お題:植物園/botanical garden「植物をホテルにたくさん置きましょう!お花をみるときっと罪人のみんなも癒されると思うの!」
ホテルのオーナーであるプリンセス・チャーリーの一声から、「ハズビンホテル・植物園化プロジェクト」が始まった。
チャーリーは、はりきって地獄中の花屋に注文をかけている。
しかし、彼女は大事なことを忘れている。
ここは地獄だ。とげや毒のある植物や造花ばかりが存在している。果たしてそれらで癒される心が罪人に残されているのか。ーーー地獄生まれのチャーリーは、とげのない、現世にある花たちを知らない。癒しというよりは、妖艶な美しさや危険な美しさを孕む花々しか彼女は知らない。チャーリーは、息巻いて、癒しではない、そういった、地獄基準で「うつくしい」花を大量に注文しているのをよそに、アラスターは自室へと向かった。
そして、彼女はもう1つ大事なことを忘れている。
ホテルの共同経営者ーアラスターはどんな美しい薔薇も枯れさせてしまう能力を持っていることだ。
自室に戻ったアラスターは、一輪の枯れた薔薇を見つめている。ミーティングの際に、「ほら!アラスター!花って癒されるわよね!」と、現物を持ってこられたのだ。その時は、そうですネ、とだけ答え、すぐに花を背に隠した。もらった薔薇は彼の背後ですぐに枯れ始めていた。
アラスターは美しいものが好きだ。彼なりの基準ではあるが、美しいものが好きだ。
腕の良い奏者が奏でるストリートジャズ。罪人の悲鳴が奏でる演奏。人肉を含めた美食。
そしてー真っ赤な薔薇。
道端に咲く赤い薔薇を可憐だと思う。
以前、気に入った薔薇を他の悪魔に取らせようとしたら、(いつものことではあるが、)どこかに逃げて行ってしまった。
そういえば、あの薔薇のある場所はどこだったろうか。
しおれた一輪の薔薇を片手に、アラスターは出かけて行った。
前に気に入った薔薇を見つけた公園に到着すると、以前にも増して人気が少なくなっていた。チカチカと点滅する電灯には「RADIO DEMON IS IN THIS PARK」の貼り紙がされており、人気が少なくなってしまった原因が察せられる。しかし、アラスターにしてみれば、この公園中を独り占めできたようで悪い気はしない。アラスターはベンチに深く腰掛け、ただでさえ大きな両腕と両足を伸ばしながら、公園を見回した。
公園には、相変わらず、真っ赤な薔薇が咲いている。
ホテルの罪人たちに持って帰ろう、と一瞬だけ考えたが、ー可笑しくなってアラスターは1人で笑ってしまった。
罪人は罪人でしかない。花で癒されるような悪魔であれば、そもそも地獄に堕ちていないだろう。それに、花を枯れさせてしまうアラスターは自分で花を持ち帰ることなんてできない。ひとしきり笑った後、持ってきたしおれた薔薇を公園の薔薇の横に添え、アラスターはホテルへと踵を返した。
帰ると、アラスターの自室にも大量の花が運び込まれていた。
どれも赤い花だ。文字通り、部屋が「色づいた」。
アラスターは息を大きく吸い込み、目の前の光景に思わず笑みをこぼす。
しかし、その後すぐに枯れていく、いくつかの花を見て、己が悪魔でしかないことを思い出した。ラジオデーモンは花を枯れさせてしまう悪魔なのだ。
それでもーーー
それでも目の前の自分を取り囲む赤色の「植物園」に、アラスターは、嫌な気持ちにはならなかった。たとえ枯れていくとしても。
☬☬☬
「なにこれ!!!」
翌日、勝手にアラスターの部屋に入ったヴァギーが見たものは、大量の枯れた花々だった。実は、チャーリーが頼みすぎて入らなかった分の花をアラスターの部屋に運んでいたのだ。しかし、ヴァギーは、部屋にいるアラスターを見て、少しだけはにかんで笑ってしまった。こんなアラスターの表情は、はじめて見た。案外、花は罪人を癒してくれるのかもしれない。
枯れた花々をベッドにして、アラスターは満足げに眠っていた。