ギラギラサマー 今日は元青い監獄たちが集まって、BBQをする予定。俺は、とある県の海辺と車を走らせていた。今日は、晴天で降水確率は0%。とっておきのBBQ日和だ。そうこうしている間に、目的地に着いたようで、ナビが駐車場へ案内してくれる。車から降りて、みんなのもとへ向かう。見えてきたのは、大きなロッヂだった。ここは玲王の持っている別荘の一つらしい。
「あ、潔~!」
「結構みんな早いんだな」
「でもまだまだ、準備始めてないから」
「そっか、じゃあ火起こしとかやるよ」
俺は早速炭を受け取ると火起こしを始めた。向こうではグリルの準備が始まっている。パタパタと必死にうちわを動かしていると、ようやく炭に火が付いた。よしっ! と思った瞬間、懐かしい声が聞こえてきた。
「めんどくせぇな……」
「凛……!」
そこには俺の想い人・糸師凛がいた。凛がこのBBQに参加するなんて思っていなかった。俺は、ようやくつきかけた火種をそのままに凛に駆け寄った。
「え、久しぶりじゃん……去年のW杯ぶり? かな? BBQなんて来ると思わなかった」
「BBQ来て悪いかよ」
「いや、凛に会えて嬉しい……今日はせっかくの休日だし楽しもう?」
「潔ー! 炭やれー!」
「あ! ごめん、玲王! 凛、俺、今火付けてるからさ、また後で」
俺は、炭の前に戻るともう一度火を起こし始めた。さっきまで苦労していたのもあって、やはり一筋縄ではいかない。
「あっっー……ん? 凛?」
凛が俺の隣にやってきてくれた。凛の手には、どこからか持ってきた冷たいペットボトルを持っている。一縷の望みをかけて凛、と声をかけてみる。すると凛は仕方ねぇなという顔をして、俺の首に冷たいペットボトルを当ててくれた。気持ちいいとその冷たさに浸っていると、早くしろと凛から指摘が飛んでくる。分かったから! と俺は火に向き合った。何度か挑戦していくうちに、ようやく炭に火が付いた。
「あ~! ついた~!」
俺の炭がついたのを合図にBBQが始まった。みんな成人したからと言って、とりあえずビールで乾杯してパーティーが始まった。ひたすら肉を焼くヤツ、ひたすら食うヤツ、イスに座ってのんびりするヤツなど三者三様だった。とりあえず、俺はみんなに任せることにして、ひたすら肉を食うことにした。玲王を始めとして、舌の肥えているやつらが買ってきた肉というのもあって肉は美味い。あんまりBBQで食べる肉って美味しいイメージがなかったけど。そういえば凛は? と思い辺りを見渡す。ウッドデッキにはいないようで、俺は心配になった。俺は誰もいないロッヂの中へ入っていった。
「凛~? いる?」
「ん? なんだよ」
凛はリビングのソファに座っていた
「あーよかった! 探してたんだよ! 大丈夫か? 体調悪い?」
「いや、別に……大丈夫」
「そっか……隣座っていいい?」
「勝手にしろ」
俺は少し冷めた肉と温くなったビールとともに凛の隣に座った。座るやいなや凛は俺の皿から肉をひたすら奪い取っていく。お腹空いてるなら、素直にみんなのところにいけばいいのにと思った。でも凛のことだからきっとみんなのところに行きづらいのかなとも思った。
「凛はなんで今日BBQに来たの? 珍しいじゃん、こういうのに参加するの」
「……いや、なんとなく……」
「俺、今日、凛が来るって聞いてめっちゃ嬉しかったんだよ。さっきも言ったけど、凛に会うのW杯ぶりだし」
「まぁ、お前も来るっていうから、久しぶりに顔見たくなった」
「え……?」
凛が? 俺に会いに、今日来てくれたの? え? なんで? 待って、待って、もしかして、これは俺のこと——……。
「肉、無くなった」
「あっ、うん……と、取ってくる……」
俺は慌ててグリルの元へ向かう。凛の分も必要ならお皿もう1枚持っていった方がいいかともう一枚分貰う。馬狼になんで二枚も持ってくんだよと言われたが、凛の分だから! と説得して盛ってもらった。
「ほら、凛、肉持ってきた」
凛はそれを受け取ると、無言で食べ始めた。俺も、さっきは少ししか食べれなかったので、無言で食べる。やっぱり、良い肉はBBQで食べても美味いんだなと確信する。それと同時にビールが進んだ。
「あ、ビール無くなった……」
「……取ってくる。さっき肉取ってきたお礼だ」
「あ、ありがとう」
そう言うと凛はビールを取りに行ってしまった。手持ち無沙汰になった俺はスマホを取り出した。そういえばここら辺の海キレイだったよな……と、地名を入れて見た。すると、"カップルにオススメ!"なんて一文が目に飛び込んできた。なになに、カップルには夕暮れがオススメ! という情報まで得ることが出来た。そしてこの付近は玲王ん家のプライベートビーチ! つまり一般人が立ち入ることが出来る場所とは違ってきっともっといい場所のはず! ここで告白なんてきっとロマンティックだ! そうなると凛をどう誘い出すかだけど……。
