Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    高間晴

    @hal483

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 387

    高間晴

    ☆quiet follow

    手作りの栞とファーストキスのチェズモクの話。

    #チェズモク
    chesmok
    ##BOND

    ■眠れない夜、君のせいだよ


     何、読んでんだろ。
     チェズレイはよく本を読む。今日もリビングのソファで読書をしている。それをモクマはソファの背中側に回り込んで、膝の上に開かれたハードカバーのページを見てみる。だが、数行読んだところで、何のことなのか頭がこんがらがるような感覚に襲われたので読むのをやめた。
    「どうしました、モクマさん」
    「いんや。お前さんやっぱ頭脳派だな~って思って」
     チェズレイは薄く微笑むと栞も挟まず本を閉じてしまう。それを見てモクマは目を見開く。
    「ありゃ、お前さん栞挟まないの?」
    「ええ。どこまで読んだかは覚えていますので」
    「は~……じゃあおじさんの作った栞、いらないかあ」
    「栞?」
     チェズレイが小首を傾げてきたので、モクマは背後に持っていた手作りの栞を差し出す。受け取って、チェズレイはまじまじと見つめる。紫色の花を押し花にして作った栞を指差してモクマが説明する。
    「お前さんよく本読んでるみたいだから、どうかな~って思って作っちゃった」
     そこでモクマは少し照れくさそうに笑う。
    「昔におカンやイズミ様が作ってたのの見様見真似だけどさ、なかなかうまく出来てるでしょ?」
    「確かにそうですねェ……素直に綺麗だと思いますよ」
     チェズレイが見ても、出来はなかなかのものだったらしい。紫の押し花、その上に薄手の和紙を表面に張ってある。そして、上側にはチェズレイをイメージしてちょこんと紫のリボンを付けている。それらはすべて手間暇を惜しまずモクマが材料を用意して作ったものなので、そう言ってもらえると嬉しい。
     でも、おカンやイズミ様はこれよりもうちょっと綺麗に作っていたから、やっぱり自分は手先が多少不器用なんだろうな――。そう、モクマは思う。
     チェズレイは昼下がりの太陽の光にその栞をかざして、じっと見つめる。
    「花は紫のシクラメンですね。花言葉は『想いが響き合う』、『絆』……フフ。以前の私なら薄ら寒いと笑っていた言葉です」
    「あれ、その花ってそんな花言葉あったの?」
     モクマが驚いて目を瞠る。チェズレイは怪訝そうな顔で振り返った。
    「おや。知らずにこの花を選んだのですか? その辺に生えている花でもないでしょうに」
     モクマはソファを回り込んできてチェズレイの隣に腰掛ける。そうして照れくさそうに頬をぽりぽりかきながら目線をさまよわせた。
    「いや~確かにそれは花屋で鉢植えを買ってきた花だけどさ。おじさん、チェズレイの色だなって以外は名前で選んじゃってたから」
    「それはそれは。――ちなみに名前には何か意味があるのですか?」
     興味津々と言ったふうにチェズレイが訊いてくるので、モクマはじっとチェズレイを見つめた。
    「ミカグラではさ、それ、人に贈るとだいたい嫌な顔される花なんだ。ほら、名前に『死』と『苦』が入ってるだろ?」
    「確かに……。で、なぜモクマさんは私にそんな花を?」
     チェズレイは眉尻を下げて若干傷ついたような表情をしてみせる。うわっ、だからその顔には弱いんだってば。そう思いつつ、モクマはそれに負けないように潤むアメジストの瞳を見つめ返した。なるべく顔を引き締めて、こう言う。
    「『死』も『苦』もお前さんとともに――
     ……なんてのは、クサすぎるかな?」
     やっぱり自分の台詞に耐えきれなくて、たはは、と力なくモクマは笑う。そのままぽりぽり襟足をかくと、チェズレイが口角を引き上げた。そのままべろりと自分の唇を舐める。
    「ああ……モクマさァん……そんなことを言われたら、私、トんでしまいそうです……」
     そう言ってチェズレイは栞をテーブルに置くと、モクマを抱きしめる。その腕の中は居心地が良くて、相変わらず石鹸のような香水の匂いがする。モクマは、やっぱり落ち着くなあ、とそっと目を閉じた。
    「モクマさん。キスしてもよろしいですか? 今回は、唇に」
    「えっ」
     思わず瞠目した。この潔癖症の男が、大丈夫なんだろうか。モクマはそれが心配だった。これまでチェズレイ相手には額や頬に軽くキスしたりされたりことはあるが、唇は初めてだ。モクマは身構える。キスした後に洗面所直行でもされた日にはお互いに心の傷を負うことになるが――。
     チェズレイはモクマの手を取り、自分の胸に当てさせた。慌ててモクマは手を引っ込めそうになってしまう。それくらい、チェズレイの心音は速く脈打っており、乱れていた。
    「恥ずかしながら、誰かに唇へのキスなんて初めてのことなので……とてつもなく緊張しています」
    「じゃ、じゃあそんな無理せんでも……」
    「モクマさんが本気で嫌だとおっしゃるならしません。けれど――」
     チェズレイの手がモクマの頬をするりと撫でた。そこで手のひらの冷たさに、自分の顔が紅潮しているのだと思い知らされてしまう。
    「あなた、期待してしまっているでしょう?」
     そう言われてしまえば返す言葉もない。ええい、ままよ。モクマはチェズレイの瞳を見つめるとへらりと笑ってみせた。
    「おじさん、初めてじゃないけどごめんね。こんな時が来るんだったら、お前さんのために取っといたんだけど」
    「あなたの過去のことをいちいち気にしていたらキリがありません。しかし今は本当にそれが口惜しい」
     そう言ってチェズレイのすらりと伸びた指がモクマのおとがいを捕らえる。観念したモクマはぎゅっと固く目をつぶった。こんなに緊張するキスなんて、初めてだった。数秒の間があったので、思わず目を開けてしまう。それを見計らったかのようにチェズレイの顔が近づいてモクマの唇を塞いだ。久方ぶりにその薄い皮膚で感じるひとの唇の柔らかさ。なんだかマシュマロみたいだ、と思ってしまって、モクマは微笑みながら目を閉じると、チェズレイの首に腕を回す。すると今度は角度を変えて、再度キスされる。そのぬくもりに、涙が出そうだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💯😭😭😭😭💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works