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    asaki

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    asaki

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    ハロウィン、ホラー映画に怯える仁科が書きたかっただけでした。

    ##笹仁
    #笹仁
    sasahito

    【笹仁】Halloween tellor「ハロウィンぽいことしたいって言ったけどさぁ……」
     仁科はソファの上で行儀悪く体育すわりをし、両手でマグカップを持ったままぼやく。視線の先にはテーブルの上に届いたファーストフードを黙々と並べる笹塚がいた。
    (まぁ、笹塚が楽しんでるんならいい、のか……?)
     事の発端は仁科の何気ない一言だった。
     週末にライブハウス主催のハロウィンライブがあった。複数のバンドやユニットが参加していたため、ライブの終了後に簡単な打ち上げに誘われた。普段なら参加は控えるのだが、ハロウィンというイベントごとのせいか客はけが悪くすぐに帰ることは難しそうで、仁科と笹塚は打ち上げにお邪魔することにした。そこで主催が気を聞かせてサプライズでハロウィン演出をし、仁科は久々に童心に返って楽しませてもらった。
     だから、ついその気持ちを終えるのが寂しくて「折角だし、当日もそれっぽいことしてみたいな……」と呟いた。何気なしのそれを、笹塚は「やればいいだろ」とすくい上げ――今に至る。
     笹塚が準備すると言ったことに、仁科はもっと疑いを持つべきだったのだ。
    「ほんとにやんの?」
    「ハロウィンぽいことしたいんだろ」
    「それとこれは違くない?」
     往生際悪く抵抗してみるが、笹塚の計画に中止はないらしい。
    「手軽にできるそれっぽいことではあるだろ」
     笹塚は仁科の真横に腰を下ろす。少し傾けば肩が触れる程度の距離だった。
     これからデリバリーで届いたファーストフードをつまみながら、"ちょっとしたハロウィン"でまったりと過ごすのである。――仁科としてはまったりと過ごせるとは思わないのだが。
    「電気消すぞ」
     パッと暗くなった部屋で光っているのはテレビ画面のみだ。真っ暗の画面には映画のタイトルが浮かび上がっており、仁科は内心ひやりとした。
    「で、笹塚はどれにしたの」
    「サイコ」
    「へ、へぇ……」
     正直タイトルを聞いてもわからないのだが、仁科は平静を装って頷いた。
     笹塚は"ちょっとしたハロウィン"にホラー映画鑑賞会を選んだのだ。しかも仁科にどれを見たいかと色々と候補を教えてくれたのだが、仁科はホラーには疎かった。すべてを笹塚任せにしたのが悪かったのかと思うが、すでに後の祭りである。逃げ道はすべて塞がれてしまっていた。
    (ホラー苦手なんだよなぁ……!)
     普通に暮らしていれば、ホラー映画に接することは少ない。せいぜいテレビやウェブの番宣CMで済む。だから仁科がホラーが苦手だということは笹塚も知らないはずだ。
     始まった映像はどこか古めかしい。モノクロの映画は、真っ暗にした部屋でやけに明るく見えて仁科は目を細めた。





