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    完成したら支部行き
    ものすごく途中
    捏造妄想盛り合わせ

    芸能会社を営むフィガロ社長がある日ファウストに一目惚れしてスカウトから始まるアイドルパロ。フィガファウ・ブラネロのカプ感はうっすらとしかありません

    #フィガファウ
    Figafau
    #ブラネロ
    branello

    無題「おい!!!フィガロ!!!!」

    そう声を荒げながら社長室の扉を開けてファウストが入室してくる。
    今にも殴りかかりそうな勢いと形相のファウストの後ろには肩を落とし申し訳なさそうにするネロと手を首の後ろに回し開いたままの扉にもたれかけニヤけた面でこちらを見るブラッドリーがいる。
    「随分お怒りみたいだけど一体どうしたの?」
    「どうしたじゃないだろ!どういうことなんだ!あれは!」
    まあまあと宥めるようにネロがファウストの肩を叩き、落ち着く時間を与えるかのように口を開く。
    「それが、、次のライブの演目のことで……あーー、ッその、社長に言いたいことがあるらしくて、、」
    俺はブラッドリーをチラッと見る。
    相変わらずニヤケ面が取れない男があの件を伝えたのだろうと察しファウストの方にもう一度視線を戻す。
    「なにか不満だった?」
    「ッッ………!なにがって……どうして僕たちが」
    耳まで真っ赤で恥じらいを含んだ表情を見せるファウストの声が急に聞こえづらくなる。
    「……どうして僕たちが、あんなにカッ…かわいらしい歌をあんなラ、ラブリーな格好で歌うことになってるんだ……」
    あぁ、やっぱりそのことか。

    ファウストとネロうちの看板として活動するアイドルユニットだ。
    コンセプトはまるで神のようなアイドル。衣装やステージセットは華やかさの中にある神秘性を意識し、ライブ中ファンサは無し。ふたりともビジュアルが整っているのでプライベートが謎に包まれているにも関わらず民衆を一目で虜にさせる。ライブを見たファンの評価として
    ・同じことが繰り返される日常の中での刺激
    ・しがらみから解き放たれて救われ、許された感覚に陥る
    ・気づけば頬に涙が伝う
    などと言った評価が多い。
    デビュー当初から現在に至るまでそれは変わらないし変える予定もない。

    はずだった。

    それが最近著しく新規のファンがつかなくなった。ふたりのことを神格化し始めたファンの数人がトラブルを起こしてしまいそれが世間に晒されてしまったのだ。
    この現代においてインターネットの力というのは恐ろしいもので揉み消したはずの不祥事は予期せぬ場所から煙が立ち一気に拡散される。消化活動が追いつかず結局ふたりのイメージダウンに繋がってしまった。

    イメージダウンからの脱却と新たなファン獲得のためにふたりのマネージメントを担当してもらっているブラッドリーに市場調査を行ってもらった結果今までと違う曲調と衣装を用意し次のライブでサプライズ披露することになったのだが…

    「新規を獲得するために奮闘するのはてめぇの勝手だけどよ、ファウストあたりがギャーギャー喚くんじゃねえのか?」
    ブラッドリーが俺の懸念部分をピンポイントで突いてくる。この男はいつもこうして鋭利且つ的確な意見を飛ばしてくる。まあそういうところを信用しているっていうのもあってファウストの傍においてるんだけど。
    「うーん、問題はそこなんだよね。」
    「あの売り方だからアイツらは舞台に立ち続けてたんだろ?それを、しかもよりによっていちばん嫌がりそうな方向に転換するってなるといくらこの俺様とはいえ説得し切れる自信ねーな」
    特にファウストの野郎は…と小声で付け加える。
    「俺としては、だからこそ。なんだけどなあ。路線変更は必ず話題になる。そしてその内容が驚くような意外性を持ち合わせていれば民衆は必ずこちらを向く。あと、そろそろかわいいアイドルしてるファウスト見たいし。お前もそう思わないか?ネロの………」
    と言いかけたところでブラッドリーは大きな舌打ちをして俺の話を遮る。
    「あーあー、わーったよ。あくまでも俺はてめぇの趣旨を伝言するだけだ。あとてめえと俺の趣味嗜好を一緒にすんな。」
    そう言いながらブラッドリーは部屋から去っていった。

