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    ユウ(ポイピク)

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    カキスグ(カキ→スグ)
    「こんなつまらないパーティー抜け出さない?」ごっこがやりたかったカキツバタの話
    カキツバタがスグリにデレデレです

    #カキスグ

    こんなパーティーは。 煌びやかな装飾に彩られた大広間と、豪勢な晩餐、美しく着飾った人々。上流階級らしく品のある振る舞いをして、隙を作らず、笑顔を絶やさない。
     ――有体に言うと、かったるい世界。
     『こんなつまらないパーティ、ふたりで抜け出さない?』
     そんな言葉を吐いて一組の男女が消えていき、画面が暗転して再生が止まる。オイラは(おもしれーバックレ方!)とニヤニヤしながら、ドラマの動画ページを閉じた。
     これは今イッシュで話題のドラマであり、なかでも『つまらないパーティーから抜け出すふたり』のシーンは妙にネットでバズってプチミームと化している。オイラにとってつまらないパーティーというのは身近なだけに、それが面白おかしくおもちゃにされているのはワクワクするものがあった。
     いいなあ、これ。ドラマごっこでパーティーをバックれたら絶対楽しいだろい。やってみてえ。
     そういや来週末って――、
    「……いーこと思いついた!」
     憂鬱な予定が楽しい予定に変わることを予感して、オイラは機嫌よくベッドに寝転がった。
     
     
    「……え? パーティ?」
     部室の片隅、オイラを見上げたスグリは、大きな目をぱちりと瞬かせながら復唱した。きょとんとした顔は小動物みがあって、彼がれっきとした人間であることを忘れそうになる。
     パーティー。オイラはときたま親族の都合でパーティーに招かれては無視することを繰り返しているのだが、このたびついに逃げ切れなくなったため、来週末にイッシュ本土へ出向くことになっていた。わりと気安いタイプのパーティーだからマシだが、憂鬱は憂鬱。……とまあそんな折、例のドラマを見て新たな知見を得たわけである。
    「そ。オイラの親族と関わりある何某のパーティに招かれてんだけど、オマエも一緒に来てくんねえかなーって」
    「え……なんで? パーティって招待された人が行くんだべ? なんで俺を誘うの……?」
    「今回のパーティって緩いやつでよ、お知り合いやご友人もどうぞってノリなんだよねぃ。せっかくだからオマエを誘おうと」
    「なんで俺……?」
     説明されてなおスグリは困惑し続けている。そりゃそうだろう、オイラとスグリは一緒に遊びに行くような仲じゃない。
     でもオイラはいっつも食堂デートにスグリを誘ってるんだから、一向に仲が進展しないのは、冗談だと思って取り合ってくれないスグリ側の問題だ。オイラが遠慮してやる義理はないので、これからもデートには誘うしパーティーにだって誘ってやる。
     いつかはこの鈍感にも本心が伝わるといいんだけどな。そう思いながら、今回ばかりは逃がすまいと言葉を重ねる。
    「まあ理由なんてどうだっていいのよ。それよりオマエ、甘いお菓子好きだろい? パーティの料理ってのはそりゃあ豪勢でよ、スイーツも有名なパティシエが作ってんだぜ。そういうの食べてみたくねえ?」
    「え……甘いのは好き、だけど……。でもパーティーなんて俺、行ったことないし……。うぅー……」
     スグリは困ったように眉を八の字にし、そわそわとする。そして「……どんな甘いのがあるの?」と続けた。よしよし、興味持ったな!
    「そうさなあ、立食パーティーだから気軽につまめるサイズ感のが多いだろうな。色んな種類のフルーツが載ったミニタルトとか、グラスにゼリーだのムースだのが入ったヴェリーヌ、お前さんも大好きなチョコレートで作ったボンボン、あとはカヌレやマカロン……とかそういうのがいっぱい! どれも普段じゃ食えねえような高級品だぜぃ」
    「わや……美味しそう……」
    「オマエはオイラのそばで甘いもの食ってるだけでいいからよ。別に最後までいなくていいし、腹いっぱいになったらサヨナラでもいいぜ?」
     そもそもオイラはそのつもりなんだし。……とまでは言わず、「ちょっと遊びに行くくらいの気持ちでどうよ?」と笑いかければ、スグリは視線をうろうろさせてから、やがて小さくこくりとうなずいた。
    「……分かった。行く」
    「いいねえそうこなくっちゃな!」
     オイラは内心でガッツポーズし、これからの段取りを考えはじめる。面倒極まりないパーティーがこんなに楽しみになるんだから、あのドラマさまさまだ。
     よーし、スグリと一緒につまらないパーティを抜け出すぞ~!!
     
