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    チヒ柴 2024/10/15
    柴さんお誕生日おめでとう。
    16歳のチヒロと柴さんが、柴さんのお誕生日に焼肉に行く話です。

    #チヒ柴

    柴さん誕生日2024柴さんの誕生日を知ったのは東京に来てからのことだった。スピード違反で切符をきられた柴さんが、運転免許証を取り出したことで、初めて誕生日を知った。
    「今日、誕生日じゃないですか」
    「ああ、そう。知らんかったか」

    自分の誕生日はチビの頃から毎回祝ってもらっていたのに。柴さんは毎年プレゼントをくれた。蛍光色に光るスライムや、指を挟むガムのジョークグッズ、どうみてもガチャガチャで取ってきたちゃちなバッタのミニチュアなど、正直いらないものばかりだった。でも、一緒に持ってきてくれるケーキは美味しくて、誕生日の数日前から待ち遠しくてソワソワしていたのを覚えている。当日の夜になると電灯を消し、年齢分のろうそくを灯して、三人で吹き消した。いちばん張り切っていたのは父さんだったし、おそらく炎を吹き消したのも父さんの息だった。でも、そんなことはどうでも良かった。「せーの」と声を揃え、一斉に息を吸う瞬間、三人で力一杯息を吹きつける瞬間、炎が消え真っ暗になった部屋で笑い合うあの瞬間が好きだったから。もちろんケーキはすごく美味しかった。都会の味だ。父さんが半分以上欲しがったけど、そこは譲れなかったから、俺は父さんの攻撃を必死で避け、自分のケーキを守った。柴さんは煙草をふかしながら、俺たちの戦いをゆったりと眺めていた。
    俺は、柴さんのその穏やかで大人びた微笑みが好きだった、と気がついたのは、先日自分が十六歳の誕生日を迎え、もう取り返しがつかないことを知ったからだけれども。俺たちの道行きは、地獄までの一方通行だ。ケーキを食べたところで、あの笑顔はもう戻ってこない。

    「焼肉でも行くか」
    誕生日を知った俺は、お祝いはあるのか、と口走ってしまった。知らんかったか、の言葉に動揺したのだ。別に俺だって知りたくなかった訳じゃない。しかも、俺の不用意発言を聞き漏らさなかった柴さんは、焼肉を提案してきた。なんなんだ。俺が毎日頑張っているツッコミは全くとりあってくれないくせに、こういう時だけ反応するなよ。ボケたかったらツッコミは毎回ちゃんと拾えってヒナオさんも言ってるだろ。
    まあいい。
    正直なところ焼肉は、行くと柴さんの払いになるので、祝いにはならないところが嫌だった。祝いだ、というのであれば、俺の金で祝いたい。でも、ヒナオさんのところでたまに受け取る小遣いのような給金では、豪勢な肉を奢るなんて、まだ無理だった。早くもっと稼げるようになりたい。その方が妖刀も早く探し出せるし、この人と対等に歩けるはず。
    「いつもの店でええよな」
    俺の沈黙を無視し、柴さんは話と車を進め、馴染みの焼肉屋の駐車場に車を止めた。俺だって腹は減っていたので、車を降りる柴さんについて店に入った。この人に奢ることができないからといって焼肉を食べたくないわけではない。
    店内は賑わっていた。そういえば今日は金曜日だった気がする。金曜日の二十一時に混んでいなかったら、店が潰れる。そんなことは十代の俺でも分かる。繁盛しているのはいいことだ。人混みに苛立つ気持ちを抑え、柴さんを伺った。
    「チヒロ君、どうする?ちょっと待ったら席を片してくれるって」
    頷いて同意する。別の店を探す方が面倒だ。
    「ほな、ちょっと外で煙草吸うてくるわ。早めに呼ばれたら、教えに来て」
    「わかりました」
    一人でレジの横に立つことになった俺は、その場でぼんやりと待っていた。店員が探しに来た時に誰もいないと困るだろう。レジの周りには追加で購入できる小物が並んでいた。のど飴、ミントガム、カラフルなグミ、ストラップ、メモ帳、キラキラクリップ、熊のぬいぐるみ、知らないキャラクターのキーホルダー、おもちゃの指輪、星型のネックレス、カラフルストーンの腕輪。腕輪。数珠の腕輪、パワーストーンのブレスレットだ。
    こういうブレスレットを、昔、雑誌か何かで見た気がする。もしかしたら、実家にあった刀剣の本だったかもしれないし、ヒナオさんの店にあった妖術師向けの雑誌広告だったかもしれない。いずれにせよ、それを身につけていたのは、黒い服を着た精悍な男性だった気がする。咄嗟に値段を見た。今日の手持ちで買える値段だ。三十代の男性に贈るものが、この値段で良いかはよく分からなかったのに、気がつけば色とりどりの石の中から、できるだけ渋い色の石を選んでいた。黒く、光にかざすとオレンジっぽい艶がでるやつだ。これだ、と思った時にはもうレジに並んでいた。レジでは無表情のおばさんが事務的にお金を受け取って、値札をちぎった。袋にはいれてくれなかったが、まあ、そういうのはどうでもいい。早いほうがいい。
    「あ、チヒロ君、もう席に座れるん?」
    喫煙所に現れた俺に柴さんは当たり前のことを聞いてきた。俺は質問には答えず「まったくもう」と言いながら柴さんに近づいた。まったくもう。
    「柴さん」
    「ん?」
    「お誕生日おめでとうございます」
    聞いた柴さんは目を丸くしていた。動きが止まり、残り短い煙草から灰が落ちた。
    「あの、」
    自分が続きを口にすると、柴さんの金縛りは解けた。彼は持っていたポケタイで煙草を消した。いやあ、チヒロ君に誕生日を祝われる日がくるなんてな、と呟いていたが、そんなに驚くようなことだろうか。
    「これ大したものじゃないですけど、もらってください」
    そういって柴さんの手首を取り、さっき買ったものを柴さんの手のひらに握らせた。柴さんの手は、珍しく汗ばんでいた。自分の手も汗まみれだった。お互いの汗で、触れたところが少し粘ついていた。密着していたかもしれない。よくわからない。もっと触っていればよかったのに、すぐに手放してしまった。
    俺が手を離すと、柴さんはそうっと手を開き、握らせたものを眺めた。
    彼は笑わず、怒らず、悲しまず、口を四角く開けた。綺麗に並んだ丈夫そうな歯が見える。それだけだ。この人が健康そうだ、ということは分かるが、どんな感情でいるかはちっとも分らない。父さんもそういう時があった。なんなんだ。俺も大人になれば分かるのか。
    「ありがとう」
    この人の感情が分からず戸惑う俺と、しばらく四角い口のままで固まっていた柴さんの間で、何秒ぐらいたったのか分からなかったが、しばらくの後、柴さんは穏やかな微笑を浮かべて俺に礼を言った。好きな笑顔だった。柴さんはその後、ブレスレットを広げ、なんの頓着もなく左手に装着した。
    嬉しかったんだろうか。
    それとも、もらったから仕方なくつけているんだろうか。
    そもそも、あれは格好いい、なんだろうか。
    子供っぽいと思われていないだろうか。
    どうしよう。わからない。
    聞いたらはっきりするのかもしれないが、恥ずかしすぎて聞きたくない。
    この時俺は人生で初めて、面倒くさいから、ではなく、恥ずかしいから、という理由で質問をするのをためらった。はあ、どうするのが正解だったんだろう。
    焼肉が終わっても、柴さんはパワーストーンのブレスレットをはずさなかった。気に入っているのか、験担ぎなのか、気遣いなのか。聞いてみたいが、勇気がなくて切り出せない。もっと大人になれば、大人の関係になれば、聞けるんだろう。

