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    つなとらよりつなぴ+とらおかも 二人でアヒージョ作るだけ

    アヒージョつくるよ 十一月の乾風が、肌の水分を奪っていく。先ほどまでスタジオで撮影だった。強烈なライトの下では、明かりに照らされてじんわりと汗をかいているくらいだったのに。汗の処理をしても、体温を下げようとした身体は簡単には温まらない。緩まっていた首元のマフラーを巻き直し、友人宅へと足を早めた。

     ◇

     月に一度や二度ほど、互いの時間が合う時を狙って虎於の家で宅飲みをしている。どちらが先に言い出したのかもう覚えていない。お互いにそれなりに酒好きで、他愛ない会話が心地よいと感じていることは事実だろう。それでなければこんなにも細く永く続いていないはずだ。

     ◇

    「こんばんは」
     インターホンで来訪を告げると、すぐに鍵が開く音がした。どうやら待っていてくれたらしい。
    「早かったな」
    「撮影が巻きで終わったからラッキーだったよ」
     エコバッグを抱えながら、靴を脱いだ。

     二人してすぐにキッチンへと向かった。龍之介は、買ってきた食材をキッチン台に置いていく。横にいる虎於の視点からは、袖を捲った腕の筋肉が眩しい。キッチンのシンクで丁寧に手を洗った。
    「今日はアヒージョを作ろうと思って」
    「アヒージョ……?」
    「虎於くん食べたことあるかな?オリーブオイルでエビとかブロッコリーとかを煮た食べ物で、それをフランスパンとかと一緒に食べるんだ」
    「ああ……あれか。昔食べたことあるな」
     昔行ったスペインバルで、当時付き合っていた女が頼んでいた。女ってこういうの好きだよな、と思った記憶がある。さらには自分が行きたくて選んだ店ではなく、自分が食べたくて選んだメニューではなかったであろうことを思うと、なんとなく心の中が苦い。龍之介にはそれを悟らせぬように、いつもよりも少しだけ明るい声を出した。
    「アヒージョって家で作れるのか?」
    「簡単に作れるよ。本当はスキレットっていう小さい鉄のフライパンで作るんだけど、今日は普通の小さなフライパンでやっちゃおうか」

     虎於宅に来る前に、通り道のスーパーに寄って食材を揃えていた。龍之介は、キッチン台に出した食材たちを手際よく整えていく。冬が旬のブロッコリーは手頃で美味しい。大きな房を小分けに切り分けてて、にんにくは頭とお尻を切り落として皮を剥く。マッシュルームは石付きを落として半分に割った。
     虎於も料理は出来ないことはないが、得意ではない。あまり表には出さないけども。そもそも自宅で、自分のために料理をすることなどない。料理が得意な龍之介の手元を見ていると、魔法を使っているのではという気さえしてくる。それほどまでに鮮やかな手つきだった。
     うっかり見惚れていたことに気づき、先ほど話していた、自宅で一番小さなフライパンを取り出した。

    「虎於くん、冷凍庫からシーフードミックス取ってもらえる?」
    「この間使ったのの残りしかないがいいか?」
    「うん。それだけあれば十分だから」
     ありがとう、と感謝を伝えながら、フライパンに刻んだ食材たちを詰めていく。龍之介がオリーブオイルを入れたところで、はたと気づいた。
    「なあ、味付けはどうするんだ?」
     あれはただの油ではなく、油にも味がついていた気がする。そう思って声をかけると、龍之介は調味料の棚からビンを取り出して明るく笑った。
    「これを使おうかと思って」
     龍之介の手にあるのはハーブやスパイスがミックスされた塩。もちろん虎於は使ったことがない。家主が料理をしない割に調味料が揃っているのは、龍之介が買ってきては虎於の家に置いていっているからだ。
    「これだけで十分美味しくなるんだよ」
     そう言って適量振りかけ、ヒーターを点火した。

    「本当にアヒージョって家で作れるんだな」
     感心したように虎於が言う。料理をする者からすれば切って火にかけるだけなのだが、料理をしない者からすればそれすらも凝った料理に思える。
    「家でも作れるしこの間はキャンプでもやったよ。楽が作ってくれるんだ」
     買ってきたバゲットをスライスしながら龍之介が言う。確か八乙女楽の趣味がキャンプだったか。
    「龍之介も行くんだな、キャンプ」
     次第に煮えていくフライパンの中身を箸でつつきながら、ちらりと横を見た。
    「たまにね。天なんかはもう全然行かなくて。楽が直接誘っても断っちゃうんだ」
     夏は紫外線が気になるし冬は寒いしで得意じゃないみたい、とメンバーのことを話す時特有の、やわらかい表情で語る。困っているような言葉使いに、可愛くてしょうがないという色がついている。
    「ふぅん……」
     メンバーのことを語る龍之介をもっと見ていたいものの、虎於の頭の中は、勝手に全然違うことを考える。視線をフライパンに戻し、さっきひっくり返したばかりのブロッコリーをまた返した。
    「……虎於くんもさ、もしかしてキャンプ興味ある?」
    「あ…………ない、こともない」
     虎於の視線が彷徨う。本当は行ってみたい。それなのに長年の癖が抜けず、天邪鬼な言い方になってしまう。箸で必要以上につつかれたブロッコリーが崩れていた。
    「本当?じゃあ今度行こうよ!」
     虎於の性格を知ってか知らずか、知っていても柔らかく知らないふりをしてくれているのか。龍之介は快活に誘う。道具は大抵あるから身一つで大丈夫だよ、と添えた。
    「……うん」
     ぱちぱちと跳ねるアヒージョの油の音に掻き消えるような声が出た。隣の龍之介を見ると、目を細めて笑っている。やはり虎於の性格をわかっているのだろう。向けられた視線が恥ずかしくなって、横の龍之介の脚を小さく蹴飛ばした。
     



     今日は何を飲もう。ビールではしゃいだように飲むのもいいし、ワインを出してゆったり過ごすのもいい。
     アクション映画で騒いでもいいし、それぞれ出演したドラマを見ながら演技の話に興じてもいい。さっき寄ったスーパーがもう年末年始仕様になっていて驚いた話をしたっていい。キャンプの話で盛り上がるのもいいだろう。

     何をして過ごそう。
     夜はまだ長い。

    20241130
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