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    summeralley

    @summeralley

    夏路です。
    飯Pなど書き散らかしてます。

    ひとまずここに上げて、修正など加えたら/パロは程よい文章量になったら最終的に支部に移すつもり。

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    summeralley

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    今回ネイPシーンのみなので繊細な飯P派の方はすみません🥺

    客🍚とマスター💅のバーテンダーぴ取り合い。ネイP描写多めで書きますがラストは飯P予定。

    #腐女子向け
    #二次創作BL
    secondaryCreationBl
    #飯P
    #ネイP
    nayP

    【飯PネイP】煙るバーカウンターにて/14ヴァージンモヒート 四人分のティーカップを片付けながら、デンデはネイルに温室の鍵とメモを渡した。
     「週末には戻りますので、改良中の鉢だけメモの通り世話をお願いします。ネイルさんなら安心です!」
    「ああ、カルゴによろしくな」
     温室はすっかり任されているというのは、本当らしかった。ネイルも、メモの内容についてあれこれ詳しく質問している。悟飯にも分からない話ばかりのようで、おれたちは蚊帳の外だった。


     その晩の閉店は、少し遅くなった。日曜は長居する客が多い。「仕事帰りに一杯」ではなく、最初から飲むつもりで来ているからだ。
     CLOSEDの看板を下げ、カウンター以外の照明を落とす。
     「せっかく炭が熾きているから、水煙草はどうだ?」
     カウンターを拭いていたネイルに問いかけると、いいな、と明るく返ってくる。明日は休みだから、少しくらい遅くなってもいいだろう。何より、座って話したい気分だった。
     水煙草の葉を捨て、新しいものに取り替える。何にするか迷って、ネイルの好きなオレンジブロッサムを選んだ。客が残していった煙を抜き終わるころ、カウンターの片付けを終えたネイルが向かいの椅子に腰掛ける。
     「ソファに座ればいいだろう、疲れているのだから」
    「そうか? 遠慮したんだがな」
    「なにを馬鹿なことを……」
     一体何に遠慮をしたのか、分かってしまうからこそ、無闇に狼狽えた。動揺を振り払うように、ソファの隣を手のひらで軽く打つ。特段気にする様子もなく、ネイルは隣に掛けなおした。
     吸い口をネイルに渡す。既に炭が熾き、燻されている水煙草を静かに吸い、ゆっくりと吐き出す。何百回も見たはずの横顔は、今夜に限っては初めて見るように感じられ、それでいて懐かしかった。話したいことが沢山あるはずなのに、いざとなると何から話せばいいか分からない。
     「……デンデの花は、すごかったな」
    「ああ、以前見たものより更に美しくなっていた……新しいものを作り出すというのは、尊いことだな」
     ネイルは感じ入るように呟き、吸い口を弄びながら続ける。
     「私も品種改良に興味が湧いたよ。今度、もっと詳しく教えてもらう約束もした」
    「そうか……お前は昔から植物が好きだったから、本格的に打ち込むのもいいかもしれないな」
     ネイルは頷き、静かに吸い口を手渡してくれる。迷いや戸惑いが見えない微笑に、もう終わるのだな、と分かった。
     水煙草を深く吸う。橙の花の甘さは、果物やバニラよりずっと儚く、舌に感じるそばから消えてしまう。煙は静かに立ちのぼり、薄暗い店内に溶けていく。
     ネイルは「自由な生き方を選べるはずだ」と言った……それはおれたちが長い間、目を逸らし、選択肢から排除してきたことだ。この安全で、優しさしかない狭い空間を出ることが、ただ恐ろしかった。そのせいで互いに身動きがとれなくなっていると、気付いていながらも。ネイルに支えられなければ生きていけないと、それでいいはずだと……大切な相手を縛りつけているとどこかで分かっていたのに、目を向けることができなかった。
     ネイルへ水煙草を渡す。気泡が弾けるささやかな音が、耳に心地よかった。ゆっくりと吐き出される煙が、頬をかすめて湿らせる。
     ネイルは水煙草の吸い口を、ほんの少しだけ噛んでしまう。だから細かく傷が入って、客に出すことができなくなる。何度指摘しても改善されず、この吸い口は、閉店後に二人で共有するためのものになった。そう決めて、傷の入った吸い口を別の小さな箱にしまった時「これでもう、噛んでもお前に叱られないな」と笑ったネイルは、珍しく子供っぽく見えた。煙に霞む視界で、そんなことを思い出すと、不意に胸がしめつけられた。
     何気なくソファの座面へ手をつくと、ネイルの手に指がぶつかった。ネイルが顔を上げてこちらを見る。手を離しても吸い口が落ちないのは、やはり噛んでいるからだ。それを取り上げて握りこみ、そのまま肩に手をかけた。
     「ネイル……」
     この穏やかなまなざしが遠のいてしまうことは、怖かった。けれど、このままネイルに頼りきっていては互いに先がないことも、明らかだった。
     「こういう気持で、お前に触れるのは、これで最後にする……」
    「そうだな……きっとそれがいい。私はずっと、幸せだったよ」
     おれだって、と言いたかったが、言葉を発すれば涙も溢れてしまいそうだった。そんなことになれば、またネイルを引き留めて、自分にも未練が生じてしまう。
