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    hasami_J

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    タイトル通りの自PCの小話。

    ■ローンシャーク
     超人的な瞬間記憶能力と再現能力を持つ傭兵。瞬間記憶によって再現した武装と、トレースした他人の技を使って戦う。能力の代償に日々記憶を失い続けている男。
     金にがめつく、プライベートでの女遊びが激しい。
     セカンド・カラミティ以後はヒーローサイドの仕事を請け負うことも多い。曰く、多額の借金が出来たからだとか。

    #ローンシャークの隣で女が死んでる話

    『ローンシャークの隣で女が死んでる話』(1) シーリングファンが回る天井、糊の利いた清潔なシーツと、皮膚を撫でるリネン。控えめな間接照明を上書きする、東向きの窓から差し込む青みがかった日差し。
     夢から覚めたような心地だった。
     あるいは実際に眠りから目を覚ましたのかもしれなかったが、どちらであるのかを確かめるのは、自分一人では困難だ。次に感じるのは強烈な違和と不安感。背筋を這い上がるおぞましいそれを押し殺し、デバイスを探る。何千、何万と繰り返してきた動きは、頭が漂白されようと、体が覚えている。適切に作動した。
     現在時刻の確認、GPSを起動し現在地点を把握。今は朝、ここはシアトルの安価なモーテル「キャビン・キャビン」。最後に残されたメモを開く──昨晩はお楽しみだったらしい。
     それならこれは、予想外の事態というやつなのだろう、おそらく。紛れもなく自分のことであるというのに、どこまでも他人事のように感じる。面倒だと一蹴するには、まだ状況の把握が済んでいない。
     隣で女が死んでいた。
     俺は裸、女も裸。ログを確認すれば、間違いなく昨晩、このモーテルに共に入った相手だ。メモによれば、名はミランダ。
     ミランダは頭の中身をベッドの上にぶちまけて絶命していた。銃だろう。死体は冷たく、硬い。発砲がありながら自分が目を覚ませなかったということは、何らかの細工をされていた可能性が高い。後で体内の薬物反応と魔術反応を検査するべきだ。
     都合の悪いことに、俺は今、銃を持っている。しかも、約42時間分の記憶がなく、平常時から証拠能力を有する身体をしていない。自分の身体的都合で残している各種記録を提出しようにも、世間にカテゴライズされたスーパーパワーは、それを証拠とは看做さないだろう。素直に善意の通報をしたところで、ヘタを掴むだけ。
     成程、詰んだな。
     シャワーを浴び、煙草を吸いながら、眠気が払われた思考はあっさりと結論に辿り着いた。ならば後に取るべき手段は一つだけだ。
     服を着直し、所持品を手早く回収する。窓を開け3階から飛び降りた。袖口から流れ出た液体金属が滑り台のように形を変えて衝撃を吸収し、無事に着地する。
     窓が裏口に面していたのは幸いだった。ホログラムを起動し、見目を装う。選ぶのは香港で見かけた配達員。マインドパレスに仕舞われた動きを思い起こす。細やかな動作の癖、呼吸のタイミング、慣習づいた姿勢。全てがトレースされたもう一人のどこかの誰か。あとは歩き出すだけ。

