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    メタボリック

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    メタボリック

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    皆様の🎸がショタ化した話大大大大好きで…
    自分でも書きたいっ!となり書き始めました。

    ep8後に赤ちゃんになっちゃった🎸と🍎とのドタバタ成長記録です。

    書き進めると思った以上に長くなりそうだったので、一旦前編と後編に分けます。
    急ピッチで仕上げたので、誤字脱字等は脳内変換していただけると幸いです。

    #ルシアダ

    地獄の騒動の中心、赤児の声が響き渡った。

    地獄の王の登場により幕を閉じた争いは勝利を飾ったが、尊い犠牲もまた払ったのだった。
    挫けそうな心を叱咤激励し、チャーリーたちは新たな希望を胸に、今まさに歩き出そうとしていた。
    そんな中、響いた泣き声は親を求め、泣き叫ぶ悲痛な声だった。
    そんな声を心優しきプリンセスが聞き逃すはずもなく、声の持ち主の元へと向かったのだった。

    泣き声の持ち主はエクスターミネーションの指揮を取っていた男が、最期に息を引き取った場所にいた。


    そこに死んだはずの男の姿はなく、代わりに小さな小さな赤児がいた。





    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

    「ヴァギィィィーーーー!!!!!」
    「うわっ!なに?!どうしたの?!」
    愛しい愛娘が可愛い恋人を呼ぶ声がする。
    ホテルの復興に向けて、新しく建て直しているとチャーリーが何かを抱えて小走りでやってくる。他のメンバーもチャーリーの叫び声になんだなんだと集まりだした。
    「ど、どどどどど、どうしよう!!」
    「落ち着いて、チャーリー。何があったの?」
    「そ、それが!!それがね!!」
    慌てふためくチャーリーがそっと腕に抱えていたものを見せる。そこには明らかに見覚えがありすぎる生意気そうな面をした赤児がいた。
    いくら姿形が変化しようとも見間違えるはずがない。原初の人間の魂の形は偽装できないのだから。

    そうとわかれば、やることは一つ。

    「よし、殺そう」
    「ちょっ、ちょっとパパ?!」
    手を上げると娘が守るように赤児を抱え直す。もちろん、それも気に食わない。

    「何故だ?それはアダムだろ?」

    なら殺すべきだ。

    そう言うと、チャーリーは困ったように眉を寄せた。不穏な空気が流れていると言うのに、赤児は赤い目元を擦りながらスースーと眠っている。
    「はぁ…やっぱりそうなのね…」
    「何?どういうこと??」
    エンジェルは不思議そうに首を傾げる。
    ヴァギーは赤児がアダムだと認識した途端、キッと赤児を睨みつけた。
    「それが…アダムが倒れてたところにこの子がいて…さっきまで泣いてたんだけど、抱き上げたら寝ちゃって…」
    チャーリーの腕の中でくふくふと穏やかに眠る赤児は人畜無害そのものだが、魂は間違いなくアダムなのだ。こんな危ないもの、地獄に…いや、チャーリーの下に置いておけない。
    魔法を込めると、その気配を察したチャーリーがアダムを守るように背を向けてくる。
    「やめて、パパ」
    嗜めるような娘の視線が痛い。慌てて弁解を試みる。
    「チャ、チャーリー…!なぜソイツが赤児になったから知らんが、間違いなくアダムではあるんだ!!危ない!!」
    「そうよ、チャーリー。コイツがペンシャスを殺したこと、忘れたわけじゃないでしょ?」
    仲間の名前が出た途端、周りのメンバーの雰囲気も一気にひりついた。
    チャーリーはそんな彼らの視線を受けつつ、慎重に答えを選んでいた。
    「…わかってる。でも…この子は…」
    「…ふぇ…」
    チャーリーが口を開こうとすればそれを遮るように赤児がぐずり始めた。チャーリーは慌てて赤児をあやし始める。
    「な、泣かないで…!アダム!!いい子だから…!!」
    「はぁ?!いい子?!コイツがぁ?!」
    エンジェルがそう叫んだ瞬間、赤児は声を上げて泣き始めた。
    「…っ?!ぅ、うぅ…!うぁぁあん!!!」
    チャーリーの腕の中でジタバタと暴れ、涙を流す赤児はどう見ても、あの横暴で不遜な態度の偉そうな“アダム”ではない。

    ただの人の子でしかなかった。

    他のものも目を見開いて、チャーリーが赤児をあやす姿を見ていた。

    この流れはまずい。嫌な予感がする。

    「よーし、よしよし!!いい子、いい子よ!アダム!!泣かないで〜!!ほ〜ら!!高い、高ぁーい!!」
    チャーリーが抱き上げると、赤児は目をぱちぱちと瞬かせる。しめた!とばかりにチャーリーが何度も繰り返すと赤児はきゃらきゃらと笑い始めた。
    無邪気に笑う赤児の様子にあのヴァギーでさえ、思わず頬が緩んでしまっていた。

    ふくふくの頬は興奮で薔薇色に染まっており、楽しさを表そうと、小さな手を一生懸命ブンブン振り回している。
    柔らかい髪がふわふわと動き、まん丸の瞳は汚れを知らない純粋無垢の象徴のように、キラキラと光っていた。