    と、まあそんな話をしたのがほんの数日前のことで冒頭の状況至るわけだが。ちゃんとブラッドリーが伝言してくれたのだろう。様子を見る限りネロは問題なさそうというか、路線変更の話は想定の範囲内だったようだな。となると大方この状況は話を聞き終える前にファウストが飛び出してきてしまったんだろう。
    俺は襟元を正しわざとらしい笑みを浮かべふたりを見る。
    「知ってると思うけど、ここ最近君たちの人気は低迷している。」
    『…………』
    「この状況を打開するためには別角度からのアプローチをしていく必要がある。それは分かるね?」
    「そこは俺もファウストも理解してるつもりだ。ただまあ、だからってどうしてそっちの路線になるのかはファウストと同じで俺も気になるな。」
    「うん。君たちがそこに疑問を抱くのは間違いじゃないね。」
    「それなら………!」
    俺は声のトーンを一つ落とす。
    「それなら、自分たちのプライベートを明かして親近感を売りにするアイドルになる方がいいって?」
    「………ッッ」
    図星を当てられたファウストはなにも言い返せないようだ。
    「残念だけど、それは違うな。そうしてしまうと今までの功績は全て消える。あくまでもこれは打開策だ。意外性で話題を呼ぶだけならしばらくすれば元の路線に戻ることも可能になる。所謂ギャップ萌えを狙うってやつだね。だけど、プライベートを明かすと言うことは神に手が届くような体験を民衆にさせるということだ。それがどういうことかはこれ以上言わなくても分かるね?」
    空間が沈黙に包まれる。
    「うーん、だからと言ってはい。わかりました。って二つ返事はできないなあ。」
    なあ?ファウストとネロがファウストに問いかける。
    「当たり前だ。元々僕たちが苦手なトークや分野を考慮した上での売り出し方のはずだ。それを今更変更と言われても追いつかない。特に心の方が。」
    俺は見せつけるように足を組み口角を上げる。
    「うん。だからお披露目ライブは2ヶ月後だ。それまでに備えるように。」
    今度はその笑みに有無を言わさない圧を乗せて。


    その日はそこで次の仕事への移動の時間になったため一旦場は解散になった。


    俺は一息つくためにコーヒーを淹れ椅子にもたれかかる。
    空からの日差しが社長室へ入り込む。あの子に出会った日もこんな風に日差しが強い日だった。あの日のことは昨日のことのように鮮明に覚えている。

    事業を立ち上げ俺の会社はそれなりに安定していたが、看板商品が不在のため会社の功績は伸び悩んでいた。
    それがあのとても暑い日。
    商談帰り一息つこうと入ったカフェで当時高校生だったファウストとネロを偶然見かけた。半袖から見える細い腕に少し癖のある髪の毛。あれは多分一目惚れだったんだと思う。言葉では表すことのできない感情に襲われ、この出会いを逃すことは許されないと本能が言っていた。俺は足早にレジでの会計を済ませアイスコーヒーを片手にファウストたちが談笑している机へ向かう。
    「君たち、芸能界に興味ない?」
    突然話しかけた俺にふたりから警戒と嫌悪の表情が読み取れる。気づかないフリをして机の上に名刺を差し出し話を続ける。
    「俺はこの会社で社長をしているフィガロ・ガルシアという者だ。うちの会社でアイドルとしてデビューしてみない?」
    ネロは差し出した名刺を手に取りファウストが俺の方をじっと見つめる。熱すぎる視線から逃げたくてコーヒーを流し込み身体の中に冷気を辿らせる。
    「ア、アイドル…?」
    ファウストがやっと口を開いた。
    「そう、アイドル。君たちふたりならうちの看板になれる。俺が保証する。」
    若人には邪な感情を見せず素直に伝えるのが最も有効的だろうと瞳を見つめる。
    「ファウスト、俺この会社聞いたことある。結構デカめのとこだぞ」
    名刺を見つめていたネロが目を輝かせて興奮気味にファウストの肩を叩く。
    「君ってやつは……」
    叩かれた肩を抑えながら呆れ気味にファウスト息を吐く。
    「じゃあ……とりあえず話を聞くだけなら…」
    「ほんと…!?ありがとう!じゃあすぐに迎えを呼ぶから一度会社で話そう。ここじゃお互い落ち着かないだろ?」
    俺は掴みかけたチャンスと目の前にいるファウストを逃さないよう強く手を握った。

