てぬたろ
DONE #TPVワンドロライ4月20日、お題「蜘蛛」「ヒーロー」より
ATSV ミゲミゲ(パパ×928)
※いずれミゲミゲになるミゲとミゲ
※99ミゲがパパミゲを特別だと意識するきっかけのお話
君がそう呼ぶのならばモニターとスクリーンだらけのオフィスでミゲルは今日も仕事をしていた。オレンジ色に発光する光の粒子ばかりを見続けていると、太陽の陽の色を忘れてしまいそうになる。それが健全が不健全で言ったらもちろん後者なわけなのだけど、使命に駆り立てられているミゲルにとってはどうでもいいことだった。
あらゆる次元のスパイダーマンを観測できるようになってわかったことがある。
ひとつはあらゆる次元の『ミゲル・オハラ』を観測してみてもスーパーパワーを得るのはこのアース928の『ミゲル・オハラ』、つまり自分だけだということ。
ふたつめは蜘蛛から直接スーパーパワーを得ていないのは自分だけだということ。
無限に広がる数えることもバカバカしくなるの次元のすべてを見たわけではないのだから、本当にミゲルが一人きりであるとは言い切れないにしても、ミゲルに孤独感を感じさせるには十分だった。孤独は胸を押しつぶすような不安をミゲルに与え、安らぎから遠ざける。他の次元のスパイダーマンと関わるようになって少しは孤独感が薄れているかもと思うこともあったが、顔色は一向に悪いままだった。
2559あらゆる次元のスパイダーマンを観測できるようになってわかったことがある。
ひとつはあらゆる次元の『ミゲル・オハラ』を観測してみてもスーパーパワーを得るのはこのアース928の『ミゲル・オハラ』、つまり自分だけだということ。
ふたつめは蜘蛛から直接スーパーパワーを得ていないのは自分だけだということ。
無限に広がる数えることもバカバカしくなるの次元のすべてを見たわけではないのだから、本当にミゲルが一人きりであるとは言い切れないにしても、ミゲルに孤独感を感じさせるには十分だった。孤独は胸を押しつぶすような不安をミゲルに与え、安らぎから遠ざける。他の次元のスパイダーマンと関わるようになって少しは孤独感が薄れているかもと思うこともあったが、顔色は一向に悪いままだった。
てぬたろ
DONE #TPVワンドロライ4月15日、お題「WE」「願いごと」より
ATSV ミゲミゲ(パパ×928)
※しネタです。
※パパミゲが凶弾に倒れる場面のお話です。
僕は君の影踏むばかりパシ、と乾いた音。
姿も声も魂も同じ形をしたもう一人の『ミゲル』が目を丸くしてこちらを振り返った。
「どうしたんだ?」
「蜘蛛がいたから。」
手のひらに潰されて動かなくなった蜘蛛が乾いたように固まって俺の目の前に転がっている。『ミゲル』は死がいを指先でつまみ上げると小さなゴミ箱のポッカリと開いた丸い口へと落とした。
「普通の蜘蛛だったな。」
「珍しくもない蜘蛛だ。君も蜘蛛には詳しいだろ?」
「もちろんだ。俺も君と同じ分野を研究してるから。」
『ミゲル』がなぜ「普通の」と言ったのか俺にはわかりかねた。
「逃がしてあげればよかったのに。あの蜘蛛は別に悪さなんかしないんだし。」
日当たりのいいリビングの窓を指さした彼にそう言われて、何気ない彼の言葉に俺の胸の中心が針で刺されたかのようにうずいた。今まで室内に蜘蛛が這っていたら「普通」にそうしてきたという漫然な習慣に指をさされたようでやるせない。
1567姿も声も魂も同じ形をしたもう一人の『ミゲル』が目を丸くしてこちらを振り返った。
「どうしたんだ?」
「蜘蛛がいたから。」
手のひらに潰されて動かなくなった蜘蛛が乾いたように固まって俺の目の前に転がっている。『ミゲル』は死がいを指先でつまみ上げると小さなゴミ箱のポッカリと開いた丸い口へと落とした。
