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    あすと

    @aaast

    成人向け🔞NSFW / 全員受けで全員攻め

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    あすと

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    甲犬?✈

     慎重に角を合わせて畳む。指先でなぞって折り目をつける。何度か繰り返して平面から立体へと姿を変えたそいつをそっと掴んで空間へと滑らす。
     思ったほど、美しく滑空してはくれなかった。
    「ちょっ、甲斐田くん! 何してるんですか!」
    「うーん、折り方間違えたかも。犬飼知ってる? よく飛ぶ折り方」
    「そうじゃなくて! だってそれは」
     それは? それは……なんだろね、わかんない。始末書か報告書か申請書か、そのどれかかな。多分。いや違うかも。紙だってことだけはわかるけど。

     ああ、どうしよう、また書き直さなきゃ、余分に持ってたかな、印刷しないと……。
     大きな独り言をぼろぼろと零しながら、積み上げられた書類やらファイルやらを軽く持ち上げては下ろし、ひっくり返しては覗き込みしたあとで、ようやく呼吸することを思い出したかのように大きく息を吸って小さく吐いて、それからPCを開いて何かを確認している。
    「使えば?それ」
     あまりきれいとも言えない床に斜めに不時着、いや見事に墜落したそいつは、俺がつけた折り目に反抗するみたいに中途半端に広がって横たわっている。

     かろうじて紙飛行機とわかるそれを指差して言う俺に犬飼は、ちらりと視線を移したあとすぐにPCに戻し、駄目ですよそんな……そうため息まじりに吐き出し、立ったまま背中を丸めて、タッチパッドに指先を滑らせ、そしていくつかのキーを叩く。
     意外とタイピング早いんだ、なんてどうでもいいことに感心しつつなんとなく指先を眺めていたら、ふと指を止め、今度は顔ごと床に視線を移したと思ったらぱたんとPCを閉じて、墜落現場まで歩いていった。辿り着くと同時にゆっくりとしゃがんで丁寧に拾い、少しだけ広げて中身を確認すると元の形に戻し、それから指先できゅっと掴みながらスライドさせた。

     犬飼の指によって強く折り目がついたそれは、紙飛行機そのものだった。同じ紙で同じ形に折り畳んだはずなのに全く違うものに見えて、不思議な気持ちになる。
    「ここを少しだけ折ると重心が変わるのでよく飛ぶと思います。それから両方の翼の端をこうやって折るとまっすぐ飛びますよ。あとは飛ばすときの力加減が意外と重要です。見ててください」
     犬飼はダーツの的でも狙うように慎重に、笑っちゃうくらい真剣な顔で、指先から放たれた改造機体は、感動すら覚えるくらいに美しく空気を割いた。

     限られた空間では飛行時間はごくわずか。あっという間に壁に激突して墜落してしまったけど、この部屋がもっと広かったなら、どこまでも飛んでいったんじゃないかとさえ思えた。
    「上手いじゃん、どこで覚えたの?」
    「子どもの頃に。……ひとり遊びが多かったもので」
    「犬飼ってひとり遊びが好きなんだ」
    「好き、というか……」
     落下地点よりずっと下、俺には見えない何かを見るように目線を落として真顔になった犬飼の横顔がひどく痛々しく見えてなぜだかすごく寂しい気持ちになって、犬飼の手を取ってそのまま指を絡めた。
     一瞬ひくりと震えた指をぎゅっと掴むと何も言わずに俺は歩き出す。繋がれたままの手を引いて壁際まで。
    「ふたりでヤる方が楽しいよ」
     拾い上げた紙飛行機を、犬飼の胸あたりに向けて飛ばす。飛ばすというよりぶつけた、の方が正しいのかも。超短距離飛行もいいところだ。
     犬飼は墜落前に慌ててキャッチしようとしたけど片手は俺と繋いだままだったからうまくいかずに、あわあわしながら腹のあたりでどうにか捕まえた。くしゃりと小さな音がした。
    「あぁもう、そんな飛ばし方じゃだめですよ」
    「じゃあ教えてよ、気持ちよくトばせるヤりかた」
    「すみません、くしゃくしゃになっちゃったのでこれじゃもう……」
     絡んだ指をするりと解くと、申し訳なさそうに両手で均すように撫でた。まるで大切なものを傷つけてしまった子どもみたいな顔をして。
     その顔に、何か見てはいけないものを見てしまった気がして喉の奥が詰まるような感覚になった。
     空気、変えなきゃ。何故か必死になって俺は、なんでもないような声を作る。目を合わせることは、できなかった。
    「作り直せばいいじゃん、紙なら沢山あるんだしさ。あっ、これいいじゃん使うね」

     デスクの上に乱雑に置かれている紙切れの中から適当に一枚引っ張ってきて半分に折っていると、我に返ったようにはっとして俺の手に自分の両手を重ねて制止する。さっき触れたばかりのおんなじ手なのに、少しだけひんやりと感じた。
    「待ってください!それなんの書類ですか!? だめですって!」
    「なんで?」
    「なんでって……まあ、また印刷すれば良い事ですよね。あっ! せっかくなので土佐くんと御子柴くんも誘いませんか?気分転換になるかもしれませんし!」
    「へぇ、犬飼、複数もイケる人?」
    「え? そうだ、飛ばしっこしましょう! 私、これならみなさんに負ける気がしません!」
     自身に満ちた犬飼の顔、レアだななんて思うと同時に安堵した。何に安堵したのかなんてわからないけど、その顔をもっと見ていたいなんて、理由のわからない感情も、飛行機に乗せて飛ばしてしまおうか。
    「凌牙ー! シバケーン! 犬飼がみんなで楽しいことしたいらしいよ! すっげーテクでトばしてくれるってさ!」
    「ちょ、もう! 変な言い方しないでくださいよぅ!」

    けらけらと笑いながら煙草に火をつける。吐き出した煙が、飛行機雲みたいに見えた。
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    Replies from the creator

    あすと

    DOODLE夏の終わりの眠れないかいだくん(と誰か)の話
     別に、セックスなんてしなくたって死ぬわけじゃない。性欲なんて一人でだって満たせるし、そしたらあとは眠ればいいだけ。夢は見ない。寂しさは持っていかない。
     本当にほしいものが何なのかなんて自分でもわからない。繋がり、ほしいけど、繋がるってどういうことか本当はわからない。経験のないことは想像するしかないけど、経験がないからその材料すらも持ち合わせてはいない。仮に誰かが教えてくれたとしても、それはそいつの見解であって俺も同じとは限らない。
     だから、わからないことはずっとわからないまま、なんとなくわかった気になって欲しがり続けるしかないってこと。

     さっきまで生ぬるく感じてた扇風機の風は、今は少し寒いくらいだ。暇だな、暇だからこんなに余計なこと考えちゃうんだ。眠りたい。でも今眠ったら連れて行ってしまう。そんなのは嫌だから、目の前の背中にしがみつく。冷えた汗に頬をつける。ゆっくりと、同じリズムで震える体温。 どうして置いてくの、俺も一緒につれてってよ。一緒ならきっと、夢を見るのだって怖くない。ねえお願い、俺よりあとに眠って。置いて行かないで。俺が眠るまで、抱きしめて頭撫でてよ。子供扱いしたっていい、馬鹿にしたっていい、毎晩一緒に眠ってくれるなら、俺、誰よりもいい子になれるから。
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