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    メタボリック

    @metabo0330

    推し活楽しい

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    メタボリック

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    前回のショタ🎸の話の続きです。後編!
    今回🎸のショタ要素はないです。
    誤字脱字等は脳内変換してくださると助かります。
    いつものように捏造は当たり前ですので、なんでも大丈夫な方だけ…

    #ルシアダ

    もうここまでくれば、驚くこともない。
    アダムがまた大きくなっていた。
    本人は呑気に寝息を立てながら寝ている。

    「起きろ!!アダム!!!朝だぞ!!!」
    「ウワッ!うるさ!!なに?!なんだッ?!」
    ベッドから転がり落ちるようにアダムが起きた。
    間抜けな姿に笑い飛ばしたくなるが、綺麗な顔が視界に入ると、そんな気持ちも消失した。



    「うぅーん…10代なのはわかるけど…」
    「ハイスクール生くらい…か?」
    エンジェルとハスクはアダムをじろじろ眺める。
    「そんなジロジロ見るんじゃねぇ。無粋だぞ」
    「うん、だいぶ性格があのアダムになってきたね!」
    太々しい態度で、ふんぞり返る姿は正しくあのアダムであるが、容姿はまだ幼い。
    昨日の夜明けの光に照らされて、黄金に輝く瞳が脳裏にこびりついて離れない。

    「…ルシファー?」

    黙ってアダムを見つめ続けていると、流石に気になったのか、アダムの方から声をかけてきた。

    見れば見るほど、エデンの姿を思い出す。
    どんどんと近づいてくるエデンの頃の姿に焦りが募った。
    邪気のない精神に、罪の証がない綺麗な体。
    美しい園で全てに愛られ、愛されていた無垢で清らかな青年の姿を嫌でも思い出す。

    『ルシファー様』

    陽だまりの中で、柔らかな声が私の名を呼ぶ。
    あの声で名を呼ばれる。それだけで体の底から湧き上がる高揚感が身体中を満たした。
    天使とは違う、その柔らかな肌が触れてくるたびに、この手で握りつぶして、絞め殺してやりたくなる。動かなくなった肉体を、魂を、大事に仕舞って、誰の目にも見えないように隠して、永遠に自分のそばに置いておきたい。
    これ程までに歪んで、ドロドロと煮詰まった激情は、人の手には余りすぎる。この歪んだ思いをぶつけられたらどんなにいいか。

    だが、そんなもの、この完璧な世界には必要ない。
    こんな醜いもの、美しい園には不要だ。
    こんな酷いもの、アダムに向けてはいけない。

    リリスが好きだ。愛してる。
    彼女に向ける感情は、甘くて、柔らかくて、あたたかい。彼女のことを考えると気持ちがふわふわして温かくなる。
    なら、アダムは?
    アダムはなんだろう?
    この醜い執着の根源は、何につながっているのだろうか。


    「ルシファー!!」

    記憶より幾分か幼く高い声が名前を呼び、現実へと引き戻してくれる。
    いつの間にか自分より高くなった目線に合わせるように顔を上に向けると、透き通るような美貌が現れた。

    欲しい。
    これが欲しくてたまらない。

    唐突にそう思った。
    手を伸ばして抱き寄せる。腕の中に収まりきらなくなった体は、相変わらず温かい。
    「ちょっ、えっ!は、離れろ!馬鹿!!」
    真っ赤な顔をしたアダムが引き剥がそうと掌で顔を押してくる。
    それを押さえ込んで抱きしめる力を強めた。深いため息と共に、自身の激流を飲み込む。
    「マズい」、そう思った時には感情が一気に急降下した。
    いつもの持病がやってきたみたいだ。ここ数日は大丈夫だったのに。
    娘の前でこんな醜態を晒すことになるだなんて。
    見られたくない。なのに、何をするにもやる気が出ない。息をするのも怠い。そして、何かにせき立てられているかのような焦燥感を感じた。

    「…おい?どうしたんだ?」

    こちらを労わる声が聞こえる。この声を聞くだけで、少しだけ気持ちが軽くなる。
    声をもっと近くで聞きたくて、首裏に手を回して、その声の持ち主を手繰り寄せた。
    自身の耳元にあの柔らかな唇を当てさせる。熱い息がかかって心地よかった。