    ⬛︎

    「それで逃げて来ちゃったの!? それはダメでしょ!?」
    「ボリュームを落とせ、頭に響く」
    「言っとくけどそれ、薬のせいじゃないからね! ただの二日酔いだから!」
    「俺が酔い潰れて銃声に気付かなかったと? そんな訳あるか」
    「ご不満があるならそれ見て! そんでさっさと帰って!」
     冷めたチキンスブラキ。壊れて同じ曲しか流せない80年製のジュークボックス。決まって同じ音が飛ぶブライアン・ウィルソンの「英雄と悪漢」。ミシシッピ郊外の道路沿いに建つ、人のいない夜のダイナー「アンブロシア」。
     キャンキャンと甲高い声と共に、カウンターの奥からタブレットが投げつけられる。受け取ったそれに視線を落とせば、なるほど確かに、アルコール以外の薬物反応は検出されていなかった。
    「相手はミスティックか」
    「往生際が悪過ぎる…」
     のっそりと顔を出したメタボリックの男。今の名前はトミー・メルセデス。かつてキューバで揉め事を起こしてこの国まで亡命してきた身の程知らずの機械バカ。その際に俺を雇ったが、その時の返済がまだ終わっていない恥知らず。
     デバイスのメモには略歴と顔、末尾に『使える』の文字があった。さっぱり覚えちゃいなかったが、向こうは別だったと見えて、「またぁ?」と落胆した声と共に裏口から俺を迎え入れた。適当に話を合わせるまでもなく、向こうはこちらのことを知っていた。メモに残っていた五度目という記録は確からしい、六度目に更新しておく。
    「大体、何でぼくのところに来たの。君への負債ならちゃんと返したはずだけど」
    「嘘をつくな。3万ドル残ってる」
    「アー、昨日払ったんだ。メモに残ってないだけじゃない?」
    「残ってない。だから未払いだ」
    「ガッデム」
     こいつがまだまだ小遣い稼ぎをしていることが良くわかる秘密の小部屋で簡易の検査をし、結果が出るまで飯を食べていた。チキンスブラキの味はまあまあ。小遣い稼ぎなんて欲を出さなきゃ、壊れたジュークボックスの修理ぐらいとっくに出来ているだろうに。
     タブレットを返し、自身のメモと向き合う。傍らで死んでいた女、ミランダ。記録によれば、シアトルのバー「カモメのとまり木」で出会い、意気投合して最寄りの「キャビン・キャビン」へ。なるほど、よくあるコースだ。
    「カモメがとまり木に留まるか?」
    「知らないよ。……ねえ、どうするの? 言っとくけど、その事件なら夕方のニュースでやってたし、モーテルに入る君を映した防犯カメラの映像もばっちり流れてたから。アルフレッド・キャシディがさ、いかにも悲しそうな声で『シアトルで悲しい事件が』なんていうから、ぼく思わずもらい泣きしちゃって」
    「知るかよ」
    「アメリカから出るの?」
    「検討中」
     この件が俺を嵌めるために仕組まれたものなのは確かとして、問題は「誰が」かつ「何のために」かだ。そのどちらかが分かればエンドチェックが分かり、手の打ちようもある。逃げ出せばそれでカタがつくものか、火の粉を払わない限りいつまでも付き纏ってくるものか。
     インターネット上にアップロードされた、ニュースのアーカイブを見る。お上品なニュースキャスターが痛ましげに話す事件の概要、死体発見時の状況を早口で語るモーテルの女主人のインタビュー、現場付近の防犯カメラが捉えた画質の荒い俺の姿、キャスターが締め括る「被害者の身元は現在分かっておりません」の声。
     眉を寄せる。
    「分かってない?」
    「らしいよ。君、メモに残してないの? そのー、あのー、ンッンン、つまり、アレ、したんでしょ」
    「セックスに肩書きは要らん」
    「きみってホントに最低だ」
     ミランダ。ブルネットの髪と小麦色の肌を持ったエキゾチックな女。会話の端々には教養が伺え、身体には金をかけていた。シアトルには恋人と別れた傷を癒すために来たという、絵に描いたような行きずりの女。
     メモに残っていた生前の彼女の姿は、今朝、ベッドの上で見た変わり果てたものとは似ても似つかぬ、とびきりの美女。
     フックになるとすれば、彼女からだ。