    会社へ到着し社長室のソファで落ち着かず視線を泳がすふたりに
    「先ほどは大変失礼した。改めて社長のフィガロ・ガルシアだ。」
    えーっと、と簡易に書いてもらったプロフィールに目を落とす。
    「ファウスト・ラウィーニアくんとネロ・ターナーくんだね。年齢は一つ違いなのか。とても仲が良さそうに見えたからてっきり同い年なのかと思ったよ。」
    「親同士が昔から仲良くて、高校は離れてるんすけど休日はさっきみたいに結構ふたりで会ったりしてるから。かもしんないっす…」
    「それは素敵な関係だね。それでさっきの話の続きだけど…」
    「僕たちをアイドルに……という話か?」
    「そう、その話をする前に紹介したい人がいるから呼んでもいいかな?入っておいで」
    と俺は扉の前に待機させていた男に入室を促す。
    扉が開き入ってきた男を目にしたネロが勢いよく立ち上がる。
    「ブ、ブラッド……!」
    「ネロ……。」
    ブラッドリーが面食らったような表情を見せたと同時にネロは冷静を取り戻したのか再びソファに座る。
    「あれ?なんだ、知り合いだったの?なら、話は早いね。」
    ファウストだけが状況に追いつけないのか頭の上に疑問符が飛んでいる。
    「彼は最近うちの会社にきてね。風貌はまあ見ての通りこんなだけど業界屈指の敏腕マネージャーだ。もし君たちがデビューすることになれば彼を君たちにつけようと考えてる。」
    そんなこと聞いてねえぞと言わんばかりの顔でブラッドリーが俺の方を見る。
    「他者の介入は一切なし、プライベートな詮索もさせない。ただ君たちは与えられたままに舞台上で踊り続けるだけでいい。手が届きそうで届かないアイドルとして。」
    その言葉だけでブラッドリーは自分がここに呼ばれた意味を理解したようだ。
    「踊り続けるだけでいい、つったって…なぁ…そういうのは慣れてねえし…」
    ネロがファウストの方をチラッと見る。
    「あなたは僕たちふたりならこの会社の看板になれると言ったが算段があるのか?」
    「君たちふたりを見た瞬間、この会社を立ち上げた時のような心踊る感覚になった。そして、俺は業界の右も左もわからない君たちを完璧にプロデュースできる自信がある。学業との並行になり少し負担はかかるかもしれないが、歌とダンスのレッスンを約半年間行ってもらいその間にデビューに向けての準備をここにいるブラッドリーと俺で進めるつもりだ。もちろんデビュー後高校卒業、その後の進路へのケアも全面サポートさせてもらうつもりだ。」
    頭の中で今の状況を整理するための沈黙が僅かに続く。
    「…わかった。だがこの話は一度持ち帰らせてもらえないだろうか?ネロとも相談したい。」
    「勿論。ただ、返事はなるべく早くお願いしたい。」
    ここまで足は運んだがお断り。にならなかったことへ本心からの安堵の笑みが溢れた。
    「返事が決まったら、さっき渡した名刺の連絡先まで。良い返事が聞けることを願ってる。」
    そう言ってその日はお開きになった。

    ふたりを見送った後社長室に残ったブラッドリーが対面にだらしない格好で座っている。俺は気にせずコーヒーを飲む。
    「てめえ、俺とネロが知り合いだってどっから仕入れた?」
    「さあ、本当に知らなかったよ。なにせ今日彼らと出会ったのも偶然だ。君もその偶然に巻き込まれた人間だっただけじゃないか?」
    「チッ。でも俺があんなガキどもの面倒見るってか?」
    「当たり前だ。逆に聞くけど別の人間がネロの傍にいて構わないのか?」
    「まあ、その前にアイツらがやっぱ無理です。って断る可能性もあるワケだしな」
    「それはないね」
    「なんでそう言い切れる?」
    「俺の勘だよ」