    「…はぁ…嬢ちゃん、コイツのこと、寝かせてくるわ」

    体が宙に浮く感覚がする。
    ふわりと香った匂いは、春風の匂いがした。







    懐かしい歌声が聞こえる。遥か古代の忘れられし旋律。もう人類が歌うこともない、昔の詩。
    体が沈むほど柔らかいベッドの上に寝かせられているはずなのに、頭をのせているはずの枕は異様に固かった。妙に弾力はあるが、固くて、とてもじゃないが寝れたものではない。なんとも質の悪い枕だ。

    「悪かったな、質が悪くてよ」

    意識が浮上する。重たい瞼を上げると、そこにはアダムがいた。どうやら膝を貸してくれていたらしい。
    「アダム…」
    「気分はどうだ?」
    「…最悪だ」
    「そりゃよかった」
    ゆっくりと起き上がるが、頭痛がする。先程までの心地よさがよぎって、またアダムの膝の上に逆戻りする。
    「質が悪いんじゃなかったか」
    「んん〜…」
    「無視かよ」
    さらりと頭を撫でられる。髪を優しく透かれ、歌の続きが奏でられる。
    懐かしい旋律に再度瞼が重くなる。
    「…同じだ」
    「んー?」
    ポツリと呟いた声をアダムは聞き取ったらしい。
    ぼんやりとした頭でゆっくりと言葉を繋いだ。

    「エデンの頃と…同じ」

    旋律が止まる。息を飲む音が聞こえた。
    筋肉質な太腿に顔を埋める。体は少し幼いからか、まだ子どもの輪郭が残っていて、少しだけ柔らかい。
    「…セクハラだぞ」
    「それはいけない、離れるよ」
    幼い子どもの膝に顔を埋めるジジイ。
    確かに犯罪臭がする。
    怠い頭を上げ、離れようとすると頭を撫でていた手で押さえつけられる。非難の声を上げようとアダムの顔を見て、思わず息が詰まる。笑っている。笑っているのに、なんだか泣いてしまいそうな顔だった。

    「エデンの頃の、私は好きか?」

    いつもと似ているが、いつもとは違う質問。
    細長い指が答えを促すように、唇をなぞってくる。

    長い沈黙が流れた。

    何をいっても間違ってそうで、答えに悩む。
    悩んでいる間も異常なほど眠かった。
    確実に言えるのは、アダムが求める答えは出せないということだけだった。
    「アダム」
    だから、名前を呼んだ。これだけは間違えない。間違えるはずがないから。

    「…今の……私が、好き?」

    子どもみたいな拗ねた響きを含んだ問いに、クスリと笑う。実際、今は子どもなんだっけ。

    「好きだよ」

    泣いてしまいそうな子どもを慰めるためだけの“好き”を言葉にした。
    口にすると、やはりしっくりこなかった。この感情は“好き”の2文字で片付けられるほど、簡単なものではない。もっと複雑で、そんな綺麗な感情じゃない。そのことがわかっただけで、少しだけアダムに向けるものの答えが、わかった気がする。
    怠い体を起こして、幼い輪郭が残る頬にキスを送る。そのまま、あの寝心地の悪い膝の上に戻る。
    「ルシファー」
    「……なんだ?」
    アダムの声は眠気を誘うほど、柔らかで心地がいい。
    ゆっくりと返事をすれば、アダムはまた頭を撫でてくれた。
    「またお前と……貴方と、星が見たい」
    アダムはそういって、瞼を覆うように手を被せてきた。暗闇と優しい声にとうとう耐えきれなくなって瞼を閉じた。





    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

    「起きてください、ルシファー様」
    懐かしい声がする。肩を揺さぶられ、渋々目を開けると、美しい容貌が視界の一面にあった。こんな綺麗な魂の形、忘れるはずがない。

    「んへ…?」
    「おはようございます、ルシファー様」

    ふんわりと微笑む姿は正しく、穢れなきエデンの頃のアダムであった。



    どうやら、このアダムにはエデンの記憶しかないようだった。今までの記憶も、こちらに向けてきた感情も、全部無かったことになっている。
    なんだかそれが、とてつもなく面白くなかった。

