お題:創造/creation創造とは退屈から生まれるらしい。
しかし、退屈にも限度があるというものだ。
アラスターは、ラジオをつけ、コーヒーを淹れた。
そして、新聞を読みながら簡単な朝食をとる。
これが、アラスターのモーニングルーティンだ。
朝食は、普段なら、新聞屋だったり、家の裏で捕れた鹿だったりするが、今日は獲物を狩るにはなんとなく気分が乗らない。妙に怠い身体を引きずるようにしながら、ひとまずトーストを焼いた。ザクザクと音を立てながらトーストを食べると、新聞が汚れていく。
新聞に載っているのは、どこぞのCEOが新商品を出したとか、地獄の新しい店がオープンしたとか。魅力的なニュースはなさそうだ。
ラジオから流れる曲も自分の死後のものが多く、耳障りだ。パーソナリティのトークもあまり面白くない。
今日もラジオにできるようなネタがない。アラスターのネタ帳には白紙が続いている。
ーーー退屈だ。何か、刺激的なエンターテインメントが欲しい。
ふうっと溜息をつくと、上向いていたコーヒーの湯気がゆらゆらと曲がっていく。
コーヒーの湯気をぼうっと見ていると、しばらく使っていない外出用の手袋が目についた。バーガンディーの手袋は、気分をあげるには丁度良い。
白紙の多いメモ帳を片手に、いつもよりもずっと重く思える扉を手袋をはめた手で開け、アラスターは外に出た。
☬☬☬
地獄の空気は、排煙と怒号と薬の匂いにあふれている。
珈琲の香りなんてものはかき消されるし、ジャズの音だって喧嘩や銃の音に負けてしまう。
目にも耳にも障る罪人達を横目にアラスターは街を歩いた。
昔、ストリートジャズをやっていた街角に来てみたが、今日は誰もいないようだ。昔は飛び入り参加したこともある程、アラスターはストリートジャズの音を好んでいた。他の場所はどうだろうか。どこかで楽しい音がないかと耳を立ててみる。
耳に飛び込んできたのは、ジャズでもなんでもなく、「Trust Us」という音だった。めまいがしそうだ。
忌々しいテレビがどこに行っても目につく。
私の声は皆に覚えられているはずだが、こんなに騒がしいのでは仕方ない。
全くもって、面白くない。
気落ちしながらただひたすら歩く。
ふと目線をあげてみれば、街に設置してあるテレビの前に人だかりができていた。
テレビに面白いものなんて映っていないだろう。しかし、周りの悪魔はテレビに釘付けになっている。見れば、地獄のプリンセス・シャーロット・モーニングスターが画面に映っていた。彼女は、この地獄に罪人の更生施設としてのホテルを建てるつもりらしい。
無意識に口角があがる。
ーーー退屈な日々が終わる予感がした。
罪人達に更生なんてできるわけがない。画面の中の夢見がちなお姫様は、歌まで歌い出した。このホテル事業に参入すれば、何か面白いものが見られるかもしれない。
ジャケットの中にある白紙のネタ帳を開く。
しかし、アラスターは、いてもたってもいられず、メモを書いている時間も勿体なく思った。そして、そのまま「ハッピーホテル」へと足を運んだ。
このちんけなホテルで、「エンターテインメント」を創造していく。
そんな期待に胸を膨らませ、アラスターはステンドグラスのドアを叩いた。
扉は、家の扉より、ずっとずっと軽かった。
https://www.bbc.com/news/education-21895704