     ネイルの手が背中にまわり、宥めるように撫でてくれる。強く引き寄せるでもないその感触に、自然と身体が動いた。吐息が混じり合うほどの距離で、視線だけが絡む。
     静かに重ねた唇は、熱くも冷たくもなかった。橙の花の名残に呼吸は浅くなり、思わず深く重ねそうになる。離れたくないと思ったのが、正直な心持ちだった。けれど背中にあるネイルの手が、かすかに指を立てるのが感じられ、その意図が伝わってきた。ここで離れないと、また同じことを繰り返すと。
     額だけを合わせ、ため息をついた。ネイルの肩に置いていた手が、いつしかその腕を辿り、指先と指先とを絡めてしまっている。カウンターの中ではいつも冷たかったネイルの手が、今はあたたかい。
     唇を離すことより、指先を離すことの方が名残惜しかった。身を切られるような思いで何とか指先を離しても、凭れ合うように寄り添った身体は、離れがたかった。
     「……最後に、お前のために一杯作らせてくれ」
     ゆっくりと身体を起こして、ネイルが立ち上がる。カウンターへ歩いていく足取りは、いつもと寸分違わぬように見えた。
     ソファに身体を沈める。握りこんでいた吸い口を咥え、甘い煙を静かに吸う。意識したことがなかったが、唇に集中すると、吸い口の側面が傷によってざらついているのが分かった。
     橙の花の煙をそっと吐けば、煙る視界の向こうに、バーカウンターの中のネイルが見える。なんと落ち着く光景なのだろう。この光景に救われて、この街に生きて来られたが、これからは違う。寂しくもあるが、いつかは決めなければいけないことだろう。
     「ヴァージンモヒートだな……」
    「おい、私に言わせてくれよ。格好がつかないだろう」
     苦笑しながら、ネイルがグラスを手渡してくれる。
     一口飲んで、気付いた。
     いつもよりライムが薄く、砂糖が入っていて甘い……。
     初めて分かった。これまでは、専用のレシピで作ってくれていたのだ。けれど今受け取ったこれは、通常のレシピの味だ。思わず見上げると、ネイルはただの「幼馴染み」の顔だった。
     隣に掛けて、おれから吸い口を受け取る。煙を吐き出して、静かに微笑む。
     「これからは、恋人ではなく、この店の頼れるバーテンダーとしてよろしく頼む」
    「……まだ、この店に置いてくれるのか?」
    「来月は年の暮れで忙しくなる。優秀なバーテンダーがいないと店が回らないことは、お前が寝込んだ時によく分かった」
     ネイルは肩を竦めて、深く煙を吐く。細く長く上がる煙が、カウンターの明かりの中で眩しい白にひらめいている。
     ネイルはポケットから何かを取り出し、おれに差し出した。おれの部屋の鍵と、新しい吸い口だった。
     「いつまでも私と吸い口を共有していると、誰かが嫉妬するだろう? 鍵もな」
     一度言葉を切り、おれが鍵と吸い口を受け取るのを見届けて、ネイルは静かに微笑んだ。
     「お前はもう大丈夫だから、心配するな。私も、多分」
    「……何かあったら、いつでも助ける。店のこと以外でも」
    「ああ、頼りにしているよ」
     ライムが薄く、甘いヴァージンモヒートを飲み干す。この味に慣れなければ……もっとライムが欲しければ、自分で好きに作ればいいだけのことだ。ネイルに、頼らずとも。
     「ピッコロ、お前の世話を焼くのはやめるが、世話焼きの癖は簡単には抜けないだろう。だから、これからはこっちの世話を焼くよ」
     ネイルが掲げたのは、デンデから預かっていた温室の鍵だ。
     「明日はデンデのかわりに、温室の花へ水をやりに行かなくてはならないんだ……そろそろ帰るよ。お前は、どうする?」
    「もう少し吸ってから帰る、この新しい吸い口で」
     店の入口まで、ネイルを送るようについて行く。扉の前で足を止めると、振り向いたネイルが腕を広げた。素直に身体を寄せると軽く抱きしめられたが、昨日までと違い、情愛は全く感じられず、親愛と信頼だけがこもっていた。
     「また火曜に、ピッコロ」
    「ああ、おやすみ、ネイル」
     扉が閉まる。小窓から見えていた後ろ姿が、半屋外の廊下の奥へ消える。
     一人になった店内で、ソファに戻った。新しい吸い口を咥えてどんなに集中しても、ざらつきは感じられない。
     これまで、オレンジブロッサムはひたすら甘くしか思えなくて、あまり好きではなかった。かすかに苦味が含まれていることに今日はじめて気付き、ネイルがこれを好きな気持が、少し分かった気がした。
     煙を吐くたびに記憶が蘇り、ゆるやかに広がっては無人の店内に溶けていく。
     誰かが嫉妬する、だと。本当にネイルは、おれに関しては何でも分かるという言い方ばかりする。そしてそれは大抵、当たっているのだ。
     これからの人生がどうあろうと、ネイルに救われてきたこと、誰より近しく感じていること、これからも力になりたいと思っていることは間違いない。"誰か"が嫉妬したとしても、ネイルに助けを求められれば、駆けつけるだろう。大切な幼馴染みとして。
     そこにだけ灯りのともったカウンターを眺めると、傷の入った吸い口の小さな箱が、退場を待つ役者のように沈黙している。
     ネイルへの感謝と、"誰か"のことを考えながら、熾火が力を失うまで、ぼんやりと水煙草を吸い続けていた。
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    summeralley