「普通の蜘蛛だったな。」
「珍しくもない蜘蛛だ。君も蜘蛛には詳しいだろ?」
「もちろんだ。俺も君と同じ分野を研究してるから。」
『ミゲル』がなぜ「普通の」と言ったのか俺にはわかりかねた。
「逃がしてあげればよかったのに。あの蜘蛛は別に悪さなんかしないんだし。」
日当たりのいいリビングの窓を指さした彼にそう言われて、何気ない彼の言葉に俺の胸の中心が針で刺されたかのようにうずいた。今まで室内に蜘蛛が這っていたら「普通」にそうしてきたという漫然な習慣に指をさされたようでやるせない。
てぬたろ
DONE #TPVワンドロライ4月9日、お題「気温」「手当て」より
ATSV ミゲミゲ(パパ×猫928)※猫ミゲです。
猫になったミゲとパパミゲの出会いのお話。
猫のいる生活ソファに一匹の猫がいた。いつからそこにいたのか知らぬ間に。猫はソファの上にいくつも並べている赤色のクッションの上でぐったりとうなだれていた。その毛並みは泥や血で斑色に汚れていて、本来の毛色が何色なのかわからないくらいだった。
「おい、大丈夫か?!」
オートロックの高層マンションの上階、ネズミすら侵入が難しいこの部屋にどうやって入ってきたのかとか、体の汚れに反してクッション以外に一切汚れがないことの違和感だとか、そんなことを気にする時間もない。ここ数日、窓の外で春先の冷たい雨がシトシトと降り続けていたせいかその姿はまるで凍えているようにも見える。わずかに腹や胸を上下させている猫の呼吸が今にも止まってしまいそうで、例え見知らぬ猫だとしてもその命が消えてしまうことが辛くて悲しくてたまらなかった。
2524「おい、大丈夫か?!」
オートロックの高層マンションの上階、ネズミすら侵入が難しいこの部屋にどうやって入ってきたのかとか、体の汚れに反してクッション以外に一切汚れがないことの違和感だとか、そんなことを気にする時間もない。ここ数日、窓の外で春先の冷たい雨がシトシトと降り続けていたせいかその姿はまるで凍えているようにも見える。わずかに腹や胸を上下させている猫の呼吸が今にも止まってしまいそうで、例え見知らぬ猫だとしてもその命が消えてしまうことが辛くて悲しくてたまらなかった。
てぬたろ
DONE #TPVワンドロライ3月29日、お題「雨」「過去・昔」より
ATSV ミゲミゲ(パパ×928)
※壊れかけのミゲのお話。
※パパミゲは登場しません。
涙色の月命日彼が死んで一月が経った。それはつまり彼の代わりをし始めてもう一月が経ったということと同義だった。赤い瞳を隠すためにブラウンのカラーコンタクトを装着し、自分のものではない彼の服をまとって、彼の立ち居振る舞いを真似る。彼の居なくなった翌日に、仕事が忙しくなったと彼の大切な娘に拙い言い訳をして出来上がったのが二人目の"普通"のミゲル・オハラだった。
彼が生きていると信じたいがために流し続けるモニターの映像の繰り返しはミゲルに現実を突きつけてくる。どうしたってミゲルでは彼にはなれないのだと。
「まだ、たったの一月。」
なんとなく独り言を呟いてみたがそれは完全に失敗だった。自分は正気で、自分の行動は正しいという確信が揺らいで今にも叫びだしてしまいたくなってしまった。銃弾が彼の胸を貫いたのはもうずっと遥か昔のことのようにも思えたし、たった昨日のことのようにも思えた。
929彼が生きていると信じたいがために流し続けるモニターの映像の繰り返しはミゲルに現実を突きつけてくる。どうしたってミゲルでは彼にはなれないのだと。
「まだ、たったの一月。」
なんとなく独り言を呟いてみたがそれは完全に失敗だった。自分は正気で、自分の行動は正しいという確信が揺らいで今にも叫びだしてしまいたくなってしまった。銃弾が彼の胸を貫いたのはもうずっと遥か昔のことのようにも思えたし、たった昨日のことのようにも思えた。
