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    七井の倉庫

    七井が書いたやつとか、下書きを入れておくところ

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    七井の倉庫

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    ぶつかりおじさん🆚御一行の話が書きたかっただけなのにやたら長くなりました。先日ちょびっと書いた、犬たちの組み合わせの話とも関わっています。設定を小説風に書いた設定小説(?)です、よろしければどうぞ。

    不離一体の番犬たち 狂児と聡実の外出には、犬二匹が"表"、残り二匹が"裏"についている。"表"の二匹は近距離から、"裏"の二匹は遠距離から二人を護衛している。四匹のどの組み合わせでも機能するが、それぞれの得意分野を考慮した組み合わせになることが多い。
     例えば、富士野は元ボディーガードという経歴もあって、"表"に回る方が圧倒的に多い。とっさの判断と行動力は、四匹の中で群を抜いていた。狂児との年齢も近く、一緒に行動していて違和感がない。顔の傷と眼帯も、メイクで隠し医療用のものに変えるだけで、ほとんど目立たなくなる。それらがなければ、富士野は「ガタイのいい優しそうなオジサン」にしか見えなかった。聡実はこの"表"用の富士野の顔を穴が開くほど見つめ、メイクの凄さを思い知ったのだった。
     一方で、扇谷は"裏"に回る方が断然多い。巨体が目立つからではない。扇谷は単純に、暴力が得意なのである。併せて、自身の"肉体"と"気配"を巧みに操り、己の存在感を希薄にすることができた。この二つの特技をもって、外出を楽しむ二人に気づかれることなく、二人に近づこうとする不審者を"裏"で処理するのが非常に上手いのだった。なお、"表"のときはこの特技を存分に活かし、意味もなく聡実を驚かせて、聡実とその時の相方に怒られるのを楽しんだりした。
     あとは鷹島と那須原であるが、万能選手の鷹島はともかく、那須原には膂力がないのがネックだった。暴漢に襲われた時など精々二、三発耐えられるかどうかの体力しかなく、盾としても不安しかない。しかし那須原には、その弱点を補って余りある特技があった——クラッキングである。そのおかげで、那須原はどちらに回っても、優秀なサポーターだった。さらに"表"では聡実との相性も良く、良き話し相手・相談相手になり、"裏"では相方の"抜け"をカバーするのが抜群に上手かった。これにより那須原は全員から相当な信頼を勝ち得ていたが、悲しいかな、性格のせいで、当人だけがそのことに気づいていないのだった。
     鷹島はそれらを把握し、考慮した上で、毎回の組み合わせを決めている。二人の"お出かけ先"に合わせて、時には鷹島と那須原が"表"についたり、富士野と扇谷が"表"につくこともあった。とはいえどんな組み合わせであろうとも、犬たちの使命は変わらない。若頭補佐と、その伴侶に危険が及ばないよう、アタマとカラダを張る——シンプルだが簡単ではないこのオシゴトを、しかし犬たちは大いに楽しんでいるのだった。



