言った方が正しいかもしれないが、今晩の炭治郎はとても機嫌が悪い。
     無惨は初めこそ緊張しているのかもしれないと特に気にするでもなく放っておいたのだが、舞踏会の終わりかけに様子を伺いに話しかけにいった時も声のトーンは低いままだった。人間との談笑中は上手く隠しているようだが、ふとした瞬間に真顔になって眉間に皺を寄せていた。
     これはとても珍しい事である。彼は普段基本的におおらかで、怒る事もあるがすぐに機嫌を直してケロッとしていることが多いのだ。
     一つ要因として考えられるのが、舞踏会というのは多くの人間が密集する場所で香水やら体臭やらが入り混じっていた空間に長時間いた為、鼻の利く炭治郎が酔ってしまった可能性。しかし、そんな場面は街中に出た時もあるわけで、炭治郎でもある程度は我慢できるはずである。
     ならば体調が良くないのかと聞けばそうではないと言われるし、それなら空腹かと思って軽食を薦めてみたら断られてしまった。
     何事かと思う。これはちょっとした一大事だ。
     毎日飽きもせず吸血を強請り、出逢ってから今まで一日も欠かさず無惨の血を欲している炭治郎が今、何者でもない無惨からの申し出を断ったのである。因みに今日は一滴も与えていないので、腹は絶対に空いているはずだ。それでも無惨の声かけに見向きもしないで、不貞腐れたように表情筋を歪ませて窓の外を眺めている炭治郎に、無惨は動揺を隠しきれない。
     しかし、それから何度尋ねても「別に」「何でもない」の一点張りなので、一旦諦めて無限城に到着してから問い詰めてみることにした。

    「それで、どうした? 先程から何をそんなにムクれている?」
    「……」
    「炭治郎、何があった」
    「……」
    「お前は私の呪いを外しているのだから、口にしなければ分からない。言いなさい」

     足早に立ち去ろうとする炭治郎の腕を掴み、答えを待つ。白状するまで離す気はなかった。しばらく沈黙が支配したが、やがて観念したのか炭治郎はハァと溜息を溢した。

    「……………………だった」

     やっと話す気になったかと思えばその声は羽虫のように小さかった。あまりにボソボソと言うので至近距離でも聞き取れず、聞き返してみれば少しだけ大きくなった声で耳に届いたのは、拍子抜けする言葉だった。

    「無惨様が他の人と踊っているのを見るのが嫌だった」
    「…………は?」

     間抜けな顔をしている自覚はある。けれど、炭治郎が未だ眉間に皺をグッと寄せて口を尖らせるようなムスッとした顔でそんな事を言うものだから、気がつけば無惨はクスッと吹き出していた。

    「ぷっ、くふふ」
    「何で笑うの? 俺は………フンッ。もういい」
    「待て待て。揶揄ったわけではないぞ。ふふふ」

     振り払われた腕でもう一度触れようとすると、スッと避けられる。驚いて炭治郎を見やれば、バツが悪そうに顔を背けられてしまう。

    「炭治郎? 本当に、どうしたんだ……?」
    「……匂い」
    「え?」
    「無惨様から知らない人の香水の匂いが沢山する。俺はその匂い、あんまり好きじゃない」

     お風呂入ってくる、とぶっきらぼうに言って部屋を出て行ってしまった炭治郎。ポツンと取り残された無惨は、しばし呆気に取られてその場を動けなかった。

    「………反抗期か?」

     やっと口をついて出たのは、以前読んだ心理学関連の文献に書いてあった言葉である。十代かそこらの子供には親の言う事に何でも反抗したがる時期があるのだと記されていた気がする。
     炭治郎のアレが無惨への反抗なのかはさておき、何となく面白いものを見た気がした。揶揄いたくなって、無惨は炭治郎の後を追い風呂場に押しかける。

    「げっ、何で一緒に入ってくるの? 匂いヤダって言ったばかりなのに」
    「それはお前が洗い流せば良い」
    「はあ? 何言って……」
    「昔はよくやりたがっていただろう? 私に付いた匂いが不快であるならば、お前が洗い流せばいい。違うか?」
    「……」

     最初は呆気に取られた顔をした炭治郎だったが、それからスンと真顔になって呆れたように溜息をついた。無惨に差し出された手拭いを受け取ると、椅子ごと持ってその後ろに座る。
     「お湯、かけるね」と声をかけられ、肩から温かいそれがかけられる。石鹸を馴染ませた手ぬぐいが程よい力加減で背中を擦り、無惨はフと柔らかく微笑んだ。

    「無惨様」
    「なんだ?」
    「今日も一緒に寝たい」
    「ふふ、反抗期はもういいのか?」
    「反抗期? なんかよく分かんないけどもう平気。今はもっと無惨様のお側に居たいんだ」

     その後はいつも通り炭治郎に血を与え、膝を貸して眠りにつくのを待つ。深い眠りに入ったら、起こさないように抱き上げて隣の寝室へと連れて行きベッドに寝かせてやる。
     いつもならここで無惨は実験に戻るところなのだが、今日はそんな気になれず、炭治郎の隣に寝転がり微睡に沈んでいった。








    【続】


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