下町小劇場・芳流
DONE⑸2021.12.11「不死身の長兄」web拍手お礼画面⑤竜騎衆戦
2021.12.11「不死身の長兄」web拍手お礼画面⑤ 激闘の果て、ヒュンケルは、敵だったはずの男から、新しい鎧を譲り受けた。
俺の目の前で、ヒュンケルは、その受け取ったばかりの鎧の魔槍を身にまとうと、跪き、元の持ち主の手を取った。もう、力の入っていないその手を、そいつの胸の上に置き、組んでやっていた。
そうして、ヒュンケルは、胸に軽く手を当てると、そいつの前で頭を垂れた。哀悼の意の表明だった。俺も、その背後で、ヒュンケルに倣い、その敵だったはずの男、ラーハルトに頭を下げた。その死を悼む意味を込めて。
少しして、ヒュンケルは、立ち上がると俺に近づき、いきなり俺の腕を取った。
「な、なにすんだよ!」
「ひとりでは歩けないだろう。肩を貸す。」
「ケッ、冗談じゃねえよ、気持ち悪ぃ。」
1687俺の目の前で、ヒュンケルは、その受け取ったばかりの鎧の魔槍を身にまとうと、跪き、元の持ち主の手を取った。もう、力の入っていないその手を、そいつの胸の上に置き、組んでやっていた。
そうして、ヒュンケルは、胸に軽く手を当てると、そいつの前で頭を垂れた。哀悼の意の表明だった。俺も、その背後で、ヒュンケルに倣い、その敵だったはずの男、ラーハルトに頭を下げた。その死を悼む意味を込めて。
少しして、ヒュンケルは、立ち上がると俺に近づき、いきなり俺の腕を取った。
「な、なにすんだよ!」
「ひとりでは歩けないだろう。肩を貸す。」
「ケッ、冗談じゃねえよ、気持ち悪ぃ。」
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DONE⑷2021.12.11「不死身の長兄」web拍手お礼画面④竜騎衆戦
2021.12.11「不死身の長兄」web拍手お礼画面④ 鬼岩城の足取りを追っていた俺は、カールで、超竜軍団に蹂躙された爪痕を目の当たりにした。その中で、ダイの不思議な紋章と同じ痕跡を見つけ、嫌な予感に駆られた俺は、急いで仲間たちの元に戻ろうとした。
始めは、キメラの翼で、直ちにパプニカ王都に戻ろうと思った。
だが、少しでも魔王軍の情報があったほうがいいと思った俺は、人口が多く、かつ、まだ持ちこたえているベンガーナに立ち寄り、魔王軍の侵攻状況を聞こうと思った。
俺が訪れたベンガーナの街は、思ったよりも活気があり、人々も日常生活を営んでいた。
俺は、人の集まる街の大衆食堂に行き、そこで食事を注文しながら話を聞いた。
俺は、カウンターに座り、店の店主に声をかけた。
2808始めは、キメラの翼で、直ちにパプニカ王都に戻ろうと思った。
だが、少しでも魔王軍の情報があったほうがいいと思った俺は、人口が多く、かつ、まだ持ちこたえているベンガーナに立ち寄り、魔王軍の侵攻状況を聞こうと思った。
俺が訪れたベンガーナの街は、思ったよりも活気があり、人々も日常生活を営んでいた。
俺は、人の集まる街の大衆食堂に行き、そこで食事を注文しながら話を聞いた。
俺は、カウンターに座り、店の店主に声をかけた。
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DONE⑵2021.12.11「不死身の長兄」web拍手お礼画面②不死騎団長就任式
2021.12.11「不死身の長兄」web拍手お礼画面② ヒュンケルが書斎で報告書を作成していると、不意に、その部屋の扉がノックされた。
ここは魔界に設けられた屋敷の一つ。
ヒュンケルは、数年前にこの屋敷と使用人たちを与えられた。そして、師でもあり上司でもあるミストバーンから指示された任務に当たる日々を送っていた。その任務の大半は、反乱の目を摘む鎮圧行為や、領内における領民同士のトラブルの制圧などであり、平時には、任された一軍の訓練を指揮するなどしていた。
