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    ohmi_ri

    本拠地はpixivです
    https://www.pixiv.net/users/6398269

    ここは、しぶにまとめるまでの仮置き場につくりました

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    ohmi_ri

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    くわまつの年下攻めアンソロに寄稿させていただいた「夏の幻」のくわまつの続きです。
    年下攻めわんこくわな、気に入ってしまったので、この二人の続きはまた書きたいし、web再録解禁になったらまとめたい気持ちです。
    タイトルはガーネッ◯クロウです。

    #くわまつ
    mulberryPlantation

    今日の君と明日を待つ サクラサク
     その一報を桑名に送ったのは、一二時半を回った頃のことだった。メッセージを打ったアプリを閉じる間もなく、すぐさま着信のバイブでスマホが震える。通話のアイコンを押すや否や、明るく弾んだ声がスピーカーから流れてきた。
    「松井? おめでとお! 良かったぁ、発表、一二時だったでしょ? なかなか連絡来ないからハラハラしちゃったよぉ…」
     桑名の勢いに気圧されて、苦笑しながら答える。
    「一二時じゃ君、まだ授業中だろう? というか、今も昼休みとは言え学校じゃないのかい? 通話して、いいのか?」
    「大丈夫、松井からかかってこなかったら僕から電話するつもりだったから、誰もいない部室にいるよ」
    「かかってこなかったら落ちたってことだと思わない? よくそんな気まずいときに自分からかけようと思えるね」
     合格した者の余裕で揶揄うように答えると、
    「んー、でももし落ちてたら、僕が一番に慰めたいやん」
     とさらりと返されて、思わず頬を押さえる。僕の年下の彼氏は、相変わらず、電話口でもめちゃくちゃ男前だ。
    「それに、もしそうなら松井が迷う前に、他の大学に行かないであと一年頑張って、って言いたい下心もあったりして」
     …しかも可愛い。そのちょっと照れ笑い混じりの声はなんなんだ。本当にずるい。紅潮して緩む頬を片手で押さえたまま僕が絶句していると、桑名は柔らかい調子で続けた。
    「でもやっと、もうすぐ一緒に居られるようになるんだねぇ。ほんとうに、合格おめでとう」
    「ありがとう。…嬉しいよ」
     素直にそう答えると、改めてじわじわと喜びが込み上げてきた。
     ああ、早く会いたいな。会って、顔が見たい。前髪をよけて、あのあたたかい蜂蜜色の瞳に僕を映して、「まつい」って、名前を呼んで欲しい。それから。それから?
     桑名にして欲しいことを考えだすととめどがなくなりそうで、押さえていた頬をぺち、と一度はたいて、せめて声くらいは何とか落ち着いたふうを装う。
    「卒業式が済んだら、一度、住む部屋を探しにそっちに行くよ。桑名、付き合ってくれる?」
     彼が顔を輝かせたのが声の調子からだけでもわかった。
    「もちろんだよぉ。卒業式のあとなら、ちょうど桜が見られるねぇ」
    「京都の桜か、いいね。名所がたくさんあるんだろうなあ」
     桑名と再会した夏には、来年は一緒に花火を見たいねと話していた。その約束の前に、思いがけず花見ができることになりそうだ。僕にとって、京都は長いこと想い出の中の幻想の街みたいなイメージだったから、東京で見る桜よりもきっと何倍も美しく感じられそうな気さえする。
    「松井はどこに行きたい? 清水寺がいいかな? それとも、平安神宮?」
     僕でも知っている観光名所の名前を挙げて、桑名が尋ねる。
    「桑名の一番お気に入りの桜がいいな、紹介してよ。挨拶しなくちゃ。四年間、僕らを見守ってください、ってね」
     僕がそう言うと、桑名は電話の向こうで数秒沈黙した。そして、妙に平坦な声で、
    「……ずいぶん可愛いこと言うんだねぇ、松井って」
     と言った。
    「…子供っぽいって? 悪かったね」
     む、と口を尖らせて言うと、電話口から呻き声が聞こえた。
    「違うよぉ…。ああもう、今すぐ抱きしめたくなるから、あんま可愛いこと言わんで…」
     どっちがだよ、桑名のほうがよっぽど可愛いじゃないか、と思ったけれど、これ以上心臓に矢を受けると致命傷になりかねないので黙っておいた。
    「あとほんの少し、おあずけ、だね」
    「もうずっとむっちゃいい子で待ってるよぉ、僕…」
     大型犬のような彼と桜の下を並んで歩く想像をする。離れ離れでいた半年と、その前の十数年間を早く本物の桑名で埋めたかった。第一志望に合格したことよりも、これで晴れて彼といられることが嬉しいくらいに、自分が浮かれているのを実感する。
    「『待て』が終わったら、どうなっちゃうか、覚悟しといてねぇ?」
     まるで直接耳に吹き込まれるように囁かれた声に、思わず火傷したみたいにスマホを耳から離してしまった。
    「ば、馬鹿言ってないで早く教室に戻りなよ。お昼ご飯もまだなんだろう」
     ペースを乱されて早口になりながら送話口に向けて噛み付くように言うと、桑名はあはは、と笑って、はいはい、またねぇ、と電話を切った。僕は電波の繋がりが途絶えてしんと沈黙したスマホをぱたりと机の上に伏せる。さっきまで火照っていた顔が、二月の気温によって急速に冷えてゆくのが心地良く感じた。
     桜が咲くまで、もうあと少しだ。
    「『おあずけ』をされているのは、僕のほうも同じなんだけどな…」
     小さく独り言を呟く。もう幻じゃないから、遠くにいても同じ気持ちで、今日の君と明日を待っている。
     まだ耳に残る桑名の声が消えないように目を閉じて、僕はまぶたの裏に満開の桜を浮かべた。
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    ohmi_ri