    「……ねえ、シャイロック。君にこんなこと言うのもなんだけどさ」
     いかにも物言いたげな顔をしたトミーが、バツが悪そうにカウンター越しから身を乗り出す。腹に溜まった脂肪が段を刻む様は見るに耐えないが、存外に真剣な眼差しが、氷が溶けた空のグラスに反射しているのを、横目に見やった。
    「何だ」
    「初めてじゃないでしょ、その、女の子絡みでこういう目に遭うの。だからさ……ええと……もう、やめた方がよくない?」
    「やめるって、何を」
    「その、いろいろと」
    「どれをだよ。まさか全部か?」
     あまりにも曖昧な表現に、思わず鼻を鳴らした。
     リスキーな女遊びを? 深追いの調査を? 朝一番に殺人現場と遭遇しながら、落ち着き払って部屋を去るような選択を? それとも、この仕事そのものを?
     どれもこれも、無理な相談だ。
     馬鹿にされたと感じたらしいトミーが、憤慨したように鼻息を鳴らす。
    「もう知らないからね! シャイロックのばーか! アレが爆発しろ! それ食べ終わったらさっさと出てってよ、三万ドルはちゃんとそのうち払うから!」
     騒がしく秘密の小部屋へ帰っていく店主の足音を聞きながら、冷めたチキンスブラキを残し席を立つ。全身を覆っていたホログラムがトミーの姿を模す。ゴミ捨てに行くような気軽さで、アンブロシア・ダイナーを後にした。

     はずだったのだが。
    「おい、てめえ」
     背後からかけられた無愛想な声と、鼻腔を撫でる獣臭。
    「何でそんなカッコしてんだ?」
     銃の引き金を引くのと、獣の唸り声が響くのは同時だった。けれど威力は桁違いだ。トラックの衝突でも受けたように体が吹き飛び、アンブロシア・ダイナーの薄い壁へとぶち当たった。咄嗟に体と壁の間に液体金属で盾を作っておかなければ、壁から飛び出した金属棒が腹を突き破り、ゲームセットになっていただろう。
     突然吹き飛ばされた外壁と、巻き込まれた玩具たちに、トミーがパニックになったように訳のわからない言葉を喚き立てている。彼に売られた訳ではないらしい、少しばかり同情した。
     砂埃の先から、獣の唸り声と、重々しい金属の擦れる音。液体金属を銃に組み替え、ホログラムを切る。ダイナーに立ち寄ったシャイロック・キーンでも、ゴミ捨てに出たトミー・メルセデスでもない姿へ。
    「あんまりな歓迎じゃないか、ボス。一緒にアメリカを救った仲だろ?」
    「メモの読み上げは要らねえよ。こっちは覚えてる。おいローンシャーク、大人しくついてこい。じゃねえと次は足を砕くぜ」
    「やってみろよ、お優しいヒーロー様に出来るのか?」
    「あァ? 本気で言ってんのか?」
    「まさか」
     銃を構える。
     砂埃の先、月明かりに照らされて、壊れた鎖に繋がれた巨大な獣が姿を現す。珍しくも記憶の中に残っていた『知った』顔に、マスクの下で引き攣った笑みが漏れた。
    「で、誰に頼まれたんだ? 犬っころ」
    「さあね。テメェで調べな。それと、」
     男の名はライカンスロープ。
     人の形に改造された獣。
     ヒーローでなく、ヴィランでなく、依頼で動く同業者(マーセナリー)。
    「犬って言いやがったな、殺す」
     それと、めちゃくちゃ人間が嫌い。

    〈to be continued.〉


    ローンシャーク:http://character-sheets.appspot.com/dlh/edit.htmlkey=ahVzfmNoYXJhY3Rlci1zaGVldHMtbXByFgsSDUNoYXJhY3RlckRhdGEY0KOAZgw

    【拝借】
    ライカンスロープ/さぬきさん
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    DONE(1)はタグ参照。
    タイトル通りの自PCの小話。