     
     来たる週末、オイラたちは揃ってブルーベリー学園を出発した。ふたりでソウリュウの家に顔を出し、もろもろ準備をしてから送迎車へ。しばらく丁重な運転に身を委ね、辿り着いたのは高級ホテルだ。ここのボールルームは同ランクホテルの中でも最大で、そこで行なわれるパーティーも比例して規模が大きくなる。今回は格式こそ高くないものの、主催がとにかく人間好きの大金持ちで、顔見知りも初対面もどんどん参加しておしゃべりしましょうやという会なので、参加者はかなりの数に上るそうだ。
     スグリは高級ホテルを前にして既に圧倒されているらしく、ガチガチに体を強張らせて睨むようにホテルを見ている。オイラは思わず笑って、背中を軽く叩いた。
    「そんなに硬くなるなよ元チャンピオン。ただちょっとうまい飯食って帰るだけなんだから」
    「そ、そんなこと言ったって、俺こういうとこさ初めてだから……。どうしよう、マナーとか勉強してくればよかった」
    「へーきへーき、オイラの隣にいりゃあ誰だって相対的にマナーよく見えるって!」
    「いやカキツバタもマナー良くして!? うぅー……俺、浮きそう……」
    「ほんとに平気なんだがねぃ。雑多な人間が入り混じって適当におしゃべりするだけのパーティーだから、知らない奴だらけだし。それにオマエのそのカッコ、けっこう板についてるぜぃ?」
     そのカッコ、というのはスグリの着ている服のことだ。今の彼はいつもの制服や私服ではなく、かっちりとした正装をしている。なにを隠そう、オイラのおさがりである。
     よそ行きの服なんか持ってね、というスグリに軽い気持ちでオイラの子供の頃の服を貸したのだが、いざ着せてみるとこれが最高だった。ただでさえおめかししているスグリは可愛いのに、それが自分の服なんだから口角が上がるのを抑えきれない。
     しかしスグリはオイラの表情をどう受け取ったのか、ふてくされたように「はっきり似合わないって言え」と拗ねてしまった。こりゃまずったな!
    「似合ってるってぇ、自信持てよ元チャンピオ~ン。ほら、いつまでも突っ立ってたら甘いもん食いっぱぐれるぜぃ? ついてこーい」
    「あ、待って、心の準備が……」
     まだわやわや何か言っているスグリを置いて歩を進めると、やっと覚悟を決めたのか足音が小走りに追いかけてくる。そしてオイラの隣とも後ろともつかないような微妙な位置で歩き始めた。コイツ、本当はオイラの背中に隠れたいんだろうな。かーわいいねぃ。
     ホテルに入り、エントランスを通って会場の受付へ。招待状を見せて会場内に入ると、まず照明の煌びやかさが目を焼く。ゆったりとした音楽が流れるなか、多くの参加者がドリンク片手に談笑しており、品の良いざわめきに満ちている。オイラにとってはまあよく見る光景ではあるが、スグリにとってはそうではないようだった。
    「わ……わやじゃ……!!」
     彼は大きな目をキラキラとさせて、会場のあちこちに視線を巡らせる。ほおを紅潮させ、「わやすごい」「人いっぱい」「うわ~……!!」と黄色い声を上げた。
     その姿はまるで初めて遊園地にきたキッズそのもの。ライモンでよく見かける光景で、周囲の人々が微笑ましそうに笑いながら通り過ぎていく。
    「お気に召したかい、元チャンピオン?」
    「う、うん……! 俺、こんなの初めて……!」
    「あの真ん中のテーブルにメシがあるから、好きなの選んでそばにいるスタッフに取ってもらえ。あとそのへん歩いてるスタッフからドリンクとか甘いもん貰える。あっちのバーはアルコールしかねえからスグリさまはおあずけな」
    「わやじゃ……」
     スグリはじっと会場を見つめ、彼にとって未知の世界を目に焼き付けている。オイラがその横顔を飽きずに眺めていると、不意に誰かが近付いてくるのが視界の端に見えた。
    「カキツバタさん」
     振り返れば、声の主は顔見知りのご婦人だった。朗らかな人で嫌いではないので、オイラもにこやかに応対する。二、三挨拶の言葉を交わすと、彼女はスグリへ視線を向けた。
    「こんにちは。あなたはカキツバタさんのご学友の方?」
    「あっ……!? あ、うぅ……」
     スグリは小動物のように体をびくりとさせ、咄嗟にオイラの服の裾を掴む。そのいかにも幼気な様子に、オイラは思わずニヤニヤしてしまった。お可愛いこと! ゼイユ、オマエいつもこんないきものを背後に飼ってたのかよ。羨ましすぎるだろぃ。
    「そーなんすよー。学園の後輩で、こういう場所が初めてだからって緊張しちまったみたいで」
    「あらあ、そうなの! いきなり声をかけてしまって、怖がらせたわね。ごめんなさい」
     可愛らしいわねえ、と夫人は微笑ましそうに笑って、楽しんでいってね、と去っていった。
     するとずっと握りしめられていたオイラの袖がやっと解放され、小さく息を吐くのが聞こえる。
    「わ、わやじゃ……」
    「大丈夫かい、元チャンピオン? 怖かったねぃ、よーしよし」
     猫なで声で言いながら頭を撫でると、金の目がギロリと睨む。けれどすぐに怒りは霧散し、「間に入ってくれてありがと」と肩を落とした。
    「俺、ちゃんと挨拶さ出来なかった……。最近は話せるようになったと思ったのに」
    「仕方ねえよ、慣れない場所なんだから。んなことより、今日は人と話すんじゃなくて甘いもんを食いにきたんだろい? いったんホストに挨拶しに行くけど、そのあとはケーキバイキングだと思って楽しもうぜい!」
    「う、うん」
     スグリはもう一度食事を見やってから、表情を明るくする。オイラは「そのちょーし」と笑いながら、通り過ぎざまスタッフのトレーからフィンガーフードを掻っ攫い、スグリの口に放り込んでホストの元へ向かった。
     
