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    summeralley

    @summeralley

    夏路です。
    飯Pなど書き散らかしてます。

    ひとまずここに上げて、修正など加えたら/パロは程よい文章量になったら最終的に支部に移すつもり。

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    summeralley

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    #飯P版深夜の真剣お絵描き字書き60分一本勝負
    お題【遊園地】

    【飯P】夜間も営業しています(1700文字くらい)

    出来てるのか? 出来てないのか? どっちでもいいね師弟が揃ってれば……

    #飯P
    #腐女子向け
    #二次創作BL
    secondaryCreationBl

    【飯P】夜間も営業しています 真夜中の遊園地は、当然ながら無人だった。眠りについたメリーゴーランド、夜気をたたえたコーヒーカップ、明日に備えて身を休めるジェットコースター。観覧車はその真ん中に堂々と立ち、湿った月明かりが、ゴンドラを静かに濡らしている。
     「……やっぱり、鍵が要るのかぁ」
     観覧車の頂上で静止しているゴンドラの扉を引いてみて、僕は肩を竦めた。ひとつ隣のゴンドラの上に立ったピッコロさんは、呆れたように僕を見ている。
     「動かない遊具に乗って、どうするつもりだったんだ?」
    「……上からの景色を見たかったって、だけです」
     ピッコロさんは首を傾げる。確かに、今の誤魔化し方はよくなかった。神殿は、この観覧車より何十倍も高いところにある。
     まだほんの子供の頃、都会にはこんな場所があると知って、山育ちの僕はひどく憧れた。きらびやかな光と賑やかな音楽、自然にはまずない色彩の遊具、隣に座って笑う、大切な誰か。誰かではない……想像の中で一緒にいるのは、いつだってピッコロさんだった。
     しかしこの夢想は、実現しないだろうと想像された。ピッコロさんが遊園地になど、付き合ってくれるとは思えない。それでも気分だけでも味わいたくて、わざわざ深夜に連れ出したのだ。
     ピッコロさんは身軽に跳んで、僕の目の前で、頂上のゴンドラの屋根へ掛けた。
     「上からの景色なら、ここに掛けたって同じだろう」
    「うん……そうですね」
     僕も同じゴンドラへ掛ける。僕ら二人が跳び乗ったから、ゴンドラはやや派手に揺れて大きく軋んだ。屋根へ座って落ち着いても、ゴンドラをホイールに吊っている大きな部品が僕らの間にあり、目を向けてもその横顔を見ること能わなかった。
     僕らが身じろいだり、強い風が吹きつけるたびにゴンドラがわずかに揺れる。ごくかすかな金属の軋みだけが、耳に届いた。
     足下に広がる遊園地は真っ暗で、何の光もない。敷地が広く、街の灯りはずいぶん遠くにちらつく。ゴンドラのわずかな揺れも手伝って、海から港へ戻る船に乗っているようだった。
     「……本当は、遊園地って子供の頃からちょっと憧れてて。ピッコロさんも、遊園地って知ってはいますよね? 遊びに来たくは、ないと思うけど」
    「そうだな……別の奴を誘ってくれ」
    「一応訊きますけど……それって、どうして?」
     暫く、沈黙があった。適当に片付けず、返答を真剣に考えてくれていることが、顔を見ずとも雰囲気で伝わってくる。
     「目の回る騒々しさの中で、『楽しさ』だけを享受することに、意味を見出だせない」
    「騒々しくて、目が回って、ただ楽しいだけ……」
     ピッコロさんは下ろした脚を所在なく揺らしているらしく、顔を向けると膝から下だけが間欠的に見えた。
     やはり昼の遊園地は断られたし、観覧車は沈黙している。華やかな光も、楽しげな音楽もない。けれど僕は、不思議と高揚していた。
     「もしそれが遊園地なら……いつも心が騒々しくなって目が回るほどで、意味がなくても楽しくて、時々は怖くて、離れる時は名残惜しい……僕にとって、それって、ピッコロさんです」
     恋心を自覚してから何年もの間、ずっとずっとそうだった。思うままに何気なく溢してしまってから、僕は急に恥ずかしくなってくる。ゴンドラの吊り具で、互いの視線が遮られていてよかった。きっと、ひどく赤面しているはずだ。
     断続的に見えていたピッコロさんの脚が、ふと見えなくなった。
     おや、と思うと同時に、掛けたまま上半身を乗り出してこちらを向くピッコロさんと、吊り具越しに目が合う。
     「だったら、振り落とされないようにするんだな」
     賑やかしい照明ではなく、白く澄んだ月光が、こちらを覗き込む面差しに注いでいる。
     「お前が乗ろうとしている遊具は、そう簡単には制御が利かんぞ」
    「……心得てます、この十数年で、充分に」
     なんとか答えると、ならいい、と小さく聞こえる。月を宿した切れ長の瞳が、ゆっくりと微笑に変わる。
     言葉ひとつで、目が回るほどに、心が騒々しくなる。微笑みを向けられるだけで、華やかな光も楽しげな音楽も、胸の底に生じてくる。
     ピッコロさんと二人きりで座っているこの観覧車は、世界のどんな遊園地の、どんな遊具よりも、魅力的に思えた。
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