    正直に言おう。
    確かに、確かにめっっ…ちゃ可愛いのだ。

    どこからどう見ても“あの”アダムではないことがわかって、なんとも言えない複雑な気持ちになる。
    「あぶっ、うぅ!!」
    機嫌を直した子どもは楽しそうに腕の中でうごうごと動いている。
    毒気を抜かれたホテルの者は、すっかり殺意を消失させている。これでもう、この幼児を殺すことはできないだろう。
    (まずい予感が当たってしまったか…)
    心の中でそう独りごちると赤児と目が合う。
    どうしてあの横暴男が赤児になってしまったのか。そもそも、幼年時代のない男が赤児になっているのだ。
    確実に自分たちより“上”の存在が関わっていることは明白である。
    一抹の不安を抱いていると、あぶあぶとなんだかよくわからないことを喋る幼児に手を伸ばされる。
    「あぶ、うぅう!あ!!あぅ!!」
    何がしたいのか、何を望んでいるのか、全く理解できない。
    訝しげに赤児を見つめ返すと、赤児のかわゆさにメロメロの愛娘は目尻を下げて、朗らかに笑う。
    「パパに抱っこして欲しいのかも!」
    「…へ?わ、私…?」
    チャーリーは嬉しそうに赤児…もとい、アダムを差し出してくる。
    娘の手前、この小さな生き物を拒絶する訳にもいかず、混乱した頭でおずおずとアダムを抱き上げる。
    アダムは腕の中でベストポジションを探して、もぞもぞと動いた。満足できる場所を見つけたのか、誇らしげに頬を膨らませ、楽しそうにベストを握りしめてくる。皺になるのが嫌でベストを握る手を払い除けようとしたが、きゅるきゅるの丸い瞳で見つめられると、どうにも調子が狂った。
    「か、かわいい〜!!」
    チャーリーが腕の中で涎を垂らすアダムの頬を突く。不服そうにプーっと膨らんだ頬はもちもちと弾力があって気持ちよさそうだ。

    「ぶー!うぅ!!あぁー!!」

    怒ったアダムが、ジタバタと腕の中で暴れる。そんなアダムの様子にホテルの皆は絆されかけていた。

    本当に、困ったことになった…

    自然と大きなため息が出た。







    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

    とりあえずは、アダムの様子を見ることになった。流石の罪人たちも無垢な赤児に手を下すことはできななかったらしい。

    さて、この赤児。
    いくら赤児と言えど、あのアダムである。
    チャーリーは慈悲深い子なので「このまま、この子を野晒しにしておけない!」とホテルで育てると言い始めたのだ。
    必死に反対したのだが、最終的に可愛い愛娘にお願いされては、地獄の王は折れるしかなかった。
    見た限り、天使の力もまだ残っているので、何かあった時のためにルシファーがホテルに泊まる、と言うことで話し合いがまとまった。
    まとまってしまった…


    「まったく、お前は呑気でいいな…」
    「だぅぅ」
    ベビーベッドの上でアダムは寝かされているのだが、先ほどの騒動で完全に目が覚めてしまったのか、短い手足をパタパタと動かして遊んでいた。

    こうしてみると本当に庇護欲を掻き立てられる存在である。無意識に守ってやりたいと感じてしまうほどには。

    口寂しいのか、ちゅぱちゅぱと自身の指を一生懸命しゃぶっている。
    …なんとなく…そう!なんとなく!!魔法でアヒルのおしゃぶりを用意する。しゃぶっていた指を離させ、機嫌悪そうにするアダムの口におしゃぶりを咥えさせる。すると、目を見開いてしゃぶり始めた。
    ちゅちゅちゅちゅ、と小さな口でしゃぶる姿はまさに赤児そのもので…

    「ぐはっ!!」

    あまりの可愛さに思わず胸を抑える。
    なんの疑問も抱かず、ルシファーの与えるものを享受し、無防備にルシファーを見つめてくる。

    つまり、何が言いたいのかと言うと…


    「なんて可愛さだ!可愛い!!可愛すぎる!!!」


    と言うことだ。
    ぱちぱちと瞬きする度に、効果音がつくほど大きな瞳を縁取るまつ毛の長さたるや!!小さな手がこちらに向かって伸ばされる度に勝手にでれでれと頬がニヤけてしまう。
    「だぁう!!」
    楽しそうに体を揺する姿に、抱き上げて、頬にキスを送りたくなってしまう。

    これはダメだ。
    なんか小さくて可愛いやつすぎる。

    もう開き直って、知育玩具やらベビー用品やら次々と用意していく。気がつけば、えげつない量の物で部屋が溢れていた。




    「パパ、赤ちゃん用の服とか用具とか色々買って……って!なに?!このおもちゃの量は!!」
    「あ」
    おもちゃでアダムをあやしながら、一緒に遊んでいると、チャーリーとヴァギーが帰ってきた。彼女たちの手の中には同じく大量のベビー用品があった。
    アダムは遊び疲れたのか、眠そうに欠伸をしている。

    「……」
    「………」
    「…………」

    長い、長すぎる沈黙が過ぎていく。
    咄嗟に何か言い訳せねば!と思い立ち、口を開こうとした途端に、部屋のドアが再度開けられる。

    「ただいまぁーー!!いやぁ!今は色々あるんだねぇ!!ベビー用品!!アダムのために色々買ってきたよ…って。え?なに?これ、どういう状況?」
    「…お前ら…」
    同じく呆れたハスクに、大量に荷物を持たせたエンジェルが部屋の中に入ってきた。


    認めよう。
    この子は確かにあのアダムであって、アダムではない。あの自尊心の塊のような男ではないのだ。
    「ふぁ…」
    小さな口で大きな欠伸をして、ムニュムニュと口を動かす子どもを見て我々は誓った。

    ((((しっかり育てて、立派な大人に育ててみせる!!))))

    皆の心が一つになった瞬間だった。




    赤児のアダムはとにかく、可愛かった。
    愛想がいい、よく笑う、仕草さえも可愛い、という究極生命体である。
    あのアダムとは同じ轍は二度と踏まないように、しっかり育てていこうと心の底から誓うほどには、この子は真っ白で無垢だった。




    普段はあまり泣かないのだが、人がいないと寂しそうにポロポロと泣き始める。その健気さも愛らしくって仕方がない。

    極めつけにはコレだ。

    「だぅう!!あぅ!!あー!!」
    「アダムはパパが大好きなのね」

    私を視界に入れると必ず、抱っこをせがんでくる。
    そう、つまり、私が大好きすぎると言うことだ。

    誰が抱っこしていようが、視界にルシファーが入るだけで、アダムは嬉しそうに抱っこをせがんでくる。
    皆の手前、渋々感を出してはいるのだが、気を抜けば、口角が天井に突き刺さりそうなくらいには上がってしまう。
    今日もお望み通り抱き上げると、アダムは安心したようにふにゃりと笑うのだ。
    ホテルのラウンジいるものはみなあまりのかわゆさに頬をでれっと惚けさせた。