    _____________

    「おい、ファウスト…ファウスト!」
    会社のビルを出た後からずっとファウストの様子がおかしい。というかあの社長に会ってからずっと上の空だ。
    「あぁ、すまない。ネロ。僕一人で勝手に話を進めてしまって」
    「それはいいんだけどさ、なんならカフェの時点で断ると思ってたし。」
    「あぁ。僕も最初はそのつもりだったんだが、あの人の顔を見てどうも断ろうと思えなくなってしまって……」
    おいおい、それって…とネロは自分の気持ちに鈍感なファウストに呆れた表情をする。だがそれと同時にとうとうファウストにも春が来たのか……と思うとだんだん口角が上がってくる。
    「なっ……なにをニヤニヤしてるんだ!と、それより今はそれどころじゃないだろう!言われるがままについて行ってしまったが冷静に考えるとア…アイドルって……というかそれよりあの途中から入ってきた柄の悪そうな男と知り合いなのか!?」
    浮ついた感情が抑えきれないまま怒り口調を乗せにファウストはネロに問い詰める。
    「オイオイ。とりあえず落ち着けって。とりあえず一旦家に戻って整理しようぜ。あいつとの関係もちゃんと話すから。」
    な?とネロが笑いかける。
    そう言われてしまっては反論する余地がないためここはネロのいう通り深呼吸してひとまずはこの稀有な一日の帰りを楽しむとするか。


    _____________

    「さてと俺はそろそろ帰るとするかな。ブラッドリーは?」
    「俺は誰かさんのおかげで仕事が大量にあるんでな。もう少し残るぜ。帰りの車は下に手配済みだからとっとと帰れ。」
    「さすが敏腕マネージャーは仕事が早い。その調子でこれからも頼むよ。」
    「へいへい、貴方様の仰せのままに。」
    そういってフィガロは社長室を後にする。
    「しっかし、あのネロがアイドルとはなー」
    俺は作業の手は止めないまま昼間に会った瞬間のネロの顔を思い出す。
    ここ数年は顔を合わせていなかったのもあるが随分とまあ顔つきもしっかりしたもんだなと何故か誇らしげに思える。

    アイツが俺の通ってた高校に入学してきた時はそりゃもう随分と顔の良い男が入学してきたって校内が騒ぎになってたっけ。俺も校内で見かけた時は大したもんだと思った気がする。ただ、人とつるむのは苦手そうっつーか人を寄せ付けない雰囲気があるやつだなって思ったことは覚えてる。それがアイツが入学して1ヶ月くらい経った日だったかの昼休みに昼飯食い終わって腹が満たされた俺は屋上で仮眠するつもりで足を運んだ。そこに先客がいたんだが気にせず寝てやろうと思って前を通り過ぎたんだ。そしたらだ。ソイツが手に持ってる弁当からすっげーいい匂いがしてきて思わず足を止めちまった。
    「その唐揚げ、お前が作ったのか!?」
    「えっ」
    急に声をかけられ驚いたソイツの揺れた前髪の隙間から覗く目が俺の目と合う。
    「は、はい…俺が自分で作りました……」
    「すっげーな!めちゃくちゃ旨そうじゃねえか!お、てめえちょっと前に話題になってた一年坊主だな!名前は?」
    「ネ…ネロです」
    「ネロか!俺の名はブラッドリーだ。ネロ、てめえの唐揚げ俺にもよこせ!」
    それがネロとの出会いだった。それがキッカケで俺が卒業するまでの一年程ネロの作った弁当を屋上でふたりで食うのが日課になった。休日に予定を合わせて会うでもない、学内ですれ違うときに挨拶をするわけでもない。ただ昼飯を一緒に食うだけの奇妙な関係。アイツが持ってくる弁当はどれも絶品で今思い出しても思わず涎が垂れそうになる。
    俺が卒業してからはこの業界に就職してバタバタしててようやくマネージャー業の軌道に乗ったかと思えば、俺に惚れちまった女優に変な言いがかりをつけられ首がトビそうになったところをフィガロに拾われたりとなにかと忙しくてなかなか連絡できずにいたからまさかこんなところで再会するとは思いもしなかった。
    「あぁー、久しぶりにネロの作った飯が食いてーなー」
    作業も一区切りついたことだし続きは明日にすっか。と開いていたPCを畳み帰り支度を始める。
    「あの日のこと考えてたら唐揚げが食いたくなっちまった。帰りに定食屋でも寄るか」