この日もまた、ヒュンケルは、先日出向いた反乱の鎮圧について、報告書を作成していたところであった。
「入れ。」
ヒュンケルは、短く入室を許可した。
すると、そこには、彼の執事の姿があった。
「失礼いたします、ヒュンケル様。」
6205ここは魔界に設けられた屋敷の一つ。
ヒュンケルは、数年前にこの屋敷と使用人たちを与えられた。そして、師でもあり上司でもあるミストバーンから指示された任務に当たる日々を送っていた。その任務の大半は、反乱の目を摘む鎮圧行為や、領内における領民同士のトラブルの制圧などであり、平時には、任された一軍の訓練を指揮するなどしていた。
この日もまた、ヒュンケルは、先日出向いた反乱の鎮圧について、報告書を作成していたところであった。
「入れ。」
ヒュンケルは、短く入室を許可した。
すると、そこには、彼の執事の姿があった。
「失礼いたします、ヒュンケル様。」
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DONE⑴2021.12.11「不死身の長兄」web拍手お礼画面①バルトスの苦悩
2021.12.11「不死身の長兄」web拍手お礼画面① 騎士は、港の岸壁に立ち、そこから紺碧の海を眺めていた。
ホルキア大陸の南西に位置するこの港町は、比較的温暖な地域だった。遠くに見えるのは水平線にすぎないが、ここから船で5日も行けば、ラインリバー大陸、ロモス王国に着く。かつては、ロモス側と船で人々が行き来をしていた交易の街だった。
だが、数年前に、魔王軍がこの港町を制圧して以来、定期船は出てはいなかった。
騎士は、骨の腕を組み、まっすぐに対岸にあるはずのロモスを見つめていた。海に変わった様子もなく、水平線に船影もない。
部下からの報告を聞いても、近いうちに人間たちからの総攻撃となる様子までは、まだなかった。
だが、それが表面上のつかの間の平穏に過ぎないことは、長年、魔王に騎士として仕え、戦場に長くあった彼にはよくわかっていた。
3469ホルキア大陸の南西に位置するこの港町は、比較的温暖な地域だった。遠くに見えるのは水平線にすぎないが、ここから船で5日も行けば、ラインリバー大陸、ロモス王国に着く。かつては、ロモス側と船で人々が行き来をしていた交易の街だった。
だが、数年前に、魔王軍がこの港町を制圧して以来、定期船は出てはいなかった。
騎士は、骨の腕を組み、まっすぐに対岸にあるはずのロモスを見つめていた。海に変わった様子もなく、水平線に船影もない。
部下からの報告を聞いても、近いうちに人間たちからの総攻撃となる様子までは、まだなかった。
だが、それが表面上のつかの間の平穏に過ぎないことは、長年、魔王に騎士として仕え、戦場に長くあった彼にはよくわかっていた。
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DONE⑽2021.12.11「不死身の長兄」web拍手お礼画面⑩戦後ネイル村シリーズ
激甘ヒュンマ、子どもネタがあるので、苦手な方は要注意
2021.12.11「不死身の長兄」web拍手お礼画面⑩ ぼんやりと目を開けると、まだ、体は重く、けだるい疲れが残っていた。
いまは何時だろうか。朝になったのか。
あれから、どのくらいの時間が経ったのか。
自分の置かれた状況を把握するのに時間がかかった。
少しだけ、目を動かしてみた。
私の隣に、ぬくもりがある。
私と同じベッドの上に寝かせられた、その小さな温かさを感じ、私は、胸がいっぱいになった。
よかった。夢じゃなかったんだ。
私が目をさましたのに気付くと、ベッドの脇に座っていたヒュンケルが、小さな声で私に呼びかけてきた。
「マァム。目が覚めたのか?」
「うん。」
「無理をするな。眠れる時に眠っていた方がいい。
