hidaruun
DOODLEさみさに♀/雨さに♀五月雨が天井裏にいる話木目の天井に審神者は目を向けた。何か染みがあるわけでも埃が溜まっているわけでもないそこをじいっと見つめる。
彼女はあそこが開くことを知っている。なんなら、今あの上に刀剣男士が一人いることも。
「五月雨」
呼びかけても反応は無い。だがしかし、「いる」と彼女はよく知っていた。
今朝、外に少し用事があった。本当にちょっとそこまでの用事。門から出て通りを少し行って一つ曲がったくらいのところにポストがあるのだ。郵便を二つほど投函したかった。ただそれだけ。つっかけを履いてぱっと行ってぱっと戻って来ただけのほんの五分にも満たない時間だったと思う。それなのに玄関に戻ると眉を寄せた五月雨が「何故、置いていったのですか」と立っていた。
1113彼女はあそこが開くことを知っている。なんなら、今あの上に刀剣男士が一人いることも。
「五月雨」
呼びかけても反応は無い。だがしかし、「いる」と彼女はよく知っていた。
今朝、外に少し用事があった。本当にちょっとそこまでの用事。門から出て通りを少し行って一つ曲がったくらいのところにポストがあるのだ。郵便を二つほど投函したかった。ただそれだけ。つっかけを履いてぱっと行ってぱっと戻って来ただけのほんの五分にも満たない時間だったと思う。それなのに玄関に戻ると眉を寄せた五月雨が「何故、置いていったのですか」と立っていた。
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DOODLEさみさに♀/雨さに♀お布団に埋もれる話「主が布団を干していたから片付けるのを手伝ってきてほしい」と歌仙に言われたので五月雨はひとつ頷いて手にあった最後のお皿を棚に仕舞った。
思わず目を細めるような眩しい昼下がりの日差しが降り注ぐ縁側を進んでいると、何かの花びらが廊下に落ちているのが見えた。花びらはくるりとその場で一回転する。開け放たれた雨戸から午後の生温い空気がそよりと駆け込んできていた。そこはちょうど彼女の部屋の前。ここから布団を運び込んだのであれば一足遅かったかと部屋を覗くと、入り口のすぐ足元に羽毛布団に倒れ込んでいる彼女の姿があった。
「頭?」
「あ……ん?さみ?」
鈍い反応を返した彼女は布団の上でもぞもぞと泳ぐだけで顔は見せない。
「はい、さみです。布団を片付けられているのではなかったのですか?」
943思わず目を細めるような眩しい昼下がりの日差しが降り注ぐ縁側を進んでいると、何かの花びらが廊下に落ちているのが見えた。花びらはくるりとその場で一回転する。開け放たれた雨戸から午後の生温い空気がそよりと駆け込んできていた。そこはちょうど彼女の部屋の前。ここから布団を運び込んだのであれば一足遅かったかと部屋を覗くと、入り口のすぐ足元に羽毛布団に倒れ込んでいる彼女の姿があった。
「頭?」
「あ……ん?さみ?」
鈍い反応を返した彼女は布団の上でもぞもぞと泳ぐだけで顔は見せない。
「はい、さみです。布団を片付けられているのではなかったのですか?」
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DOODLEさみさに♀/雨さに♀五月雨がココアを持ってきてくれる話「休憩いかがですか」という声と共に差し出されたマグカップを受け取るとココアの湖の中にぷかりと浮かぶ白い頭が見えた。
「マシュマロ入ってる!」
作業からの作業で疲れていた気持ちも吹っ飛んでご機嫌になった彼女はすぐに、ふぅっとココアに一息かけては両手で抱えたマグカップを傾けた。温かな甘さが口に広がって自然と頬が動いていく。「美味しい〜」と息を吐いた彼女の目に小目に腰掛けた五月雨の薄く笑みを浮かべた顔が飛び込んできた。瞬きの間に消えてしまいそうな、そんな顔。
「……」
「美味しいですか?」
「うん……」
「お好きと聞いたので」
だから持ってきてくれたのかと、彼女はマグカップの中に視線を落とす。何かと甘い飲み物が好きだ。体中に巡っていくと活力になる。清光や乱、それから意外と蜻蛉切も同じように甘い飲み物が好きで一緒にそういうお店に行ったりすることがある。その時期の限定メニューもあったりして発売日に並んだりもする。