     女性がモーテルに入り、シャワーを浴びる。
     ホラーでのセクシーシーンはお約束。いわゆる殺戮の前触れだと聞く。この作品の場合はどうだろうか。
     有名な作品だが、笹塚はこの作品をまだ見たことがなかった。
     ホラー映画が特に好きなわけではないが、観客を煽るために映像と音楽に秀逸なものが多い。気になったものや評判の良いものはなるべく見るようにしている。映画やドラマの劇伴の参考になる。
     ホラーはホラーだととらえているため、スプラッタやサイコホラーというカテゴライズはよく分かっていない。そのあたりは仁科の方が詳しそうだと思ったが、彼は真横で気まずそうに縮こまっている。
     お色気シーンを男二人で見るのは居た堪れないとでも思っていそうだが、やけに緊張に満ちた表情で口は少し開いたまま――。
    (あぁ、苦手なんだな)
     ホラーを見ることは告げていたので、嫌であれば断っていたはずだ。それとも急な話だったから言い出しにくかったのだろうか。仁科は機を逃すとそのままにしてしまうところがあるから、可能性はある。
     画面に視線を移すと、シャワーを浴びていた女性が誰かに刺殺された。
     仁科の体は驚きにびくっと跳ねた。だが、視線が外せないのか右手がさまよった末に笹塚の腕をがしっと掴んだ。ずりずりと体を寄せ、声は上げないものの呼吸は上がっている。
     正面を向いていた体はほぼ横向きで、とりあえず視線は画面に向けてはいるものの笹塚を掴む力は強い。
     見てみたいと思った映画なのだが、今は仁科の一挙一動の方が興味がそそられた。
    (おおよそのストーリーは知ってるし)
     ここからの展開はホラーというよりは、サスペンスに近いかもしれない。そこまでビクつく必要はないと思うのだが。
     以前、劇伴依頼を受けた折に見た映画はバイオレンスものだったが仁科は平気そうだった。
     仁科の恐怖の基準はどこなんだろうか。
     腕を掴んでいた状態から、腕を絡みつけてくるまでそう時間はかからなかった。
     さすがに慄く仁科は可哀想にも思えるが、瞳を潤ませている――なかなか見ることのない姿を見せられると嗜虐心がそそられてしまう。
    (後で驚かせるつもりだったけど、)
     笹塚は不意に仁科と逆側を向くと用意していたものを準備する。
    「仁科」
    「……さ、ささづか?」
     びくびくと視線を笹塚に向けた仁科は、ほっとしたように瞳が緩む。
     そんな風に安心されると今からしようとしていることはすこぶる悪いことのように思えてしまうが――悪戯というのはそういうものである。あとで仁科に満足いくまで怒られればいい。
    「怖いのか?」
    「そっ、……れは、まぁ、うん、びっくりはした、けど」
     なんとか取り繕おうとしどろもどろの返答に笑みが零れそうになるが、今は気を引き締めなければいけない。なんとか表情は無表情になるよう努力する。
    「怯えてるお前は愛らしいな」
     そう告げて顔を寄せる。キスの予兆を感じ取った仁科は急なことに戸惑っているようだった。
     唇にさらっと触れると、そのまま仁科の首筋にガブリとかぶりついた。少し力を籠めると、違和感を感じ取ったのか仁科は慌てて笹塚を引き剝がす。
    「……っまえ!」
     ニィと笑えば、違和感の正体に気付いた仁科が目を瞠った。
    「なんでそんなものつけてるんだ!」
    「ハロウィンだから? よくわかったな」
    「……そんなの、わ、わかるだろ……」
     仁科の首筋には数えきれないほどかぶり付いているので、さすがの仁科も分かってしまったらしい。
     笹塚は犬歯に取り付けるタイプのシリコン製の牙を装着している。ハロウィンのパーティアイテムなのだが、これがよくできていて装着すると簡単には外れない。つけてしまえばパッと見、本物のように見えるのだ。
     仁科の首筋にしっかりと牙が食い込み、その違和感を伝えたようだった。
    「血の代わりに、仁科はなにをくれる?」
     そう問いかけると仁科は逡巡し――画面から絹を裂くような叫び声が聞こえて、仁科はぎゅうとしがみついてきた。今度は画面も見ず、笹塚に縋っている。
     いい雰囲気だったところを邪魔された腹いせに、笹塚は映画を止めた。
     しがみついて固くなる仁科の耳元へ甘やかに囁く。
    「にしな」
    「えい、が、は?」
    「止めた。お前、ホラー苦手ならそう言え」
    「あ、言いそびれて……」
    「直前でも言えばよかったんだ」
    「準備してくれたのに申し訳ないだろ」
     そういうところは律儀なやつだなと感心してしまう。相手を慮って自らが我慢してしまうのはよろしくないが。
    「とりあえず、悪戯させろ」
    「もう少し取り繕ってくんない?」
     仁科に笑みが見えて、笹塚は安堵しながら唇を塞いだ。
     いつものように甘く深いキスの合間、仁科の舌が不思議そうに笹塚の牙をつつく。傷つけるほどの鋭さはないが、仁科は面白がっているようだった。
    「お前にもそんなサプライズができるとはな」
    「ハロウィンらしい、ことだろ?」
    「そうだな、びっくりしたけど嬉しいよ」
     ちゅっっちゅっと柔らかく髪や頬に口づければ、仁科はくすぐったさに「もういいだろ」と音を上げた。
    「映画、見ないのか?」
    「アレだと、仁科が楽しめないだろ。食うにも食えないし」
     笹塚は部屋の電気を付けると、リモコンでささっと別の映画を選んだ。それは仁科も知っているホラーコメディだ。ドキッとすることはあるが、身を強張らせるほどの恐怖はないだろう。
    「これもハロウィンの話だったな!」
    「食いながら見よう」
     ファストフードを食べながら映画を見るというのが今日の"ちょっとしたハロウィン"だ。楽しんで過ごせなければ意味がない。
     聞きなれた音楽を耳にしながら、二人は勢いよくハンバーガーにかぶり付いた。
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    紫垣🐠