    「ンン〜?コレは、賢いですねぇ…このおチビさんの腕の中が、安全地帯だと言うことをわかっているんですよ。別に好きだからとかではないと思います」
    唯一、いつもの食えない笑みを浮かべるラジオデーモンが余計なこと言うので、無視した。ああいうのは無視だ、無視。

    エンジェルがスマホとアダムを交互に見つつ、スクロールを繰り返している。
    何をしているのか聞けば、スマホの画面が差し出された。画面を覗き込めば、そこに映し出されたのは、ベビー服の販売をしているサイトで、カートの中にはかなりの商品が入っている。

    あれだけ、アダムを育てることに反対していたくせに…
    完全にブーメランであるが、自分のことは棚に上げる。
    なんともいえない表情で彼を見つめていると、エンジェルは慌てて弁解を行った。
    「ほんと、なんでも似合うから、色々服買っちゃうの!!」
    私の腕の中で満足そうに抱かれているアダムのぷにぷにの頬を軽く突く。

    主が自らの手で創り上げた最高傑作なのだ。元がいいのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが、確かにアダムは何を着せてもよく似合っている。

    …そう言えば、エデンの頃、一度だけ、アダムに服を着せようとしたことがあったかな。
    ぼんやりとだが、過去の記憶が蘇る。

    豊かな緑、頬を撫でるような柔らかな風。「美しい」で溢れた世界。
    その中でも一際輝く青年は、あの美しき園でも目を惹いた。
    風は楽しそうに彼の髪をなびかせ、太陽は彼を照らすように輝いている。伸びやかで美しい歌声と共鳴するように草花は地に満ちていた。
    見目麗しいアダムの肉体は、同じく素晴らしいものだった。その肉体を、四肢を彩る装いをすれば、どんなに美しいだろう、と。好奇心は止められず、アダムを呼び止め、自らの手で作った装飾品を手渡し、着て貰おうとした。

    結局、他の天使にバレて、失敗に終わったんだったけな。

    “ソレ”は人間には必要ないものだと、

    切り捨てられて。



    「あぁう!!」
    「…っ、…んー、どうした?腹でも減ったか?」
    郷愁の思いが込み上げる。昔の思い出は苦いだけで、心が沈み込んでいく。鬱屈とした感情の波が押し寄せてきて、気分が下がる。
    幼く汚れを知らないアダムを見ていると必然的に思い出すのはエデンの頃の彼の姿で…

    「うぅ〜…るぅっ…!!るぅ…!!」
    「…っ、待て…?も、もしかして…わ、わた、私の名前呼ぼうとしてる?!?!?!」

    郷愁の思いなど一気に吹き飛ぶ。
    驚きと興奮で冷えた心が弾んでいく。高鳴る鼓動が鳴り止まない!こんなに情緒不安定になるのは久しぶりだ。
    ちっちゃな口を突き出して、必死にルシファーの名を呼ぼうとしていた。
    それがどうしようもなく、愛おしかった。
    「る、し、ふぁ!ルシファーだ!」
    「るぅ…!うぅ…?るぅ…?」
    「ルシファーは難しいか?!ならルールー!!ルゥールゥー!!」
    「るー…るー!」
    「カァーーー!!!!!!!!!!カワイィーーー!!!!」
    「キャラ崩壊しててウケんね」
    「…そうだった…私の時も、パパはこんな感じだったわ…」

    チャーリーの冷たい視線を感じ、自重するが、コレばっかりは可愛すぎるので仕方がない。
    抱き寄せて、すりすりと頬擦りすれば、子どもはきゃぁー!と楽しそうに笑い声を上げた。







    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

    「るしぃ!おきて!!」
    「…ん?んん??」
    幼い声が聞こえる。
    アダムか?いや、アダムはまだ赤児だし、こんな流暢に喋れないはず…なら、誰だ?
    「おなかすいた…」
    「エ°ッッッ?!?!アダム?!!?!?!」
    「うん」
    慌てて飛び起きる。ベビーベッドにあの赤児のアダムはおらず、ルシファーのベッドの上で小さなアダムが一緒に寝転んでいた。



    「嘘ぉ!!人って一晩でこんなに大きくなるの…?!」
    「いやいや…そんなわけないでしょう…」
    私の後ろに隠れるアダムを見て、チャーリーがそう叫ぶ。ヴァギーも口では否定しているようだが、混乱しているみたいだ。
    正直、私も混乱しているので無理もない。

    アダムがルシファーの名前を呼んでくれた次の日、突然アダムが大きくなっていたのだ。
    「んんー…大体3歳くらい?」
    エンジェルがアダムに視線を合わせるように、長い足を折り曲げる。アダムはルシファーにしがみつく手の力を強めた。
    「…るしふぁ」
    上目遣いで不安げに見つめるアダムを抱き上げる。目線が合わさると少しホッとしたように微笑んだ。
    「…突然大きくなった以外に、特に異常はないようだが…何がトリガーで大きくなったのか、さっぱりわからん」
    首裏に手を回され、ぎゅーっと抱きついてくる。首が絞まって若干苦しいが、可愛いのでヨシ。
    「ヨシ…じゃないわ!!パパ!!首!!首絞まってるから!!」
    「ハハハ!!王様、顔真っ赤通り越して青くなってんじゃん!!」
    「全くもって滑稽です!」
    「ちょっと?!笑ってる場合?!早く助けるよ!!!」
    「…ハァ、騒がしいったらありゃしないな」