    _____________

    「……とまあ、俺とブラッドの関係はそんな感じだよ………」
    なんか改めて話すと小っ恥ずかしいなと呟きながらネロが頬を掻く。
    「就職して忙しいのは知ってたしここ数年は連絡も取ってなかったしまさかあんなところで再会するなんて思ってもなかったよ。」
    話を整理するために僕はネロの家にお邪魔していた。
    「いい先輩だったんだな」
    「先輩……っていうほどじゃねえけど確かにいいやつではあったのかもな」
    そう言うネロの目がとても優しく笑うから僕まで温かい気持ちに胸が包まれた。
    「ほら!俺の話はいいから。それでスカウトの話受けるつもりなのか?」
    ネロが少し雑に話の流れの舵を切る。
    「僕は受けていいと思っている。」
    あまりにも澱みなく言い切るからネロは少し驚いた。
    「そりゃまたなんで。ファウスト別に芸能界とか興味ないだろ」
    「それはそうなんだけど、今日あの人に計画的なビジョンを聞きすぐに首を横に振ろうと思えなかった。進路についての話もチラッとあったが……ネロは今年で卒業だろ?僕もそろそろ考え出さなければいけないと思っていた頃だ。」
    卒業後の話をされて肩身が狭くなる。
    「ネロとこういった話をすることはなかったがこの先の進路は考えているのか?いや、言いづらければ無理に言わなくてもいいんだが。」
    「大丈夫だよ。うーん、漠然と料理に関わる仕事がしてーなーとは思ってるけど専門学校に行くか就職かはまだ決め切れてねえな」
    「そうなのか、ネロの作る料理はどれも美味しいからネロがその道を考えてくれていて僕は嬉しいよ。」
    「そう言ってくれるとおちおち悩んでらんねえな。」
    ネロはこの先に抱いていた不安を隠すように笑って見せた。
    「僕は、これといって特に目指したい職業はなかったんだ。でも今日あの人に声をかけてもらい舞台に立つ自分が少し想像できた。そして、その隣にはネロがいてくれればいいのにと強く思った。それに芸能業界に伝手ができるのは悪いことではないしな。」
    その目に迷いはない。
    「いやっ、もちろんネロにはネロの夢があるだろうから無理にとは言わない。もちろん断ってもらっても構わない。そもそも隣にいてほしいという気持ちは僕が勝手に抱いているものだ。」
    どこまでも他人に気を遣っているのがファウストらしい。ファウストが芸能業界に伝手を欲しがるのにはなにか理由があるのかもしれないが今聞くのは野暮だろう。
    「んー、そうだな。いいもん食って舌を肥やすのも料理人にとっては大切だし、進路の話も含めてあの社長にサポートしてもらうっつーのは悪くない案かもしれねえな。」
    「ブラッドリーもいるしな。」
    ファウストが少し意地悪な笑みを浮かべる。
    「ブ、ブラッドは関係ねえ!ファウストこそあの社長に気があるんじゃねえのか?」
    「僕が?そんなわけないだろう。大体僕如きが迂闊に手を伸ばして良いような人ではないだろ。」
    つまらなさそうにネロが口を尖らせる。
    「ふーん、まあいいけどさ。とりあえず俺たちの気持ちは纏まったし明日にでも報告しねえとな」
    「そうだな。明日の昼休みに僕から電話しておくよ。」
    「おう。よろしく頼む。」


