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    summeralley

    @summeralley

    夏路です。
    飯Pなど書き散らかしてます。

    ひとまずここに上げて、修正など加えたら/パロは程よい文章量になったら最終的に支部に移すつもり。

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    summeralley

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    マスター💅と客🍚がバーテンダーぴを取り合う連載です。が、ギスギスはない予定です。
    ネイPシーン多めに書くつもりだけど、最終的に飯Pに帰結するはずなので繊細なネイP派の方は避けてね。

    #二次創作BL
    secondaryCreationBl
    #腐女子向け
    #飯P
    #ネイP
    nayP

    【飯PネイP】煙るバーカウンターにて/02アフターエイト 賑やかな表通りから入り込んだ裏通りは、まだ木曜日なのに週末のような様相だった。既に酩酊している集団、あきらかに夜の仕事のきらびやかな男女、電話へ向かって頭を下げる人、缶のお酒を片手に談笑する若者たち……飲食店の照明と看板の灯り、ビルの壁に飾られたネオンが煌々とそれらを照らし出している。
     そのビルは比較的古びていて、入口のテナントサインにも抜けている部分が何ヵ所かあった。二階は、20時には閉店の洋食屋とカレー屋、三階は数軒の居酒屋、そして四階に、半月前に訪ねたバー『Veil』がある。
     「こんばんは……」
     窓つきの扉をゆっくり開くと、店内にはマスターだけがいた。
     「おや、少し前に……研究の話を聞かせて下さった……」
    「はい。一人ですけど、いいですか?」
    「お好きな席にどうぞ」
     今日は、ピアノ曲でなく穏やかなジャズの三重奏が流れている。僕はまたカウンターに掛けて、落ち着きなく店内を見回した。前回桜が飾ってあった花瓶には、水仙を中心とした花束が活けてある。ピッコロさんは、お休みなのだろうか?
     思い切ってマスターに尋ねる前に、手織りのカーテンの向こうにある扉から、ピッコロさんが出てきた。きっとあの扉の向こうが、控え室やキッチンになっているのだろう。
     「ああ、この前の……いらっしゃいませ」
    「僕、お礼を言いたくて……ありがとうございました」
     座ったまま頭を下げると、マスターは何だか分からない顔をしている。
     もう飲めないほど酔っていた僕に、カクテルを装ってトニックウォーターだけ出してくれたことを話していると、ピッコロさんは何だかきまりの悪そうな様子を見せた。
     「そうだったんですね。これが会計を間違えたものだとばかり……ピッコロ、なんで私が叱った時に言わなかったんだ」
    「いいだろう、別に。大したことでもない」
    「照れるようなことじゃないだろう……わざわざすみません、お客様。誤解が解けました」
     あのせいで、カクテルを出したと思っているマスターの計算と会計が合わなくなり、叱られてしまったのか。何だか悪いことをした。まるで悪戯が見つかったように、じりじりとマスターから離れるピッコロさんは子供じみていて、前回の印象と違い年下のようにすら感じられた。
     「何か飲まれますか」
    「はい、今日は素面ですから大丈夫……夕食を済ませたばかりなので、デザートみたいなカクテル、ありますか?」
    「では、折角なのでピッコロが準備しましょう。ライム入りトニックウォーター以外のものを」
    「うるさいぞ、ネイル」
     どういうわけか、あの出来事を話題にしてほしくないらしい。もしかすると、無愛想に見えるのも、極端にはにかみ屋なのだろうか……。何だか可愛らしくて、マスターと目が合うとついつい笑ってしまった。ライム入りトニックウォーターも、あの時の僕にはとても美味しく感じられたものだが。
     ピッコロさんの幅狭の手が、シェイカーに氷と、三種類のお酒を注ぐ。コーヒー……ミント……クリーム……文字はそれだけ読み取れた。特にコーヒーの印字のあるものは、瓶自体に見覚えがある。よく使われるものなのだろう。
     すらりとした長躯のピッコロさんがシェイカーを振る姿は、あまりにも様になっていて、見惚れてしまう。金属のシェイカーの表面を照明がまばゆく滑り、またピッコロさんの手の若草色も映りこむ。氷の砕ける騒がしい音が、次第に滑らかになる。
     マスターがミックスナッツを差し出してくれる間に、脚のついたグラスが目の前に置かれた。シェイカーから注がれるのは、ふわふわとクリームのようなカクテルだ。甘い匂いと、やわらかそうで、なめらかそうな姿。最後に削ったチョコレートが散らされると、お酒というより、ケーキやアイスクリームのようだ。