    律儀になんにでも驚くアダムに、元来面倒見のいいホテルの者たちも嬉々として世話を焼いていた。
    礼儀正しく、純粋無垢なアダムの姿は地獄では絶対に見ることのできない美しい人間だ。
    主が望んだ清く正しい人間は、見ているだけでイライラした。静かで、穏やかな今の方が、断然前よりもいいはずなのに。
    チャーリーが無垢なアダムの世話を焼いている姿に、なんとも言えない違和感を感じる。もの珍しいその姿に、なぜか若干の焦りを感じた。
    違和感には蓋をして、いつものように数ヶ月したら、元の喧しくて、太々しいアダムに戻るだろうと高を括っていた。

    だが、半年経ってもアダムは元には戻らなかった。




    「ルシファー様」
    重くも軽くもない、何も感じられない声色で名を呼ばれた。
    幼い彼からも感じた欲がない。本当に綺麗なだけの存在。
    「……なんだ?」
    この美しい生き物を堕とした、そう考えるだけで胸に鉛が重くのしかかる。彼と話をするのは少し、怖かった。
    「エンジェルに貰ったんです。一緒に食べましょう」
    アダムが差し出してきたのは、いつかエンジェルが幼いアダムに渡した棒つきの大きな飴だった。
    アダムはいそいそと椅子に腰掛けるルシファーの元へやってくる。自然と膝を開けて待っているとアダムが首を傾げた。
    膝の上に乗せる満々だったので、今更引くに引けず、アダムの手を引いて、半ば無理やりに膝の上に乗せる。すると、ほんの少し嬉しそうにした。
    「…デカいな…アダム…」
    「……すみません」
    明らかに自分より背丈の高いアダムが膝の上に座れば、目の前が何も見えなくなる。
    思わず口にした言葉に申し訳なさそうにされる。こっちが悪いみたいなってなんだか気まずい。
    鬱々としているとアダムも気まずいのか、無言で飴を差し出してきた。口を開け、甘ったるいそれに齧り付く。
    パキッと小刻みの良い音と共に欠片が口の中に転がり込んできた。
    バリバリと口の中で砕いているとアダムは満足げに飴をぺろぺろと舐め始めた。

    「前から思ってたんだが、なんで私と分け合うんだ?お前が貰ったものだろう?」
    噛み砕かず、大切そうに飴を舐める様子に余計疑問が募る。
    そんなに大切ならば、大事にしまって自分だけで味わえばいいのに。
    昔から必ず分け与えてくれる。それが少し、こそばゆいい。
    「…さぁ、なんででしょう…」
    困ったように笑われる。本当にわからないのか、それとも答えを探すのが怖いのか。
    この場から離れるようにアダムが立ちあがろうとする。やんわりと抑えて、膝の上に再度座らせた。
    「なぜ、今まで“嫌い”かどうかを聞いてきた?」
    「…知りません。そんなこと」
    冷たい返事が返ってくる。
    そうだな。エデンの記憶しかないお前は知るはずもない。
    でも、なぜだ?
    なぜそんなに焦っているんだ?

    アダムの背はじっとりと汗ばんでいた。滲んだ汗を舐めとるように首に舌を這わせる。
    ビクッとアダムの体が跳ねた。
    獲物を追い詰める興奮と、拒絶されるかもしれない焦燥感で鼓動が早まる。

    「…ただ、私は…ルシファー様と一緒に…」

    歯切れが悪い言葉。何かを恐れているような不安そうに歪められた眉。
    行動の意味、感情の根源など暴かれたって何も楽しくない。そんなことわかっている。でも、アダムの全てが知りたい。
    なぜ、私にそばにいることを望んでいるのか。
    離れると寂しそうな顔をするのか。
    触れると切なそうに微笑むのか。
    全部知りたい。アダムの全てが。


    黙り込んだアダムの感情を揺さぶろうと、魔法で一通の手紙を取り出す。
    ずっと昔に貰った古い手紙。
    素朴な封筒を見たアダムは目を見開いて、慌ててその手紙を奪おうとした。
    記憶はなくとも、魂は覚えているらしい。
    大切な手紙だ。返事は返せなかったが、大事に誰の目にも入らないように保管していた。
    ジタバタと暴れるアダムの腕ごと抱きしめる。
    「…っやめて、ください…」
    小さな拒絶。エデンの記憶しかないアダムが、初めて拒絶した。それだけ魂にも染み付いているのだろう。
    手紙を見せつけるように開いた。ずっと昔の手紙は、経年劣化で少し脆くなっていたが、文字だけは、はっきりと読めた。

