おかしくないですか?オレの名前は楡井秋彦。
突然だが、この世界が“男性同士の恋を扱った恋愛シュミレーションゲーム”の世界だということに気付いてしまった非攻略対象の“主人公の友人A”である。
“友人A”としてのオレの役割は“主人公”に攻略対象の好感度を教えるという、云わば便利なお助けキャラの位置であるらしい。
その為か、いつも持ち歩いているこのマル秘ノートには攻略対象のスマホの番号やら趣味趣向、それどころか攻略対象の主人公への好感度等が事細かに書かれている、正直……このノートが少し恐ろしいと感じているところだ。
「楡井、ノート睨み付けて何してるんだよ?」
マル秘ノートを凝視しているオレをみて困惑の表情を浮かべているのは、この世界の主人公である桜遥さんである。
彼は、黒と白のツートンカラーの髪に、鈍色と琥珀色というオッドアイの瞳をした珍しい容姿をした青年だ。
その見た目から幼少期から周りの人間に「化け物」だのなんだのと言われ疎まれて暮らしていたらしい。
そして、自らを認められる手段がケンカしかなかった彼は不良校であるこの風鈴高校の“てっぺん”を目指すために入学をする。
そして、高校内の人間や外部の人間と触れ合う中で友情や愛を知るというのがこのゲームのストーリーであるらしい。
「いえ、ちょっと情報を見つつ考え事をしてただけですよ!どうしたんですか、桜さん?」
「別に……なんかノート見ながら変なツラしてたから悩んでんじゃねーのかなって思っただけだ、なんにもねーならいい」
そう言いながら桜さんは去っていった。
何故だろうか、桜さんはオレのことを気にかけてることが増えた気がする。
それが……いつからかとかは、よく覚えていないのだけれど。
しかし、桜さんは攻略対象の皆さんのことをオレに聞かなくて良かったのだろうか?
ただの友人であり攻略対象ですらないオレの存在意義はその為にあると言っても過言では無いのに……。
そう思った時、何故か心の中モヤモヤとした気持ちが湧き上がってくるのを感じた。
ーーーもしかして、オレ……桜さんと恋愛が出来る攻略対象の皆さんのことを羨ましがっている?
あれ……でも、それっておかしくないですか?
だって、非攻略キャラの名有りモブであるはずのオレがこの物語の主人公に恋心を抱くことは絶対に無いはずなんだからーーー。
この時のオレはまだ知らなかった。
このゲームはオレ自身も“隠しキャラ”として攻略対象に含まれている、という事をーーー。
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