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    あまみ

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    あまみ

    ☆こそフォロ

    春夏秋冬とレアリザス
    何も起きないけどしきざきとヴェクレア思考の人が書いてる

    #シキザキ

    春夏秋冬とレアリザス兄さん、夜食になにか食べたいかも。
    と、鼻でもクンクン鳴らしそうに甘ーくリクエストされたのは、尻尾の手入れもハルの寝かしつけもすませて、そろそろ自分の寝床へ向かおうかという頃だった。
    いつもは冷静端的に己の意見を伝えてくるヴェクサスが、こんなふうにこちらに選択肢を委ねてくるのはめずらしい。
    今何時だと思ってるんだ?、こんな時間に食べたら太るぞ、良い子のヴェクサスはねんねねんね。
    あらゆる“兄ちゃんっぽい返し“がパッと脳内に浮かぶけど、「おう、待ってろ。すぐ持ってきてやるからな」、選んだのはそのどれでもない。
    甘いやつか、しょっぱいやつか、なんだかひどく疲れた顔をしていたから、その両方でもいいかもしれない。考えなんてまったくまとまらないまま、通路を進むスピードだけが上がっている。楽しみにしすぎだろう、俺。


    夜空のお月さまですらあくびしていそうなこの時間の空気が、レアリザスは結構気に入っていた。
    世界でたったひとり、ぽつんと取り残されてしまったような感覚で廊下を進む。自室にもキッチンはついているけれど、すやすや眠る家族を起こさないためには共用の調理場を利用したほうがいい。

    「……あれ、」

    扉を開ける前に、よく効く鼻が気がついた。あたたかな出汁のにおいと、煮込まれたごはんのほくほくとしたにおい。
    先客がいる、この向こうに。俺に負けないくらいおいしくて、俺に負けないくらいお腹の減るお夜食を作っている人が。

    「こんばんは、春夏秋冬さん。珍しいですね、こんな夜更けにキッチンに立つなんて」

    半信半疑のベットは、やはり当たっている。
    もわりと漂う湯気の向こうで、白髪の青年が顔を上げた。

    「アクシオンゲートのクイーンか。久しぶりだな、元気にしていたか」
    「はい、まあ、今からメシ作ろうとしてるくらいには」

    田舎のおじいちゃんみたいな笑みを浮かべながら、それでも調理の手は止めないようだ。トントンと包丁が軽快なリズムを奏でて、薬味の香りがあたりにただよう。

    「私も今から夕食なんだ。ひとりだけ休暇を与えられてしまってね、気がつくとこんな時間になってしまう」
    「ああ、斬さんたち外に出てますもんね、たしか」

    風の噂によれば、千紫のキングは単独行動が許されていないらしい。チームメイトたちが別々の任務に駆り出されれば、彼だけ事実上の軟禁状態になるのだろう。細く整えた小ネギを鍋にふりかけながら、その顔はどこか憂いを帯びている。

    「うちは、夕飯も済ませたのに腹減ったーって夜食の催促されちゃって……あ、そういえばこのメニュー、斬さんに教えてもらったレシピですよ」
    「おお、親子丼か」
    「そうです!前に味見させてもらって、速攻で作り方訊いたんすよねー」

    たまご、鶏肉、玉ねぎに冷凍の白ごはん。コトコトと材料を並べるだけで、ここにいない男の顔が目に浮かぶ。
    ヴェクサス、ちょっぴり神経質なきらいのある彼が、訝しげに溶き卵をひとかじりして、ひとくちじゃ疑わしいからもうひとくち食べ進めて、なかなか美味いぞってみるみる両目を丸くする様子を、俺はありあり思い描くことができる。
    「斬のレシピは、誰かと食べるためのレシピだからな」、ふふ、と向かいの男がまぶしそうに目を細める。

    「私も、皆が戻ったら斬におねだりするとしよう」

    あら、大変。兄ちゃんったら余計なこと言っちゃったかしら。
    仕上げとばかりにごま油をたらりと落として、コンロの火を止める春夏秋冬さんに、しかし俺はじわじわ口角が上がってゆく。
    常にのらりくらりとしていて、千紫の盾に囲まれている謎めいた青年も、こんなに人間らしい表情をすることがあるなんて。

    「逆に斬さんに振る舞ってあげたらいいんじゃないですか?春夏秋冬さんの手料理」

    やっぱり、“いただきます“は気心の知れた誰かとがいいよな。
    軽い気持ちで放った提案は、しかしきょとんと不思議そうな眼差しに受け止められてしまう。
    うむ、ああ、うん……なんて煮え切らない様子で言葉を選んでいた春夏秋冬は、面倒になったのだろう、全てを隠し通すような、含みのある笑みを浮かべてみせる。

    「けど、それだと私が斬の作った料理を食べられないだろう?」

    やわらかな口調とは裏腹に、真っ暗な廊下の奥の奥まで目を凝らしてしまった時みたいな、底の知れない視線を投げかけられて、「ああ、まあ、そうですね」こちらの相槌も曖昧になる。
    まるで、それ以外の選択肢が用意されていないかのように。
    まるで、それ以外の日常など存在しないかのように。
    この人は、ただ一人の作ったご飯を待ち望んでいるんだ。

    「では、おやすみ、レアリザス」

    完成したらしい土鍋とともに闇へ消えてゆくその後ろ姿を、俺はなんとなく目で追ってしまっていた。
    おかゆだろうか、あんなにもあたたかな湯気と香りをまとわせて、彼の白い背中はどこまでも冷たい。


        
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