てぬたろ
DONE #TPVワンドロライ3月22日、お題「青と赤」「光と影」より
ATSV ミゲミゲ(パパ×928)
※肉体関係の匂わせがあります。
わたしは色彩 きみは光彩「何色がいい?」
「赤がいい。」
「俺は青がいい。」
「意見が割れたな。ならどうする?」
「そうだな、赤にしよう。」
小さな机を大きな体ふたつで囲んで何をしているのか。きっかけは何だっただろうか。娘のガブリエラの学校で出された工学の課題、いや図工の課題か、そんな話からだった気がする。ふたりとも揃ってエンジニアなんて肩書を持っていたから、始まりかけた行為を中断してこうして肩をくっつけてあれこれとアイデアの種を真っ白な紙に描いていくことに夢中になっている。
「これなら。」
うまく使えばヴィランの捕縛に…と言いかけてミゲルは慌てて口をつぐんだ。平穏で普通の生活を過ごしている彼に自分の素性を知られているとはいえ、自分の口から彼に物騒なことを言うことははばかられた。
1614「赤がいい。」
「俺は青がいい。」
「意見が割れたな。ならどうする?」
「そうだな、赤にしよう。」
小さな机を大きな体ふたつで囲んで何をしているのか。きっかけは何だっただろうか。娘のガブリエラの学校で出された工学の課題、いや図工の課題か、そんな話からだった気がする。ふたりとも揃ってエンジニアなんて肩書を持っていたから、始まりかけた行為を中断してこうして肩をくっつけてあれこれとアイデアの種を真っ白な紙に描いていくことに夢中になっている。
「これなら。」
うまく使えばヴィランの捕縛に…と言いかけてミゲルは慌てて口をつぐんだ。平穏で普通の生活を過ごしている彼に自分の素性を知られているとはいえ、自分の口から彼に物騒なことを言うことははばかられた。
てぬたろ
DONE #TPVワンドロライ3月19日、お題「ドライブ」「お茶」より
ATSV ミゲミゲ(パパ×928)
名前をつけられない交際を重ねる二人のお話
二時間だけの回遊魚二車線道路の片側を走る車のヘッドライトだけが、この世界で唯一生きている生き物のようだった。
どんなに発展した都市だとしてもその隅は寂れたものである。それはどんな場所でも時代でも時代であっても変わらない。補助席に座りドア側に体を傾けると窓のガラスが鏡のように反射して自身の顔が映る。目の周りは落ち窪んだように暗く、ガラスの向こう側の夜の色が重なり見るからに顔色が悪く見えた。我ながらひどい顔だとミゲルは小さく笑った。自嘲である。
郊外の夜道の暗がりに潜んでいるものはなんだろう。遠い向こうに見える小高いものは山なのか丘なのかわかったものではない。あるいはミゲルの知らない名前をした街なのかもしれなかったし、はたまた木々の群れなのかもしれなかった。ただ夜目のきくミゲルの目ですら生き物の気配を感じることができなかった。ここは漂う空気さえもアース928によく似ていた。しかし似ているだけでやはりここはミゲルの世界ではない。
1549どんなに発展した都市だとしてもその隅は寂れたものである。それはどんな場所でも時代でも時代であっても変わらない。補助席に座りドア側に体を傾けると窓のガラスが鏡のように反射して自身の顔が映る。目の周りは落ち窪んだように暗く、ガラスの向こう側の夜の色が重なり見るからに顔色が悪く見えた。我ながらひどい顔だとミゲルは小さく笑った。自嘲である。
郊外の夜道の暗がりに潜んでいるものはなんだろう。遠い向こうに見える小高いものは山なのか丘なのかわかったものではない。あるいはミゲルの知らない名前をした街なのかもしれなかったし、はたまた木々の群れなのかもしれなかった。ただ夜目のきくミゲルの目ですら生き物の気配を感じることができなかった。ここは漂う空気さえもアース928によく似ていた。しかし似ているだけでやはりここはミゲルの世界ではない。
