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    2022.6.2公開の、フィガロ誕4コマの蛇足のようなフィガファウ。
    4コマ見た瞬間に書いてた。本当はなんでも無い日だって部屋にくらい行く二人です。

    #フィガファウ
    Figafau

    なんでも無い日だって部屋にくらい行くよ。 自分から出向かないと顔を出すまで部屋の扉を叩かれるから。他の賢者の魔法使いは声をかけているのに、一人だけ無視をするのは気が引けるから。理由はいくらでも思い浮かんだけれど、結局の所、僕が伝えたいだけなのだ。
     四百年の間、誕生日という日を特別に感じた事は無かった。それもそうだろう、依頼人くらいしか他人と接する機会が無かったのだ。すると自分の誕生日も有って無いようなものになる。ふと、そういえば今日は自分の誕生日だと思い出す事もあるが、王族の気まぐれで作られる国民の休日と同じくらいどうでもいいものだ。
     それなのに、この魔法舎で暮らし始めてからはどうだろう。二十一人の魔法使いと賢者、それからクックロビンやカナリアの誕生日の度に、ここはおもちゃ箱をひっくり返したような有様になるのだ。自分の誕生日には一日中誰かから祝いの言葉を贈られて、特別なプレゼントを用意されたりして、自分らしくもなく浮かれていた。それは他人が僕のために祝ってくれる心があってはじめて成り立つもので、少なくとも僕はその気持ちを嬉しいと感じた。僕が何か行動を起こしても相手は喜ばないかもしれない、もしかしたら怒らせる可能性だってある。受け取る側の気持ちを強制は出来ないけれど、僕が他人を祝いたいのだ。気持ちを伝えたいだけ、あわよくば喜んで欲しいけれど。
     だから、六月五日の昼前にフィガロの部屋を訪ねに来た。
     気の利いたプレゼントなんて用意していないし、贈る言葉も考えていない。まるで考え無しだが、フィガロの顔を見れば言葉は出てくると思っていた。しょっちゅう断ってしまう晩酌の相手をしても良いし、望む物があるなら後日でも良ければ用意するつもりだ。
     しかしフィガロの部屋の前には南の魔法使い達が集合していて、本日の主役を囲んでいるのは想定外だった。
     よく考えれば分かる事だが、丁度この時間はフィガロが起きる頃合いだ。いの一番に祝いの言葉を贈りたいのだろう南の国の連中が部屋の前に居るのは当然の事だ。和気藹々とした様子の彼らの輪の中に入り込む気はさらさら無く、出直そうと踵を返した。が、一歩踏み出した所で目の端に入ったものを見逃さなかったレノックスが「…ファウスト様?」と名前を呼ぶからどうしてくれよう。すぐにしまったという顔をされたが、彼に悪気は無くとも口に出したものは元には戻らない。
     南の国特有の空気の中に出て行くのは気が引けるのだが、ここで逃げ出す方が可笑しな話だ。通りかかっただけだと告げるのは簡単だが、また後でフィガロの元を訪ねるハードルが上がる事だろう。
     僕が何も口にする前にフィガロはお礼の言葉を言ってくるし、ルチルとミチルの穏やかな視線が痛い。
     ああもう、どうにでもなれ。そんな気持ちで伝えた単純な祝福の言葉に、フィガロは笑みを深めた。
     去年よりはまともに言えただろうか。その前なんて本当に酷かった自覚がある。それでもフィガロは「ありがとう」と笑っていた。それがいつもの嘘まみれの笑顔じゃなくて、心から嬉しそうに見えたから……今年こそはちゃんと言おうと思っていた。フィガロの喜びと同じだけの気持ちを伝えられただろうかとフィガロの様子を窺うと、こてんと首を傾げられる。
    「……いや、何でも無い」
     西の魔法使いみたいにユーモラスな祝い方は出来ないし、だからといって昔のように素直にはなりきれない。結局の所それだけで、体当たりが失敗した気持ちになった。
     こんなにも身にならない時間を待たせている南の国の三人を横目に見て、用は済んだし早めに立ち去ろうと思ったのに、それを察したのか伸ばされた手が僕の手首を掴んで引き留めた。
    「何……?」
    「一つ、君におねだりをしても良い?」
     フィガロの方から要望を言ってくるなんて願ったり叶ったりだ。子供達の前だし、無茶な事は言わないだろうと考えて頷くと、フィガロは笑顔の種類を変えて顔を近付けて来た。少しだけ声のトーンを落とした声は何度となく聞いた色をしていたが、耳元で囁かれると否応なしにゾワリと肌が粟立つ。
    「後で、君の時間が欲しい」
    「後って、いつの事だ」
     応えた声は震えてはいなかっただろうか。僕の動揺を知っている男は、触れている手を滑らせて手の平を指先で撫でてくる。
    「子供達が寝静まった頃に。待ってるから」
     まあ、という顔をしたルチルは先生同士が仲良さげに会話をしている事を喜んでいるのか、それとも別のニュアンスを感じ取ったのかは定かでは無い。
     三人を引き連れて食堂に向かう男の背中を見送っていると、ミチルが「ファウストさんも一緒に行きませんか?」と声をかけてくれたがどうにか断った。レノックスが控えめに会釈をするだけで立ち去ってくれたのは、今の僕の顔が平常時とは大きくかけ離れていたからに違いない。
    「くそ……」
     真っ昼間から聞く声じゃない。どうしたって思い出すのはベッドの上の記憶だ。
     レノックスと、もしかしたらルチルも気が付いたかもしれないのに、今夜フィガロの部屋を訪ねなくてはならないなんて――。いつもなら怒りで手が出る場面の筈なのに、顔が熱くて適わない。羞恥が怒りに勝ったのは、嫌では無いからだと知っていた。
     フィガロの誕生日が終える頃、僕はあの部屋の扉を叩くだろう。
     特別な日だから。おねだりを聞いてやると言ってしまったから。そんな言い訳をしたって、結局の所、僕がフィガロと過ごしたいだけなのだから。
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    tono_bd