    ■ローンシャーク
     超人的な瞬間記憶能力と再現能力を持つ傭兵。瞬間記憶によって再現した武装と、トレースした他人の技を使って戦う。能力の代償に日々記憶を失い続けている男。
     金にがめつく、プライベートでの女遊びが激しい。
     セカンド・カラミティ以後はヒーローサイドの仕事を請け負うことも多い。曰く、多額の借金ができたからだとか。
    『ローンシャークの隣で女が死んでる話(2)』 例えば。
     切符を買おうとして、券売機の前で手が止まったとき。
     そうして考える。──『今、俺はどの券を買おうとしていたんだ?』
     東へ行くのか? それとも北? リニアに乗りたかったのか、それともメトロ? 疑問はやがてより根本的なものになっていく。つまるところ──ここはどこだ?──俺はどこから来た?──俺は誰だ?──そういう風に。
     振り返っても何もなく、前を見ても行く先は見えない。雑踏の中で立ち止まって泣き喚いたところで意味はないので、ただメモを開く。考えがあってのものではない。ただ手にした銃の銃口を自分に向けることのないように、空腹の満たし方を忘れないように、体に染みついたルーティンに従うだけ。
     メモの中には、今までのセーブデータがある。それをロードし、新しいセーブデータを残していく。その繰り返しで、ローンシャーク──あるいはシャイロック・キーン──少なくともそう名乗る誰か──は出来ている。
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    hasami_J

    DONE(1)(2)はタグ参照。
    タイトル通りの自PCの小話。

    ■ローンシャーク
     超人的な瞬間記憶能力と再現能力を持つ傭兵。瞬間記憶によって再現した武装と、トレースした他人の技を使って戦う。能力の代償に日々記憶を失い続けている男。
     金にがめつく、プライベートでの女遊びが激しい。
     セカンド・カラミティ以後はヒーローサイドの仕事を請け負うことも多い。曰く、多額の借金ができたからだとか。
    ローンシャークの隣で女が死んでる話(3) 時刻は昼下がりを迎えていた。
     老女、シスター・フローレンスの日常は、日々静かで穏やかなものだ。神に仕える者として、神の家の雑務をこなし、行き場を失った幼児たちの世話をし、祈りと共に眠る。
     もちろん、本当はそんな単純なものではないのだろう。世界は幾度も崩壊の危機に晒されているし、今日もどこかで悲劇が起きている。そうでなくとも、セカンド・カラミティの被害を色濃く受けた地域の一角に建つ教会は、未だに過日の姿を完全に取り戻せてはいない。
     花壇への水やりを終え、裏手に建つ墓地へと向かう。供物の取り替えや、雑草の処理、墓石の手入れ。やるべきことはたくさんあった。
     墓は真新しく、多かった。惨劇で喪われた多数の命が、この土地に眠っている。けれどそれは惨劇の中のほんの一部でしかないのだ。この場所に立つたびに、フローレンスは胸が締め付けられるような思いに襲われる。この中には、彼女よりも若い知り合いも眠っている。
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    DONEタイトル通りの自PCの小話。

    ■ローンシャーク
     超人的な瞬間記憶能力と再現能力を持つ傭兵。瞬間記憶によって再現した武装と、トレースした他人の技を使って戦う。能力の代償に日々記憶を失い続けている男。
     金にがめつく、プライベートでの女遊びが激しい。
     セカンド・カラミティ以後はヒーローサイドの仕事を請け負うことも多い。曰く、多額の借金が出来たからだとか。
    『ローンシャークの隣で女が死んでる話』(1) シーリングファンが回る天井、糊の利いた清潔なシーツと、皮膚を撫でるリネン。控えめな間接照明を上書きする、東向きの窓から差し込む青みがかった日差し。
     夢から覚めたような心地だった。
     あるいは実際に眠りから目を覚ましたのかもしれなかったが、どちらであるのかを確かめるのは、自分一人では困難だ。次に感じるのは強烈な違和と不安感。背筋を這い上がるおぞましいそれを押し殺し、デバイスを探る。何千、何万と繰り返してきた動きは、頭が漂白されようと、体が覚えている。適切に作動した。
     現在時刻の確認、GPSを起動し現在地点を把握。今は朝、ここはシアトルの安価なモーテル「キャビン・キャビン」。最後に残されたメモを開く──昨晩はお楽しみだったらしい。
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    DONEタイトル通りの自PCの小話。

