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    あまみ

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    あまみ

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    しきざき

    大学生の斬くんの家に勝手に住んでる神様のお館さまパロです。
    神様ってなんだろ

    #シキザキ

    しきざき空に落ちている!と、思わず両手で目を覆いそうになった。
    視界いっぱいに広がっている青空は果てなくどんどん膨張しているようだし、ぐんぐん近づいてくる薄雲はあっという間に突き抜けて遥か彼方へ流れてしまう。つま先にギュッと力を入れる。無意味だ。青はちっぽけな自分を覆いつくす。
    そのうち、空に向かってこちらが昇っているのだと気がついた。翼が生えたわけでも、体が超巨大化しているわけでもない。何か乗り物のようなものに乗って、猛スピードで上昇している。

    あ、エレベーターだ。

    急に失った記憶を取り戻したようにすんなり状況を理解して、そうか、これは夢の中か、オレははたと気がついた。
    こんな天を貫くような長大なエレベーターは現実世界には存在しないし、けれどまるで毎日利用しているかのような腑に落ちた感覚に見舞われている。そんなの、夢の中以外ありえない。
    最上階まで上がったら一体何があるんだろう、とガラス張りの壁の外へ思いを馳せた。
    よく目を凝らせば、空と雲以外にも人の住んでいそうな街のようなものが栄えているようだ。漫画やゲームのSFの雰囲気そのままに、ランドマークのようなタワー、大型の液晶看板、規則正しすぎるほど丁寧に整えられた街路樹と、宙に都市が浮かんでいる。

    ちょっと、エレベーターを停めて降りてみようか、なんて。

    普段なら警戒するシーンでも、軽率に試してみたくなるところも夢の世界だ。
    階数ボタンへ目をやって、次に到達する階層に人差し指を近づける。
    その手首を、ぱしりと掴まれた。
    やたらと白い手に、合わせたように纏う白い布の小手。骨や手のひらのたくましさから、男性であることがうかがえる。

    「今のお前はそんなところに行かなくていいんだぞ、斬」

    裏付けるようにささやく男の声に、しかしオレは恐怖を覚えない。
    何か、どこかで聞いたことのあるような。
    何故か、優しさを含んでいるような。
    どこか、安心感すら漂うその忠告に甘えて、上げた右手をそっと握った。

    そうだ、オレはもうあんなところに行かなくていいんだ。
    平日は大学もバイトもあるし、こないだまでテスト期間で、レポートだってじゃんじゃか出されて──。



    湿度に目を開けると、太陽はもう見える位置に登っていた。
    やたらまぶしいのは、寝る前にはきっちり閉めたカーテンが開け放たれているから。
    やたら汗だくなのは、寝る前にはしっかりこちらに向けていた扇風機が裏切りをかましているからだ。
    うう、とかすれた声でうめく。海の中で目覚めたようなじっとり感なのに、喉はかわいてカサカサだ。
    何か急いで飲んだほうがいいかもしれない、と、だるい体を無理やり起こす。四月から住み始めたこの家は、風通しはいいのに建物に熱がこもりやすい。

    「〜〜〜」

    奇っ怪な叫び声に目をやれば、この状況の元凶が呑気に大口を開けている。大きなマイクだと勘違いでもしているのか、古びた扇風機の目の前に陣取って気持ちよさそうに歌っている。
    「ゲリラライブはやめてもらっていいですかねえ、神様」、枕元に置いたペットボトルより先に、奇妙な同居人のもとへ向かう。
    大学からほど近くにある、長年空き家になっていた一軒家。格安の家賃のオマケでついてきたのは、やややかましい自称神様だった。

    「おお、おはよう斬。よく寝ていたな」
    「テスト明けだから起きるまで寝るって、夕べ言っといたじゃないですか」

    パッと顔を上げた青年はそれはそれはミステリアスだ。扇風機になびく長い白い髪も、この暑さで身にまとった白い和服も、どこか浮世離れしていて現実味をあまり覚えない。
    そのくせ気軽に笑いかけてくるところや、まるで小さな頃から知り合いかのようにオレを扱うその口ぶりは不思議とどこか心地いい。本当にずっと昔にどこかで出会っているみたいだ。いや、神様ってそういうものなのかな。

    「さ゛き゛〜、おやかたさまってよんでいいんだぞ〜、〜〜〜」

    いや、なんか違う気がしてきたな。
    オレにも風分けてくださいよっ、と独占されていた扇風機の首を振る。はあーと全身から力が抜けて、予想よりも気温にこたえていたことを自覚する。
    そもそもこの青年が“神様であるかどうか“だってよくわからない。
    そりゃあ、なんかオレにしか見えていないっぽいとことか、なんかふわふわ空を飛べるところとか、なんか税金払わなくていいっぽいとことか、この世ならざる者感はすさまじい。けれどこれが神様なのか、お化けなのかと問われたら、オレには全然判断がつかない。
    出かけるたびに事故るみたいな、ものすごく不幸になったわけでも、道端で偶然助けた相手が大企業の社長だったみたいな、めちゃくちゃなラッキーに襲われたわけでもないし。

    「そういえば、神様って夢の中とか出てこれるんですか?」

    ペットボトルの水を一気に空にしながら、オレはふと今朝の夢を思い出していた。
    あの、ながーいエレベーターで、ひらすら空に上がっていく意味不明な異世界っぽいやつ。
     
    『今のお前はそんなところに行かなくていいんだぞ、斬』
     
    夢の中では全然わかっていなかったが、あの時オレを止めたあの声は、この神様の声にそっくりだった。
    もしかして結構悪いタイプの夢を見ていたところを、この怪しい神様が助けてくれたんじゃないか、って。
    キョト、と、向けられたまんまるの眼差しに即座に期待を叩き落とす。

    「なんだなんだ、とうとう夢に見るほど私のことが好きになったか」

    ういやつめーと、震える声音でこちらへ迫る右腕を、サッとすんでのところでかわしてみせる。
    扇風機の首振り機能を止め、完全に自分の方へ向かせ直しながら、「嘘です。やっぱ違います。全然オレの勘違いでした」、〜っと張り合うように声を上げる。やっぱ、別にこの人に特別な力とかご利益とかない。

    「斬、暑いぞ。あと腹が減った」
    「いや、オレより早く起きてたんですよね?朝メシくらい作っといてくれてもいいんですけど!」
    「おお、声がブルブルだと迫力ないな」
    「ていうか神様がごはんたかるってどうなんですか?食費入れろ〜〜〜」
    「失礼な、近頃の若者はお供え物の概念もないのか。かき氷食べたい〜〜〜」
    「かき氷じゃお腹は膨れません!」

    まったく、近頃の神様は文句が多い。
    仕方がないのでとりあえず氷を作りつつトーストでもかじろう、と、斬はヨタヨタ立ち上がる。
    ご利益目当ての特別扱いなんかじゃない。テストも終わってレポートも提出して最高の気分なだけなんだからねっ!
    眉唾か本物かわからない神様は、「た゛〜〜〜」、夢の中と同じ声ではしゃいでる。

     
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