「つめたっ!」
「何ぼーっとしてだよ」
凛が、俺の頬にビールを押し付けてくる。分かったから、とビールを受け取りグイっと一口飲んだ。凛は持ってきたコーラを飲んでいる。お洒落な瓶コーラが凛によく似合う。
「ありがとう」
「ビールなんて太るぞ」
「コーラだって……」
「これはゼロコーラだ」
「あ、はい……」
なんだか凛に押され気味になっている。こんな状態で凛に聞いて大丈夫かな……。不安になる俺は、恐る恐る口を開いた。
「あのさ……凛、ちょっとビーチ行って軽くトレーニングしない?」
「は?」
「えーと……ほら! せっかく綺麗なビーチがあるらしいしさ……ビーチ走るのも立派なトレーニングになると思うんだ……」
「……」
凛は訝しげな顔をしている。いきなり俺が誘ったらなんか変だったよな……。
「わかった」
「……え⁉ いいの⁉」
俺の予想に反して凛はOKしてくれた。俺は驚きすぎて反応に遅れてしまった。
「え、ホントに......? あの、ホントに大丈夫?」
「は? ただビーチ行くだけだろ」
「あ、そうなんだけど......」
やばい、どうしよう、いざ告白するとなると緊張してきた......。
「さっさと行くぞ」
「あっ! 待って! 凛! せっかくだからさ……ここのビーチ、夕陽がキレイらしいんだ……だから、夕陽が見たいんだけどどう? あ! ほら! まだ焼きそばとか食ってないし! 焼きそば食べてから行こ!」
「? まぁ……」
いいかとソファから立ち上がった。それから俺たちは出来上がった焼きそばを美味しくいただいた。
「美味かったな……そろそろ行くか」
俺たちは立ち上がり盛り上がるみんなのそばを抜け、プライベートビーチにたどり着いた。俺の読み通り、夕陽がとても綺麗だ。
「トレーニングは?」
「ちょっと夕陽見させて」
「フンッ」
俺は凛にこの夕陽を見てもらおうと必死だった。凛はトレーニングしたくてうずうずしてるようだったが、俺はほらほらと座らせた。
「お前、なんか……」
おかしい、変だと言いたげな凛をなだめて海を見る。もうすぐで水平線に触れそうな太陽、波の音しか聞こえない。まるで世界に俺たちしかいないみたい。今しかない……!
俺は凛に向き合った。凛はびっくりして、顔だけ動かしてこちらを見る。
「凛! 俺さ……凛のことが好きなんだ……!」
「……」
ザーッという波の音が響く。凛は、びっくりした顔で俺を見つめている。
「……は?」
「……あ、あの! その……人間として好きっていうか、恋人として付き合いたい……みたいな」
「……」
凛は黙ったまま考え込んでしまった。やっぱり凛に告白なんて早かったんだ。さようなら俺の恋。もう俺はフラれ……──。
「わかった」
「……え?」
俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。わかった? 何が?
パニックになる俺は
「えっと、どういう……」
「付き合ってやるって言ってんだよ」
「え、付き合っ…… ホント」
俺の心臓がバクバク鳴っている。こんなに緊張しているのU20と戦ったとき以来かもしれない。うるさくて、
何も聞こえなかった。
「待って……凛……あの……」
「何度も言わせんな。付き合ってやるっつってんだよ」
驚きすぎて声が出てこず口をパクパクと動かすだけだった。なに間抜け面してんだと凛につっこまれる。
「え、どどどうしよう……嬉しすぎて……なんて言ったらいいか……え、っと、凛はなんでOKしてくれたの……?」
「OKして悪いかよ」
そう言うと凛はふいっとそっぽを向いてしまった。あれ? もしかして夕陽に照らされてるだけだけど、凛の顔……。
「りーん!」
俺はぎゅっと凛に抱きついた。凛は俺を振り払うこともなく俺を受け入れてくれた。
「これから恋人としてよろしく! ……うわっ!」
「なっ、おいっ……! んっ」
お互いがバランスを崩し、砂浜に倒れ込んでしまった。そして、俺たちの唇は触れ合っていた。
「んっ……うわーーー 待って き、キス……今っ! キス!」
「うぜぇ……事故だろ事故」
「俺のファーストキスだったのに……ねぇ、もう一回していい?」
「好きにしろ」
俺はふぅーと大きく深呼吸をした。凛と……キスをする……。凛の頭をそっと支えると、唇に触れた。
二度目のキスはちょっとしょっぱい味がした。