シキザキたとえば、飼い主にかまってもらいたいペットのように。
生者を招き入れたい、亡者のように。
春夏秋冬は布団の中から、明ける空を見つめている。君がもうそろそろやってくる頃合いだと、わかっていながら。
「お館様起きてくださいいつまでひっくり返ってるんですか朝飯食いっぱぐれますよ」
「容赦がないのう」
入室と同時に舞うように言葉をぶつけてくるその様子に、春夏秋冬は毛布で己の口もとを隠した。にやにやうかがっているのがバレでもしたら、さすがに口をきいてくれなくなるかもしれない。
言葉遣いは荒いものの、手付きは丁寧で礼を欠かないのが彼だ。伸びをしながら体を起こすと、Garden内で着用している長羽織をぐるりと被せてくれる。
もう思い出せないくらいずっと昔からのルーティン、ふと、頬を寄せたくなるようなやわらかな匂いを感じてその手を握った。
「どうかしましたか?」、君は不思議そうに眉をひそめるけど、特に振り払ったりはしない。
「いや、良い香りがする──と思ってな。お前からのようだ」
朝、起こしに来てくれた君の顔を見る。味噌と出汁のいつものにおいを吸い込みながら、君の小言を受け止める。
こんな朝は当たり前だけれど、こんな毎日は永遠じゃない。
そう思ったらいてもたってもいられず、君を抱き寄せてしまいそうになる。
しかしああ、お館様の心、斬知らず。
はいはい、と崩した君の表情には、あからさまに呆れの色が浮かんでいる。
「さすが食いしん坊、目ざといっすね……。たぶんレアリザスさんですよ、朝飯作るとき一緒になったんで」
目ざとい、いや、鼻ざとい?ひとりでぶつぶつ唱える彼に、フッと笑って立ち上がった。
「そうか、斬のレパートリーがひとつ増えたということだな。明日を楽しみにしていよう」
「はあ、明日…………えっ、明日!?や、まあ、うん、わかりましたよ、やってみます」
あはは、と上がる声は軽やかに。
春夏秋冬は変わらない空を後にして、来る明日を見つめている。