お題:声/voice生前に一度だけ、「男らしくない声だ」と言われたことがある。
その時は、何を言われているのかよく分からなかったが、恐らく、侮辱をされたのだと分かった。眉をひそめながら、その場をやり過ごしたが、俺からすると、彼の声こそ、気持ちが悪い。喉はタバコに犯され、本当に同じように声を生業にしている人間とは思えなかった。出てくるトークも、つまらない。彼のラジオ放送の際、自分は、爪を見ていたという記憶しかない。
しかしーーー。
しかし、彼の悲鳴だけは本当に素晴らしかった。
ひとの人生の最後の瞬間を見届ける時、非常に満たされた気持ちになる。どんなにつまらない人間でも、断末魔だけは、心地よく脳髄に響いてくれた。
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アラスターは、思い出を頭のよそにやり、目の前のラジオブースのミキサーをいじり始めた。自分の声は好きだ。そして、それ以上にラジオを通したノイズ混じりの声が好きだ。
死ぬ前も、地獄に来てからも、ラジオブースでやることは変わらない。
ミキサーを一通り弄った後、腕を上にあげ、伸びをした。アラスターの口からは、普段より少し低い声の息が漏れ出る。その後、アラスターは大きく息を吸い込んだ。
早口言葉をいくつか。一つずつ、はっきりと、発声する。
長い舌をうまく使いながら。
そうして、アラスターは、日課である、ラジオと、自分のチューニングを終わらせる。
ホテルのフロントに行くと、チャーリーがいた。
「アラスター!おはよう!」
何かをせっつくようなチャーリーに、アラスターは、いくつかのギャグを披露した。
彼女はどうやらアラスターのギャグが好きなようで、たまにアラスターのギャグに大笑いしている。リスナーの笑い声というのはうれしいものだ。
調子に乗って、チャーリーと2人で笑い合っていると、外から突然爆発音がした。
どうやら誰かしらが爆弾を投げてきたようだ。
チェリーボムといい、サーペンシャスといい、ホテルの壁は、爆破されることが多く、アラスターはその度に修復作業をしなければならなかった。
「わ~~~!!!」
「もう少しいい壁にしますかねえ~」
アラスターが指をパチンと鳴らすと、手下が影から現れ、修復を始めた。
同時に、アラスターの触手が、爆弾を投げ入れたであろう悪魔を捉える。ラジオデーモンの周囲にブードゥーのシンボルがいくつか浮かび上がるなり、襲撃してきた悪魔達は悲鳴をあげながら粉々になった。
「ん~~~!!!良い声ですね~~~!!!」
襲撃者達が粉々になっていくのを見届けた後、アラスターは、チャーリーに促され、ホテルへと戻った。いつの間にかエンジェルダストやニフティもフロントに集まっていた。
彼らは、毎日のようにラジオ司会者の話を聞く。一部は辟易しながら。一部は、嬉々として。
「アルの話はやっぱりとっても素敵だわ!!!」
「ギャグはともかくさ。声もいいよね、ちょっと古いけど。」
今日は、悲鳴以上に、目の前のリスナー達の笑い声がなぜか心地よく聞こえた。