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    ᴅᴀʏ𝟥

    ワンダーランド・レプリカ全ての命に等しく、永遠はないけれど。

    それでも、この命を飾り付けていたいと願わずにはいられない。

    どうせいつかは散るというのなら。

    せめて、枯れて尽きるその一瞬の時まで。

    愛を抱いていたいと思うのです。

    それは証となり、記憶となり。

    そうして、いずれは呪いとなるから。



    「……そう、なのですね……………」

    わたくしには、どうすることもできないのです。

    みなさまが、暗い表情で俯き沈黙しているこの空間を。

    この円卓に座る時は、いつだって賑やかだったのです。だからわたくしは、ここに座る時間がとても好きだったのです。

    またいつものみなさまに。明るく元気なみなさまに……

    そう思うわたくしもまた、顔を上げることはできないでいるのです。

    先ほどママから聞いたことを信じたくないという気持ちは、わたくしにも存在しているのです。

    ……本当は、お人形が感情なんて抱いてはいけないのですが。

    ともかく。ママもまた、わたくしたちと同じように沈痛な面持ちで話していたのです。そうしてすぐに、ふらりと立ち去ってしまったのです。

    こうして、まざまざと現実を突きつけられたわたくしたちは、それを受け入れることを、強要されているようにも感じるのです。

    この”家族”が、永遠ではないということ。

    この”家”が、廃棄処分場だということ。

    わたくしたちは、このまま尽きる命なのだということを。

    「……シルル、しんじない」

    「ビーネ、いなくなる、うそ…!」

    沈黙を最初に破ったのはシルルだった。

    大粒の涙を瞳いっぱいに溜めて勢いよく立ち上がる。シルルが使う大きな木製の椅子は、バランスを崩したままガタンと思い切り倒れた。

    「……また、パーティー…する、やくそく……」

    だけれども、勢いはそのまま続かず言葉はだんだんと尻すぼみになっていく。そうして吐息だけが喉を撫でていった。

    「……大きい声出さないでよ」

    ビスがぽつりと呟く。

    「ビス、今はいいじゃないですか」

    それをオートミールが柔らかく宥める。

    けれどもビスは立ち上がり、先ほどよりも張った声で続けた。

    「……だいたい、ここに来た時点で分かってたことでしょ。」

    「それが、ビーネから始まっただけ。」

    ビーネは毎朝、点呼のときには必ず大丈夫だって答えてたね。うるさいくらいに元気だったし。

    見た目では不調は感じられなかった。

    もしかして、ビーネの不調は体内を蝕んでいくものだったのかな。

    ……まあ今思えば、大丈夫なんて嘘に決まってるし、ただの痩せ我慢だったんだろうけどさ。

    だって、僕たちがここにいる理由は。

    「……僕は、認めないけど。」

    ぽつりと小さくこぼした後、部屋に戻ると言ってビスは円卓から立ち去っていく。

    それを全員が視線で追いかけた。けれども再び沈黙が訪れることはなかった。

    「わたし、えっと……ビーネさんが、もうもどってこないかもしれないということ、ほんとうはすこしだけ…かんがえてしまいました」

    これまで口を閉じていたアルタイルが、一言ずつ噛み締めるようにこぼしていく。

    「だって、このなかでさいごに会ったのはわたしですから。」

    すぐに記憶が抜け落ちてしまう脆い羽根のようなこの海馬にすら、あの光景が焼き付いて消えてくれない。

    わたしも、きっと『さいご』はああなってしまうのだと。すこしだけ、かんがえてしまいました。

    「……でも、きっと。」

    「……ビーネさんは、わたしたちに、こんな顔をさせたいはずがありません。」

    「わらっていてほしいと、おもうとおもいます。わたしも、きっとそうおもうはずですから。」

    かなしませるために、『かぞく』になったのではないですから。

    「……だから、わたしはわらいます。」

    満面の笑顔、とまではいかないかもしれないけれど。それでも、限りがあると知ってしまったから。

    悲しい思い出よりは、楽しい思い出を詰め込もう。それすらもこぼれ落ちていってしまうのなら、絶え間なく注ぎ続ければいい。

    「……わかった、シルル、わらう…!」

    アルタイルの言葉にシルルも頷いて、涙を袖でゴシゴシと拭ってからにこりと笑った。

    それを黙って見つめていたオートミールも、緩やかにではあるものの微笑んでいるように見える。