478「マシュマロ入ってる!」
作業からの作業で疲れていた気持ちも吹っ飛んでご機嫌になった彼女はすぐに、ふぅっとココアに一息かけては両手で抱えたマグカップを傾けた。温かな甘さが口に広がって自然と頬が動いていく。「美味しい〜」と息を吐いた彼女の目に小目に腰掛けた五月雨の薄く笑みを浮かべた顔が飛び込んできた。瞬きの間に消えてしまいそうな、そんな顔。
「……」
「美味しいですか?」
「うん……」
「お好きと聞いたので」
だから持ってきてくれたのかと、彼女はマグカップの中に視線を落とす。何かと甘い飲み物が好きだ。体中に巡っていくと活力になる。清光や乱、それから意外と蜻蛉切も同じように甘い飲み物が好きで一緒にそういうお店に行ったりすることがある。その時期の限定メニューもあったりして発売日に並んだりもする。
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DOODLEさみさに♀/雨さに♀出かけませんか?手元のスマホをちらりと窺った五月雨はそのままこちらの顔を覗いてくる。
「頭」
「んー」
少し前から何やら様子を伺われているのは分かっていたが、返事をしておきたいメールが何件かあったのでスルーしていた。今すぐにしなくてはいけないメールでも無いけれど、まとめてやってしまった方がいいだろうと彼女は小さな板と向き合っていた。
「頭、出かけませんか?」
「んー」
「天気も良いですし」
「うん」
「……頭」
「もうちょっとだけ待ってて」
やはりそういう話だったかと、人差し指を画面に滑らせて誤字を直す。本当は朝から言いたかったんだと思う。それに気づいてはいたけれど、でもその誘いに乗ったら作業の予定が潰れる自信があったので見ないふりをし続けて、今である。一応、一番ヤバイ作業については待ってくれていたのだから誘いに乗ってもいいのだけれど、このメールだけはやり切ってしまいたいという気持ちが強い。やめてしまったら次このやる気がいつ出るか分かったものでは無い。
861「頭」
「んー」
少し前から何やら様子を伺われているのは分かっていたが、返事をしておきたいメールが何件かあったのでスルーしていた。今すぐにしなくてはいけないメールでも無いけれど、まとめてやってしまった方がいいだろうと彼女は小さな板と向き合っていた。
「頭、出かけませんか?」
「んー」
「天気も良いですし」
「うん」
「……頭」
「もうちょっとだけ待ってて」
やはりそういう話だったかと、人差し指を画面に滑らせて誤字を直す。本当は朝から言いたかったんだと思う。それに気づいてはいたけれど、でもその誘いに乗ったら作業の予定が潰れる自信があったので見ないふりをし続けて、今である。一応、一番ヤバイ作業については待ってくれていたのだから誘いに乗ってもいいのだけれど、このメールだけはやり切ってしまいたいという気持ちが強い。やめてしまったら次このやる気がいつ出るか分かったものでは無い。
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DOODLEさみさに♀/雨さに♀サンドイッチ作る話時計の針がもう間もなくぴったりと重なろうとしていた。いい感じにお腹も空いてきたしお昼は何にしようかなとペンを走らせることを疎かにしながら窓の外に目をやれば、何に遮られることの無い陽射しが庭に降り注いでいるのが見えた。そうだ、と彼女は小さく呟いて目の前で作業をしていた五月雨に声をかけた。
「何入れる?」
「なにを選んでもよろしいのですか?」
先程とは変わって二人は台所で向き合う。色違いのエプロンは普段は厨当番が使う物だから彼女には少々大きめで、親から借りたようになってしまったがご愛嬌。
五月雨の質問返しに彼女は少し警戒する。
「挟めるものなら……カレーとかはちょっと困るけど」
「それは挟みませんけど」と真顔で訂正した五月雨はちらりとメモの貼り付けられている業者仕様の大きな冷蔵庫を振り返った。
977「何入れる?」
「なにを選んでもよろしいのですか?」
