on that day「あら、吏来。いらっしゃい」
「お疲れ」
勝手知ったる何とやら。ジム帰りにAporiaに寄った吏来は、案内されるより先にカウンターの隅の席に腰を下ろす。
「いつもの?」
「うん、お願い」
おしぼりを手渡しながらオーダーを確認したミカが、何かにあてられたように目を細めた。
「機嫌がよさそうね」
「わかる?」
「それはもう。詳しく教えて……と言いたいところだけど、聞くまでもなくお嬢のことなんでしょ」
首を横に振って肩をすくめるミカに、吏来は口の端を上げて答えとする。
(お嬢のこと貰う約束した――とは、流石に言えないよな)
たとえ親友と言えど、衣都を良く知る相手に詳しい話をするつもりはない。ただ、彼女とうまく行っているのが伝わればいいと、曖昧に濁す。ミカもその辺りの機微には聡いので、それ以上は何も聞かずに笑って、吏来の酒を作り始めた。
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