    _____________

    終業と同時に昼休みにを知らせるチャイムが校舎中を響き渡る。
    昨日ネロにブラッドリーとの出会いの話を聞いたからか今日は屋上へ自然と足が向いた。学内で最も空に近い場所への扉を開けると暖かい陽射しと心地よい風に包まれた。フェンスの近くへ腰を下ろす。グラウンドからは汗を流す生徒たちの声が聞こえる。
    「昼食にする前にフィガロさんに電話するか。」
    ブレザーのポケットに手を入れ携帯を取り出し昨日登録を済ませておいたフィガロの番号をタップする。

    「……はい、ガルシアです。」
    昨日の親しみやすさを感じられない声のトーンに少し背筋が伸びる。
    「もっ、もしもし…昨日お声がけいただいたファウスト・ラウィーニアです。お返事のお電話をさせていただきました。」
    「あぁ!ファウストか。早速返事を聞かせてもらおうかな。」
    聞き馴染みのあるトーンに気が落ち着きフェンスにもたれかける。
    「結論から言うと是非受けさせていただきたいです。」
    「ほんとに…!?」
    「ですが、ネロの進学へのサポートや相談などできる限りの協力はお願いしたいと思ってます。」
    フィガロはこの子はどんな時でも他人を思いやることができるんだなと一言で感じる。
    「勿論だ。じゃあ契約の手続きや今後の説明のためにふたりで会社にきてほしいんだけどいつ来れるかな?」
    「週末お伺いしてもよろしいでしょうか?ネロにも予定は確認済みです。」
    「さすが抜かりない。わかった。じゃあ週末の昼過ぎに。」
    「はい。よろしくお願いします。」
    電話を切り、弁当の蓋を開ける。
    箸を持つ手が少し震えているのがわかる。この震えは新たなステージへの一歩を踏み出したことへの緊張からきているのか、それとも別の感情からくるものなのかは分からない。

