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    asaki

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    asaki

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    アガタさんの箱詰め絵に文をつけてみた。→追加しました!
    R15くらい

    ##笹仁
    #笹仁
    sasahito

    箱詰め:笹塚と仁科「うぐぅ……っ」
     胸部を重いもので圧迫され、肺の中の空気が勝手に押し出される。
     酸素を求めて喘ぐが、重しをされた肺はなかなか膨らまず徐々に窒息するのではという可能性がよぎった。同時に重しが少しだけ浮いて、急な解放にひゅっと酸素が喉を通りむせた。
    「っ……ごほっ、っふ、は……?」
     視界は薄暗い。何かが脚に触れていて、身じろぎができなかった。少しでも動かそうものならギチッと音がしそうである。あと、関節が妙な方向に曲がりそうで無謀なことをしようとは思えなかった。
    「仁科」
     覚えのある声が頭上から聞こえる。視線だけそちらに移せば、仁科の真上にそれはいた。
    「笹塚」
     丁度、仁科に覆いかぶさるようにしている。腕で自らの体を支え、仁科との距離を空けている。
    (もしかして、乗っかってたのは笹塚……?)
     あの重みは、――覚えがある。ただ手加減なしに圧し掛かられるのは初めてだったので、窒息しそうな息苦しさで気が回らなかった。
    「笹塚、どいて」
    「できるならそうしてる」
     むっとして答える笹塚を避けて、見える範囲で状況を探ることにした。
     笹塚の背後には壁のようなものが見えた。高さはあまりなく、笹塚が完全に身を起こすことは難しそうだった。左右にも壁。腕はギリギリ伸ばせるかどうか。
     そもそもこの上下左右に壁がある場所にどうやって入って来たのだろうか。
    (もしやこれは――いつもの、アレ)
     星奏には音楽の妖精がいるらしい。そして妖精という存在の逸話に負けず劣らず、悪戯好きだと言う。本人たちは善意で行っているので、責めるに責められない。
     仁科も何度か彼らの善意に翻弄されている。そして、スターライトオーケストラでその存在を否定できる者は誰一人としていない。全員経験者だからだ。つまり――。
    「妖精か」
     笹塚でさえ、その結論に辿り着く。
    「今度はなんだろうな。とりあえず、ちょっとだけどいて」
    「無理言うな」
    「脚のあたり、窮屈でしんどいんだよ」
     左脚はいいのだが、右足の付け根が圧迫されてキツい。笹塚が少し重心を移動するだけで解決しそうなのだが、その部分が実際どうなっているかは見えていない。
     仁科の背中はべったりと床(と呼称しておく)に付いており、笹塚が覆いかぶさっているので視界のほぼすべてが笹塚の顔なのである。
    (相変わらず、好きな顔)
     笹塚は口をへの字にしてなにか考えているようだが、この状況下で脱出は難しいだろう。妖精の仕業であれば目的があり、その目的を達成しなければ帰れないのだと思う。
     仁科はそうやって早々に自力脱出を諦めている。下手に体力を消耗しても疲れるだけだと思ったのだ。
     それならば、目の前の笹塚の――好きな男の顔を眺めている方がよっぽと有意義だ。
     天パで伸ばしっぱなしの髪は柔らかく、前髪と眼鏡で隠れがちの瞳はいつも強く射るような視線を寄越す。鼻梁はすっきりとし、頬から顎にかけてはまろい曲線。陸上をやっていたし、今も走りに出ることがあるので身体はしなやかで筋肉質だ。今はモッズコートを着ておらず、制服のワイシャツとベストだけなので身体の厚みがよく分かる。