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     超人的な瞬間記憶能力と再現能力を持つ傭兵。瞬間記憶によって再現した武装と、トレースした他人の技を使って戦う。能力の代償に日々記憶を失い続けている男。
     金にがめつく、プライベートでの女遊びが激しい。
     セカンド・カラミティ以後はヒーローサイドの仕事を請け負うことも多い。曰く、多額の借金が出来たからだとか。
    『ローンシャークの隣で女が死んでる話』(1) シーリングファンが回る天井、糊の利いた清潔なシーツと、皮膚を撫でるリネン。控えめな間接照明を上書きする、東向きの窓から差し込む青みがかった日差し。
     夢から覚めたような心地だった。
     あるいは実際に眠りから目を覚ましたのかもしれなかったが、どちらであるのかを確かめるのは、自分一人では困難だ。次に感じるのは強烈な違和と不安感。背筋を這い上がるおぞましいそれを押し殺し、デバイスを探る。何千、何万と繰り返してきた動きは、頭が漂白されようと、体が覚えている。適切に作動した。
     現在時刻の確認、GPSを起動し現在地点を把握。今は朝、ここはシアトルの安価なモーテル「キャビン・キャビン」。最後に残されたメモを開く──昨晩はお楽しみだったらしい。
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    hasami_J

    DONEデッドラインヒーローズ事件モノ。続きます。全三話予定でしたが長引いたので全四話予定の第三話になりました。前話はタグ参照。
    メインキャラは自PCのブギーマンとソーラー・プロミネンス。お知り合いのPCさんを勝手に拝借中。怒られたら消したり直したりします。
    『ブギーマンとプロミネンスが事件の調査をする話③』 彼女の父親はサイオンで、母親はミスティックだった。
     二人は出会い、愛を育み、子を産んだ。
     少女は超人種ではなかった。
     何の力も持たぬノーマルだった。
     少女の両親はそれに落胆することはなかった。あるいは落胆を見せることはしなかった。親として子を愛し、育て、慈しみ、守った。
     けれど少女はやがてそれに落胆していった。自らを育む両親へ向けられる、不特定多数からの眼差しが故にだ。
     超人種の多くは超人種だけのコミュニティを作る。それは己護路島であったり、その他の超人種自治区であったり、あるいは狭い収容所の中であったりするけれど。
     旧世代の中にその身を置き続けることを選ぶ者もいるが、それは稀だ。
     誰よりも早い頭の回転を持つテクノマンサーに、及ばぬ旧世代が嫉妬せずにいられるだろうか。依存せずにいられるだろうか。その感情に晒されたテクノマンサー当人が、そこにやりづらさを、重さを、生き難さを感じずにいられるだろうか。
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    hasami_J

    DONEデッドラインヒーローズ事件モノ。長くなりましたがこれにて完結。前話はタグ参照。
    メインキャラは自PCのブギーマンとソーラー・プロミネンス。お知り合いさんのPCさんを勝手に拝借中。怒られたら消したり直したりします。全てがただの二次創作。
    『ブギーマンとプロミネンスが事件の調査をする話④』 開会を数日後に控えた夜のスタジアムに、照明が灯る。
     展示品や出展ブースが並べられたグラウンドが、スポーツ中継の時は観客席として用いられる変形型座席エリアが、屋内に用意されたスタジオを俯瞰するVIPルームが、華々しい表舞台からは遠く離れたバックヤードが、そのスタジアムの中の照明という照明が光を放っていた。
     そこに演出意図はなかった。ただスタジアムに満ちていた闇を照らすことだけを目的とした光だった。かくして夜の己護路島内に、けばけばしいほどの光に包まれたオノゴロ・スタジアムが浮かび上がる。

     スタジアムの全ての照明が灯ったことを確認し、ラムダは制御システムをハッキングしていたラップトップから顔をあげた。アナウンスルームに立つ彼女からは、煌々と照らされたスタジアムの様子が一望できた。天井からは己護路エキスポの垂れ幕が悠然と踊り、超人種の祭典を言祝ぐバルーンが浮いている。
    20127