    《あ、ぶつかりおじさんや》
     インカムから聞こえてきた奇妙な単語に、富士野は顔には出さずに苦笑した。どうやら"裏"でこの付近の監視カメラを覗き見ている那須原が、不審な動きの男性を発見したものらしかった。
    《マジで!? どれ!? モノホン!? うわーヤりてぇー!》
     この場合の扇谷の「ヤる」はもちろん「殺る」であるが、今回"裏"にいる扇谷にその機会はないだろう、と富士野は思う。
     鷹島は素知らぬ顔で、狂児と聡実との会話を続けている。この後ショッピングモールに向かう予定だが、その前に少し喫茶店にでも入って休憩しようかと相談している最中なのであった。
     インカムの音声は狂児にも聞こえているはずだが、やはりノーリアクションだった。実害もないのにこっちから手を出すこともないやろ、無視や無視、というのが共通した意向であろうと富士野は推測する。唯一インカム未装着の聡実に気取られぬよう、二人が会話を続けているのがいい証拠である。
     それほど人通りが多いわけでもなく、歩行者同士の間隔も開いている。ぶつかりおじさんとやらが向かってきていても、さすがにこんな道端にいる集団に向かってくることはないはずだった。
     ——しかし、それでもぶつかってくるから"ぶつかりおじさん"なのである。
    「特徴は?」
     富士野は短く那須原に問いかけた。自分たちだけならまだしも、ここには守るべき対象かつ"歩く火薬庫"——聡実がいる。富士野は、那須原の存外聞き取りやすい声が男の特徴を素早く述べるのを聞きながら、決して聡実から目を離さず、その挙動を見守っていた。
    《身長173cm、四十代と推定、体格やや太り気味、白髪交じりの髪七三分け、黒のスーツに無地の青のネクタイ、黒いビジネスバッグです》
    「距離は」
    《現在およそ100m、1時方向》
    「マークあり?」
    《リスト一致します》
    「よし」
     富士野は短く応えると、視線を動かす。確かにそれらしい男が一人、こちらに視線を向けていた。
     ——待て待て、こっちを見とるやと……!?
     富士野はインカムを素早く二度叩いた。
     ほぼ同時に、さり気なく狂児が聡実の腰に手を回し、鷹島がその前に立つ。
     富士野は全周囲への警戒を緩めない。囮の可能性もある。
    《対象進行方向変えました——そっち向かってます》
    《出るわ》
    「許可する」
     扇谷の申告に、短く鷹島が応える。
     さて、対象——"ぶつかりおじさん"は、どういうわけか、吸い寄せられるように富士野たちの方向へ向かって突き進んできていた。
     富士野は、男の異様さに眉をひそめていた。男は、鷹島も、そして狂児のことも全く目に入っていないようだった。ただひたすらに——鷹島の背後の聡実だけを目指して、突き進んでくる。
     ——こいつもか。
     富士野が東京に来て、こういう人間と遭遇するのは、これが初めてではなかった。本当にどういうわけか、聡実はそういう"タチの悪い"人間を引き付ける力——特技というか能力というか魅力というか——が強かった。とてつもなく。"歩く火薬庫"である聡実とタチの悪い人間がぶつかりでもしたら、どんな化学反応が起きて大爆発するか分かったものではない——しかも、連鎖反応で、その隣の若頭補佐も大大大爆発するのが目に見えている。そんな非常事態は絶対に避けなければならない。
     前方の鷹島が僅かに身体の重心を前方に動かしたところで、男の目前に、突然巨大な壁が現れた。
     ドゴン、という聞きなれない衝撃音に、聡実の視線がそちらへ向く——寸前、狂児が朗らかに声をかけた。
    「ほな、あの角の喫茶店寄ってこか。鷹島、席空いてるか聞いてみて〜」
    「了解です」
    「今の……」
    「どうかした? やっぱり他のとこにする?」
    「……いえ、そこがいいです」
     鷹島の先導で、狂児に腰を抱かれたまま聡実は歩き出した。
     その死角では、巨大な壁——扇谷に激突して思い切りひっくり返り、したたかにコンクリートに尻と背中と頭を打ち付けた男が、その壁に形だけの謝罪を受けながら、半ば引きずられるようにして路地裏へ消えていくところだった。
    《はいはい暴れない暴れない。なあ、ヤっちゃってい〜い?》
     インカムから、扇谷の明るい声が響く。
    《不許可です》
     すぐさま鷹島の鋭い声が割り入る。
    《タカのケチ!》
    《ただの変質者を殺そうとせんといてくださいよ》
     那須原の呆れ返ったため息の向こうで、何か鈍い音がした。
    《うわ汚ね、せめてもう一発耐えんか〜い》
    《あー、オッサン、このゴリラにもう一発貰うんと、警察行って自首するんどっちがいいですか?》
    《おいおい誰がゴリラやね〜ん! ほんでオッサンもどっちやね〜んハッキリせ〜い》
    《アンタが口塞いでるから分かんないんでしょ……》
    《ほなもう一発で決まりな!》
    《許可する》
     鷹島の平坦な声に、那須原がツッコむ。
    《これは許可いらんのちゃいます?》
     "裏"が元気に男を片付けている声をインカム越しに聞きながら、富士野は内心ため息をついた。
     ——まったく、若いもんはすぐ調子に乗りよる……。
     鷹島がきちんと周囲の警戒を続けているのを頼もしく思いながら、富士野は帰ったら"裏"の二人にどう説教するか頭を痛めるのだった。


     犬たち、そして狂児はまだ気づいていない。

     聡実は唯一インカムを装着していない。だから、一連の会話も聞こえていないはずだった——普通ならば。

     ——扇谷さんの声てホンマに大きいなあ。

     聡実の耳が、規格外に良いこと。
     そして、その耳で聞き取った、インカムから漏れる扇谷の声と、鷹島や富士野の返答から、大体の状況を概ね正しく把握していることに皆が気付いて大反省会が始まるのは、まだ先の話である。


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    七井の倉庫

    MAIKING【天淵に響け、黎明の祝歌】第二話冒頭を公開しておきます。こんな感じで始まる予定です。
    天淵第二話冒頭(仮) サトミは昔から、かくれんぼが苦手だった。
     少年の周囲には、常に誰かが契約した精霊が控えていて、きらきらと、優しい光を放っていたからである。燃える鷹、白い虎、奇怪な土の猫に始まり、氷の蛇、岩の熊——そして、白く輝く鶴。様々な精霊が、契約者でもない小さな少年に付き従う様は、実に神秘的な光景であった。
     時には、精霊だけでなく、契約者本人が控えていることもあった。炎を操る魔術師、風より早く射抜く狙撃手、様々な薬草に精通する薬草師、常に冷え冷えとした冷気をまとう魔術師、岩のような剣闘士——そして、何よりも少年を大事にする、あらゆる武器を使いこなす剣士。
     彼らは、あの大嘯穢にも動じず楯ノ森を守り抜いた、誇り高き傭兵団・祭林組の組員たちであった。彼らは大嘯穢から町を守った後も、残った魔獣退治や魔獣の屍の処理、西の森で発生した瘴気の封印などの危険な仕事から、次の大嘯穢に備えての兵の訓練、防壁の強化、隣町までの護衛など、楯ノ森の町のために多岐にわたる仕事を引き受け、一つ一つ解決していった。やがてサトミが五つになる頃には、彼らは町の一角に拠点となる”祭林組本部”を構え、すっかり楯ノ森の一員として認められるまでになっていた。組員の中には、町のものと結婚し、子をもうける者までいた。彼らはいまだに傭兵団を名乗っていたが、今となっては傭兵団というより”町の便利屋集団”と言った方が相応しくなっていた。
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