    ヴァギーによって引き剥がされたアダムは不機嫌を隠そうともせず、ヴァギーを睨みつけ、ルシファーの足に引っ付いていた。
    「…ヴァジー、いじわる。きらい…」
    じどぉ…と幼児に睨め付けられて、ヴァギーは困惑しているようだった。そんな中、チャーリーがヴァギーを庇うように前に出て、アダムの前にしゃがみ込み、目線を合わせる。
    「アダム。パパがあのまま首が絞まって、大変なことになったら嫌でしょ?ヴァギーはそんな大変なことにならないようにしてくれたの。だから、そんなこと言わないで」
    「うぅ〜…」
    ぐりぐりとルシファーの足に抱きついて、自分の思い通りにいかない現状に腹を立ている。
    「わたし、わるくないもん…」
    うるうると涙を溜める天使に絆されそうになるが、チャーリーは気を引き締める。
    ここで絆されて同じことが繰り返すのは良くない。
    「パパが大変なことになってもよかったの?」
    「っ、うぅ…!」
    「もしこのまま、パパがいなくなってもアダムは平気なのね」
    「…うぅう!!や、やだぁ…だー…!」
    ぐずぐずと泣き始めたアダムにチャーリーはピシャリと言った。
    「じゃあ、ヴァギーにごめんなさいとありがとうして!」
    「…え?パパには?」
    「パパはアダムが危ないことしてるのに注意しなかったでしょ。同罪よ」
    我が娘ながら手厳しい。リリスに似て立派に育っている。
    そんなことを考えていると泣きながらアダムはヴァギーに向かって謝罪の言葉を紡いだ。
    「ゔぁじぃ〜…ごべざぃ…。あい、ひっく…あいがとぉ…!!」
    「いいよ、もう。泣かないで……はぁ、私の名前はヴァギーだけど…」
    ヴァギーがわんわん泣くアダムの頭を撫でる。アダムも撫でられて漸く落ち着いたのか、泣き止み始めた。
    目は擦り過ぎて真っ赤になっている。そんな目元に掌を当てた。
    「こらこら、そんなに擦らないよ。真っ赤になっちゃって…冷やそうか」
    今だにルシファーの足を掴んで離さないアダムの手を引いて、ソファーに座らせる。
    氷嚢を持ってくるため、部屋から出て行こうとアダムが慌ててソファーから降り、ルシファーに引っ付いた。
    せっかく止まってきた涙がまた流れ始める。
    「やだー!!るしふぁ!!どっかいっちゃだめ!やなの!!!」
    うわぁぁん!と泣き叫ぶ悲痛な声に驚く。
    先ほどから感じてはいたが、アダムはルシファーにベッタリだ。まるで、離れることを嫌がっているようで、少し大袈裟なくらいだ。
    「アダム。氷嚢を取ってくるだけだ。すぐ戻る」
    「いや!だめ!!るし、いっしょ!じゃないといやなの!!」
    やだやだと地団駄を踏む姿たるや…あまりの可愛さに、鼓動が高鳴り、確実に心臓が一つ潰れた。

    「ヘイ、チンマス!!あまぁーいおやつあるよー!!」

    泣き喚くアダムにエンジェルが大きな棒つきの飴を見せつけた。
    そんなものでアダムがルシファーを離すわけが…

    「え?!おやつ!!たべる!」

    パッとルシファーから離れて、エンジェルの元へとぱたぱたと走っていく。
    「…」
    「ハハァ!あんなチープな飴に負けるなんて、無様ですね」
    「黙れ、痴れ者が…」
    「そこ!!子どもの前で喧嘩しないで!!」



    氷嚢を持って帰ってくると、アダムはエンジェルの膝の上で大きな飴を一生懸命ぺろぺろと舐めていた。
    ルシファーが帰ってきたことに気がつくとエンジェルの膝の上から飛び降りて、大きな飴を差し出してくる。
    「るしふぁ!これいっしょ、たべよ?」
    「はうぅ…可愛いぃ…」
    「ウケる」
    「この流れ、何回やるつもりだ…」
    エンジェルがニマニマ笑う隣でハスクがげっそりと呟いた。
    差し出された大きな飴を小さく噛み砕く。
    安っぽい甘さに喉が焼かれるが、アダムが味の感想を求めて、目をキラキラとさせているので、にっこりと笑って「美味しいよ」と伝える。すると、アダムは頬を赤らめて、照れたように笑った。


    ルシファーの膝の上に頭を乗せて、目を冷やしてもらっているアダムは、さっきの不機嫌など嘘かのように上機嫌だった。
    成る程、ルシファーと引っ付いているのがお好みらしい。
    しかし、困った。

    「毎回毎回、離れる度に泣き付かれてしまうのか…」

    地獄の王なので、流石のルシファーもいつまでもニートをしているわけにもいかないのだ。
    つまり、ずっとは、そばにいてやれない。
    「アダム」
    「んー?なに?」
    「私も仕事があるんだ。だから、ずっと一緒は無理だ」
    「えぇ?!」
    ガバリとアダムか起き上がったので、氷嚢をサッと退かした。
    子ども特有の大きな頭がなんとも重そうだった。
    「な、なんで…るしふぁ、わたし、きらい?」
    今にも泣き出しそうに聞いてくる。
    彼の不安を溶かすように頭を撫でてやり、にっこりと笑いかける。
    「いや、嫌いじゃないよ」
    「ほんと…?」
    「本当さ」
    よじよじと膝の上に乗り上げてくる。正面で向かい合い、アダムはこちらを覗き込む。
    恐る恐る小さな手が伸ばされ、頬を包んできた。不安からか、手が冷たくなっている。温めるように、頬を包む手に自身の手を重ねた。
    「大丈夫。必ず、帰ってくるよ」
    「…」
    ぎゅうと背中に腕を回され、抱きしめられる。幾分か下にある頭を優しく撫でた。
    「…シュタコン」
    「おい、聞こえてるぞ」
    罪人たちは怖いもの知らずというか、全くもって不敬である。