    「……みなさま…みなさまは、やっぱり笑顔がとても似合うのです」

    ああ、眩しいほどの笑顔。やはり、みなさまは笑っているほうが素敵なのです。

    無意識に口角が吊り上がったけれども、肌がぎちりと引き攣り、すんでのところで止まった。

    それに気付いて、ドール・エミリーはぐっと表情を引き締める。

    ダメなのです、わたくしはお人形なのですから。どんな表情も浮かべてはいけないのです。

    わたくしの代わりに、みなさまが笑っているのですから。わたくしはそれを見つめていれば良いのです。

    眼差しに羨望を含ませて、ドール・エミリーは姿勢を正した。



    「……みんな、そろそろ昼食の時間よ。」

    ママがカチャカチャと食器を鳴らしながら、正午を告げる。

    「ママ、シルル、はこぶ!」

    ぐ〜と鳴いて空腹を訴えるシルルも、今日はほんの少しだけ静かな気がした。ぱたぱたと走ってきては、ママが並べた皿たちを覗き込む。

    「さんど、いっち…!」

    「簡単なものでごめんね。手伝ってくれてありがとう、シルル。」

    眉尻を下げて軽く謝罪するママに、シルルはふるふると首を大きく横に振った。

    「かんたん、ちがう…ママ、つくる、ぜんぶ、おいしい……!」

    そう言って目を輝かせたシルルと、ありがとうと微笑むママの後ろから、ひょこりとアルタイルが顔を出した。

    「ママ、シルルさん…わたし、いいことを思いつきました」

    「……アルタイル、どうしたの?」

    アルタイルは少しわくわくとした表情を浮かべて、びっくりしたように振り向いた2人を少しの間見つめてから再び口を開いた。

    「それは…」

    「それは……?」

    「ピクニックです!」

    言うや否や、ジャ〜ン!とアルタイルは翼を広げてみせる。そこには、たくさんのリボンと櫛を手に持ったドール・エミリーが立っていた。

    「ピクニック?」

    依然として状況を飲み込めないのか、首を傾げたママとシルルに、ドール・エミリーが補足を入れる。

    「先日、ビーネさまがわたくしにお花を飾ってくれたとき、わたくしは思ったのです」

    「わたくしはお人形になるべきなのですから、わたくし自身を飾り付けることも、わたくしの役目なのではないかと…」

    「でも、わたくしだけでは難しいのです。わたくしの手は、あまり動きませんから……」

    「ですから、みなさまと一緒に、おめかしをしたいのです。そうして、お外に出て……」

    歩いてみたい。

    はく、と言葉に詰まるドール・エミリーに続けるように、アルタイルが口を開く。

    「『じょしかい』をしてみたいです」

    「エミリーさんが、リボンをかしてくれました。それで、アルタイルは『りっぱ』になりたいです」

    2人の話を静かに頷きながら聞いていたママは、にこにこと微笑んで承諾した。

    「おめかししてピクニック、とても素敵だわ。それに、サンドイッチはピクニックの定番だものね。」

    「ぴくにっく…たのしい、シルル、わかる!」

    シルルは待ちきれないと言いたげな様子で、ドール・エミリーの持っていた櫛を手に取り、自信満々に構えた。

    「かみ、むすぶ……シルル、まかせる」

    「シルルさん、かっこいいです!……えっと、髪をととのえるひとのことを、なんと言うのかわすれてしまいました」

    シルルのその姿に、アルタイルは頭上の羽根をぱたぱたと羽ばたかせて目を輝かせたものの、ううんと唸って首を傾げる。

    「……美容師、だとおもうのです」

    「『びようし』!そうでした、シルルさんはねむる家の『びようし』です!」

    「シルル、いちりゅう、びようし……」

    アルタイルの言葉を、シルルが嬉しそうに噛み締める。

    いつのまにかママが持ってきた大きな卓上ミラーが円卓にセットされ、そうして”シルルの美容院”が限定的に開店となった。

    「りくえすと、なんでも、きく。シルル、かなえる」

    ミラーの前に座ったドール・エミリーの髪をサラサラと櫛で解きながら、シルルは接客するように話しかける。

    「リクエスト……」

    ここまできて、理想の姿を考えていなかったことを思い出した。おめかしをしようと息巻いたは良いものの、肝心なところが抜けていた。

    鏡越しにちらりとシルルを見上げてみる。

    ……シルルさまは、いつもわたくしの髪型をほめてくれるのです。それは、とても嬉しいのです。

    けれど、わたくしはシルルさんの髪型も、とても素敵だと思うのです。

    お揃いにしてみたい、だなんて……

    今日くらいは、ほんの少しだけ”わがまま”を言ってみてもいいですか……?