・・・まだ、この子も眠っている。」
「うん・・・。」
2294いまは何時だろうか。朝になったのか。
あれから、どのくらいの時間が経ったのか。
自分の置かれた状況を把握するのに時間がかかった。
少しだけ、目を動かしてみた。
私の隣に、ぬくもりがある。
私と同じベッドの上に寝かせられた、その小さな温かさを感じ、私は、胸がいっぱいになった。
よかった。夢じゃなかったんだ。
私が目をさましたのに気付くと、ベッドの脇に座っていたヒュンケルが、小さな声で私に呼びかけてきた。
「マァム。目が覚めたのか?」
「うん。」
「無理をするな。眠れる時に眠っていた方がいい。
・・・まだ、この子も眠っている。」
「うん・・・。」
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DONE⑼2021.12.11「不死身の長兄」web拍手お礼画面⑨戦後ネイル村シリーズ
激甘ヒュンマ、子どもネタありなので、苦手な方は要注意
2021.12.11「不死身の長兄」web拍手お礼画面⑨ 夜中に目をさますと、隣に寝ているはずの彼女の姿がなかった。
何かあったのだろうか。体調が悪いのだろうか。
不安に駆られた俺は、寝室を出て、階下へと降りていった。
階段を下っていくと、リビングに人の気配を感じた。
明かりはなく、格子窓から差し込む月の明かりだけが、仄かな光源となっていた。リビングの椅子に腰かけている人影がある。暗闇に慣れた俺の目には、それが誰なのか、すぐに分かった。
俺が近づくと、足音に気付いたのか、彼女はこちらに目を向けた。
「ヒュンケル。」
いつも通りの声が、俺を呼んだ。
その声色に辛そうな響きはなく、俺は、少しだけ胸をなでおろすことができた。
「どうした。眠れないのか?」
俺が気づかわしげに声をかけると、彼女は困ったように答えた。
3107何かあったのだろうか。体調が悪いのだろうか。
不安に駆られた俺は、寝室を出て、階下へと降りていった。
階段を下っていくと、リビングに人の気配を感じた。
明かりはなく、格子窓から差し込む月の明かりだけが、仄かな光源となっていた。リビングの椅子に腰かけている人影がある。暗闇に慣れた俺の目には、それが誰なのか、すぐに分かった。
俺が近づくと、足音に気付いたのか、彼女はこちらに目を向けた。
「ヒュンケル。」
いつも通りの声が、俺を呼んだ。
その声色に辛そうな響きはなく、俺は、少しだけ胸をなでおろすことができた。
「どうした。眠れないのか?」
俺が気づかわしげに声をかけると、彼女は困ったように答えた。
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DONE⑻2021.12.11「不死身の長兄」web拍手お礼画面⑧戦後のアバンとヒュンケル
アバンのしるしの意味
2021.12.11「不死身の長兄」web拍手お礼画面⑧ カールには、世界有数の蔵書数を誇る、壮大な王立図書館があった。
王宮から続く広大な庭の中の小径を歩いていくと、しばらくして、その図書館に着く。そこは、カールの王族や、国家の要職の人間だけではなく、許可さえ下りれば、民間の学者や研究者も立ち入りを許されていた。
その「知の共有」が、この国を強国たらしめた要因の一つなのであろう。
かつては、ジニュアール家の歴代当主も、この王立図書館に足繫く通っていたそうだ。
庭の小径の先に見えた王立図書館の建物は、王宮と異なって、全体的に直線的構造であり、三角形の屋根とその正面のレリーフが印象的だった。そこには、知恵の神を意味する梟のシルエットをかたどった彫刻が掲げられていた。
5224王宮から続く広大な庭の中の小径を歩いていくと、しばらくして、その図書館に着く。そこは、カールの王族や、国家の要職の人間だけではなく、許可さえ下りれば、民間の学者や研究者も立ち入りを許されていた。