    『会いたい』

    手紙には失われた遥か昔の文字で、小さく一言だけそう書かれていた。


    いつからか、行かなくなった会合。報告書だけが城の自室に届く。
    この日もいつものように会合には行けず、城の中、1人でベッドの上で蹲っていると、報告書と共に、届いた手紙には一言、そんなことが書かれていた。

    もう、二度と会合には行く気はなかった。
    アダムにこんな情けない姿、見られたくなかったし、見せるつもりもない。
    アダムと会うと気分が沈む。
    好かれてなくて当たり前だが、やはり罵倒され、険悪の目で見られるのが、結構辛い。
    自身の心の弱さが体を重くして、更に足を遠退かせた。

    小さく書かれた手紙の文字を見ると胸が締め付けられる。普段の不遜な姿からは想像できないほど、あまりにも弱々しい字だった。
    それでも自分は行かなかった。
    会ってどうするつもりだ。お前などが行っても何も変わらない。悪化するくらいなら現状維持でいい。
    そうやって自分に言い聞かせて、蓋をして。アダムの気持ちなんて、考えすらしなかった。

    今思うと、あれは最後の警告だったのかもしれない。それすらも無視したのだ、自分は。

    それ以来、手紙が来ることはなかったし、アダムが私に会おうとすることも無くなった。



    ここまで思い返して、今更ながらに思う。
    なんでこんな自分勝手な傲慢野郎を好きと言ってくれたのか。
    あんなにも憎んでいる相手に「会いたい」と手紙を送ってくれたのか。

    アダムと過ごしたこの数ヶ月間、ずっと疑問だったこの答えがわかった。
    幼いアダムの言動はこの不明な感情の理由を隠さず、教えてくれていた。
    真っ直ぐな思いは偏曲せず、ダイレクトに気持ちを伝えてくる。

    手紙を大切に閉じた。
    アダムは諦めずに腕の中から逃れようとしていた。そんなアダムの背中を抱きしめる。
    「…ルシファー様」
    泣きそうな声でアダムが囁いた。

    そうか、アダム。お前は…

    「私を、愛しているんだな。エデンにいた頃からずっと」

    思っててくれていたのだな。

    そう問うた途端、アダムが物凄い力で抱きしめていた腕を振り解いてきた。
    勢いに任せて椅子が倒れ込む。
    地面に転がり落ちると、そのままアダムに押し倒された。
    震える手で両手を地面に押さえつけてくる。

    「今更…今更そんなこと知ってどうするんです?」

    怒りに満ちた声が、憎悪に膨らんだ感情が一心に向けられていた。
    「確かに、今は、エデンの記憶しかない私は…っ、貴方を愛してます。でも、貴方によって何もかも奪われた私が、貴方に対して向ける感情が、愛なわけないでしょう」
    吐き捨てるように、呪うように紡がれる言葉は重く、苦しさを孕んでいる。息を忘れてしまうほどの熱が、自身を襲う。
    「愛と呼ぶにはあまりにも、汚れているんですから」
    顔が首筋に埋められる。
    先ほどの仕返しのように人間の丸い舌で首を舐められた。生ぬるい感覚に思わず背筋が震える。
    そんな姿に満足したのか、ペロリと唇を舐め、アダムは目尻を下げて笑った。

    「ずっとこのままでいましょう。幸せで美しい思い出だけがある、私のままで」

    トロリと溶けてしまいそうなほど甘く、夢見心地で語られるそれは、甘美な誘いだった。

    「そうしたら、我々は永遠に“好き”なままでいられるんですから」

    頬を撫で、慈悲深く笑うその姿は天使のようでもあり、堕落へと導く悪魔のようでもあった。
    頬に擦り寄ると嬉しそうにアダムの口角が上がった。

    「駄目だ、アダム。私はお前に戻ってもらわないと」

    はっきりと言葉にするとアダムは目を見開いて、こちらを凝視してきた。

    「…え」

    震える声で小さく呟かれた言葉にクスリと笑って、アダムを抱きしめる。

    「な、なんで…?なんで?!貴方にとっても都合がいいでしょう?貴方の罪を知らない私は!」
    「そうだな」
    幼いアダムにしてたように頭を撫でると、混乱しているアダムが少し落ち着き始める。
    そのまま撫でていると、抱きしめ返してくる。
    「我々はもう、取り返しがつかないほど、溝ができている…それならいっそ、…最初から、やり直したい…」
    悲痛で切実な思いが伝わってくる。
    痛いほど、伝わってくる。
    アダムは諦めたように深いため息を吐く。長い、長い静寂があたりを包む。互いの呼吸音だけが聞こえた。

