圭藤あついあつい、あっついよ葵っちー、なんて散々っぱら文句を垂れていたくせに、コイツは片時も離れる気はないらしい。
「むが、」
夜、目をつむる前に見た光景。
でへへーと顔面を溶かして、おやすみぃと七割くらいもう寝てるような挨拶を投げて、すやあーっと眠りに落ちていくその姿。
数時間前とほぼ変わらない己の状況に、あれ、俺ほんとに寝たんかな、ちょっと目ぇつぶってただけじゃね、と混乱させられる。わずかな体のかたさが、そんなことはないよと教えてくれるのだけれど。
要圭は、藤堂葵の脇の下へすっぽり収まっている。「葵っちぃ〜」とぬとぬとひっついてきて、「おっ、コレいいじゃーん」とこちらの肩口を枕にして、いそいそとふたりの隙間を埋めてくる。
ずっと、ずうーーーっとだ。まだチームメイトが長袖を着ているような時期から、陽が落ちてもどこかでセミが鳴いているようなこんな時期まで、彼は飽きもせずにくっついている。飼い主に飛びつくワンコのように、まるでそれが当然であるように。
『はあ、あおい、ちゃん、っ』
ふと、眠る前の出来事を思い出す。
この口を半開きにして今にもよだれをたらしそうなこの顔が、こちらの頭上で熱っぽい視線を送っていたこと。ぐう、と何度も背中を丸めて耐えて、『葵ちゃんは、?きもちいい?』、懸命に俺を気遣ってくれたこと。
「んぐ、」
別人かよ、と目の前の唇をつまむ。むりやり口を閉じられているのに、なぜかどこか笑ってみえる要の顔に、つられてふふ、と声が漏れる。
「あっちーなあ」
汗で額にはりついた、明るい色の前髪をはらってやる。起こさない程度に体勢を変えると、むにゃむにゃと夢をみる愛しいアホ面がよく見えた。
あついあつい、あっついよ葵っちー、なんて、散々っぱら文句を聞かされていたくせに、コイツから片時も離れる気が起こらない。