先程とは変わって二人は台所で向き合う。色違いのエプロンは普段は厨当番が使う物だから彼女には少々大きめで、親から借りたようになってしまったがご愛嬌。
五月雨の質問返しに彼女は少し警戒する。
「挟めるものなら……カレーとかはちょっと困るけど」
「それは挟みませんけど」と真顔で訂正した五月雨はちらりとメモの貼り付けられている業者仕様の大きな冷蔵庫を振り返った。
hidaruun
DOODLEさみさに♀/雨さに♀ホラー映画を見る二人耳に飛び込んでくる衝撃音や悲鳴に彼女は反射的に腕に力を入れた。ぎゅうっと強く目を瞑る。テレビの向こうで起こっていることはフィクションであり、別に彼女に害をなしはしないのにどうしても驚いたり怖くなったりしてしまう。「見なければいいだろう」と呆れ顔で国広に何度か言われたけれどそれはそれ、これはこれ。ストーリーは気になってしまうから彼女は今日もまたホラー映画を見ようと試みていた。
「……怖いとこ終わった?」
「まだです」
ここ最近、彼女のホラー映画鑑賞会に付き合ってくれているのは五月雨だ。普段から表情筋は固い方だしわりと淡々しているから一緒に見たら怖くなくなるかもしれない、なんて誘ってみたけれどそんなことは全くなかった。ただ五月雨は彼女が騒いでも特に何を言うこともなく大袈裟に反応することもなくただ隣で見続けてくれているから安定感がある。勢いよく抱きついても微動だにしないところも良い。
631「……怖いとこ終わった?」
「まだです」
ここ最近、彼女のホラー映画鑑賞会に付き合ってくれているのは五月雨だ。普段から表情筋は固い方だしわりと淡々しているから一緒に見たら怖くなくなるかもしれない、なんて誘ってみたけれどそんなことは全くなかった。ただ五月雨は彼女が騒いでも特に何を言うこともなく大袈裟に反応することもなくただ隣で見続けてくれているから安定感がある。勢いよく抱きついても微動だにしないところも良い。
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DOODLEさみさに♀/雨さに♀バレンタインネタ
おやつを届けに来た五月雨ぼわりとした空気が執務室を満たしている。窓は結露ですっかり濡れそぼっていて、窓枠に水が溜まっていた。そろそろ換気をした方が良いのだろうと思いながらも、彼女はパソコンから目を離さないでいた。手はカタカタとキーボードの上を忙しなく動き、時々電卓を叩いたり資料を捲ったりとしていた。そういえば、担当に言われていた書類の判子って打ったっけ。目の前の文字列とはまた別件のことが思い浮かんでしまい、換気の文字はするりと頭から抜けていく。そしてまた部屋はぬくぬくと暖められてゆく。
適度に休憩を取るように、と歌仙を始め刀達には口を酸っぱくして言われるけれどついつい作業にのめり込んでしまう。仕事の気分なうちに片付けようと思うと丸一日部屋に篭り切りになることもざらだった。今日のお昼の記憶も曖昧だ。この資料が一区切りついたらメールを片付けようと考えていると首筋を隙間風のような冷気が撫でた。扉が開いたのだろうか。そう思いつつも、作業を続けていた彼女の視界の端に何かが動いた。
3247適度に休憩を取るように、と歌仙を始め刀達には口を酸っぱくして言われるけれどついつい作業にのめり込んでしまう。仕事の気分なうちに片付けようと思うと丸一日部屋に篭り切りになることもざらだった。今日のお昼の記憶も曖昧だ。この資料が一区切りついたらメールを片付けようと考えていると首筋を隙間風のような冷気が撫でた。扉が開いたのだろうか。そう思いつつも、作業を続けていた彼女の視界の端に何かが動いた。
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DOODLEさみさに♀/雨さに♀疲れて五月雨に甘える審神者からりと戸を開けると本を読んでいたらしい五月雨がそれを素早く閉じるのが見えた。気候の何か小難しそうな研究職の人が読みそうな本だと彼女はあまり働かない頭で思った。五月雨は立ち上がろうともしたので「そのままでいいの」と座らせる。
「何かありましたか?」