     ホストへの挨拶を終え、スイーツビュッフェへと解き放ったスグリは、そりゃもう見ものだった。
    「わやー」「すげー」と鳴きながらテーブルの上をきょろきょろ見回し、オイラを振り返って「どれ食べていいの?」と尋ねてくる。「好きなやつ、好きなだけ!」と答えてやれば、「わやじゃ……」と頬を染めて悩みだした。傍から見ていても目移りしまくっているのが分かって面白いが、この調子ではいつまで経っても食事にありつけないので、「食べきれなかったらオイラが食べてやるから」と促せば、やっと心を決めたようだ。そばに控えていたスタッフに「あれと、それと……」と指示を出して取ってもらい、皿に盛りつける。
     スグリの皿の上に乗ったのは、キャラメルクリームのプチシュー、金箔で飾られたトリュフチョコレート、カラフルなマカロン、それから様々なフレーバーのミニケーキがたくさん。スグリは宝の山でも見るようにそれを眺めてから、ちらりとオイラを見て、それからプチシューへ手を伸ばした。
    「…………ん! …………わや美味しい……!」
     食べ始めた途端にぱあっと笑顔になって、気づけば見ているオイラの方まで表情が緩んでいる。仕方ない、スグリが甘いもの食べてるときって、本当に幸せそうな顔をするから。彼はそれからピックでミニケーキを刺し、口に入れてまた嬉しそうにする。
     ああ、いいな。こんな光景が見れるなら、パーティーに連れてきてよかった。
    「……どうだいスグリ。初めてのパーティーは?」
     尋ねてみると、スグリはオイラには向けたことのないような親しみのある顔を向けてくれる。
    「えっとな、わや楽しい! いきなり誘われたときはびっくりしたけど……ありがとな、カキツバタ!」
    「へっへっへ、そいつぁよかった」
     こんなに喜んでくれるなら、連れてきたかいがあるってもんよ。
     ――あれ、でも待てよ?
     ふと我に返って、引っ掛かりを覚える。そもそもオイラ、スグリを連れてきたのはなんでだっけ?
     えーっと、確か――
     