てぬたろ
DONE #TPVワンドロライ3月11日、お題「幸運」「大きい/小さい」より
ATSV ミゲルとライラ
いずれミゲミゲ🚫になりますが、ご想像にお任せします。
ことの始まりある程度整ったデスク、発光するいくつものモニター、そこらに転がった試作品、その他装置やら、なんやら。見慣れたミゲルのワークスペースだ。いつも通り何も変わりはない。はずなのに。
今はそのどれもが見上げるほどに大きい。
「どうしてこんなことに……。」
すっかり小さくなった背中を丸めてミゲルはそう独りごちてみる。デスクの下のかろうじて絡まり合ってない配線の隙間に溜まったホコリがやたらと生々しくてこれが現実だと知らしめてくる。
「なに気取ってるの。シリアスに言ってるけどあなたの好奇心のせいでしょ。」
そう言ってきたライラの呆れ顔がいつもより詳細に見えた。彼女を構成している電子の光の粒の規則正しい配列が肉眼でもはっきりと捉えることができる。蜘蛛の力を得てからというもの通常の人間より遥かに視力が高くなったとはいえ、こんなにもよく見えたことはない。頭痛がする、とミゲルは眉間を指で揉んでみたが効果はさほどだった。
1940今はそのどれもが見上げるほどに大きい。
「どうしてこんなことに……。」
すっかり小さくなった背中を丸めてミゲルはそう独りごちてみる。デスクの下のかろうじて絡まり合ってない配線の隙間に溜まったホコリがやたらと生々しくてこれが現実だと知らしめてくる。
「なに気取ってるの。シリアスに言ってるけどあなたの好奇心のせいでしょ。」
そう言ってきたライラの呆れ顔がいつもより詳細に見えた。彼女を構成している電子の光の粒の規則正しい配列が肉眼でもはっきりと捉えることができる。蜘蛛の力を得てからというもの通常の人間より遥かに視力が高くなったとはいえ、こんなにもよく見えたことはない。頭痛がする、とミゲルは眉間を指で揉んでみたが効果はさほどだった。
てぬたろ
DONE #TPVワンドロライ11月17日お題「web」「絡まる」より。
ATSV、ミゲル・オハラとミゲルを見るライラのお話
自動糸車は回り続ける いくつものモニターの前に今日もミゲルは立っている。広いソサエティの中で彼がこの場所で過ごす時間の割合はとても多い。
彼は老婆のように背を丸めて、モニターのあちこちに細かく散らばる文字や数字をせわしなく目で追って、新たに文字や数字を打ち込み、蜘蛛の巣状の運命と照らし合わせていく。何時間も何時間も。自ら選んだこととはいえ、無数の宇宙の監視の重責は明らかに彼の人生を蝕んでいた。
時々、目頭を押さえながら、数多あるモニターのひとつに焼き付くほどに映している在りし日の思い出に浸っている姿は、去りし過去にのみ安らぎを求める姿は、いっそ哀れに見える。
あいも変わらずモニターの前で大きな体を小さく丸め、亡霊じみた影を背負ったミゲルは魂の置き場所を無くした常世の存在じみていて。
828彼は老婆のように背を丸めて、モニターのあちこちに細かく散らばる文字や数字をせわしなく目で追って、新たに文字や数字を打ち込み、蜘蛛の巣状の運命と照らし合わせていく。何時間も何時間も。自ら選んだこととはいえ、無数の宇宙の監視の重責は明らかに彼の人生を蝕んでいた。
時々、目頭を押さえながら、数多あるモニターのひとつに焼き付くほどに映している在りし日の思い出に浸っている姿は、去りし過去にのみ安らぎを求める姿は、いっそ哀れに見える。
あいも変わらずモニターの前で大きな体を小さく丸め、亡霊じみた影を背負ったミゲルは魂の置き場所を無くした常世の存在じみていて。