    放課後、昼間の連絡事項を伝えにネロのバイト先に顔を出していた。
    ネロの知り合いが経営している飲食店で、僕も何度かお邪魔させてもらっていてとても落ち着く雰囲気がお気に入りのお店だ。アットホームでネロにもメニューの発案料理へのチャレンジをさせてくれるところが気に入ってるんだよなといつの日にか言っていた。
    しばらく談笑した後、お店の扉が開きネロがそちらの方に視線を向け笑顔が消えた。
    その視線に釣られて扉の方を向くと見たことのある長身の男が立っていた。
    「いらっしゃいませ、、空いてる席どうぞ」
    男は店内を見回した後、僕が座っているカウンター席に向かってひとつ開けた椅子に腰掛けた。
    「よぉ、ネロ。あとファウストって言ったか。」
    「ど、どうも……」
    僕はネロの方をチラッと見やる。平常を装っているが視線や動作から動揺しているのが伝わる。
    「そう畏まんなよ。たまたま外からお前らの顔が見えたから入っただけだ。腹も減ってたしな。」
    そう言ってメニューを開く。
    「どれも旨そうだな。おっ、唐揚げあるじゃねえか。じゃあこの唐揚げ定食ひとつ。てめえは食わねえのか?くるくる頭」
    「くっ!?くるくr!?」
    ブラッドリーは明らかにこちらを向いてそう呼んだが僕のことだと把握するまでに時間がかかった。
    「お前以外に誰がいんだよ」
    強面な顔に似つかない笑顔に気持ちがほぐれる。
    「じゃ、じゃあ僕は珈琲を。」
    今の少ない会話の中でネロはファウストにブラッドリーとの関係を話したのだろうと察する。
    「そうか、おいネロ。こいつに珈琲一杯だ」
    この店に入店してから彼が初めてネロの名を呼んだ。ネロもそれに気づいているのだろう心なしか笑っている気がした。
    「あいよ、少々お待ちを。」
    ネロが厨房へ行きカウンターに僕とブラッドリーが残り少しの沈黙に包まれる。
    話の切り出し方を模索しているとブラッドリーの方から話題が飛んできた。
    「てめえら、あの話受けるんだな。」
    「あ、ああ。フィガロさんからもう聞いたのk、聞いたのですか?」
    「そう改まるな。これから俺はてめえらのマネージャーになるんだから」
    「そ、そうか?では話を戻して、あなたのところまで既に話が回っているのだな」
    「はっ、当たり前だろ。まあその話は今後いくらでもできる。今だから出来る話をしよう。」
    「今だから…?」
    「ああ。」
    ブラッドリーに真剣な眼差しで見つめられゴクリと喉が鳴る。
    「この店のおすすめメニューを教えろ。」
    「え?」
    思わぬ質問に拍子抜けした声が出てしまった。
    てっきりこれまでの経歴を聞かれてデビューに向けての資料集めでも行うのかと思っていたからだ。
    「え、えっと、僕のおすすめはこのじゃがいものガレットかな。」
    「ガレットォ?ふーん、あんまり腹には溜まらなそうだがこれはこれで旨そうだな。それより肉だ。肉。」
    「肉?うーん、そうだな。どれも美味しいがハンバーグはどの種類も絶品だな。」
    「ハンバーグか。唐揚げが足りなかったらそれ食うかな」
    「足りなかったら!?大食いだな…」
    「あたりめえだろ。腹が減っては戦はできぬ。って言うしな。」
    ブラッドリーが僕の腰あたりを舐めるように見る。その視線がくすぐったい。
    「てめえはもっと食ったほうがいいんじゃねえかぁ?特にこの腰回りなんて…」
    と、ブラッドリーが僕の腰に手を伸ばしかけたその時、
    「はーい、そこまで。ブラッド、あんまりファウストに絡むな。はい、唐揚げ定食。ファウストも珈琲お待たせ。」
    とても綺麗に盛り付けられた唐揚げの山にブラッドリーが目を輝かせる。
    「相変わらず旨そうだなあ!また料理の腕あげたか?」
    「はは、そう言ってくれると作り甲斐があるよ。」
    ネロが照れくさそうに首の後ろに手を回す。
    眼差しからブラッドリーの少年心が抑え切れないのが伝わってくる。
    ふたりの間に流れる空気感はきっと一緒にいた頃と変わらないのだろうな。と思いながら珈琲に口をつける。
    それからはふたりが一緒に過ごしていたときの話など他愛もない話をしながらブラッドリーがお腹の空きを満たしていく。
    陽が落ちてき始めそろそろお暇しようとしたところでブラッドリーが追加のハンバーグを頼んだ時は驚いた。ネロは予想の範囲内だったようであっさりと厨房へ戻っていった。
    今この場を離れることは容易だったがなんとなく足が向かずブラッドリーの料理を一緒に待つことにする。今度のカウンターは先ほどのように沈黙は訪れない。
    料理はすぐに到着しまるで飢えた獣のような食いつきを見せ、みるみるブラッドリーに吸い込まれていく。
    あっという間に完食したブラッドリーは満足そうだった。
    去り際に
    「ファウスト」
    と真剣な声色で名前を呼ばれたからこちらまで改まってしまった。
    「ネロのことよろしくな。アイツあんなんだから。お前が隣にいてくれると安心だよ。」
    「なにを言ってるんだ。これからはブラッドリーも一緒だろ」
    そう告げるとブラッドリーは先輩でも社会人でもない兄のような笑みを見せた。
    「あ、あとフィガロには気をつけろよ。無害な顔しておっかねえから。」
    どうしてここで社長の名前が出てくるのかは理解できなかったが意地悪な笑みを見せた顔が何かを企んでいる時のネロにソックリだなと思った。
    ブラッドリーはまた週末な〜と手を振りながら店を後にした。

    「嵐のような人だな。」
    「いっつもそうなんだよ。でもアイツの周りには自然と人が集まるしみんな笑ってる。」
    懐かしむような表情の中に少し寂しさが混ざっているように思えた。
    「俺ももうすぐ上がりだしファウスト時間大丈夫なら一緒に帰ろう。」
    「今日はこの後特に予定もないから待っておくよ。ゆっくり帰り支度してくれ。」

