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    1031は天才の日だそうで

    ##笹仁
    #笹仁
    sasahito

    【笹仁】Dear My Prodigy ――笹塚創は天才だと誰もが言う。
    (俺も、そう思う)
     その意見に否やはないが、作曲家・笹塚創という人物像は一人歩きしてしまっているところがある。
     仁科が営業先で聞く天才笹塚のイメージはいくつかある。
     よく聞くのは情緒、あれだけ繊細な曲を仕上げられるのはふくよかな感受性あふれた人であると言われている。
    (空気は読めないし、情緒ゼロだけど。豊かな感受性ってのは正解)
     そう宣った映画のプロデューサーは、もちろん笹塚に会ったことなどない。的を得ているなと思う反面、笹塚を妖精かなんかだと思っているのかというくらい繊細な人物だと思い込んでいた。理由は直接会いたいという要望をにべもなく断っていたからだろう。加えて、仁科が「人と会うのは得意じゃない」とフォローを入れたのがまずかったか。
     切ない系恋愛映画の劇伴なのだから、メロディラインが繊細になるように笹塚は"仕組んでいる"のである。決して切ない片思いを表現とか、結ばれない二人を表現したわけではない――と思う。
     次は技巧だろうか。作曲の技術もさることながら、演奏技術は折り紙付きだ。
    (デビューしてたくらいだしな)
     最たる付き合いはピアノ。ネオンフィッシュでも機材とキーボードを併せて使用している。
     コントラバスも演奏歴が浅いとは言っているが危うげなことなど一度もないので、仁科が思う以上に経験があるか練習を重ねているかである。
     仁科が笹塚が天才だなと思うのは、そこだ。
    (練習、してる姿なんてほとんど見たことないけど)
     仁科はアジトに入り浸っている。学校と仕事で外出している以外は部屋におり、その間に練習しているところは見たことがなかった。仁科と音を合わせるときは何時間も弾くことがある。だが、あれは練習というより、よりよい形を模索していると言った方が正しいだろう。
     仁科は笹塚の音が好きだから、笹塚の演奏であればいくらでも聞いていたいくらいなのだが――そういう機会はあまり訪れない。
     作曲家・笹塚創という存在に触れる人は多いが、演奏家・笹塚創を称賛する人は少ない。S’nake以後、表立って演奏することがなかったからだろう。ネオンフィッシュもコンポーザーとしての立ち位置で、仁科の思う"演奏家"とはちょっと違う。
     ピアノでもコントラバスでもいい――仁科は純粋に、楽器を奏でる笹塚を真に天才の姿だと思っている。
    (ま、その天才のさらなる真の姿はコレだけどね)
     ソファに座る仁科の膝の上で、笹塚はすよすよと寝息を立てている。
     徹夜で作業をしているなと思っていたが、急に手を止めて仁科の傍にやってきて「一時間後」と言って眠ってしまったのだ。――仁科の膝の上で。
     ベッドに行けよと思うのに、そのまま膝を貸している仁科もどうかしている。
     外に出れば天才・笹塚創の様々な話を聞くが、アジトに帰って笹塚を見るとどこかほっとしている自分もいるのだ。こんな傍若無人で不遜で無愛想だということを知っているのは仁科と、限られた人だけだということに。
     笹塚創の名前はこれからもっと広く知られていくのだろうが、あともうひとつの顔はこの先もずっと仁科だけのものだと思いたい。
    「ふふっ」
    「……楽しいことでもあったか?」
     思わず笑いを漏らすと、笹塚がゆったりと目を開けた。
    「起こした?」
    「いや、そろそろ時間だろ」
    「そうだね、あと五分あるけど」
     壁の時計を確認して答えると、笹塚の手が仁科の頬を撫でた。
    「で、なんで笑ってた?」
    「――優越感?」
    「なんに対して?」
    「こういうこと、かな」
     照れくさくなって言葉を濁し、へらっと笑うと笹塚は少しむっとしたようだった。明確な答えが得られなかったせいだろう。
    「仁科、ちゃんと説明しろ」
     語気強く呼ばれて、ねだられる。
     さすがに考えていたことすべてをさらけ出すのは恥ずかしい。反面、こういう機会もなかなかないわけで――。
    「天才・笹塚創大先生のこういう姿を知っているのは俺だけだっていう話」
    「へぇ」
     早口でまくし立てるように言うと、笹塚は驚きつつも満足そうに仁科をじぃっと見つめた。
    「も、いいだろ。時間だ、起きろよ」
     さっさと膝の上から退くようにと膝を浮かせれば、笹塚はしぶしぶと起き上がった。
     そして、するりと顎をすくわれるとちゅっと音を立てて唇が触れて離れていく。驚く仁科の瞳に、にやりと笑う笹塚が映りこんでいる。
    「恋人の特権」
    「なっ……!」
    「そういうことだろ」
     仁科が言葉にできなかったことを笹塚はけろりと口にしてしまう。
     心の中で思っても、口に出すのが難しいことは多いはずなのに――笹塚にはそれが通じない。言葉にしてくれて助かることも多いのだが、仁科の反応を面白がっている節があり油断ならないのだ。
     こうやってこれからも天才に振り回されるのかなと思うが、恋人でもあることでちょっとだけ――周りから見たらどっぷり――甘くなるもの仕方ない話なのであった。

    fin.
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