    自分が大人になるということは地獄のさらに奥に向かうこと。復讐と戦闘こそが地獄だとおもっていたのに、それだけではないのかもしれない。世界は理不尽で、自分はどうしようもなく子供だった。








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    DONEチヒ隊 2025/01/19 チヒロと巻墨

    61話、カフェでランチを食べた後に京都へ向かうチヒロと巻墨の小話。63話で巻墨の名前が判明して嬉しくて書いた。チヒ隊かどうかは微妙な感じで特に何も起こらない。
    豪快に京都へ「車で行くんですか?電車の方が早くないですか」
    店を出てさっそく駅に向かおうとした千紘を巻墨は引き止め、車で移動すると告げた。
    「車の方が安全だろ。装備もしてあるしな」
    隊長は得意げに説明した。斜めに切り上がった口端が車への自信を表していた。可愛らしいな、と千紘は感じたが黙っていた。それより装備ってなんだ?
    「装備とら?」
    「武器や小道具が車に隠してあるんですよ」
    炭がすかさず説明した。
    「へえ」
    さすが忍びだ、と千紘は感心した。その評価が伝わったのか、隊長は満足げに頷いた。こくり。
    「じゃあ、車を出しますから、ちょっと場所を開けてください」
    炭の依頼に千紘は振り返った。駐車場はどこだろう。きょろきょろと周囲を見渡す千紘の肩を、杢は長い腕で掴んだ。最初は肩を強く掴まれたが、すぐに柔らかく抱きかかえられ、店の脇へそっと移動させられる。杢の腕も身体も熊のように大きく、肩を抱かれただけなのに、千紘は全身を包まれた気持ちになった。なんだか温かい。杢と千紘は、歳はさほど離れていないと聞いた。実際、杢は隊長や炭よりも若者らしい軽い発言が多い。しかし、なんとはなしに信頼したくなる安定感が杢にはあった。身体の大きさだけではない。ほどよい雑さと丁寧さのバランスが好ましあのだと思う。
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    自分の誕生日はチビの頃から毎回祝ってもらっていたのに。柴さんは毎年プレゼントをくれた。蛍光色に光るスライムや、指を挟むガムのジョークグッズ、どうみてもガチャガチャで取ってきたちゃちなバッタのミニチュアなど、正直いらないものばかりだった。でも、一緒に持ってきてくれるケーキは美味しくて、誕生日の数日前から待ち遠しくてソワソワしていたのを覚えている。当日の夜になると電灯を消し、年齢分のろうそくを灯して、三人で吹き消した。いちばん張り切っていたのは父さんだったし、おそらく炎を吹き消したのも父さんの息だった。でも、そんなことはどうでも良かった。「せーの」と声を揃え、一斉に息を吸う瞬間、三人で力一杯息を吹きつける瞬間、炎が消え真っ暗になった部屋で笑い合うあの瞬間が好きだったから。もちろんケーキはすごく美味しかった。都会の味だ。父さんが半分以上欲しがったけど、そこは譲れなかったから、俺は父さんの攻撃を必死で避け、自分のケーキを守った。柴さんは煙草をふかしながら、俺たちの戦いをゆったりと眺めていた。
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