ボーダーライン「友達と恋人の境界線ってどこだと思います?」
用事も事件もバイトもない昼下り。空いた時間をいつものように――いつものように、フェムトと過ごしていたレオナルドは後ろ向きに座った椅子の背にだらけるようにもたれながら、そんな問を口に載せた。
少し離れた机で何やら奇怪な実験をしていたフェムトはその手を止め、触手が溢れそうになったシャーレに蓋をして封じ込める。
「……なんだって?」
よくあの薄い蓋だけで触手が納まるな、と、感心したレオナルドは顔だけで振り返り問い返すフェムトに、「だから」と続けた。
「喧嘩してばかりの恋人もいるし友達といつも一緒にいる人もいるし、境界線ってどのあたりなのかな、って」
「友人と寝る人間もいるだろう」
「えー……いや、いるん……すかね? いるの?」
フェムトの言葉にレオナルドは眉根を寄せるが、具体的に某先輩あたりならやりそうだと納得した。
「いつどこから恋人かなどと本人にもわからないだろう。プロポーズのようにはっきりした言葉でもない限り」
「妹の持ってたジャパニーズコミックだと『好きだーつきあってくれー』『はい!』みたいな流れがあって恋人になるんですよね」
「わかりやすいな」
「でも実際のとこ、まわりでそんなの見たことありませんし」
「やってやろうか?」
「え?」
レオナルドは「ん?」と首を傾げる。
机の上の実験用具をてきぱきと片付けていたフェムトは、最後にはめていた手袋を脱ぎ捨てさらの物に替えるとその指先を直しながら椅子にもたれるレオナルドのところに歩み寄ってきた。
一歩、間隔をおいたところで立ち止まり座るレオナルドを見下ろす。
「僕と君とは友人だろう」
「そう……ですね」
よくわからない始まりを経て、ライブラには秘密にしながらなんとなくの腐れ縁を続けている。
余暇は共に過ごし、新作のスナック菓子を見つければ喜ぶかなとその顔(仮面)を思い出しながらレジに運び、B級映画を見ながら野次を飛ばし合い、たまにそのままソファで二人寝落ちたりもする。
堕落王フェムトはレオナルドの友人だ。
楽しいことを共有し、悲しいときは傍にいてもらい慰めを得て、時に喧嘩をすることがあっても互いに会えないことの寂しさにどちらからともなく謝り合って。
友人だ。
いつまでも、このままでもいいと思っていた。
椅子に座るレオナルドと、その傍に立つフェムト。二人の間は手を伸ばせば届くほどにしか離れていない。
ほんの一歩の境界線。
越えるためにフェムトは手を伸ばし、レオナルドは椅子から立ち上がる。