この出会いはきっと運命だった(異能パロ1)この世界には何も能力を持っていない【無能力者】と、【異能】という超常的な能力を持つ【異能者】が点在する。
この世界では、【異能】を持つ者が優位に立つように仕組まれた歪んだ価値観が植え付けられていた。
かというオレも【異能】を持って生まれてきた人間の1人である。
備わっている【異能】は【魅了】と呼ばれる、そばに居る人間を魅了し虜にする能力だ。
こんな能力を持っていたせいでオレの元にはいつでも人が集まってきた。
その集まった人間の心を掌握することは容易くて、人生は温いもの……死ぬまでの暇つぶしだと幼いながらもオレは思っていた。
そんな時だーーーーオレの前に“アイツ”は現れたのは。
“アイツ”との出会いはオレが小学校の頃にまで遡る。
オレはその日、商店街の裏路地でここでは見かけたことのなかった目を引く子供を見掛けたのだ。
「なんだ……お前、オレに何か用かよ?」
「は?」
誰でも、オレを目に入れた時にオレのことを気に入る、それが【魅了】という【異能】。
他の人間と違い、オレに対して猜疑心を持っているようなその子供の反応にオレは戸惑いを隠せなかった。
「……」
俺の反応に怪訝そうな顔をした、オレよりも少し幼なそうな子供は、髪の色が黒と白と分かれており瞳は青灰色と琥珀色のオッドアイという変わった容姿していた。
何故かこいつにはオレの周りに常時展開されている【魅了】の効力が一切ないように思える。
こんなことは初めて、だった。
「お前……オレの【異能】が効いてないのか?」
「……何言ってるんだ? もしかして……お前、今【異能】を使ってんのか?」
そう言いながらきょとんとこちらを見つめる子供にオレは困惑する、この範囲なら確実に【魅了】の範囲内……それが効かないということは、もしかしたらコイツは……?
「なぁ、オレは棪堂哉真斗っていうんだ。 お前の名前はなんて言うんだ?」
「……桜、遥」
オレが名乗ると、その子供ーーー桜もそう名乗る。
……【桜家】、ねぇ。
そういえばそんな【異能】持ちの名家の名を聞いたことがあるような気がする。
「それで、お前はどうしてこんな所に居るんだよ……親とかはどうしたんだ?」
「オレには【異能】も無くて、こんな見た目だから『気持ち悪い』って言われて……家から追い出されて、気付いたらここにいた……」
オレがそう問うと遥はボソボソ、と呟く。
成程、コイツは【異能】主義の名家に生まれ、【異能】がないと判断されて捨てられた嫡子ってワケか。
近くに範囲系の【異能】を持つ奴が居なかったせいでコイツの親どもは気付かなかったようだが……コイツは【異能】が無いんじゃねぇ……。
【異能の無効化】、とんでもねぇレアな【異能者】だ。
「なぁ……お前今日からオレの家で一緒に過ごさねぇか……。 捨てられたってことは、お前には今帰る家もねぇんだろ?」
こんな特別な【異能】を持っている人間を易々と手放したくはなかったのもあるが、オレはオレの【異能】が効かないが故に生の感情をオレにぶつけてくれるであろう“桜遥”という存在自体が気になっていた。
「な、何言ってんだ……お前……」
「でも、お前にも悪い話じゃねぇと思うけど?」
こんな泥臭い場所で子どもが1人で生き残るのは難しい……桜もそれは分かっているはずだ。
「でも、オレは……【異能】もねぇし、見た目もこんなだ。 そんな奴を世話する“利点”がお前側には全くねぇ、じゃねぇか……」
「……“オレがお前を気に入ったから”、それじゃあいけねぇの?」
こいつは多分、この歳になるまで永年その見た目と【無能力者】であるというというレッテルを実家で貼られ続けていたのだろう。
自分に関して相当自信の無いように見受けられる。
「オレ、を……?」
「そ、お前のその左右違った瞳もツートンカラーの髪も、天然モノなんだろ? カッケェじゃん」
「か……かっこいい!?」
オレがそう言ってやれば、分かり易く桜は顔を紅潮させた、本当に表情がコロコロ変わって面白いヤツだと、オレは桜への興味を深める。
そういえば、今までこんな風にオレの言葉に自分の感情を見せてくれる人間は存在しなかった。
もしかしたら、オレは色々な表情をオレに対して見せてくれるであろうコイツ自身のことを本気で気に入り始めているんじゃないか、そんな感覚に陥る。
「オレだって気に入ったヤツをこんな危険な場所に1人にしておくのが嫌ってワケ、だから余計な心配なんてすんなよ……それに、オレが連れてきた奴の世話なら家のヤツらも文句は言わねぇだろうしな」
「……そ、そういうもの、なのか?」
オレの家の奴も全員、オレの【魅了】にかかっている……まぁ、きっと誰も文句を言わないだろう。
「だから、オレと一緒に来いよ……桜」
「本当に、いいのか?」
「勿論」
そう言って、オレが桜に手を伸ばすと桜はその手を取り、「ありがとう」と微笑んだ。
桜のその微笑を見た瞬間、オレの心が撃ち抜かれたような衝撃を受けたのは言うまでもない。
これが、オレと“アイツ”……桜、いや遥との初めての出会いでありオレの初恋の記憶でもある。