    「ドロドロと煮詰まって、重くのしかかるんだ。貴方への妬みや恨みが」

    苦しそうに息と共に言葉が吐き出された。
    ぐいぐいと隙間を埋めるように抱きしめる。すると、アダム自身も強く抱きしめ返してきた。
    「消えることのない殺意と過去の憧憬が入り混じって、貴方に会うたびに吐き気を催すような憎悪と醜悪な嫉妬心に駆られる」
    抱きしめていた手を緩めると、アダムがゆっくり起き上がった。
    離れる体を名残惜しげに追ってしまった。
    そんな私の様子に気がついたのか、はたまた彼も名残惜しいと思ってくれたのか。立ち上がった彼は手を差し伸べてくれた。その手に掴まり、自身もゆっくりと立ち上がる。
    お互い向かい合って見つめ合う。

    「…なのに、どうしようもなく、私は…貴方に会いたくなる。貴方を欲してしまう。許されざる思いだと、わかっているのに」

    アダムは泣きながら笑っていた。涙が溜まって、瞬きをする度にこぼれ落ちる。
    ゆっくりと語られる言葉は、切ない愛の告白でもあり、許されざる罪への懺悔でもあった。
    震える声帯を鼓舞して、アダムはなんとか言葉にしているようだった。
    「汚いだけの感情なんて、要らない。清純で愚かなほど無知な私だけでいい。もう、貴方のことを恨むのは疲れた」
    解けてしまいそうなほど弱く握られた手を離さないように握りしめた。
    指先が凍ってしまうんじゃないかと思うくらい冷たかった。
    いつか幼いアダムにしてやったように、じんわりと自分の熱を移して、冷えた手を温めるように重ねた。
    「アダム」
    「嫌だ、思い出したくない。苦しいだけだ」
    「まだ何も言ってないだろう?」
    「言わなくてもわかる。戻れと言うんでしょう?…いや、いやだ」
    拗ねて駄々をこねる子どものようにアダムは視線を下に向ける。
    そんな彼の頬に向かって背伸びする。軽いキスを送ると、驚いたように顔を上げた。

    「愛してる」

    自身のアダムに対する執着も固執もこれが根源だとすれば、すんなり腑に落ちた。
    アダムに抱く感情はもっと複雑で、絡まり合っている。果たして「愛してる」で済ませていいものかはわからない。
    でも、底の底…根底にはこの感情があるのだ。きっと間違いじゃない。
    「う、うそ…嘘だ…貴方が愛してるのは…」
    「もちろん、リリスも愛してる」
    くしゃりとアダムの顔が歪む。辛いなら聞かなければいいのに、馬鹿みたいに素直な奴。
    彼女のことは真っ直ぐに愛してると言える。そして、アダムのことも歪んではいるが確実に愛してる。今なら自信を持って言えた。
    「なら…っ」
    「アダム、お前のことも愛してる」
    掴んでいた腕を引き寄せる。顔を真っ赤にさせるアダムに顔を覗き込む。潤んだ瞳が可愛い。
    「うっ…」
    「愛してる」
    「ず、ずるい…それは…ずるいです…そんなの…ずるい…」
    「そうだなぁ、私はズルい男だ」
    腕を振り解こうとアダムがジタバタと暴れるが握りしめる手を強める。グイッと引き寄せ、顔を近づける。
    「だから、エデンの美しい記憶だけじゃなくて、今までの記憶も全部欲しい。いろんな感情を向けてくる…」