    「ヤァーダァーーーー!!!!!!」
    「くうぅ…!!アダム!」
    朝からルシファーの足にしがみついて、絶対に離れない。

    「私も行きたいないぃ…行きたくないんだが、こればっかりはバックれ過ぎて、そろそろ顔出さないと勘違いしたやつが出てくるんだよぉ〜…」
    サタンとか、サタンとか、サタンとか…
    脳内でやたらと図体がデカいだけのアイツが仰け反り返っている光景が目に浮かび、殺意が湧いた。
    「だめ!!きょうはいっしょにいるの!!」
    「今日も、でしょ。アダム、毎日毎日、あまり困らせちゃダメよ」
    「やだやだやだぁー!!!」
    ヴァギーに嗜められるが、アダムは目にいっぱいに涙を溜めて、上目遣いでルシファーを見つめる。
    「るしふぁ…」
    こうすればルシファーが折れることをこの子どもはよく知っている。自分の武器をしっかりわかっているのだ。
    だが、いつまでも引っかかるルシファーではない。
    随分と下にある頭を撫でる。ふわふわの髪の毛からは甘い匂いがした。
    アダムにニッコリと笑いかける。
    「行ってくるよ」
    「ふぇ…っ、うえぇぇぇぇぇん!!!!」
    引き止められないことを悟ると大きな声をあげて泣き始めた。
    そんなアダムをヴァギーが宥めているうちに、ホテルを後にする。
    「るしぃ、ひっぐ!!るしふぁっ!!るしふぁーー!!!」
    悲痛な声に胸が張り裂けそうになる。
    でも、いつまでもこのままじゃいられないのだ。いつかは、離れなくてはならないのだから。
    ルシファーはべしょべしょと涙で顔を濡らしながら、嫌すぎる会合へと向かった。

    …ちなみにべしょべしょに泣いたまま出席したので、他の七つの大罪たちはあまりの気味の悪さと悍ましさに恐れ慄いた。



    ホテルに帰れば、アダムは不機嫌を隠さず、ソファーに座っていた。一緒に遊んでくれてたであろうヴァギーは、疲れた顔をしていた。面倒見がいいので、アダムを放って置けないのだろう。
    ルシファーが帰ってきたことに気がつくと、アダムはムスッ!としながらこちらに向かって走ってきた。
    「るしふぁ!!!」
    手を広げてアダムを受け止めれば、ぎゅぅうっと抱きついてきた。
    「るし、ばか」
    「ごめんよ」
    「…もういいよ。るし、かえってきた」
    「許してくれるのか?」
    「……うん」
    抱きしめられたまま、アダムを抱き上げる。
    「アダム、ご飯はもう食べたか?」
    「…まだ」
    「なら、一緒に食べよう」
    「…っ!うん!」
    ムスッと頬を膨らませ、怒りをあらわにしていたアダムが漸く機嫌を直してくれた。
    ヴァギーは、機嫌を直ってくれたアダムにホッとしているようだった。
    生真面目な彼女のことだ。おそらく、ずっと機嫌の悪いアダムに振り回されていたのだろう。
    「後は私が面倒を見るよ」
    「…ありがとう、ございます」
    彼女はホッとしたように顔を綻ばさせた。




    「おいしいー!!」
    「それはよかった」
    アダムのために作ったハンバーグを美味しそうに食べていた。
    そんな姿を見ながら自身も食事を取る。
    正直に言うと、食べなくても支障はないのだが一緒に食べるといった手前、食べないわけにもいかない。
    「るしふぁ!」
    「んー?どうした?」
    「はい!」
    アダムはハンバーグの一切れを差し出してくる。どうやらくれるらしい。
    「はやく!」
    「あ、あぁ…」
    口を開けるとハンバーグを突っ込まれる。容赦ないその動作にハンバーグがむせそうになったが、気合いで飲み込んだ。
    「うん、美味しい」
    「えへへ…よかった!!」
    ニコニコと邪気のない笑顔を向けられる。
    あの飴といい、ハンバーグといい、アダムは与えられた食べ物を必ずルシファーと共有したがる。

    チャーリーからもらったクッキー、ハスクが出してくれた牛乳。ヴァギーがこっそり与えているヨーグルトにエンジェルが渡す小さなゼリー。
    どれもこれもルシファーと半分こしたがるのだ。

    美味しそうにハンバーグを食べる横顔を眺めつつ、ゆっくりと思い出していく。

    まだエデンにいた頃、自分もアダムと果実を共有していたなぁ…と思い返す。もしかしたら、アダムもそのことを覚えているのかもしれない。
    酸っぱいもの、苦いもの、甘いもの。美味しい、不味いに関わらず、全部半分こにして食べていた。


    「るしぃ…?」
    「ん、あぁ。食べる。食べるよ」

    あまり食べ進めていないルシファーを不思議に思ったのか、アダムが不安そうにこちらを見つめてきた。

    おかしい。
    前まで思い出すのさえ苦痛だったのに…、ずっとエデンの園が頭の隅から離れない。
    アダムとの淡い思い出が脳裏に浮かんで、消えないのだ。
    アダムとの思い出なんて、碌なものはないと思っていたのに。思い返せば返すほど、目の前の存在について考えてしまう。

    じっ…とアダムを眺めていると、彼の頬についたソースに目についた。
    頬についたソースを指の腹で拭ってやり、そのままソースのついた指を自身の口の中に含んだ。
    その様子を見ていたアダムが、へへっと可愛らしく笑った。




    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

    「おい!起きろ!!馬鹿ルシファー!!!」
    私のアダムはそんな汚い言葉は使わない。舌足らずで、「るしふぁ」と一生懸命呼ぶのが可愛くて可愛くて仕方がない。
    「きめぇこと言ってないで、私の飯作れ!!」
    なんで口の悪さだ。親の顔が見てみた…
    「…へ?!」
    「腹減った!!」
    目が覚めるとそこには生意気そうなクソガキが、不遜にも寝ているルシファーの上にまたがっている。起こそうとドスドスと小さな拳でルシファーを殴っていた。



    「……」
    「なんだ!クソ野郎共が!!」
    「どうしてこうなったちゃったの?!」
    チャーリーは思わず顔を仰いだ。わかる…わかるよ、チャーリー。パパも現実が受け止めきれなくて、二度寝をブチかましたから。
    アダムは少し、大きくなっていた。人間で言うところの7歳〜8歳児くらいの大きさになっている。そして、ついでにクソガキ度がMAXまで上がっていた。
    何より、気になるのが…
    「おい!見てんじゃねぇーよ!!」
    ちゃっかりとルシファーの手を握っていることだ。本人も恥ずかしいと思っているのか、じろじろと握っている手を見られる度に、ホテルメンバーに噛みついていた。
    可愛いやら腹立つやらでルシファーは感情の起伏が激しくなっており、今すぐアダムを頭から貪り食べたくなっていた。
    「…パパ」
    マズい。口に出てたらしい。