    DONEくわまつ年下攻めアンソロに載せていただいた、地蔵盆で幼い頃に出逢っていたくわまつのお話です。
    くわまつドロライお題「夏の思い出」で書いたものの続きを加筆してアンソロに寄稿したのですが、ドロライで書いたところまでを置いておきます。
    完全版は、春コミから一年経ったら続きも含めてどこかにまとめたいと思います。
    夏の幻 毎年、夏休みの終わりになると思い出す記憶がある。夢の中で行った夏祭りのことだ。僕はそこで、ひとりの少年に出逢って、恋をした。
     
     小学校に上がったばかりのある夏、僕は京都の親戚の家にしばらく滞在していた。母が入院することになって、母の妹である叔母に預けられたのだ。
     夏休みももう終わるところで、明日には父が迎えに来て東京の家に帰るという日、叔母が「お祭りに連れて行ってあげる」と言った。
    「適当に帰ってきてね」と言う叔母に手を引かれて行った小さな公園は、子供達でいっぱいだった。屋台、というには今思えば拙い、ヨーヨー釣りのビニールプールや、賞品つきの輪投げや紐のついたくじ、ソースを塗ったおせんべいなんかが、テントの下にずらりと並んでいて、子供達はみんな、きらきら光るガラスのおはじきをテントの下の大人に渡しては、思い思いの戦利品を手にいれていた。
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    ohmi_ri

    DONEくわまつ個人誌『青春』に入ってる「チョコレイト・ディスコ」の翌日の理学部くわまつです。
    あわよくば理学部くわまつまとめ2冊目が出るときにはまたR18加筆書き下ろしにして収録したいな〜という気持ち。
    タイトルはチョコレイト・ディスコと同じくp◯rfumeです。
    スパイス バレンタインデーの翌日、松井が目を覚ましたのは昼近くになってからで、同じ布団に寝ていたはずの桑名の姿は、既に隣になかった。今日は平日だけれど、大学は後期試験が終わって春休みに入ったところなので、もう授業はない。松井が寝坊している間に桑名が起きて活動しているのはいつものことなので──とくに散々泣かされた翌日は──とりあえず起き上がって服を着替える。歯磨きをするために洗面所に立ったけれど、桑名の姿は台所にも見当たらなかった。今更そんなことで不安に駆られるほどの関係でもないので、買い物にでも出たのかな、と、鏡の前で身支度を整えながら、ぼんやりと昨日のことを思い出す。
     そうだ、昨日僕が買ってきたチョコ、まだ残りを机の上に置いたままだった。中身がガナッシュクリームのやつだから、冷蔵庫に入れたほうが良いのかな? 二月なら、室温でも大丈夫だろうか。まあ、僕はエアコンを付けていなくても、いつもすぐに暑くなってしまうのだけれど…。そこまでつらつらと考えて、一人で赤面したところで、がちゃりと玄関のドアが開いて、コートを羽織った桑名が現れた。
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    related works

    ohmi_ri

    DONEくわまつドロライお題「ハネムーン」で書いた理学部くわまつです。タイトルはチャッ◯モンチーです。
    コンビニエンスハネムーン 梅雨もまだ明けないのに、一週間続いた雨が止んでやっと晴れたと思った途端に猛暑になった。
     また夏が来るなぁ、と、松井は桑名の古い和室アパートの畳に頬をつけてぺたりと寝転がったまま思う。
     網戸にした窓の外、アパートの裏の川から来る夜風と、目の前のレトロな扇風機からの送風で、エアコンのないこの部屋でも、今はそこまで過ごし難い程ではない。地獄の釜の底、と呼ばれるこの街で、日中はさすがに蒸し風呂のようになってしまうのだけれど。
    「松井、僕コンビニにコピーしに行くけど、何か欲しいものある?」
     卓袱台の上でせっせとノートの清書をしていた桑名が、エコバッグ代わりのショップバッグにキャンパスノートを突っ込みながらこちらに向かって尋ねる。ちなみにその黒いナイロンのショッパーは、コンビニやらスーパーに行くときに、いつ貰ったのかもわからないくしゃくしゃのレジ袋を提げている桑名を見かねて松井が提供したものだ。松井がよく着ている、かつ、桑名本人は絶対に身につけそうもない綺麗めブランドのショッパーが、ちょっとしたマーキングのつもりだということに、桑名は気付いているのかどうか。
    2008