    DONE笹仁/星空のアクアリウムOP.2 展示作品

    スタオケ加入後の二人のお話。ナチュラルに付き合ってます。
    ※コンミス出ます
    後日談は近日中に公開予定です。
    『GRADATIONS』
    #0「Colorless Color」から続いています。
    「like a FISH in water」に続きます。
    Colored Notes#1

    「コンミスが俺たち二人に用事ってなんだろうな」
     眠たげな眼で隣をのそりのそりと歩く笹塚に声を掛けると、眼鏡の奥が唐突に思い出したように、剣呑な目つきになった。
    「……むしろ俺はさっきの全体錬の時のカデンツァに対して、朝日奈に言いたいことたくさんあるけど」
    「あのな。それは一ノ瀬先生からも、まずパート練に持ち返るって話になったただろ。蒸し返さずに今はコンミスの話をよく聴けよ?」
    「善処はする」
     スターライトオーケストラに参加することを決めて、笹塚と共に札幌と横浜を行き来するようになって数か月がたち、短期間での長距離移動にもようやく慣れて、週末は横浜で過ごすことが当たり前になってきていた。土曜日の今日も朝から横浜入りをした後、木蓮館での合奏練習を終えて、菩提樹寮へと向かう所だ。首都圏での拠点がスタオケ加入と同時に自動的に確保されたのは、笹塚と俺にとっても有難い話だった。
    11556

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    One Identity#4

     素肌の背の下に敷かれた固いシーツに大きく皺が寄った。
     菩提樹寮の笹塚の部屋に備え付けられた簡素なベッドに両手首を押さえつけられ、半身で乗りかかられるような形で、もうどの位の時間が経ったのだろう。西日が射しこみ、夕暮れの赤い光が眩しく室内を満たす中、呼吸まで浚うような長いキスをずっと施され続けていた。
     覆いかぶさった熱。身長は俺と同じはずなのに、がっちりとした恵まれた体格を存分に生かし、その腕の中にいともたやすく全身を閉じ込められてしまう。
     二つの唇と舌が絡み合う湿った音と、せわしない息遣いだけが静まり返った部屋に響く。いくら人の気配が多くて騒がしい寮内とはいえ、声を出すことも、物音を立てることにも細心の注意を払わなければならないのに、ひとたびこうなってしまえばどちらも止めることができなくて、そのまま行為に及んでしまったことは、これまでにも何度かあった。
    6778

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    本編前(ねつ造)
    笹塚くんが仁科くんの音に初めて出会った日の話

    『GRADATIONS』(5編連作)
    #1『Colored Notes』に続きます…!
    Colorless Color #0

     無色透明。透明な水のようなヴァイオリンの音色だと思った。色のない、とても澄んだ。滔々と流れていく水のような音色。
     まるで、アクアリウムの水槽を満たす水のようだ。色とりどりのライトで照らせば、無限に思い通りに色彩も雰囲気も変えられる水槽の水。
     透明な音。癖のない音。無限に表情を変えられる音。
     個性がないというのとは全く違う。高い技術の奏者にありがちな、変に主張めいた音色の出し方やこれみよがしな自我や癖がない。どこまでもクリアだった。
     音楽以外で例えるのならば、思い通りの色を思い通りに乗せられる上質なキャンバスだ。乗せたい色を損なわない。
     これが、自分がずっと求めていた音だと思った。

    **

     明け方まで一睡もせず集中して作曲を続けていたから、授業に出席はしたものの、朝からずっとやる気が起きずに、ほぼ眠りの世界にいた。それでもいったん学校へ出てきてしまった以上、睡眠のためだけに家へ戻るのも面倒くさくて、午後は校内の人目につかない場所へ移動しようと思いついた。
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