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    ゆ 28b Summer alley

    新刊『廃墟の灯』
    A5サイズ10章68ページ成人向け。

    廃墟となった無人の街に暮らす飯Pのお話の試し読みです。
    03章を途中まで載せます。NAVIOの方には別の章を載せてますので、興味があって見れる方はそちらもどうぞ~
    【飯P】廃墟の灯/試し読み03.廃墟の街

     砂の散ったアスファルトに、錆びた鉄骨とひしゃげた鉄パイプが転がっている。
     山々のように聳える工場群は今やその役割を終え、徐々に朽ち果てつつあるのが、この距離から振り仰いでも明らかだった。
     ひび割れた舗道には雑草が繁り、道の両端に並ぶ建物の外壁にも蔦が這いまわっている。ガラスはどれも汚れており、庇はことごとく破れて垂れ下がっていた。看板やシャッターの文字はほとんど消え失せ、赤茶けた錆だけが無闇と存在を主張している。
     ピッコロが姿を眩ませたのは、両刃の剣を二人で見た直後だった。
     はじめ数日は、悟飯もデンデたちも、どこかで修業に打ち込んでいるのだろう、と考えた。しかし一週間経ち、十日経ち……それでも戻る様子がない。流石に、こんなに長い期間を留守にするのに一言も告げていないのはおかしい。気が全く感じられず、意図的に身を隠していることは明らかだった。
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