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    2月の新刊予定のDom/Subユニバースのワカ真

    #ワカ真

    タイトルなんにしよかな『もしかして、Subに切り替えたことがないのか?』
    『……っあ? なんだって?』
     とりあえず落ち着け、とトンと肩に手をおかれる。いつもならば不快感で振り払えうのになぜか目の前の男から視線をそらしてはいけないような気がしてならない。男は微笑んで、Kneelと告げるとガクン、と若狭はその場で膝を折った。


     関東の不良は二分されていた。片方は赤壁、荒師慶三率いる螺愚那六。その螺愚那六に対抗すべくいくつかのチームが合わさってできた煌道連合。そして今牛若狭は煌道連合の総大将であった。そして誰もがそれぞれの総長、総大将はDomなのだと思っていた。当時無名であった佐野真一郎によって関東は一つにまとまることになって、一番驚いたほは二人ではなく周りだった。三人の間に何があったのか知るものは当人たちと、真一郎の腹心である明司武臣しか知らず。
     佐野真一郎は不思議な人間だ。不良をやっている割に喧嘩の腕はお世辞にも言いとはいえず、センスもちょっと微妙。そのくせ、弱い者いじめは放っておけずに自ら厄介ごとに首を突っ込む性分。つまり目が離せない存在だった。
     今牛若狭は自分のバース性を正しく把握していなかった。そもそもバース性と一般的に呼ばれる第二性は顕現しない人も一定数存在する。本能的に相手を支配したいDomと人に尽くしたり支配されたいSubというバース性。少なくとも若狭は誰かに支配されたいと思ったことは人生でなく、そんな感情があれば煌道連合の総大将なんてものはやっていないのだ。逆に若狭のカリスマ性に惹かれてやってくるものが多く、周りがきっとDomなのだというのでそうなのかもしれないな。と思っている程度であったのだ。
     ──佐野真一郎に出会うまでは。

    「やっぱりな。他人からのコマンドを受けたことがないだろ?」
    「何……言ってるか、わかんねぇ」
     殴られたわけでもない。なのに、頭がぐわんと揺さぶられているような感覚がする。気持ちが悪い。目が回りそうだ。若狭が気分悪さに項垂れると、すぐにLookと真一郎が告げる。自分の意志とは関係なく、若狭は顔を跳ね上げた。目の前には真一郎の姿。真一郎のオニキスのような瞳が細められて『Good boy,ちゃんとこっち見たな』と若狭の頭をくしゃりと撫でた。何故か、その瞬間に褒められたことに異常に興奮してしまった。

     若狭は真一郎にバース性についての説明を初めて聞いた。曰く、真一郎はDomで若狭は正確にはDomではないらしい。Swichというそうだ。それはDomの性質もSubの性質も持ち合わせている複合型の総称で数は全体でみると少ないという。珍しいものを引いたな、と真一郎が告げた。しかし若狭の人生で誰かに従ったり、されるままでいいと預けたのは真一郎が初めてだった。それについては、元々の性格が由来してSwichの性質の中でもずっとDom寄りだったのではないか。という憶測を真一郎は立て説明した。
     黒龍は、真一郎と幼馴染の武臣、そして元螺愚那六の赤壁の慶三と、元煌道連合の白豹、若狭の四人でたちあげみるみるうちに名を挙げていった。真一郎自身は喧嘩が強いわけではない。だけど、圧倒的な上に立つものの貫禄があった。慶三や若狭をはじめ真一郎のことを皆が慕い、尊敬する。カリスマ性、とでも言うのだろうか。

    『あの、真一郎クン。実は──』
     ある日、若狭のしらないメンバーが真一郎に声をかけていた。チーム自体が大きくなって若狭も知らないメンバーがいるのは珍しいことではない。ただ、真一郎に話しかける素振りや様子が気になってしまった。耳打ちするように言われた真一郎はいつか若狭に向けたように目を細めて微笑むと彼にいいぞ。と何かを了承していた。そのやり取りが気になってしまう。胸がざわついて嫌な予感がする気がした。それからというもの、そいつはちょくちょく真一郎の元に現れて頭を下げては真一郎が笑って頭をくしゃりと撫でた。その様子に若狭は血が沸騰するような感覚を覚える。羨ましいのか、嫉妬なのかもわからない。そのまま二人が皆から遠ざかっていくのをみて若狭は追いかけていった。
     二人を追いかけていくと、人気のない場所についた。皆から少し離れただけなのに、こんな場所があったのかと思いながら進んでいくと二人の姿を見つける。若狭は物陰から様子を伺った。真一郎は座り込むと、彼のほうをみつめている。その場の空気が変わったのがわかる。同時に、ドッと胸を打たれる感覚がして、若狭はその場に座り込んだ。これは、真一郎のDomの性質によるものだというのをとっさに理解した。しゃがんだまま見つめていると、メンバーのその男はその場で膝をついて、そのまま腕を使って四つん這いに真一郎のもとへと向かう。足元にたどり着いて、縋るように真一郎を見つめる。真一郎は目を細めて、彼の頭を撫でた。コマンドを受けているのか、きっと彼を褒めているのだろう。彼の表情がだんだんと恍惚としていくのがわかる。比例して若狭の中にどす黒い感情が湧き上がっていく。
     触るな、それは、オレのものなのに。