     その背に腕を回す時、仁科はいつも笹塚の身体の大きさに安堵を覚えた。同じ身長の男同士だというのに不思議な話である。
     今も笹塚の瞳が、仁科がなにを思ってじろじろと見ているのか探ろうとしている。
    「仁科」
     ちゅっと唇が触れた。ひどく窮屈そうに背を丸めて、笹塚は更に続きをしようとする。
    「おい!」
     こんな訳の分からない空間で無防備なことはしたくない。笹塚の口元を両手で阻んで、これ以上のキスを拒否した。
    「なんで」
    「それはこっちの台詞」
     なんでいきなり――とぐちぐちぼやくと、笹塚はしれっとした表情のまま腰を擦り付けて来た。
    「なっ……!」
    「わかるか? 脚同士が嚙み合ってる」
     笹塚の左脚は仁科の右脚に乗り上げ、仁科の左脚は笹塚に抱えられている。その中心は隙間なく触れ合ってしまっており、押し付けようという意志がなくともそうなってしまっている。
    「思い出すだろ?」
     滲む色気を隠さずに笹塚が口元を歪める。暗に示唆するそれを、仁科はすぐに理解した。
     途端にカッと身体中が熱に侵されてしまう。昨晩の光景がフラッシュバックして、仁科の身体の記憶を呼び起こし始めた。
    「……っ、おまえは……」
     なにもしていなければ仁科はいつも通りだった。笹塚が煽るようなことを言うから、本当はまだ身体の奥が落ち着いていないことをまざまざと自覚させられる。
    (そもそも久しぶりだからって、抱き潰すほどするか…?)
     空が白むまでは笹塚に好き放題されていた。行為自体は好きだが限度というものがある。
    「仁科もヤル気だっただろ」
    「それは否定しないけどさ、今はやめろ」
     お互いに燃えていたことは否定しない。しないが、ここでそんなことをしようと思う気が知れない。――だというのに、笹塚はさっきから腰を揺らして昨晩を思い出させようとする。
    (この体勢、昨晩もしたけどさぁ)
     むずむずしてしまう。昨晩同じ体勢でどんな風に愛されたか、身体だけでなく気持ちも覚えているのだ。
     とにかくやめさせようと右手を伸ばすと、指を絡めて掴まれた。そのまま片手で攻防していると、笹塚の右手が仁科の左脚を撫でて抱えようとする。
     さすがに服を脱ぐような動きは箱の狭さで阻害されるとは思うが、こういうことは服を着たままでもできてしまうのだ。
    「やめろ、って!」
     唯一空いていた左手が空を切り、笹塚の顔面にヒットした。てのひらが容赦なく頬にぶつかり、そのまま指先が眼鏡に触れて押し上げた。そのまま仁科の手に引っかかった眼鏡は大きくズレて、予期していない方法で笹塚の無効化に成功する。
    「…ふ、ふふっ」
     さっきまで色気を垂れ流していた男が仁科のせいでしょっぱい顔になっている。
     猛禽のように鋭い目つきで仁科を組み敷いてくる男とは思えない表情に、仁科は吹き出さずにはいられなかった。
     笹塚は仁科の笑い声に不満そうだが、目つきは柔らかくてなんだかこそばゆい。
    「あとで覚えとけ」
    「――今日も?」
     思わず聞き返してしまって、まるで期待しているようだと気付く。何とか誤魔化そうと思ったが、眼鏡を歪めたまま笹塚がにんまりと笑うので仁科は苦笑するしかない。
    「いつでも」
     そう返されては言葉もない。
     まるで身体を繋げるばかりのように聞こえるが、そこに気持ちが存在しているのを仁科はちゃんと分かっている。分かっているから――仁科も好き、なのだ。
    「お手柔らかにな、大先生」
     ま、その前にこの状況を脱しないといけないんだけど。そう付け加えて、仁科はうっとりと微笑んだ。