    「……シルルさまと…」

    「シルルさまと…同じ髪型にしてみたいのです……」

    「おなじ……?」

    シルルは想像してもいなかった返答にキョトンとしてから、一拍遅れて目を丸くした。

    「シルル、エミリー、おなじ……!」

    「かみ、ほめる、うれしい…シルル、がんばる!」

    張り切るようにシルルは腕まくりをして、リボンをひとつ手に取った。毎朝のように結んではいるものの、自分にするのと他人にするのではまた勝手が違う。

    真剣な眼差しと少しだけ震える手を頭上で感じながら、ドール・エミリーは鏡越しにシルルを見つめていた。

    「……………できた…!」

    しばらくの沈黙の末、パッとシルルの眉間の皺が解かれる。そうしてシルルが鏡を覗き込んでから、ドール・エミリーはずっとシルルを見つめたままだったことに気付く。

    慌てて鏡の中の自分と目を合わせると、そこには見慣れない自分の姿があった。

    「……すごい、のです」

    「とても、素敵になったのです。わたくしではないみたいなのです」

    「シルル、じしんさく」

    ふふんと鼻を鳴らして自慢げな表情を浮かべるシルルと、自分の髪型とを、ゆっくりと交互に見つめる。

    「…お揃い、嬉しいのです。シルルさま、ありがとうございます」

    ぺこりと小さく頭を下げる。白いリボンで綺麗にまとめられた毛束が、さらりと垂れ落ちていくのが視界に入る。

    ……なんだか、落ち着かない。

    シルルさまとお揃いのハーフツインテールを結んだわたくしは、普段の髪型とは違って、どこか幼くなったような気持ちになるのです。

    ふと、鏡の中に過去の自分を映しているような感覚に陥る。ドクドクと鼓動がうるさい。心臓が耳の隣にあるみたいだ。

    ……お人形には、心臓なんてないのに。

    『前にも教えたでしょう。』

    『どうして言われたことができないの?』

    『……ああ、ほんとう』

    『あなたが███なら良いのに。』

    「シルルさん、わたしも『おそろい』にしてほしいです!」

    アルタイルの言葉が響いて、急激に意識が現実に戻される。

    ……もう、ここにはいないのです。ここにいるみなさまは、わたくしに優しくしてくださる方たちばかりなのです。

    でも。それでも。

    わたくしを縛るものは、ずっと。

    ずっと、わたくしを離してはくれないのです。

    「まかせる、シルル……ぷろ、びようし」

    アルタイルのリクエストを、シルルは大きく首を縦に振って快諾する。ドール・エミリーは椅子から立ち上がって、アルタイルにその席を譲った。

    「アルタイルさま、わたくしの椅子で恐縮なのですが…お嫌でなければ、お座りください。」

    「わたし、かんがえてみたら…わたしのではないイスにすわるのは、はじめてです」

    「すこし、どきどきします……」

    アルタイルは落ち着かなそうに羽根をぱたぱたと忙しなく羽ばたかせてから、ちょこんと鏡の前に収まった。

    「『びようし』さん、おねがいします」

    「かわいい、なる…やくそく」

    そうしてぺこりと頭を下げたアルタイルに、シルルは親指を立てて応える。そうしてから、櫛を優しくアルタイルの髪に押し当てた。

    「アルタイル、りぼん、ついてる…」

    ふと気付いたようにシルルがぽつりと呟いて、アルタイルの頭上に伸びる羽根の根元にそっと触れる。

    「そうでした……ほどいたほうが、いいですか?」

    アルタイルがそう言って首を傾げたが、シルルはぶんぶんと首を横に振ってから笑みを浮かべた。

    「いまから、りぼん、よっつ、なる!」