「何もない」
首を振りながら彼女は五月雨のすぐそばに座ると肩のあたりに頭を預けるようにしてぎゅっと抱きついた。
「え」
びくりと僅かに震えた体と降ってきた珍しい声に口元が緩むのを感じた。
彼女はここ数日徹夜続きだった。まあ仕事をだらだらと溜め込んでいたのが悪いわけだけれども、おかげでなかなかの疲労困憊っぷり。ひと段落したからお日様が天高く登っている時間帯だけど布団でも敷いて寝ようかと思ったのにどうにもこうにも眠りにつけなかった。
1523「何かありましたか?」
「何もない」
首を振りながら彼女は五月雨のすぐそばに座ると肩のあたりに頭を預けるようにしてぎゅっと抱きついた。
「え」
びくりと僅かに震えた体と降ってきた珍しい声に口元が緩むのを感じた。
彼女はここ数日徹夜続きだった。まあ仕事をだらだらと溜め込んでいたのが悪いわけだけれども、おかげでなかなかの疲労困憊っぷり。ひと段落したからお日様が天高く登っている時間帯だけど布団でも敷いて寝ようかと思ったのにどうにもこうにも眠りにつけなかった。
hidaruun
DOODLEさみさに♀/雨さに♀イベントで無配としておいてたものになります
呼び方の話「雨さん」
そう呼びかけた声にいつもより半テンポ遅く振り返って五月雨はどこか不思議そうな顔をしていた。
「雨さん」と、彼女は五月雨のことをそう呼ばなかった。何か特別な理由があったわけではなく特に誰かを愛称で呼ぶタイプではなかったのでそのまま呼んでいた。篭手切や豊前達を呼ぶのと同じように、人で言う名字を呼ぶように。だから気にしたことは無かったのだけれど、彼女と仲の良い同期審神者の何人かは彼のことを「雨さん」と呼んでいた。頻繁に聞いていると「なるほど可愛い呼び方だなぁ」と思えてきてなんとなく彼女は五月雨のことをそう呼んでみた。すると思いの外に可愛らしい反応をするものだから彼女はついつい思いつくとそう呼ぶことを繰り返してしまっていた。
1504そう呼びかけた声にいつもより半テンポ遅く振り返って五月雨はどこか不思議そうな顔をしていた。
「雨さん」と、彼女は五月雨のことをそう呼ばなかった。何か特別な理由があったわけではなく特に誰かを愛称で呼ぶタイプではなかったのでそのまま呼んでいた。篭手切や豊前達を呼ぶのと同じように、人で言う名字を呼ぶように。だから気にしたことは無かったのだけれど、彼女と仲の良い同期審神者の何人かは彼のことを「雨さん」と呼んでいた。頻繁に聞いていると「なるほど可愛い呼び方だなぁ」と思えてきてなんとなく彼女は五月雨のことをそう呼んでみた。すると思いの外に可愛らしい反応をするものだから彼女はついつい思いつくとそう呼ぶことを繰り返してしまっていた。
hidaruun
DOODLEさみさに♀/雨さに♀伝書犬五月雨に封筒を差し出された。白く、簡素ではあるが上品さも窺えるようなものだった。受け取りながら顔を見れば五月雨は、なんというかめちゃくちゃ機嫌が悪そうである。
「なにこれ」
「本当は破ろうかと思いました」
突然物騒なことを言うでは無いか。彼女が眉を寄せてなお五月雨の顔を見つめてもぷいっとそっぽを向いて襟巻きを引き上げられる。
「しかし……大切に綴られた文字であることには違いないので、大変不服ですが伝書犬をすることにしました」
伝書犬という聞きなれない単語はおそらく伝書鳩を文字っているのであろうが、また不思議なことを言うと思いながら封筒を裏返せばどこかの審神者の名前が記されていた。これは確か備前国の同期の男審神者だ。随分と綺麗な字を書くらしい。
724「なにこれ」
「本当は破ろうかと思いました」
突然物騒なことを言うでは無いか。彼女が眉を寄せてなお五月雨の顔を見つめてもぷいっとそっぽを向いて襟巻きを引き上げられる。
「しかし……大切に綴られた文字であることには違いないので、大変不服ですが伝書犬をすることにしました」
伝書犬という聞きなれない単語はおそらく伝書鳩を文字っているのであろうが、また不思議なことを言うと思いながら封筒を裏返せばどこかの審神者の名前が記されていた。これは確か備前国の同期の男審神者だ。随分と綺麗な字を書くらしい。
