しきざきまぶしいとねむたいは似ている。
と、この世で自分だけが思っている。
軌道エレベーターに初めて乗ったときのことは、実はそんなに覚えていない。
透明なエレベーターの先に広がる景色は、見渡す限りの空の青というより逆光で目が焼かれそうなほど白かったし、爆速で過ぎ去っていく縦長の世界は、物珍しさもあったけれど単純に長かった。
叢裂さんなんかは見えない壁に貼りついていまだに楽しそうにしているけれど、そんな純粋無垢な気持ちはもはや俺には残っていない。
まぶしい、そして長い。
任務後の重い体を引きずって、今日もあの日と同じ感想を抱く。
たいした作戦ではなかった。お館様ならあくびしながらでも滅せるような雑魚どもに、術式の時間稼ぎの俺がひとり帯同すればすむような、ごくごく普通の。
たいしたものだったのは敵の数とお館様で、「一発でかいのを見せてやろうか、斬」「そんじゃあ、一撃で終わるくらいのやつを頼みます。景気がいい方が好きなんで」、なんて戯れに乗ったら、えらい時間を食わされた。俺を走り回らせ続けたお館様の大技はまるで夜空を彩る花火のような煌めきで、リクエスト通りそれはそれは景気の良いものだったけれど。
「……あー、つかれた……」
エレベーターの無機質な座席に座ると、体はより一層疲労を思い出す。体重を預けられるからか、はたまた『ここまで来れば大丈夫』というパブロフの犬化か、ここに来ると半分くらいのひとり言はこれだ。
隠す気もなかったけれど、隣に腰かける人物にばっちり聞かれていたらしい。
「私よりおじいちゃんみたいだなあ、斬」
ふふん、とガラス越しに映るドヤ顔は、どうやら肩を貸そうとしてくれているようだ。
いや、だいじょうぶです。唱える遠慮が口の中から抜けてゆかない。つま先からじわじわあたたかくなって、まぶたがぐわんと存在感を増した。
まぶしくて、目を開けていられない。
「眠っていていいぞ」
「……いや、ねてないです……」
「ほとんど落ちかけているではないか、嘘つきめ。キスでもしたら、目を覚ますかな」
「……ああ、いいですね、それ…………、」
差し込む日差しのようにやわらかく輝くお館様へ、ちゅう、と唇を寄せてみる。
ぶに、と肌に触れる感覚より、ああ、この人の体って結構でっかいな、なんて心地よさにすっぽり包まれた。
まぶしいとねむたいは似ている。
さすがおやかたさま、まぶしくて目を開けていられないや。
「結局、やり逃げで落ちているではないか」
こちらを抱き止める男の愚痴は、夢の中までは届かない。