    「りぼん、おおい……たくさん、かわいい」

    想像してみたようにうんうんと頷いて、シルルは楽しげに再度手を動かし始めた。

    「リボンは、たくさんついていたほうがかわいいのですか…」

    「たしかに、リボンはかわいいです。かわいいものがたくさんは、さらにかわいい……かんがえたことも、ありませんでした」

    なるほど、とアルタイルも頷いて納得する。

    アルタイルは、容姿を着飾るような年齢も、経験も、まだ持ち合わせてはいなかったが、これが『りっぱ』な女性への一歩であるのなら、それは喜ばしいことだと感じた。

    だって、わたしはきれいなものがすきです。

    『りっぱ』な『おとな』の『じょせい』は『きれい』なのだと、よく本にかいてあります。

    それによだかも、さいごはきれいな『ひかり』になりました。

    わたしも、そうなりたいです。

    きれいでしろくおおきな、『ひかり』に。

    「……………ばっちり…!」

    ふうっと、緊張をほぐすようにシルルが息をつく。アルタイルは鏡の中の自分をまじまじと見つめた。

    「シルルさん、すごいです!」

    「わたしは羽根のうでですから、じぶんではできないことです。むすんでくれて、ありがとうございます」

    アルタイルはお礼を言うと椅子からふよふよと飛び上がり、シルルの近くを飛び回った。

    「!」

    「みてください!わたしのうごきにあわせて、髪もおどります!」

    まとめられた2房は、下ろした状態のときよりも軽やかに舞っている。その動きを目で追いながら、アルタイルは上下左右、縦横無尽に羽根を羽ばたかせた。

    「すごい……アルタイル、かみ、ふわふわ!」

    それを見たシルルもすっかり虜になり、追いかけて飛び跳ねる。けれども、風と羽根に遊ぶ髪の束は、さらりとシルルの手を撫でてすり抜けた。

    むう!と唸ってから、再びシルルは飛び跳ね……ようとして。肩に何かをぶつける。

    「わ!」

    それに驚いて振り返ると、どうやらぶつかってしまったのはドール・エミリーの手のようだった。

    「ご、ごめん……いたい、ない…?」

    顔を真っ青にして慌てて謝るシルルに、ドール・エミリーは静かに首を振る。

    「わたくしは、大丈夫なのです。その……」

    少し口籠ったドール・エミリーを、シルルは不思議そうに見つめる。ドール・エミリーは、その手に握られたリボンをぎゅっと握ってから、再び口を開いた。

    「お揃い…シルルさまも、リボンをつけたら、3人でお揃いにできると思ったのです」

    「わたくしは、手がうまく使えないのですけど…シルルさまには、素敵な髪型にしてくれたお礼があるのです」

    「ですから、これはわたくしに…結ばせてほしいのです。シルルさまのように、上手にできないかも、しれないのですが……」

    話しながらだんだんと顔を伏せていくドール・エミリーの手を、シルルはぎゅっと握って引き寄せた。

    「エミリー、シルル、りぼん、つける、くれる…うれしい…!」

    その言葉に弾かれたようにドール・エミリーは顔を上げる。目の前には、満面の笑みをしたシルルがいた。

    「その、本当にわたくしでよいのですか…?」

    「エミリー、いい…!」

    シルルが大きく頷く。ふとその後ろに漂うアルタイルを見つめると、アルタイルも微笑んで頷いていた。

    「『ざんねん』ですが、わたしのうででは、シルルさんにリボンをむすんであげられません…」

    「シルルさんも、みんなおそろいがいいです。だから、エミリーさん…わたしのぶんまで、おねがいします」

    「アルタイルさま……」

    そうして、シルルに握られた両手をもう一度見つめる。