    このアダムはあの横暴で不遜な態度の偉そうなアダムそっくり(…というか、本人なのだが)で、あの可愛らしいアダムは何処へ…?と皆悲しみに暮れていた。
    「アダム、クッキー食べる?」
    「……食べる」
    チャーリーがいつものクッキーを差し出せば、アダムは一瞬目をキラキラさせる。ハッと気がつくと、慌ててムスッと顔を作る。
    「はい、どうぞ」
    「…………ありがと」
    前言撤回。やはりアダムは可愛い。
    照れたようにクッキーを受け取ると、聞こえるか聞こえないかの小さな声で、感謝の言葉をチャーリーに伝える。感謝を伝える際、握られた手に力がぎゅっと込められた。
    可愛い。クソ生意気だけど、可愛すぎる。これがギャップ萌えか?!
    心が乱される。恐ろしい可愛さだ…
    小さな口を動かしてクッキーを食べる姿に自然と笑みが溢れる。
    皆の生温かい視線に気付いたのか「み、見てんじゃねぇー!」と吠えていた。


    さて、ここまで大きくなれば、かなりのことが自分でできるようになっているはずなのだが、アダムは、何でもかんでも、ルシファーにやらせようとしてくる。
    やれ服を着せろだの、風呂に入れろだの、地獄の王を召使いのように使うのだ。それも毎日。
    可愛くてついついやってしまうが、先ほど、ついにチャーリーに怒られてしまったのだ。
    「パパ」
    「…はい」
    「このままじゃ、アダムが碌な大人にならないこと、わかってるよね?」
    「ハイ…そうですね…」
    「甘やかしすぎないで」
    「ワカリマシタ」
    昔、リリスに言われたことそっくりそのまま返ってきて、少し泣きたくなった。


    「おい!ルシファー!!服着せろ!!」
    今日も今日とて、朝起きてすぐにアダムがふんぞり返ってルシファーに指示する。いつもであれば「はいはい」と言って服を着替えさせるのだが、今日のルシファーは一味違う。
    「駄目だ」
    そう!きちんと「NO」が言えるのだ。
    「さぁ、これからは自分で着替えなさい」と口を開こうとした。
    したのだが、アダムの顔を見て、思わず息を飲んだ。
    「え…」
    アダムの顔には「絶望」の2文字が浮かんでいた。顔を真っ青にして、苦しそうに息を吐いている。
    「ど、どうした!アダム!どこか体調が悪いのか?どこが苦しい?!」
    「ぅ…ち、ちがう…どこも苦しくない…」
    明らかな嘘に心配が優って、思わず怒鳴ってしまった。
    「嘘つけ!!早く言いなさい!!」
    「…っ、ひ、ぅ、うぅ!!わぁーーん…!!」
    怒鳴り声に驚いたのかアダムは泣き出してしまった。
    漸くそこで、冷静な自分が戻ってきた。後悔の波が押し寄せてくる。
    「ごめん…ごめんよ、アダム。怒鳴ってしまったな…すまなかった」
    吃逆を上げながら泣き止もうとする健気なアダムを抱き寄せる。
    いつもなら鬱陶しがられるが、ぎゅうぅっと抱きしめ返された。
    「ごめん、ごめんな、アダム」
    抱きしめながら頭を撫でる。落ち着いてきたらしいアダムがべそべそと涙をこぼしながら、ルシファーを強く抱きしめる。
    「るしふぁ…私のこと…嫌いになった…?」
    「…嫌いじゃないよ」
    時々、アダムはこの質問をしてくる。
    この質問をされる度に、なんと答えたらいいかわからなくなる。
    好きか嫌いかで答えるのであれば、好き…とは言い難い。かと言って、完全に嫌いかと言われれば、そういうわけでもない。
    エデンの頃は、確かに嫌いじゃなかった。
    今も昔も嫌いじゃない。
    好きと言いきれない理由は、アダムが私のことが好きじゃないことを知っているからだ。
    ここで「好き」と言い切ってしまえば、「嫌い」と向き合わなければならない。それが嫌だった。

    「う、嘘だ…ルシファーは私のこと、嫌いだもん…」
    「…どうして、そう思うんだ?」

    子どもは本当によく見てる。
    煮え切らない私の返事をよく知っているようだった。

    私は弱くて、卑怯者だ。
    相手から嫌われる行為をしてきたというのに、「嫌い」だと言われることが、何よりも怖かった。

    黙って返事を待っていると、アダムはポツリと呟いた。

    「…だって、ルシファー、リリスだけ連れてった…」


    頭が一瞬、真っ白になった。


    「アダム、お前…記憶があるのか…?」
    絞り出した問いにアダムは首を傾げる。
    「記憶って…?」
    「その…今までの、記憶が…」
    「…?覚えてる…けど…」
    当たり前のことのようにアダムは告げる。

    なら何故…?

    「…私と、一緒にいてくれるんだ?」

    お前の幸せを奪ったんだ。
    お前の楽園を堕としたんだ。
    憎いだろう?許せないだろう?

    なのに、何故側にいてくれるんだ?

    「…好き」
    「…え?」
    「好き、ルシファー」
    抱きしめていた手が緩められ、小さな唇が頬に当たった。頬を真っ赤に染めて、恥じるように視線が逸らさせる。
    「好き…」
    「ちょっ…!」
    小さな口で頬を触れられる度に、ちゅ、ちゅ、と軽いリップ音が次々に鼓膜に流れ着く。
    「るしふぁ…」
    潤んだ瞳は子どもが醸し出しているとは思えないほどゾッとする色香を含んでいた。
    「あ、アダム…」
    とにかく、絵面がまずい。
    引き剥がそうとした途端、ドアを派手に開く音がした。
    部屋の中に愛娘とその恋人が入ってきた。
    「アダム?!大丈夫?!!?!泣き叫ぶ音がしたけ…」
    「や、やっぱりショタコン…」
    「ちがぁぁぁーーーーう!!!!!」