    真っ赤に染まる赤い顔、触れると熱い。吐き出す息まで熱くて、沸騰しているようだ。
    長い年月をかけて重く、熱量を持った思いが口から溢れた。

    「今のお前も欲しい」

    アダムがキッとこちらを睨みつける。綺麗な顔が怒りを露わにしている。ぷりぷりと怒ってて可愛い、と思えてしまうほどには、自分はもうアダムにゾッコンで、落ちてしまっていた。
    トロリと見つめていると、憎たらしそうにアダムは睨みつける視線を強めた。
    「ひどい…酷い!つまり、貴方は…っ、私にまた、貴方を恨めと、憎めと、そう言うんですね!!」
    「そうなるな」
    「そんな、自分勝手すぎる!私は…っ、もう疲れたと…、そう言ったじゃないですか…」
    「うん」
    「なのに…っ、なのに!」
    言いたいことがありすぎて、アダムは言葉が詰まっているようだった。顔が近くにあるので、まつ毛が瞬きする度に揺れ動いてるのがわかった。ほんと、嫌になる程美しく創られている。
    綺麗な顔に引き寄せられるように、顔をもっと近づける。
    「なぁ、キスしていいか?」
    「…なんで、そうなるんです?」
    「お前の顔を見てると、どうしようもなくしたくなった」
    「…嫌だ」
    「なんで?」
    アダムが黙ってしまう。
    キスしたいと言えば、唇を物欲しそうに見つめてくるくせに、あんなに幼いお前は刹那げに頬にキスしたくせに。なぜ口付けは許してくれないのか。
    未練たらしく唇を指の腹でなぞり続けると、しつこかったのか手が振り払われた。
    「なぁ、アダム」
    「ダメ、絶対嫌…」
    「アダム」
    「だって、…だって」
    アダムはボソボソと小さく声を溢しながら地面にしゃがみ込んでしまう。
    「…キスされたら、元に戻ってしまう…」
    膝を抱え、地面にしゃがみ込んだアダムを見下ろしていると、とんでもないことを言われて自分の耳を疑った。アダムは自分を抱え込むように小さく蹲る。
    「…え、そんな御伽話みたいなことあるのか?」
    「うぅ〜…」
    唸りながら、言いたくないと首を振られる。
    とは言え、気になるものは気になる。
    なるべく優しく話しかけて、アダムに理由を催促する。
    「なぁ、アダム…」
    自分でもびっくりするくらい甘ったるい声が出た。アダムはピクリと肩を震わせて、小さく声を出した。
    「…望むものが手に入れば、きっと、全て、記憶も、感情も、元に…戻ってしまう…」
    ボソリを呟かれた言葉に一瞬頭が真っ白になる。
    今までアダムが大きくなった時のことを思い出す。
    アダムの成長は、突発的で法則性のないものだと思っていた。
    だが、今、アダムは「望むものが手に入れば戻る」と言った。
    アダムは何を望んでいた?
    いつ、どんな時に成長した?
    ピースがゆっくりとはまっていく。

    「お前の望んだことが叶った時に、お前は少しづつ、大きくなって…戻っていたんだな」

    そう問いかけると、アダムは更に膝を抱えて、小さく小さく蹲った。

    名前を呼ぶと、抱き上げられる。
    共に食事を摂り、同じ食卓を囲む。
    チャーリーたちと和解と頬へのキス。
    花火を見る約束。
    星を見る約束、問いの答え、

    「好き」の返事。

    自惚れでも自賛でもければ、アダムは私のことを好いてくれている。
    そんなアダムが望むものがこんなちっぽけなモノであるはずがないと思う気持ちと、この行動を起こした次の日に、アダムが大きくなっていたことを思い出す。
    つまり、その理論でいけば…
    「お、お前…今まで、私に、キ、キッスして欲しかったってことか?!」
    なんだか急に照れくさくなって、吃ってしまうと、顔を真っ赤に染めながらも怪訝そうな顔したアダムが見上げてきた。
    「……キッスって…言い方ジジくさいです…」
    「誰がジジイだ!」
    クスクスとアダムが笑い始める。
    笑い方が可愛くて、思わず見惚れてしまう。
    ボケー…と見つめていると、アダムは勢いよく立ち上がる。
    覚悟を決めた顔で近づいてきたと思ったら、思いっきり胸ぐらを掴んできた。グイッと顔が引き寄せられ、唇が触れそうになる。互いの息が混ざり合うほど近い。
    「…お前、本当にエデンの記憶しかないのか?」
    「魂に刻まれたモノは案外覚えているもので。何もかもわからない、というわけではありません」
    食えない笑みを浮かべるアダムに言いたいことはいろいろあったが、間違いなく可愛かったので、よしとした。
    首裏に手を回して、そのまま引き寄せて唇を合わせる。
    エデンの姿をした、過去の自分が汚すことのできなかった存在をこの手で汚している。
    背徳感と共に興奮が迫り上がってくるのを感じた。
    角度を変えて、何度も繰り返す。
    舌を入れようとすると流石に引き剥がしてきた。