    ……シルルさま、温かい。

    わたくしはお人形なのです。お人形に、体温はないのです。

    わたくしの身体には、もう必要のなくなったものなのです。

    けれども、シルルさまの手は、こんなに温かく、優しく……わたくしの手を包んでいるのです。

    こんなふうに、まだ温かいと感じることができることが、わたくしはとても…嬉しいと思ったのです。

    「……では、シルルさま。少しの間、失礼するのです」

    ぐっと決意をして、シルルの髪に手を伸ばす。考えてみれば、こうして誰かの髪に触れることは初めてだったかもしれない。

    きっと手は震えているし、上手に結ぶことはできないだろう。だけれども、それでも…わたくしで、喜んでくれるのなら。

    ギチギチと鈍い音が指から鳴って、正直かなり動かしづらい。ぐっと指先に力を込めて、少しづつリボンを作っていく。

    「……………これで、どうでしょうか?」

    ふっと指先の力を抜く。こんなに指を酷使したのは久しぶりだったから、少しだけ関節が痛い。

    だけれども、後悔はなかった。

    「エミリー、すごい…!りぼん、かわいい、かたち!」

    鏡を何度も覗いては、振り返ってありがとうと笑うシルルを見て、心からそう思った。

    「さんにん、おそろい!とてもかわいいです」

    アルタイルが嬉しそうにシルルとドール・エミリーを囲むように飛び回る。

    「はい、わたくしもそう思うのです」



    いつの間にか、ママがサンドイッチをピクニック用に詰めてくれていた。

    プラスチックのケースに、ラップで一つずつ包まれたサンドイッチがぎっしりと詰め込まれている。

    それが3人分、斜め掛けできる保冷付きのランチケースの中に水筒と一緒に入れてあった。

    「これ、アルタイル……こっち、エミリー」

    シルルがケースを2人に掛けてから、自分の肩にも引っ掛ける。

    「シルルさん、ありがとうございます」

    「これで、ピクニックの用意が整ったのです」

    アルタイルとドール・エミリーがぺこりとお礼をする。シルルはそれに笑顔で応えた……と同時に、シルルのお腹からぐるぐると空腹の知らせが響いた。

    「うー…シルル、ぐーぐー……はやく、ぴくにっく、いく!」

    「わたしも、おなかがすきました。さっそくいきましょう!」

    そうして3人は中庭のドアを開く。9月も終盤とはいえ、温暖化が進んだこの地球ではまだまだ真夏のような暑さだ。

    今日はまだ風があることが、せめてもの救いだろうか。

    だけれども、こうしてみんなでお揃いにおめかしをすることも。屋外で摂る食事も。なんだかとても特別なことに思えた。

    自分たちの運命を忘れる、なんてことは一瞬でも不可能だけれども。せめてこんな時間が、少しでも長く続いてほしい。

    「……シルルさま。わたくしのサンドイッチ、ひとつたべますか?」

    喜んでわたくしの手からサンドイッチを受け取り、美味しそうに頬張るシルルさま。

    「みてください!このサンドイッチ、生クリームといちごがはいっています!」

    小さく切られたサンドイッチを、器用にフォークで口に運ぶアルタイルさま。

    2人を眺めているこの時間が、わたくしにはとても特別なのです。

    わたくし、この脚で草の上を歩いたのです。

    草の上に座って、風を感じているのです。

    わたくし、今日はお外に出られたのです。

    わたくしは……

    「楽しいのです、ピクニック」

    今日の出来事を、心を失っても忘れたくないと思ったのです。
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