    「──誰だ?」
     穏やかな表情の真一郎が一変して険しい表情になって若狭のいる方向に声をかける。先ほどよりも重苦しい空気に若狭の肩が震えた。沈黙を貫くのは無駄だと感じた若狭はその場で立ち上がる。すると「特攻隊長!?」と真一郎の足元にいる男は現れた若狭に驚いていた。

    「なんだワカか。どうした?」
     現れたのが若狭だとわかると、真一郎は笑って若狭に訊ねた。あの重苦しい空気は一瞬で感じなくなり、そのことに若狭は内心ほっとしていた。真一郎のことを探しに来たことを告げると、あーー……と真一郎は少しの間をおいて告げる。

    「俺はコイツと話があるから、先いっててくれ」
     言葉を濁されて、嘘をつかれたと瞬時に理解した。再び黒い感情が湧き上がってくる。真一郎の傍でしゃがんだままの相手をじっと若狭はにらみつけた。視線がぶつかって、相手はヒッと小さな声をあげる。体が震えて、明らかにおびえた表情を見せても若狭の感情は止まることを知らない。

    「ワカ、やめろ。そのGlareを止めろ」
     真一郎の声が割り込んできた瞬間にドッ、と体が重くなった。真一郎から視線が逸らせなくて、今度は若狭が震えそうな気持ちになった。グレア? 何のことだ。という顔で真一郎を見つめていると若狭よりも先に真一郎の前にいた男の方が気を失って倒れた。

    「おい、大丈夫か? あーーだめだ失神してる」
     男の体を起こして真一郎は息をつくと、若狭の方をまっすぐと見る。射抜かれる視線に、若狭は足がすくむような感覚がした。仮にもチームのトップを貼っていたことがあるはずの若狭がだ。冷や汗が浮かんで、心臓がうるさい。だけど、真一郎から目が離せない。

    「ワカ、Kneelだ」
     ガクン、と真一郎の言葉に若狭はいとも簡単にその場に膝をついた。男を失神させたのは間違いなく若狭のGlareだったが真一郎のGlareがそれを上回って若狭のスイッチがDomから強制的にSubへと切り替わった。真一郎が怒っているような気がして、心臓がまたも煩く音を立てる。怒られる。と感じた若狭は真一郎から視線を逸らすが、すぐに真一郎から「Look」と告げられてまた真一郎の方をむく。

    「ごめ……真ちゃ」
    「こいつを運んでくる。誰かに送ってもらうしかないな」
     お前はそこでStayだ。戻ってくるまで動くな。という真一郎の言葉が呪いのように若狭の体を制限する。真一郎が遠ざかっていくが、追いかけたいのに足が金縛りにあったように動かない。これが正真正銘のDomのちからなのだろう。

    「……っくそ」
     真一郎の姿が見えなくなって、若狭はじっとそこで待つしかなかった。Swichとはいっても若狭にはその切り替えを自分で行うことは出来ない。意識して行ったことはこれまでないからだ。そもそも、真一郎に指摘されるまで自分がSwichの性質を持っていることすら知らなかったくらいだ。体が冷えていく感覚がする。それもそうだ。特攻服は多少厚手の生地で出来ているが、夜になればそれなりに冷え込むしましてや体も動かさずに待ちぼうけていれば当然のこと。いつもならば若狭は寒さで適当に切りあげて帰ってしまうところだろう。しかし、真一郎がそこで待て、と告げたから待っているしかできない。


    (続く)
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    fukuske5050

    MOURNING本誌済み
    真とワカとマ
    ※マは本誌の病状です さすったりしてます こういうことをしてよいのか悪いのか、調べていません
     顔色が悪いのは真一郎の方だ。僅かに自由になる時間さえも、病室でひとり横たわり、管に繋がれたまま意識のない弟の傍らから離れない。ただ生き永らえているだけのそれから離れない。医療も奇跡もまやかしも、真の最愛にできることはそれだけしかないからだ。
     万次郎のため。そのために真一郎の生活は費やされ自分のための時間は皆無に等しい。食べることも、眠ることも惜しいのだ。怖いのだ。少しでも目を離した隙に呼吸を漏らした隙に、必死に抱えた腕の中からサラサラと流れ落ち、万次郎が失われていく。
     蝕まれているのは真一郎の方だ。若狭にはそう思えてならなかった。

     職務の休憩時間に万次郎を見舞う真一郎に合わせて万次郎の病室を訪れる。それは万次郎のためではない。真一郎のためだ。若狭にできるのはその程度でしかない。訪れた若狭の呼び掛けに答えた真の声は枯れて夜明けのカラスのようだった。ギャアと鳴いてみせるのは威嚇なのか懇願なのかはわからない。せめて水を、そう思って席を外し、帰ってきた病室で見たものは。
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