その「知の共有」が、この国を強国たらしめた要因の一つなのであろう。
かつては、ジニュアール家の歴代当主も、この王立図書館に足繫く通っていたそうだ。
庭の小径の先に見えた王立図書館の建物は、王宮と異なって、全体的に直線的構造であり、三角形の屋根とその正面のレリーフが印象的だった。そこには、知恵の神を意味する梟のシルエットをかたどった彫刻が掲げられていた。
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DONE⑺2021.12.11「不死身の長兄」web拍手お礼画面⑦アバンの戦線復帰まで
2021.12.11「不死身の長兄」web拍手お礼画面⑦ アバンは、破邪の洞窟から出ると、手近な街を訪れた。
カール王都は壊滅していたが、辺境の地方都市は難を免れており、この街も、その一つだった。
特に、ベンガーナ国境付近は、被害が少なかった。おそらくそれは、魔王軍の進軍計画によるところも大きかったのだろう。ベンガーナ領かあるいはカール領なのか、魔王軍にとって曖昧であったこの地域は、侵攻の空白地帯になっていたようだった。
アバンは、旅装のまま、塀に囲まれた街の中に入ったが、そこで彼は異様な光景を目の当たりにした。
「大魔王が攻めてくる!」
「逃げよう!!」
「どこに?逃げる場所なんかないよ。」
「大魔王は、世界を滅ぼすって・・・。人間はみんな殺すって・・・。」
6237カール王都は壊滅していたが、辺境の地方都市は難を免れており、この街も、その一つだった。
特に、ベンガーナ国境付近は、被害が少なかった。おそらくそれは、魔王軍の進軍計画によるところも大きかったのだろう。ベンガーナ領かあるいはカール領なのか、魔王軍にとって曖昧であったこの地域は、侵攻の空白地帯になっていたようだった。
アバンは、旅装のまま、塀に囲まれた街の中に入ったが、そこで彼は異様な光景を目の当たりにした。
「大魔王が攻めてくる!」
「逃げよう!!」
「どこに?逃げる場所なんかないよ。」
「大魔王は、世界を滅ぼすって・・・。人間はみんな殺すって・・・。」
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DONE⑹2021.12.11「不死身の長兄」web拍手お礼画面⑥これはちょっとだけヒュンマ
2021.12.11「不死身の長兄」web拍手お礼画面⑥ 昼間であるはずなのに、周囲は闇に包まれていた。
中心にあるのは、白いローブの男。
だが、その白さとは裏腹に、その身にまとうのは、底知れぬ闇だった。
その闇の主が、嘲笑うような声で、煽り立ててきた。
―どうした。その程度か。
白いローブの男の前には、銀の戦士。かつての師を目の前に、血走った目で、睨み据えていた。
―・・・おのれ・・・っ!
彼の周囲の空気がざわめく。
それまで、光の闘気を纏っていたはずの彼に、闇が忍び寄ろうとしていた。
マァムは、声をあげようとした。
―・・・だめ・・・!
だが、白いローブの男の仕掛けた網は、彼女から声までも奪っていた。
男は、さらにけしかける。
―その程度の暗黒闘気では、私は倒せん。
4557中心にあるのは、白いローブの男。
だが、その白さとは裏腹に、その身にまとうのは、底知れぬ闇だった。
その闇の主が、嘲笑うような声で、煽り立ててきた。
―どうした。その程度か。
白いローブの男の前には、銀の戦士。かつての師を目の前に、血走った目で、睨み据えていた。
―・・・おのれ・・・っ!
彼の周囲の空気がざわめく。
それまで、光の闘気を纏っていたはずの彼に、闇が忍び寄ろうとしていた。
マァムは、声をあげようとした。
―・・・だめ・・・!
だが、白いローブの男の仕掛けた網は、彼女から声までも奪っていた。
男は、さらにけしかける。
―その程度の暗黒闘気では、私は倒せん。