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DOODLEさみさに♀/雨さに♀告白される話手からペンをぽろりと落としてしまった。
それくらい彼女はとても驚いていた。何故なら目の前の涼しげな顔をした男にたった今、愛の告白をされたからだ。戦績の報告をするかのようにやってきては近侍の最中に歌を詠みあげるのと変わらぬ声色で彼、五月雨は彼女に好意を告げた。「ひとりの女性として」なんて枕詞をつけられて「好きです」と、聞き間違いも勘違いもできないくらいはっきりと伝えられてしまった。
「あ、の……」
ペンを落とした彼女もまた、五月雨に恋心を抱いていた。でもそれは隠し通すつもりだった。こんなものあったってしょうがない。きっといつか困らせる。初期刀にだって言ってないし、気づかれてもいない。誰にも伝えることなくいつか消えていくはずのもの。だから、この告白に対しても刀と審神者の間柄であるべきだとペンを拾いながら主らしく諭すべきだったのに声が震えてしまったことに彼女はしくじったと思った。穏やかな海のように凪いでいた五月雨の瞳に波が起こる。
927それくらい彼女はとても驚いていた。何故なら目の前の涼しげな顔をした男にたった今、愛の告白をされたからだ。戦績の報告をするかのようにやってきては近侍の最中に歌を詠みあげるのと変わらぬ声色で彼、五月雨は彼女に好意を告げた。「ひとりの女性として」なんて枕詞をつけられて「好きです」と、聞き間違いも勘違いもできないくらいはっきりと伝えられてしまった。
「あ、の……」
ペンを落とした彼女もまた、五月雨に恋心を抱いていた。でもそれは隠し通すつもりだった。こんなものあったってしょうがない。きっといつか困らせる。初期刀にだって言ってないし、気づかれてもいない。誰にも伝えることなくいつか消えていくはずのもの。だから、この告白に対しても刀と審神者の間柄であるべきだとペンを拾いながら主らしく諭すべきだったのに声が震えてしまったことに彼女はしくじったと思った。穏やかな海のように凪いでいた五月雨の瞳に波が起こる。
hidaruun
DOODLEさみさに♀/雨さに♀食事を持ってきてくれる五月雨「やっと解放された……」
深くため息をつき、彼女は壁に背中を預けてもたれ掛かる。豪華なシャンデリアのぶら下がる華やかなホテルの宴会場の端で、周りの楽しげな様子を彼女はぼんやりと眺めていた。
審神者五年目研修会、という政府の大きな研修会に参加した。強制参加と言われてげんなりしていたけれど同期との交流は新鮮で楽しかったし、一週間みっちりと座学やら実技やらいろんな研修を行ったのは疲れもしたが大変為になったと思う。その打ち上げだと言われて連れてこられたのがこの宴会場だ。まさかこんな豪華なところでやるとは思ってもみなかった。立食パーティーのような形ではあったけれど、座学のレポート発表会でうっかり良い成績を残してしまった彼女は政府のお偉いさんやら先輩審神者はもちろん、同期からもたくさん声をかけられてしまい食事どころではなくなってしまった。近侍は研修の間、毎日交代するように言われていたのだが今日は五月雨だった。レポートの中身もよく知らない五月雨を巻き込むのも申し訳なく、他の刀剣男士も自由にしていたので五月雨にも「好きにご飯食べてきていいよ」と伝えた後はひたすらお喋りに巻き込まれて、それがようやく終わったのがつい先ほど。
1123深くため息をつき、彼女は壁に背中を預けてもたれ掛かる。豪華なシャンデリアのぶら下がる華やかなホテルの宴会場の端で、周りの楽しげな様子を彼女はぼんやりと眺めていた。
審神者五年目研修会、という政府の大きな研修会に参加した。強制参加と言われてげんなりしていたけれど同期との交流は新鮮で楽しかったし、一週間みっちりと座学やら実技やらいろんな研修を行ったのは疲れもしたが大変為になったと思う。その打ち上げだと言われて連れてこられたのがこの宴会場だ。まさかこんな豪華なところでやるとは思ってもみなかった。立食パーティーのような形ではあったけれど、座学のレポート発表会でうっかり良い成績を残してしまった彼女は政府のお偉いさんやら先輩審神者はもちろん、同期からもたくさん声をかけられてしまい食事どころではなくなってしまった。近侍は研修の間、毎日交代するように言われていたのだが今日は五月雨だった。レポートの中身もよく知らない五月雨を巻き込むのも申し訳なく、他の刀剣男士も自由にしていたので五月雨にも「好きにご飯食べてきていいよ」と伝えた後はひたすらお喋りに巻き込まれて、それがようやく終わったのがつい先ほど。