    _____________

    それから数日経ちファウストとネロは会社に訪れていた。
    ブラッドリーに出迎えられ社長室までの道で、テレビの向こう側でしか見たことのない人とすれ違いネロは全身に力が入って少し歩く歩幅が不規則になっているところをブラッドリーに笑われていた。ファウストはやたらと周りを見渡していたが、その仕草は緊張というより誰かを探していているようにも見えた。
    社長室の扉を開けるとフィガロがソファで待っていた。
    「待ってたよ。どうぞ。」
    正面に構えるソファを指しファウストとネロを誘導する。
    「ふたりは?珈琲飲める?」
    その言葉と同時にブラッドリーが棚に用意してあるカップを手に取る。ふたりが返答の代わりに頷いたのを確認し珈琲を注ぎ机まで運んだ。
    『あ、ありがとう…ございます』
    社長の前でのブラッドリーとの距離感を測りかねるふたりを見て
    「ブラッドリーから大方話は聞いてる。俺の前だからって改める必要はないよ」
    『は、はい……!』
    「ちなみにうちは体育会系の会社じゃないし常識をわきまえている人間しかいないのもあるんだけど、俺にも社長だからって畏まる必要はないからね。特に社長って呼び方なんか重くてヤなんだよね」
    そう言ってウインクしてみせる。
    冗句か本気かわからないと困惑を見せるファウストとネロに
    「本気だよ。事実、俺もコイツとかアイツとかで呼ぶしな。」
    とブラッドリーが付け足す。
    本当は名前で呼んでほしいんだけどな…とフィガロが小声で漏らす。
    「と、まあ前置きはこのあたりにして」
    フィガロが机の上に大量の資料を撒く。
    「これに君たちふたりがアイドルとして生きる全てが記載されている。データでも後ほど送ろう。勿論社外秘だしデータを持つのはこの会社の中でもここにいる4人だけだからそこんとこよろしくね。」
    先ほどと同じようにウインクを見せるが今は先ほどのように冗句で受け取ることができない。
    「先日も軽く話したけど、まずは半年間ふたりには歌とダンスのレッスンを受けてもらう。基本的には学業に支障のないスケジュールを組むつもりだから後で時間割教えて。あと個人のスキルによって内容や時間も変えていこうと思うから随時相談して___」
    そこから小一時間フィガロからの説明を受けたファウストとネロは疑問点や要点を纏めていた。
    「しゃ、フィガロ……このコンセプトのことなんだが」
    「ん?なに?」
    フィガロが立ち上がりファウストが手に持つ資料を覗き込む。
    触れていないはずの距離なのにフィガロの温度を感じてフィガロの方を向くことができない。
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    DOODLE2022.6.2公開の、フィガロ誕4コマの蛇足のようなフィガファウ。
    4コマ見た瞬間に書いてた。本当はなんでも無い日だって部屋にくらい行く二人です。
    なんでも無い日だって部屋にくらい行くよ。 自分から出向かないと顔を出すまで部屋の扉を叩かれるから。他の賢者の魔法使いは声をかけているのに、一人だけ無視をするのは気が引けるから。理由はいくらでも思い浮かんだけれど、結局の所、僕が伝えたいだけなのだ。
     四百年の間、誕生日という日を特別に感じた事は無かった。それもそうだろう、依頼人くらいしか他人と接する機会が無かったのだ。すると自分の誕生日も有って無いようなものになる。ふと、そういえば今日は自分の誕生日だと思い出す事もあるが、王族の気まぐれで作られる国民の休日と同じくらいどうでもいいものだ。
     それなのに、この魔法舎で暮らし始めてからはどうだろう。二十一人の魔法使いと賢者、それからクックロビンやカナリアの誕生日の度に、ここはおもちゃ箱をひっくり返したような有様になるのだ。自分の誕生日には一日中誰かから祝いの言葉を贈られて、特別なプレゼントを用意されたりして、自分らしくもなく浮かれていた。それは他人が僕のために祝ってくれる心があってはじめて成り立つもので、少なくとも僕はその気持ちを嬉しいと感じた。僕が何か行動を起こしても相手は喜ばないかもしれない、もしかしたら怒らせる可能性だってある。受け取る側の気持ちを強制は出来ないけれど、僕が他人を祝いたいのだ。気持ちを伝えたいだけ、あわよくば喜んで欲しいけれど。
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