ただ、君と海を見たかった。いつか忘れちゃうから、こうしてうたに残しておこう。
真冬は、忘れないって言ったけどそんなの無理だ。
人の記憶は日々更新される。
きっと、どれだけ意識して覚えておこうとしても忘れる。
だから、真冬がこの歌を歌う日が続く限りこの日のことを思い出せるように残しておこう。
この曲を作るきっかけはただそれだけだった。
真冬に聴かせたかった。
それくらい、真冬が初めて歌った曲も見たものも全部俺の言葉で表現できれば、残すことができれば幸せだと信じ込んでいた。
ただ、ひたすらに真冬が好きだった。
それでも俺たちの間には溝ができた。
別々の高校へ進んだあの日から。
幼い時からよく一緒にいた4人は、いつの間にか1人と3人のグループになってしまった。
それに、誰よりも早く違和感に、うまく言葉にできない寂しさに気づいたのが真冬だった。
"じゃあ、俺のために死ねるのっ"
真冬の口から出た言葉に「できる」と即答できない自分に対してショックだった。
だから、やるしかないと思ったんだ。
信じてもらえるために。
二度と寂しい思いをさせないために。
自ら命を絶とうなんて思ったことは無かった。
だから、その恐ろしさに少しだけ体が震えた。
「こえぇよ···、真冬···。」
きっと正気を保ったままじゃ無理だと思った。
だから、飲んだこともなかった不味くて仕方ない酒を一気に飲んだ。
情けないって、お前は笑うかな···。
馬鹿じゃないの、って怒るかな。
それでも、俺はこの短い生涯の中で巡り会えた真冬のことが大好きだった。
おぼつかない足取りで、天井から吊るされた縄へ向かう途中、視界の端に入った書きかけの譜面を撫でる。
完成できなくてごめんな、聴かせてやれなくてごめんな。
それから、真冬。
お前に、許されるのなら、お前とまた言葉を交わすことができたなら、
····手をつなぐことができたなら、「なんで冬に海」なんて文句を言い合いながらあの寒い海辺を一緒に歩きたかった。
と、そう心の中で呟いたのだった。