14歳 あるいは地方都市のメメント・モリ 下りのホームで電車を待ちながら、松井はぼんやりと向かいのホーム越しに見える変わり映えのしない駅前の風景を眺めた。
全国どこにでもある、地方の各停駅の光景だ。駅ビルもない駅舎の横のコンビニ、ロータリーを囲むようにチェーン店の居酒屋、マクドナルド、学習塾と不動産屋のテナントがあって、その向こうにはもう何もない。国道に出ればあとはロードサイドお決まりのテンプレートをなぞるようなラインナップが点々と並ぶだけ。
それでも、向かいのホームに滑り込んでくる車両に乗れば、今すぐにでも東京に行ける。
最低のラッシュで名高い、都心へ続くこの路線は、朝は痴漢が、夜は酔っ払いが、そして今くらいの黄昏時には長い長い通勤時間のストレスでおかしくなってしまった人間が、狙いすましたように集まっている。
昨日見た、車内の誰彼なしに因縁をつけては怒鳴っていたサラリーマンと思しき中年男性の姿を思い出す。「俺のことを馬鹿にしているんだろう」と食ってかかってこられたから、振り上げられた拳を掴んで「…別に」と答えると、何かぶつぶつと呟きながら退散して行った。
松井は軽く溜息を漏らす。
二十年後の自分を想像したくなかった。あんなふうに日々にただ消耗してゆくだけの自分。この町でこのまま流されていれば辿り着く可能性の高い将来像を。
次の瞬間、衝動的にホームを駆け下りて上りの電車に乗っていた、なんてことはもちろんなく、大人しくぎゅうぎゅうに混んだ下り電車の隙間に滑り込む。背負っていたリュックを礼儀正しく前に回して抱える。密着する男性の汗ばんだワイシャツと、顔を掠めた隣の女性の払われた長い髪が不快だったけれど、それで癇癪を起こして叫び出すほど子供でも、壊れた大人でもなかった。
惰性で過ごす繰り返しの日々の憂鬱は、すっかり松井を諦めを良い優等生に躾けることに成功していた。暗い鏡のようになった車窓に映る自分の顔を眺める。未だ諦められないものは、今のところひとつだけだ。
……桑名。