10/27の無配の冒頭 気だるく火照った頬に、かえられたばかりのシーツの肌触りが気持ちいい。
シャワーを浴びに行く余力もないレオナルドの体を拭き清めてくれたスティーブンは、パジャマの下衣だけを身に着けた姿でベッドの縁に腰を下ろしていた。まだ濡れているらしい髪をタオルで拭いながら、片手でスマートフォンを見ていた。
照明を落とした寝室の中、画面の明かりがスティーブンの顔を下から照らしている。
(……ちょっとホラー)
なんの案件なのか知らないけれど、すこし物騒な笑みを口の端に乗せている横顔にそれでもかっこいい人だなとレオナルドは見惚れた。
シーツに懐きながらスティーブンを見上げる視線に気がついたのか、振り返り目元をたわめて笑う。物騒さは影を潜め、恋人を見つめる優しさだけになる。
「シャワー、やっぱり浴びる?」
「ねむいです」
「そう」
伸びた指先がレオナルドの髪を軽く撫でる。シャワーなら明日の朝浴びればいいだろう。今日はもうとにかく疲れたので眠くて、今にも意識が落ちそうだった。――疲れた原因はレオナルドの髪を愛おしそうに撫でている目の前の恋人だ。
指先にすり寄れば、優しく微笑んだスティーブンはレオナルドのこめかみのあたりを撫でる。……身を屈め、顔が近づいてキスが一つ落とされた。先ほどまでかわしていたものとはずいぶん違う、触れるだけのあやすようなキス。
子供を寝かしつけるような優しいそれ。
さすがに眠いのでそれ以上を望むつもりもない。すぐに離れた温度が少しだけ離し難いだけだ。
「水、飲む?」
離れたとはいえ鼻先が触れるほどの近さで、スティーブンはやさしく問いかける。レオナルドが無言で頷くと、上に覆いかぶさるようにしてベッドサイドのテーブルに手を伸ばした。
(……?)
何かが見えた。
スティーブンが伸ばした腕、躍動する筋肉、張りのある肌、淡い照明で陰影は曖昧。刺青のないあたり、右の脇腹のやや上側。そこにポツリと小さく、黒いものが見えた。
一瞬、刺青の欠片かと思った。スティーブンの体には首すじから足の先まで、長く流れるように緋色の刺青が這っている。――違う、刺青なら色は血のように赤い色だ。
ほんの一瞬見えたそれは黒。
(……ほくろ)
そんなものがあったなんて、知らなかった。本当にほくろなんだろうか。確かめるにはもうレオナルドの目は眠気に囚われてとろけていて、水を片手に名を呼ぶスティーブンの声も遠い。
ほんの一瞬見えた点。起きたら、確かめよう。そんなことを思いながら微睡み眠りに落ちるレオナルドの額に優しく触れるものがあり、他の誰にも聞かせない声音で「おやすみ」と囁きかけてきた。