お箸で摘む程度
TRAININGキースとブラッド夕暮れ時に桜を見るキースとブラッドの話。13期生入所前、ディノが死んだとされている時期です。すごく暗いけどミラトリの愛とかの話。
梶井基次郎「桜の樹の下には」をオマージュしています。短いので絶対に読んで…https://www.aozora.gr.jp/cards/000074/card427.html
暮桜 川沿いには、立派なソメイヨシノが並木を成している。この時期になると薄い花弁がモザイク模様のように隙間なく空間を埋め尽くし、重なり合い、幻想的な木陰を作っている。
「おーい、こっちは捌けたぞ」
「ああ……」
河口側からキースが歩いてきた。足を引きずり気味に歩くせいで、地面に落ちた花弁が砂埃とともに巻き上がる。
リトルトーキョーを通る河川の、河口にほど近いその岸は、日本の友好都市から送られた桜並木で有名な場所だった。もう百年近くにもなるというその並木は、歴史の浅いニューミリオンの中では特に大切にされている。桜の時期には人でごった返すこの場所の治安維持にも、ヒーローが出動しているのだ。最も、今日は夜桜のライトアップの機材点検のため、夕暮れの少し前に人を追い出すというのが仕事である。
2173「おーい、こっちは捌けたぞ」
「ああ……」
河口側からキースが歩いてきた。足を引きずり気味に歩くせいで、地面に落ちた花弁が砂埃とともに巻き上がる。
リトルトーキョーを通る河川の、河口にほど近いその岸は、日本の友好都市から送られた桜並木で有名な場所だった。もう百年近くにもなるというその並木は、歴史の浅いニューミリオンの中では特に大切にされている。桜の時期には人でごった返すこの場所の治安維持にも、ヒーローが出動しているのだ。最も、今日は夜桜のライトアップの機材点検のため、夕暮れの少し前に人を追い出すというのが仕事である。
お箸で摘む程度
TRAININGシリウスとヴィクター 千夜一夜イベを経ての散文オークションの後、廃墟のプラネタリウムで話す二人。全てが捏造です。
子供の領分「あれがアルタイル、ベガ、そしてあちらが、デネブ……」
椅子に凭れて半球を見上げる。古いクッションは黴くさい匂いがする。
どこか安心する匂いだ、とヴィクターは思った。黴や埃と疎ましく呼んでも、それらは時間の匂いをしている。不変の匂いだ。それでいて、瓦解の匂い。自然に任せて朽ちていく退廃の美しさが、鼻腔から脳へと伝わってくる。
しなやかな指先がレバーにかかって、軋んだ音を立てながら下ろされる。ガコン、と音がして、半球が動くと同時に、客席がほの明るくなった。
「おや、季節を切り替えるレバーではなかったのか」
「いえ、空も動いています」
「接触不良か。まあ仕方ない、いつから動かされていないのやら、分からないからな」
3471椅子に凭れて半球を見上げる。古いクッションは黴くさい匂いがする。
どこか安心する匂いだ、とヴィクターは思った。黴や埃と疎ましく呼んでも、それらは時間の匂いをしている。不変の匂いだ。それでいて、瓦解の匂い。自然に任せて朽ちていく退廃の美しさが、鼻腔から脳へと伝わってくる。
しなやかな指先がレバーにかかって、軋んだ音を立てながら下ろされる。ガコン、と音がして、半球が動くと同時に、客席がほの明るくなった。
「おや、季節を切り替えるレバーではなかったのか」
「いえ、空も動いています」
「接触不良か。まあ仕方ない、いつから動かされていないのやら、分からないからな」