hidaruun
DONEさみさに♀/雨さに♀ダウンコートを買った審神者寒くて寒くて、今年はついにダウンコートを買った。それもかなりもこもこのやつ。
着た姿を鏡で見た時は我ながら声を出して笑ってしまった。健康を守ってくれる某白いキャラクターみたいだ。そうは言ってもとにかく暖かい。雪が降ってから冷蔵庫みたいな寒さから一向に気温が上向かない。だから彼女はここしばらくは外に出かける時には毎回それを着ていた。
「……五月雨、なんかご不満?」
さて、出かけようかと今日ももこもこダウンコートを着て玄関から出れば一緒に出かける五月雨が彼女の手を取りながらちらりとこちらを見た。というかダウンコートを見た。
指摘された五月雨はうろうろと前に向けた目をまたうろうろとこちらに戻してきて口を開く。
1321着た姿を鏡で見た時は我ながら声を出して笑ってしまった。健康を守ってくれる某白いキャラクターみたいだ。そうは言ってもとにかく暖かい。雪が降ってから冷蔵庫みたいな寒さから一向に気温が上向かない。だから彼女はここしばらくは外に出かける時には毎回それを着ていた。
「……五月雨、なんかご不満?」
さて、出かけようかと今日ももこもこダウンコートを着て玄関から出れば一緒に出かける五月雨が彼女の手を取りながらちらりとこちらを見た。というかダウンコートを見た。
指摘された五月雨はうろうろと前に向けた目をまたうろうろとこちらに戻してきて口を開く。
hidaruun
DONEさみさに♀/雨さに♀雪とマフラーと五月雨廊下を横切っていくジャージ姿に彼女は思わず待ったをかける。
「五月雨!もしかして外行くの?」
「はい」
当たり前のようにそう返事をした男に彼女は頭を抱えた。昨夜から降り始めた雪はしっかりばっちり積もりに積もり、本丸の庭を美しく白に染め上げた。五月雨以外にも外に行くものはいたし、雪が好きなら楽しんだらいいと思う。防寒をきちんとするならば。
「……その格好で行くの?」
「はい」
「……」
五月雨は江揃いのジャージを着ている。流石に半袖では無いものの、上下ジャージだけ。他に防寒具は身につけていない。五月雨はかなりぎりぎりの時期まで半袖だったし寒さには強い方なのだろう。とはいえ絶対風邪を引かないわけではない。刀剣男士も風邪を引くことは今までの冬を経てきた彼女はよく分かっている。冷たさを感じないわけではないはずだし、何より見ているこちらが寒さを感じてしまう。
938「五月雨!もしかして外行くの?」
「はい」
当たり前のようにそう返事をした男に彼女は頭を抱えた。昨夜から降り始めた雪はしっかりばっちり積もりに積もり、本丸の庭を美しく白に染め上げた。五月雨以外にも外に行くものはいたし、雪が好きなら楽しんだらいいと思う。防寒をきちんとするならば。
「……その格好で行くの?」
「はい」
「……」
五月雨は江揃いのジャージを着ている。流石に半袖では無いものの、上下ジャージだけ。他に防寒具は身につけていない。五月雨はかなりぎりぎりの時期まで半袖だったし寒さには強い方なのだろう。とはいえ絶対風邪を引かないわけではない。刀剣男士も風邪を引くことは今までの冬を経てきた彼女はよく分かっている。冷たさを感じないわけではないはずだし、何より見ているこちらが寒さを感じてしまう。
hidaruun
DOODLEさみさに♀(雨さに♀)腰を抱いてくる五月雨万屋街の道の端。次は何を買うのだったかとメモに目を落としていると「頭」と短く呼ばれて腰を抱き寄せられた。非常に自然な動きだったと思う。自然すぎて不意をつかれて「ぬぁっ!」と謎の声を発してしまったのも仕方ないこと。そんなことは気にも留めずに「人が増えてきましたね」と五月雨はこちらをチラチラ振り返る道ゆく人々を見送った。シンプルに恥ずかしい。