     「アフターエイトです」
    「わぁ……本当にデザートって感じだ」
     ピッコロさんは静かに頷いただけだったが、マスターが時間を確認して微笑んだ。
     「ちょうど20時を回りました」
    「そうか、食後のデザートとして飲むお酒なんですね。面白いな……」
     ピッコロさんがカウンターの上でグラスを押し出す。持ち上げようとして、僕の指先が、黒瑪瑙の爪を嵌めた指先に触れた。氷を扱っていたためか驚くほど冷えていて、思わず顔を上げる。僕を見ていたらしい静かな目と視線がぶつかり、妙にどぎまぎした。
     繊細なグラスをそっと持ち上げて、まず一口飲んでみる。コーヒーの香りと、チョコレートの甘さを、涼やかなミントの風味が引き立てていた。先日の、カナリア色のソルクバーノよりだいぶ度数が高そうだが、今日は僕にも余裕がある。
     「美味しい。ちょうど、飲みたかった味って感じです」
    「ありがとうございます。よかったな、ピッコロ」
     マスターがピッコロさんの背中に手のひらを置き、そのまま滑らせるように腰まで撫で下ろした。ベストに生じた皺で、マスターの手がただ腰に置かれているだけでなく、捕らえるように、抱き寄せるように、指先に力が入っていることが分かる。そうすることが当然であるような、あまりにも自然な触れ方だった。ピッコロさんは特に振り払うことなく、ほんの一瞬だけ肩を竦めマスターを見遣る。かすかに困惑の表情が見えた気もするが、すぐに目は逸らされ、触れられるままになっていた。
     近すぎるほど、気安い空気のある二人だ。単なる雇い雇われという雰囲気ではない。二人の間に、他人が踏み込めないような、特別な親しさがあることを感じる。
     「マスターとピッコロさん、すごく仲良さそうですよね。同僚っていうより……その……、家族とか友達みたいって、言われませんか?」
     二人はわずかに間を置いて、一瞬だけ目線を絡める。どういう感情が交わされたのは分からなかったが、多分、よく言われることでもあるのだろう。ピッコロさんは答えず、カウンターの下からグラスを二つ取り出し、ミネラルウォーターを注いだ。切ったライムを入れ、静かに混ぜる。それを横目に、マスターが慣れた様子で穏やかに口を開く。
     「まさにその通りで……私とピッコロは同郷の幼馴染みです。よくある話ですが、村がダム建設で……そのためこの街へ移り住んだんです」
    「狭い村だったから、遡っていけばどこかで血の繋がりもあるやも……」
     二人の口振りは淡々として、強い未練や悔いは感じられない気がした。しかし、単なる店主と店員以上に親しげである理由が分かって、何故か複雑な気分となる。羨ましいような、妬ましいような……妬ましい? 二人が同郷の幼馴染みだというだけで、僕はいったい何が羨ましく、誰が妬ましいというのだろう。
     ピッコロさんが、さりげなくナッツをつぎ足してくれる。ナッツが陶器を撲つちりちりと小さな音が、優しく耳に届く。マスターのような愛想はないが、ちゃんと客のことを見ていて、その気遣いの一つ一つが僕には心地よい。
     少し伏せた瞳には、ほの明るい照明が宿り、はじめに訪ねた時と同じようにマスターとは別の不思議な魅力がある。
     「まだ飲まれますか?」
    「はい、同じ感じのものを……」
     ピッコロさんは頷き、今度は背の高いグラスをカウンターに置く。隙間なく酒瓶の並んだ棚から迷いなく一本を選び出すと、それを見たマスターが、自分の後ろにあった一本の瓶を取って渡した。何を作るか口にしていないのに、マスターには、分かるのだ。
     マスターがピッコロさんの肩に手を置き、後ろから耳元へ顔を寄せる。裏の扉を指して、低く囁いた。一瞬、ピッコロさんの手が止まり、カーテンの後ろの扉へ入っていくマスターを見送る。扉が閉まると、気を取り直すように細く息を吐き、再び、カクテルが作られはじめる。
     無愛想で、怖そうな人かと思いきや、はじめて会った僕の限界を見抜いて無言で手助けしてくれる優しさや、僕の注文にぴったりのカクテルを作ってくれる手腕、そしてマスターと話している時の子供っぽさや、一瞬だけ過る艶っぽさもある……。
     どんな人なのか知りたいと思いまた訪ねて来たが、余計に分からなくなってしまった。
     もっと知りたいし、たくさん話してほしい。幼馴染みのマスターの知らないことまで……そう考えるのは、無謀だろうか。
     作ってもらったカクテルの、やさしく甘い後味が、舌の上に残っている。次はいつ来ようかと、まだ帰りもしない内から、考えていた。
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