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    七井の倉庫

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    七井の倉庫

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    サトミタン2025記念のヒトリワンライ作品です。お題から「視線」を使わせていただきました。シリーズ【歌声、 奈落の底までも】の世界観をベースにしています。聡実くん、20歳おめでとう!

    幸祐のペルセポネ 去年の互いの誕生日のことを思い返すたび、聡実はつい笑ってしまう。
     どちらの誕生日も散々だった――特に、自分の誕生日は酷いものだった。マンションは爆発する、車には尾行される、カーチェイスは始まる、乱闘に銃、犬たち、そして狂児――。本当に碌なものではなかったが、今となっては楽しい思い出である。今にして思えば、あれは明確に、聡実が"こちら側"に踏み入った最初の出来事だったと言える。あれから一年、自分はすっかり"こちら側"に馴染んでしまった。自分が望んだことであり、後悔などまったくしていないが、しかし、当時は自分がここまで"適正"があるとは思ってもみなかった。
     ……という話を鷹島にしたところ、物凄く微妙な顔をして「いやあ……まあ……そうかも……」と半笑いで返されたのは解せないところであった。
     その後、五月の狂児の誕生日――熱海の旅館での一件は本当に思い出深いものとなった。何かあると覚悟して行ったが、まさかあんなことになるとは。旅行前に犬達と行った"特訓"には、随分馬鹿馬鹿しいものも含まれていたが、今でも聡実の"こちら側"での生活を支えているのだから、人間万事塞翁が馬とはよく言ったものだと聡実は感心を覚えるのだった。
     そんなこんなで碌なものではなかった去年とは違い、今年は狂児が念入りに手を回し、都内のホテルのスイートルームでこうして静かに二人寄り添って過ごすことができている。犬たちは外に控え、室内には二人きりである。ここに他人の目はない。ただ、互いの視線が互いを見つめるのみ。そのことが、聡実にはひどく喜ばしかった。
    「……何、何か変やった?」
     聡実が笑う気配を感じてか、狂児の大きな手が聡実の頬をくすぐる。聡実は微かに笑い声を漏らしながら、狂児の広い胸に額を寄せた。
    「……去年のこと、思い出してました」
     正直に告げると、狂児がため息を漏らす。
    「アカン、思い出すと寿命が縮むわ」
    「それなら思い出さなくていいです」
    「言うて忘れられるもんとちゃうやん……聡実くんは楽しかった言うけど、狂児さんホンマに心臓がキューてなったからね」
    「何ですかそれ、かわい」
    「かわいいのは聡実くんやで」
     頬をくすぐっていた手が、聡実の唇をゆっくりとなぞる。
    「聡実くんは、かわいくてかっこいいよ」
    「今は?」
    「今も」
     ふふふ、と聡実が漏らした笑い声が、狂児の指を伝う。
    「僕、今日でもう二十歳ですけど……?」
    「年なんて関係ないて。聡実くんは最初から最後までかわいくてかっこいいよ、ずっと」
     下唇をふにふにと押さえた親指が、聡実の口腔内にじわりと侵入する。
    「ふ、う……」
     その指をゆるやかに舌で受け止め、聡実は顔を上げた。
     狂児の漆黒の瞳が、まっすぐに聡実を見つめている。
     ――熱を帯びた視線を、惜しみなく、注ぐように。
     二人の視線が絡まり、言葉よりも確かな想いが交わされる。
     聡実は、狂児の瞳を見つめ返しながら、静かに笑った。狂児の指を唇で伝い、手のひら、そして薬指の付け根をゆるくついばむ。
    「……じゃあ、ずっと、そう言ってくださいね」
    「もちろん」
     狂児の手が聡実の後頭部に回り、唇が重なった。
     甘やかな吐息も、あえかな声もすべてが混ざり合い、一つになっていく。

     苦しいことも、楽しいことも、全て二人で越えて来た。
     もう、引き返すことはできない。
     それでも、後悔はしない。
     いつかその時が来るまで、前へ進むだけだ。

     狂児の唇が首筋を辿り始めたところで、聡実はゆっくりと目を閉じた。
     未来は不確定で――微かに血の匂いがした。
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    七井の倉庫

    MAIKING【天淵に響け、黎明の祝歌】第二話冒頭を公開しておきます。こんな感じで始まる予定です。
    天淵第二話冒頭(仮) サトミは昔から、かくれんぼが苦手だった。
     少年の周囲には、常に誰かが契約した精霊が控えていて、きらきらと、優しい光を放っていたからである。燃える鷹、白い虎、奇怪な土の猫に始まり、氷の蛇、岩の熊——そして、白く輝く鶴。様々な精霊が、契約者でもない小さな少年に付き従う様は、実に神秘的な光景であった。
     時には、精霊だけでなく、契約者本人が控えていることもあった。炎を操る魔術師、風より早く射抜く狙撃手、様々な薬草に精通する薬草師、常に冷え冷えとした冷気をまとう魔術師、岩のような剣闘士——そして、何よりも少年を大事にする、あらゆる武器を使いこなす剣士。
     彼らは、あの大嘯穢にも動じず楯ノ森を守り抜いた、誇り高き傭兵団・祭林組の組員たちであった。彼らは大嘯穢から町を守った後も、残った魔獣退治や魔獣の屍の処理、西の森で発生した瘴気の封印などの危険な仕事から、次の大嘯穢に備えての兵の訓練、防壁の強化、隣町までの護衛など、楯ノ森の町のために多岐にわたる仕事を引き受け、一つ一つ解決していった。やがてサトミが五つになる頃には、彼らは町の一角に拠点となる”祭林組本部”を構え、すっかり楯ノ森の一員として認められるまでになっていた。組員の中には、町のものと結婚し、子をもうける者までいた。彼らはいまだに傭兵団を名乗っていたが、今となっては傭兵団というより”町の便利屋集団”と言った方が相応しくなっていた。
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