    「えぇ…と、具合が悪いんじゃなくて、パパに服着せてもらえなくて、“嫌われた”と思って泣いちゃった…ってことでいいのね…?」
    「う、うるさい!!」
    顔を真っ赤にして、ぷりぷり怒る姿はなんとも可愛らしい。膝の上に座るアダムの頭をうりうりと撫でてやると手を振り払われた。さっきとはえらい違いだ。
    「アダム…はエクスターミネーションのことも覚えているのよね?」
    ヴァギーが不安そうにアダムに問いかける。できれば、そうであって欲しくないと願っている。

    「覚えてる」

    だが、アダムははっきりとそう返事を返した。
    チャーリーは悲しそうにアダムを見つめる。
    「なんで、あんなことしたの?貴方は娯楽だと言っていたけど…」
    「ごらく…でもあるけど、1番は、地獄の人口過密による天国へのへいがい?だ」
    「よく難しい言葉、知ってるな!!」
    「馬鹿にすんな!!」
    ぴょいっと膝の上から降りたアダムは、チャーリーとヴァギーが座るソファーの近くに移動する。
    「…天国の人は何も苦労せずに天国に行ったわけじゃない。罪人に、酷いことされて、死んだ人も、確かにいる」
    アダムはそのまま、チャーリーの隣に座ると彼女を見つめた。
    一つ一つ、言霊をこめるように紡がれていく言葉は自然と耳に入ってくる。
    「罪人たちは死んだ後もなんの罰もなく、自分の好きなことをして、地獄で平然と暮らしている」
    アダムは視線を下に移動させる。少しの沈黙の後、ルシファーを睨みつけた。
    「どこかの誰かさんのせいで、天国は反乱因子をとても、怖がってた」
    思わぬ火種が飛んで、思わず視線を逸らしてしまった。そんなルシファーを鼻で笑ったアダムは、またチャーリーの瞳をしっかり覗く。

    「なら、すべきことは一つ。罪人の罪の清算と天国の安寧のために、罪人を平等に殺す」

    真っ直ぐにぶつけられたアダムの本心にチャーリーは目を見開いた。

    この男は不平等だが、公平でもある。天国にいる者の気持ちに寄り添った結果があのエクスターミネーションだったのだろう。
    チャーリーの夢はあまりにも時間がかかり過ぎる。それなら、罪人共は平等に抹殺する。それがアダムの罪人に対しての最後の慈悲だったのかもしれない。
    いや、本当に娯楽程度の気持ちだったのかも…
    本当のことを知るのは本人ばかりだが。

    「…セカンドチャンスさえなく、この世を去って地獄に来た人もいる。私は…そんな人たちが殺されるのは間違ってると思う…。救いたいのよ」

    チャーリーははっきりとそう答えると小さな子どもは子どもらしくない、慈悲深い笑みを堪えて、チャーリーを見つめた。

    「……なら、勝手にすればいい。私は間違ってなどいない。そしてお前も、間違ってなどいないのだから」

    この小さな子どもは人類の父であることを改めて感じさせられた。
    壮大な気持ちになっていると、どこからともなく大きなお腹の音が鳴った。

    「………………腹減った」

    俯きながら呟かれた言葉は、なんとも覇気がなく、不貞腐れているような音を含んでいた。
    クスクス皆でと笑えば「笑うな!」と私だけ怒られた。
    なんでだ。




    その日の夜、チャーリーとの蟠りが少しなくなったアダムは機嫌が良さそうだった。
    「嬉しそうだな」
    「…別に」
    そう言いながらも、ベッドの上でウキウキと本を読んでいる。
    隣にお邪魔すると心なしが嬉しそうにしてきた。
    「邪魔」
    「ここ、私のベッドなんだが…」
    悪態を吐きながらも、ルシファーの隣を陣取り、手を握ってくる。
    「ルシファー、私のこと嫌い?」
    またこの質問だ。しかも、毎回「嫌い?」で聞いてくるのが腹が立つ。だから、少し、いじめてやることにする。
    アダムの頭を撫で、耳元に唇を寄せる。
    「アダムは私のこと嫌いか?」
    質問に質問で返すという愚の骨頂すぎる行動をする。
    「嫌い!……だけど、好き。大好き」
    アダムは嫌そうに顔を顰めるが、根が素直なので質問に答えてくれた。

    「私もだよ」
    でも、素直でも真面目でもないルシファーはこういうずるい答え方をした。
    「それ、どっちだ?」
    「さぁ?どっちだろうね」
    「ズルい…」
    「ハハッ!もう子どもは寝る時間だ。早く寝よう」
    「誤魔化した…」

    不貞腐れる彼を抱きしめて、目を瞑る。
    「大好き」か。
    私はどうなんだろうな。
    アダムのこと、どう思っているのだろうか。





    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

    起きるとそこにはとんでもない美少年がいた。
    もちろんアダムである。

    「おはよう、アダム」

    そう声をかけるが、こちらの声を遮るように毛布を被り直す。
    「……」
    「ウワッ!さむい!!」
    毛布を引き剥がすと起き上がり、こちらを睨め付けてくる。
    「おはよう、アダム」
    「……はよ」
    柔らかく笑いかけ、再度挨拶をすればやっと返事が返ってきたので、よしとしよう。





    「今は何歳くらいだ?」
    「10…いや、12歳?」
    「身長、もう王様とほとんど変わらないな」
    「まぁこのお方は“チビ”ですからね」
    「余計な一言、どうもありがとう」

    大きくなったアダムはとにかく見目が良かった。
    もともとが美形であるが、元が男性的な美形であったとすれば、今は中性的な美しさがある。
    細い首筋は華奢な少女のようであり、キリッとした目元は鋭い刃物のよう冷たく、鋭い。そこには不安定な危うさがあった。触れてみたくなるような、そんな怪しい魅力。
    「うわぁ…一部の層にブッ刺さりそうな容姿だなぁ…」
    エンジェルがそう呟くと、ルシファーは慌ててアダムを抱きしめ、覆い隠す。
    「やっぱり!アダムは外に出さない!!」
    「はっ!!離れろジジイ!!」
    ベッタリとくっつくルシファーにアダムは照れくさそうにルシファーを引き剥がそうとした。
    「照れてる〜」
    「やっぱり、パパが大好きなのは変わらないのね!!」
    「う、う、うるせぇー!!好きじゃねぇーし!!こんなジジイ!!」
    ペイッと引き剥がされたが、アダムは相変わらずルシファーの隣にいる。手を繋いでやると、アダムの口角が少し上がった。
    「ほらぁー!!やっぱり!!喜んでる!!」
    「悪い子!嘘つき!!」
    「わ、私は嘘なんてつかない!!!」
    大きくなっても、相変わらずぷりぷり怒っているのが可愛かった。