     どさりと上から落とされたような、背中から突き飛ばされたような感覚。
     それと同時に頬が見知った体温と柔らかな香りに包まれて、自分の真下に仁科がいるのだと気づいた。
    (呼吸が、)
     笹塚が全体重をかけて圧し掛かっているせいで、仁科の体が圧迫されてしまっているようだ。苦しげに呻き、ひゅーひゅーと危うい呼吸音が聞こえた。
     状況は見えないが笹塚は即座に肘をついて上半身を起こす。重さが消えた仁科は緩やかに元の呼吸に戻っていく。
    「仁科」
     名前を呼ぶと仁科の視線が笹塚を捉えた。
     薄暗い中、苦しさに潤んでいる仁科の瞳はわずかな光できらめいて見える。その光がどうにも怪しく、昨晩の記憶を呼び起こすようだった。
     カーテンの隙間から漏れるわずかな街の明かりが、細い線となって仁科の裸体に走る。半分だけ淡い光に晒されて、上気した頬と甘く濡れた瞳を浮かび上がらせた。ほろりと落ちる涙が美しく、もったいなさに思わず触れるとむずがって唇から吐息が漏れる。その様に見惚れていると、仁科の腕が緩慢に笹塚の首に絡んでキスをねだるのだ。
    「笹塚」
     その声に、ハッと我に返る。真下の仁科は居心地が悪いのか、もぞもぞと体を揺らしているが上手くいかないらしい。というか、あまり動かれるとお互い困ったことになるのだが。
    (仁科はまだ気付いてない?)
    「笹塚、どいて」
    「できるならそうしてる」
     やはり今どんな格好でお互いがいるのか、仁科は把握できていないようだった。
     笹塚の言葉を受け、仁科はきょろきょろと視線を動かす。周囲の確認をし始めたようだ。笹塚も同様にざっと見渡すが、現状出られる状況にはないことを即座に受け入れた。そもそもこの中に入れられた記憶がないのだ。こういう不思議な現象の理由は総じてひとつしかない。
    「妖精か」
    「今度はなんだろうな。とりあえず、ちょっとだけどいて」
    「無理言うな」
    「脚のあたり、窮屈でしんどいんだよ」
     そう言って右脚を持ち上げようとするが叶わないようだった。仁科の右脚の付け根あたりに笹塚が乗り上げるような形になっている。なるべく重心をかけないようにしてはいるが、膝から曲げた状態なためバランスをとるのが難しい。後ろに下がろうにも、膝をついて笹塚を支えている右脚の靴の先はキツいくらいに壁についている。多少余裕があるのは左右だが、移動するのは困難だった。
     なるべく下にいる仁科の負担を減らそうと試行錯誤していると、当の仁科は笹塚のことをうっとりと眺めている。その表情は先程も思い出した、昨晩のそれで。
    「仁科」
     昨晩のように、その唇に触れた。離れて、次は――どうだったか。
    「おい!」
     仁科が両手で笹塚の口元を押し返す。
     体を支えている笹塚とは違い、仁科の両手は自由であることを失念していた。
    「なんで」
    「それはこっちの台詞」
     ぐちぐちと呟いている仁科の意志は固いらしく、キスの続きはさせてくれそうにない。 
     それならばと深く絡み合った脚の上を、昨晩のように擦り付けて揺さぶる。仁科は驚いたように声を上げて、笹塚を睨んだ。
    「わかるか? 脚同士が嚙み合ってる」
     笹塚の行動でようやく下半身がどういう状況下を理解したらしい。
    「思い出すだろ?」
     何がとは言わないが、仁科の頬がじわりと朱に染まれば言いたいことは通じたと分かる。
     笹塚が思い出したように、仁科にも思い出させたい。
    「……っ、おまえは……」
     空が白むまで、互いの体温がどちらのものかわからなくなるくらいに溺れた。
     久々の"恋人同士"の時間を味わえてご満悦の笹塚である。その気持ちがこの状況で呼び起こされて、その気になったとしても――おかしくはないはずだ。
    「仁科もヤル気だっただろ」
    「それは否定しないけどさ、今はやめろ」
     昨晩は仁科も積極的だった。だからこそ気分が高揚したまま、降りてこない。笹塚の抱く気持ちと同じものを返してもらえたような気がするからだ。
     仁科は気持ちや態度を明確に表現しないので、同じ質量で返されることがどれだけの歓びにつながるか気付いていなかった。
     だから、笹塚がどれくらい浮かれているのか――昨晩と同じ体勢であれば。
    (少しくらい分かるだろ?)
     ゆさゆさと出来れば奥を暴きたいのだという風に揺さぶれば、仁科の瞳が徐々に熱を帯びる。
     どんな風に愛したか、気持ちを注いだか覚えているはずだ。
     仁科の眉が困ったように下がり、右手が止めようと伸びてくる。それすら指を絡めて押しとどめ、本格的にこのまま先に進もうかと右手で仁科の左脚を撫でて抱えた。
    「やめろ、って!」
     べちりと仁科の左手が笹塚の顔面にヒットした。痛くはないが、押し付けられたてのひらが眼鏡を押し上げる。大きくズレて、視界が曖昧になってしまった。
    「…ふ、ふふっ」
    「あとで覚えとけ」
    「――今日も?」
     笑いながら甘えるような声音に、仁科は自身でも驚いているようだった。
     仁科も同じ気持ちだったかと、思わず口元が緩む。
    「いつでも」
    「お手柔らかにな、大先生」
     色香を漂わせながら微笑む仁科は、やはり昨晩と同じで。
     ようやくこういう時にも返してくれるようになったのかと感慨が深まる。
    (早く)
     この箱詰めから解放されないかなと、笹塚は仁科を柔らかく抱きしめた。
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