昼餉の時間を過ぎた頃。何かを求めて店から店へと歩き渡る人が増えていた。どうやら誰かとぶつかりそうで危なかったから腰を引き寄せられたらしい。なるほどありがたい。でも何故、腰を抱くのか。擽ったさから逃れたくて彼女はもぞもぞと体を捩る。
「豊前みたいなことするね……」
その呟きに対して五月雨は不思議そうにきょとんとした顔をしていたが、腰の手を退かそうと触れた時に合点が行ったのか綺麗な眉をグッと寄せた。
1288昼餉の時間を過ぎた頃。何かを求めて店から店へと歩き渡る人が増えていた。どうやら誰かとぶつかりそうで危なかったから腰を引き寄せられたらしい。なるほどありがたい。でも何故、腰を抱くのか。擽ったさから逃れたくて彼女はもぞもぞと体を捩る。
「豊前みたいなことするね……」
その呟きに対して五月雨は不思議そうにきょとんとした顔をしていたが、腰の手を退かそうと触れた時に合点が行ったのか綺麗な眉をグッと寄せた。
hidaruun
DONEさみさに♀(雨さに♀)概念を買ってしまった審神者小間物屋で硝子細工を見ていた。窓から降りそそぐ陽が硝子に反射して眩くきらきらと光を散らばらせている。
同じ商品棚の周りをぐるぐると虎のように何度か回って、彼女はひとつの硝子の小皿を手に取った。指先で紫色の縁取りを少しだけなぞってみる。全体は透明で、桔梗の花が皿底に描かれており支えている手のひらを透かしていた。
「それ買うの?」
「うん……なんか五月雨っぽいかなって……えっ」
「ん?」
さっきまでは影も形もなかったのに、お皿を落とさないようにしながら彼女が勢いよく振り返ると、そこには桑名がいた。
たしかに一緒に買い出しに来てはいたのだが彼女が小間物屋に足止めされたので「本屋に行ってくるね」と言って別行動をしていたのに。いつの間に戻ってきていたのだろう。
1836同じ商品棚の周りをぐるぐると虎のように何度か回って、彼女はひとつの硝子の小皿を手に取った。指先で紫色の縁取りを少しだけなぞってみる。全体は透明で、桔梗の花が皿底に描かれており支えている手のひらを透かしていた。
「それ買うの?」
「うん……なんか五月雨っぽいかなって……えっ」
「ん?」
さっきまでは影も形もなかったのに、お皿を落とさないようにしながら彼女が勢いよく振り返ると、そこには桑名がいた。
たしかに一緒に買い出しに来てはいたのだが彼女が小間物屋に足止めされたので「本屋に行ってくるね」と言って別行動をしていたのに。いつの間に戻ってきていたのだろう。
micm1ckey
MOURNING恋がわからなかったのでとりあえず付き合ってみた五月雨江と審神者の話。pixivに掲載していた雨さにです。
はつこい 本当に予想外の出来事だったので、少々どころかかなり動揺した。
「……本当に?」
「はい、本当です」
どうしよう。サッと顔から血の気が引いたのがわかる。思わず持っていた薄い紫色をした紙を握りつぶしそうになってしまったが、それは何とか踏みとどまった。美しいそれは、一度くしゃりとしてしまったら、二度と元に戻すことは叶わなさそうだったからだ。
私の正面に立っている五月雨江は、普段通りの涼やかな目でこちらを見つめている。特に緊張をしている風でも、それ以外の感情も読み取れない。五月雨は基本的に、無表情であることが多いのだ。
「あの、返事待ってもらってもいいかな」
苦し紛れにそう言えば、五月雨はこくりと一度頷く。
28167「……本当に?」
「はい、本当です」
どうしよう。サッと顔から血の気が引いたのがわかる。思わず持っていた薄い紫色をした紙を握りつぶしそうになってしまったが、それは何とか踏みとどまった。美しいそれは、一度くしゃりとしてしまったら、二度と元に戻すことは叶わなさそうだったからだ。
私の正面に立っている五月雨江は、普段通りの涼やかな目でこちらを見つめている。特に緊張をしている風でも、それ以外の感情も読み取れない。五月雨は基本的に、無表情であることが多いのだ。
「あの、返事待ってもらってもいいかな」
苦し紛れにそう言えば、五月雨はこくりと一度頷く。