    「カキツバタさん」
     記憶を辿ろうとした瞬間、また誰かに話しかけられる。今度はジジイ関連の何某で、かったるいからと適当にあしらうと後で面倒になる相手だ。しかも少し離れたところに彼の関係者がそろっていて、どうやらそっちで歓談しましょうということらしい。つまりはオイラのお仕事タイムってわけだ。めんどくせ。
    「ちょっと失礼」と断りを入れてから、スグリを引き寄せて囁く。
    「あー、オイラちょっと社交界的なのやりに行くから、スグリはここでメシ食っててくれい」
    「え……い、行っちまうの?」
    「すぐ戻ってくる! テキトーにハイハイ言ってりゃ終わるんだ、ああいうのは。オマエは好きなの食ってていいから」
    「う、うん……。頑張ってな」
     スグリは不安そうにしながらもオイラを送り出してくれる。遠ざかってから振り返ってみると、ぽつんと佇みながらケーキを食べているスグリは、なんとも言えない迷子感があった。あーあ、世話焼きのご婦人方にめちゃくちゃ話しかけられそう。とっとと話切り上げて戻ってやらにゃあ。
     
     それからオイラは社交界をとっとと切り上げ、『相変わらずあそこの放蕩息子は……』という目で見られながらも気にせずスグリの姿を探した。彼はさっきと変わらない場所にいて、案の定ご婦人に話しかけられている。先ほどと違うのはスグリが笑顔で応対できていることだ。どうやら慣れてきたみたいだねぃ。
     ちょうど話し終わったところらしくご婦人が離れていき、スグリの視線がこちらを向く。するとぱっと笑顔になって駆け寄ってくるもんだから驚いた。
    「カキツバタ! もうお話しさ終わった?」
    「お、おー、終わった! お前さんもひとりで上手くやってたみたいだねぃ」
    「ちょっと緊張さしたけど……なんとか話せた! みんないいひとだな! カキツバタもお友達と話せて楽しかった?」
     いやいや、全然友達じゃねえのよあの人らは。……とは言わず、「それなりに?」とはぐらかしておく。全然友達じゃないし楽しくないし、やっぱりパーティーってつまんねえなって再確認したところだよ。
     ――というところでようやく思いだした。オイラがこのパーティーにスグリを連れてきた理由。そう、ドラマごっこするつもりだったんだった!
     時刻を確認してみると、パーティーが始まってからそこそこ時間が経っている。最低限の義理は果たしたし、トンズラこいても問題ないだろう。
     頭の中にドラマのワンシーンを思い浮かべ、セリフを確認する。つまらないパーティーを終わらせる魔法の言葉。よし、やるぞ。
    「なあスグリ、『こんなつまらないパーティー』……、」
    「――ん?」
     振り返ったスグリと目が合って、オイラは言葉を飲み込んでしまった。
     ケーキの載った皿を片手に、もぐもぐ味わっているスグリ。頬の血色はよく、目はキラキラと輝いて。ごくんと飲み込んでから「どうしたの?」とあどけない声で問いかけた。
    「あ、カキツバタもこれ食べたかった? これな、すっごく美味しい! あっちのテーブルにあったんだー」
     にへへ、と無邪気にはしゃぐ彼は、どこからどう見てもこのパーティーを楽しみまくっている。それを見たらドラマのセリフなんてそれ以上出てくるわけがなかった。誰がこいつにパーティーがつまんねえなんて言える? オイラにゃ無理!
     っていうか、オイラ的にもつまらなくないし。さっきまではともかく、今この瞬間ははちゃめちゃに楽しいし。こんなウキウキすんのにバックレるなんてもったいねえ!
    「おー! そいじゃオイラも貰ってくるとしますかねぃ!」
    「俺ももっかい行く! となりのチョコっぽいケーキが美味しそうでなー」
     なんかもう社交パーティーっていうか完全に高級スイパラだけど、まあいいか。交流なんかそっちのけで腹いっぱいになるまで食って、そんでソファで休んで落ち着いたらまた食おう。スグリとオイラが満足するまで、好きなだけ!
    「こんな楽しいパーティーなら、もうここに住んだって構わねえな……」
     あっちのパフェさ美味しそう! はしゃぐスグリを見つめながら、オイラはそうひとりごちた。
     
      
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