「京を離れる許可をください。」
口から言葉がこぼれた。
僕の言葉に土方さんは驚いたように目を丸くし、ひどくかすれた声で「…新選組が京を離れるからか。」と言葉を返す。それがなんだかおかしくて、ふっと笑いが漏れる。
「いえ、療養をしようと思いまして」
しんとした部屋には僕の声がよく響く。
「どうして急に。」
「急じゃあリませんよ。ずっと土方さんも近藤さんも僕に療養しろって言ってたじゃないですか。」
「そうじゃない。どうして今なんだと訊いている。」
苛立つ土方さんの声も、よく響く。
「僕、漸く分かったんです。今のままじゃ役には立てないと。きちんと療養をすることが剣を握る一番の近道なんだって。」
僕の言葉に近藤さんは深く頷き、土方さんは僕の言葉が本物かどうか見極めようとしているようだった。
「…あの女を連れて行け。」
暫くお互いがお互いをただじっと見つめるだけの時間が続き、土方さんがそう言った。
「あの人は、言わなくてもついてきますよ。」
「そうだろうな。」
僕が返事をすると土方さんは目を伏せ頷いた。
「では、僕はもう行きますので、お二人ともどうか生きていてくださいね。」
部屋を辞す時、喉の入り口で引っかかっている熱い塊のようなものをぐっと堪えそう声をかけた。
いつも通り、飄々とした僕で、
二人には、そう見えているといいなと思いながら。
きっと僕は、この場所にはもう戻ってこられないだろう。それはもう近藤さんも土方さんも僕自身も分かっている。
部屋を出てからもう一度深く頭を下げ、自室へ向かおうとした時、君が僕を呼ぶ声を耳にした。
「沖田さん。」
「今、二人に許しを貰いに行っていたんです。…君も、明日には僕について新選組を離れることになりました。こんなところで油を売っていないで準備をしてもらえますか。」
「はい。」
君はやっぱり嫌とも、どこまで行くのかとも言わずにただ笑顔を浮かべて返事をする。
これから君にとても酷いことをしてしまうだろう。そう思うと、胸がちくりと痛む。
「ねえ、」
声を掛けると、一度僕に背を向けた君がすぐに振り向く。
「はい」
「本当に、君はそれで良いんですか僕についてきて」
「沖田さんだからついていくんです。」
「途中で君を置いていってしまうかもしれないですよ」
「沖田さんは、途中で思い直して戻ってきてくれますよ。」
「僕より優しくていい人が現れるかもしれません。」
「関係ありません。」
言葉を投げかけていると、やっとの思いでのみ込んだ熱い塊のようなものがまたこみ上げてくる。
「欲しいものを手に取れないかもしれません。」
「別にいいです。」
「僕は君に何もしてあげられないですよ。」
「何もしていらないです。」
「…じゃあ、もしかしたら」
「はい、」
「もしかしたら、僕が先に旅立つかもしれません。」
「…それはっ…それは…困りました。」
見れば、君ははらはらと涙をこぼしそれでもなお必死に笑みを浮かべようとしている。
「それでも、それでもどうかその日まで一緒にいさせてくれませんか」
そう言って君はいつの間にか僕の頬にも流れていた涙を拭い、言葉を返すんだ。