    DOODLEフィガファウ冥婚企画(https://mhyk.web.fc2.com/meikon.html)で書いたお話です。
    レノックスと任務で東の国に行くファウストの話。
    任務についてがっつり書いて、恋愛要素は潜ませました。
    ああそういう事だったのね、という感想待ってます。
    赤い川を渡って そこに横たわっていたのは血のように赤い色をした川だった。
     流れがひどく緩慢なため、横に伸びた池のような印象がある。大地が傷つき、血を流した結果出来たのがこの川だという言い伝えがあってもおかしくは無いだろう。濁っているわけではなく、浅い川であることも手伝って川底の砂利まで視認出来た。尤も、生きた生物は視認出来なかったが。
     任務でこの地を訪れたファウストは、地獄を流れる川のようだと感想を持った。
    「きみは驚かないんだな」
    「見慣れた風景ですので……懐かしさすら覚えます」
     水質を調べようとファウストは手を翳したが、既に手遅れであることは誰の目にも明らかだ。オズくらいの魔力があれば力業で全ての水を入れ替えてしまえるのかもしれないが、正攻法であれば浄化になる。媒介は何が必要で、どのような術式で、とぶつぶつ呟きながら暫く考えていたが、少なくとも今打てる手はファウストには無い。
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    tono_bd

    DOODLE同級生の中で一番初体験が早かったのが生徒会長だったら良いな……って思いながら書きました。
    スペースに集まった人全員「夏の現代学パロ」というお題で一週間で作り上げるという鬼畜企画でした。
    私が考える「現代学パロ」はこれだ!!って言い切るつもりで出します。
    どう見ても社会人パロとかは言わない約束。
    ノスタルジーが見せる 夏休みを失って二年が経った。
     手元で弾けている生ビールの泡のように、パチパチと僅かな音を立てて消えていく。気付いたら無くなっているような二年だった。社会に出れば時の流れは変わるのだという言葉の信憑性を疑った時期もあったが、自分がその立場に立ってはじめて理解出来るものだ。
     ノスタルジーが生み出す感傷だろう、自分らしくないなと思いながらジョッキを傾ける。
     同窓会なんて自分には縁の無いものだとファウストは思っていた。誘う友人もいないし、誘われるような人柄では無いと自覚している。それなのに今この場にいるということは、認識が間違っていたという事だろうか。今日の事を報せてくれた淡い空色の髪をした友人は目立つ事も面倒事も厭うきらいがある。そんな彼が声をかけてくれたのは、単に僕がのけ者にされないよう気を遣ったのか、巻き添えを探していたのだろう。
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    DONEほしきてにて展示していた小説です。

    「一緒に生きていこう」から、フィガロがファウストのもとを去ったあとまでの話。
    ※フィガロがモブの魔女と関係を結ぶ描写があります
    ※ハッピーな終わり方ではありません

    以前、短期間だけpixivに上げていた殴り書きみたいな小説に加筆・修正を行ったものです。
    指先からこぼれる その場所に膝を突いて、何度何度、繰り返したか。白くきらめく雪の粒は、まるで細かく砕いた水晶のようにも見えた。果てなくひろがるきらめきを、手のひらで何度何度かき分けても、その先へは辿り着けない。指の隙間からこぼれゆく雪、容赦なくすべてを呑みつくした白。悴むくちびるで呪文を唱えて、白へと放つけれどもやはり。ふわっ、と自らの周囲にゆるくきらめきが舞い上がるのみ。荘厳に輝く細氷のように舞い散った雪の粒、それが音もなく頬に落ちる。つめたい、と思う感覚はとうになくなっているのに、吐く息はわずかな熱を帯びてくちびるからこぼれる。どうして、自分だけがまだあたたかいのか。人も、建物も、動物も、わずかに実った作物も、暖を取るために起こした頼りなげな炎も。幸福そうな笑い声も、ささやかな諍いの喧噪も、無垢な泣き声も、恋人たちの睦言も。すべてすべて、このきらめきの下でつめたく凍えているのに。
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