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    はるち

    好きなものを好きなように

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    POIPOI 166

    はるち

    DONEカンタービレの台詞を受けて。二人の信頼のお話。
    信頼は儚い人間のために 好意とは形を変えた硬貨だろうか。無償で手渡されるそれを無邪気に受け取ることが出来るのは幼さの特権だ。何故なら私達は骨身に染みて知っているから。ただより高いものはないと。いつか対価を要求されることを。見返りを求めない好意なんて不安なだけだ、という彼女の言葉を思い出す。それは全くその通りで、私はこうして目の前に置かれた茶の一杯に手を出すことすら恐ろしい。
    「今日は珈琲の気分でしたか?」
     まだ湯気を上げている茶は、彼が手づから淹れたもので、それがどれほど美味しいかを私は知っている。私が飲もうとしないことを不思議がっているのだろう。こちらを見つめる鬱金色は訝しげな色を宿している。
    「……ねえ、リー」
     私は、ベルトから下げている玉佩に手を伸ばした。つるりと冷ややかな手触りが、身体から余計な熱を奪っていく。昇進式の日に、彼が勲章と引き換えにくれたものだ。私が手渡した勲章には、どんな意味があっただろうか。彼の能力に対する期待、これからも重用していくという意思表示。であれば、彼が差し出したこれにはどんな意味があるのだろう。信じてくれますかい、と言った言葉の真意を。
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    はるち

    DOODLE出会いと別れを繰り返す二人が性癖です
    黒鳥はかなしからずや夕の赤夜の黒にも染まずただよふ
    左様ならば、また逢いましょうあれ。
    こんなところで珍しいね。
    もちろん、君のことなら知っている。商人で有名なリー家の、ええと――
    ……そう言われるのは好きじゃない?
    ふふ。
    そうだろうね。
    私?私はただの通りすがりだよ。
    君はどこまで?……そう、あの十字路まで。せっかくだから一緒に行こうか。
    しかし、十字路、ねえ。
    ああいや、大した意味はないよ。十字路は何故、国が変わっても縁起が良くないのかと思ってね。
    過去と未来が交わるとか、この世とあの世が交わるとか。そんな謂れが多くてね。ほら、罰として罪人の死体を埋めたりするだろう?しない?ふうん。
    そうだ、こんな話を聞いたことはあるかな。
    未練のある魂は、死後に十字路に行くんだ。自分が来た道を除くと、目の前には三本に分かれた道がある。そのそれぞれが過去に、未来に、現世にと続いている。そうして選んだ道の先で、幽霊になって化けて出るのさ。いや全く、輪廻転生を是とする炎国らしい話だと思わないか?死後の審判、天国か地獄に行き先が分かれるラテラーノ教とは異なる死生観だよね。まあ、だからこそ死後どこにも行けない魂が永遠に彷徨い続けるという罰が成立するわけだけど――
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    はるち

    DONEやり方は三つしかない。正しいやり方。間違ったやり方。俺のやり方だ。――引用 カジノ
    健康で文化的な最低限度の退廃「抱いてくれないか」

     その人が、ソファに座る自分の膝の上に跨る。スプリングの軋む音は、二人きりの静寂の中では雷鳴のように鮮烈だった。こうしていると、この人の方が自分よりも視線が上にある。天井からぶら下がる白熱灯のせいで逆光となり、この人の表情を見失う。
     どうしてか、この世界の生物は良いものだけを、光の差す方だけを目指して生きていくことができない。酒がもたらす酩酊で理性を溶かし、紫煙が血液に乗せる毒で緩やかに自死するように、自らを損なうことには危険な快楽があった。例えばこの人が、自らの身体をただの物質として、肉の塊として扱われることを望むように。この人が自分に初めてそれを求めた日のことを、今でも良く覚えている。酔いの覚めぬドクターを、自室まで送り届けた時のこと。あの時に、ベッドに仰向けに横たわり、そうすることを自分に求めたのだ。まるで奈落の底から手招くようだった。嫌だと言って手を離せば、その人は冗談だと言って、きっともう自分の手を引くことはないのだろう。そうして奈落の底へと引き込まれた人間が自分の他にどれほどいるのかはわからない。知りたくもない。自分がロドスにいない間に、この人がどうしているのかも。
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