    「ルシファー、髪乾かせ〜」
    「はいはい…わがままボーイなのは変わらずか…」
    風呂上がりにアダムは、椅子に腰掛けているルシファーの側に近寄ると、地面に座り、膝の上に頭を乗せた。
    「こら、地面に座るな」
    「さむいから早く乾かしてくれー」
    2人っきりになるとアダムは途端に甘えたになる。それが可愛くて、ルシファーもついつい甘やかしてしまう。
    アダムの脇に手を入れて、持ち上げる。膝の上に乗せて、魔法で温かい風を送り、髪を乾かしてやる。
    「…にしても、重くなったな」
    「お前、ほんとデリカシーがないな。そこは大きくなった、でいいだろ」
    呆れた声で返事が返ってくる。髪からは同じシャンプーの香りがして、なんだかこそばゆい。

    「なぁ、ルシファー。私のこと、嫌いか?」

    またいつもの質問をされる。
    そして、いつもと同じように「嫌い」かどうかを聞かれる。
    変わり映えしない質問に、同じく変わり映えしない質問で返す。
    「アダムは私のこと嫌いか?」
    「…嫌な奴、お前からは絶対答えてくれないんだな」
    乾かし終わったので、頭を撫でてやる。アダムは立ち上がると、ルシファーの手を取りベッドへと向かう。
    ベッドに押し倒されるとそのまま抱き枕が如く、抱きしめられる。
    「お前は卑怯者だ。そんな奴、大嫌いだ」
    「そうか」
    ぐいぐいと首筋に顔を埋められる度、髪が頬をくすぐる。
    抱きしめ返すとアダムは私の頬に唇を当てた。

    「好き…大好き…」

    熱い息が顔にかかる。熱っぽい視線にドキリと心臓が跳ねた。
    真っ直ぐに向けられる感情は熱くて、脆くて、たまらない。
    もっとアダムの心を暴きたい。
    暴いて、その先にある感情の全てが欲しい。もっと、もっと言葉も体も欲しくなる。
    これはどういう感情なのだろうか。
    自分の感情が最も謎に満ちていて、わからなかった。



    「今日は一日中、仕事で一緒にいられない」
    「…はぁ?!」
    ルシファーがそういうとアダムは信じられない、とでもいうように非難の声を上げる。
    「…私も一緒に行く」
    「駄目だ」
    大前提として、アダムを危険な目に合わせたくない。ここならルシファーの結界も張っているし、一応、ラジオデーモンもいる。
    ここより安全な場所はないのだ。

    「…嫌だ、行かないで…」

    小さな声だった。普段であれば聞き逃してしまいそうな、そんな声。
    アダムはルシファーがアダムを置いて、外に出ることに異常なほど過剰に反応して嫌がる。
    「大丈夫、いつもみたいに、戻ってくるから」
    アダムの頬を撫でる。アダムは縋り付くように頬を撫でる手に自身の手を重ねた。
    「……早く、帰ってこい」
    「…っ、わかった」
    泣きそうにそう言われれば、さっさと帰るしかない。
    後ろ髪を引かれる思いで、ホテルを後にした。


    そこから帰って来れたのは、日を一つ跨いでからだった。
    夜明けごろ、そっとアダムが眠る部屋に戻るとベッドの上で静かに寝ていた。
    目元が赤く腫れている。もしかしたら、泣いていたのかもしれない。
    目元を冷やすように指の腹で撫でれば、瞼がゆっくりと開いた。
    「ただいま、アダム」
    「…ルシファー」
    腕を広げられたので遠慮なくその腕の中に入いる。柔らかい人の体に包まれる。
    「……ルシファー」
    「なんだ?」
    腕を背中に回して、抱きしめ返せば、アダムは満足そうに微笑んだ。
    「花火が見たい」
    「なぜ?」
    うとうと、と眠たそうに微睡むアダムに、殊更優しく聞き返す。

    「昔、お前に初めて見せてもらった魔法が、花火だった…」

    頬にキスが送られる。軽いリップ音が鼓膜に響いて心地いい。心地いいはずなのに、気分が一気に沈んだ。

    「…よく覚えているな、そんな昔のこと」
    エデンの頃まで話が遡られるとは思っていなかったので、返事が少し遅れた。
    苦さが胸いっぱいに広がって気分が悪かった。気持ち悪さに心臓が凍てつきそうになる。

    「忘れるわけない」

    ハッと顔を上げるとアダムがこちらを見つめていた。黄金に輝く瞳がカーテンから覗く夜明けの光に照らされて、美しく輝いていた。

    「一度も、忘れたことはない」

    穏やかなエデンの風が頬を撫でた気がした。
    実際はアダムが頬を撫でてきたのだが、そう錯覚するほどには、エデンの記憶が自身を侵食していた。

    「あの頃も今も…お前が、お前から与えられるものは、温度があって…ワクワク…して…」
    眠たい目を擦りながら、アダムはなんとか言葉にしようと小さく紡いでいた。
    そこ声をひとつも聞き逃したくなくて、食い入るように耳を澄ませた。
    「…す…」
    「す?」
    聞き返すが、アダムからの返事はない。目を瞑り、カクンッと力が抜けていた。
    「アダム?」
    声をかけても返事がなくて、慌ててアダムの名前を呼び続ける。肩を揺さぶり、必死になってアダムの声を求めた。
    「アダム?!アダム!アダム!」
    「グォ〜〜〜〜!!!!」
    「寝ただけかい!!!」
    大きないびきが聞こえて、セルフツッコミをしてしまった。
    まったく、ムードもへったくれもない男である。
    ムニュムニュと穏やかに眠る憎たらしい男の隣に潜り込む。目を閉じ、意識を深く飛ばした。

    明日こそ、先ほどの答えを聞くために。



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