    「…ん、流石に、それはダメ」
    「んんー、ダメか…」
    「……私が、元に戻ったら、してください」
    「…ミ°ッッッ?!」
    「取っておきたいですから」
    「ほぁ〜〜……」

    とんでもなくエロいことを言われた気がするが、脳がうまく処理してくれなかった。
    そんな私の間抜けな様子に、アダムはにっこりと笑う。
    「さて、もう寝ましょう。明日には、全部戻ってるはずですから」
    「…お誘いではないのか?」
    「……」
    「いや、なんでもない」
    無言の圧を感じたので慌てて黙ると、アダムが可愛らしく笑う。そんな彼の手を引いて、ベッドへと向かった。
    ベッドに2人して傾れ込み、アダムの体に飛び込んだ。腕の中に潜り込むと、そっと背中に腕を回して抱きしめてくれた。
    キスをしようとアダムを見つめて、ふと気がついた。
    キスをすることを、記憶が戻るのを嫌がっていたのになぜ許してくれたのかと疑問に思う。
    「なんで、キスしてくれたんだ?」
    答えが知りたくて、アダムに問いかけると彼は穏やかに話し始めた。
    「…貴方が憎かった。けど同時に、愛おしくもあった。貴方が欲しくてたまらないのに、貴方を殺したくて仕方がない。この感情の起伏に挟まれて、いつも…苦しかった」
    飾らない、素直なアダムの言葉はもう二度と聞くことができないかもしれない。耳を凝らして、言葉を一つ一つを逃さないようにした。
    「貴方のせいで、きっとまた、苦しむことになる」
    美しく、汚れのない彼が恨みを孕んだ言葉を紡いでいる。
    心臓が跳ね、鼓動が早くなる。
    アダムの憎しみや怒りを一心に向けられていた。ルシファーにだけ、アダムが感情が向けている。自らの手で、この美しき魂を堕としたのだ。それにたまらなく興奮した。やはり自分は歪んでいる。
    自身の感情の歪さに呆れていると、するすると頬をなぞられた。
    天使のように清廉で美しい笑みで微笑まれる。

    「でも、貴方の隣で永遠に怨念を吐き続けてやるのも、悪くないかなって思ったんです」

    とんでもなく恐ろしいことを言われているのに、手つきは愛おしいものを愛でるように優しい。気持ちよさに目を細めてしまう。

    「永遠に貴方を苦しめてやる。そして、永遠に…、お前を愛してやるよ」

    凄まじく重い感情の波をぶつけられ、心臓が高鳴った。目の前の存在がどうしようもなく愛おしくなる。
    赴くままにもう一度唇にキスをした。









    ・・・・・・・・・・・・


    「エデンにいた頃、お前に服を送りたかったんだよなぁ…」
    「はぁ?早く言えよ」
    「一緒に果実を食べるのも、好きだったな」
    「…」
    「…照れるなよ」
    「別に照れてないし。そんなことより私に服着せろ、似合うやつ。お前が似合うと思ったやつ」
    「うん」
    「そばにいろ。離れるな」
    「それは…」
    「わかったか」
    「ハイ」
    「飯は私と絶対2人で食べる。もしくは誰かと食べろ。1人で食べるな」
    「うぅーん…」
    「返事は?」
    「ハイ」
    「そんで、花火でっかいやつ打ち上げてくれ」
    「どのくらいデカいやつがいい?」
    「…初めて見たやつくらい」
    「ワァーオ、地獄中に轟いてしまうな」
    「あの後、セラにめっっちゃ怒られたな」
    「あれは怖かった…二度と思い出したくない」
    「いいからやれ」
    「ハイハイ…わがままボーイめ…」
    「ショタコンが何言ってる?」
    「違う!!私とお前、そんなに創られた年離れてないだろう!!もしくはお前限定(?)だ!!」
    「その後は、私が寝るまで一緒に天体観測だ」
    「スルーするな!!話を聞け!!」

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