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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

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    手作りの栞とファーストキスのチェズモクの話。

    #チェズモク
    chesmok
    ##BOND

    ■眠れない夜、君のせいだよ


     何、読んでんだろ。
     チェズレイはよく本を読む。今日もリビングのソファで読書をしている。それをモクマはソファの背中側に回り込んで、膝の上に開かれたハードカバーのページを見てみる。だが、数行読んだところで、何のことなのか頭がこんがらがるような感覚に襲われたので読むのをやめた。
    「どうしました、モクマさん」
    「いんや。お前さんやっぱ頭脳派だな~って思って」
     チェズレイは薄く微笑むと栞も挟まず本を閉じてしまう。それを見てモクマは目を見開く。
    「ありゃ、お前さん栞挟まないの?」
    「ええ。どこまで読んだかは覚えていますので」
    「は~……じゃあおじさんの作った栞、いらないかあ」
    「栞?」
     チェズレイが小首を傾げてきたので、モクマは背後に持っていた手作りの栞を差し出す。受け取って、チェズレイはまじまじと見つめる。紫色の花を押し花にして作った栞を指差してモクマが説明する。
    「お前さんよく本読んでるみたいだから、どうかな~って思って作っちゃった」
     そこでモクマは少し照れくさそうに笑う。
    「昔におカンやイズミ様が作ってたのの見様見真似だけどさ、なかなかうまく出来てるでしょ?」
    「確かにそうですねェ……素直に綺麗だと思いますよ」
     チェズレイが見ても、出来はなかなかのものだったらしい。紫の押し花、その上に薄手の和紙を表面に張ってある。そして、上側にはチェズレイをイメージしてちょこんと紫のリボンを付けている。それらはすべて手間暇を惜しまずモクマが材料を用意して作ったものなので、そう言ってもらえると嬉しい。
     でも、おカンやイズミ様はこれよりもうちょっと綺麗に作っていたから、やっぱり自分は手先が多少不器用なんだろうな――。そう、モクマは思う。
     チェズレイは昼下がりの太陽の光にその栞をかざして、じっと見つめる。
    「花は紫のシクラメンですね。花言葉は『想いが響き合う』、『絆』……フフ。以前の私なら薄ら寒いと笑っていた言葉です」
    「あれ、その花ってそんな花言葉あったの?」
     モクマが驚いて目を瞠る。チェズレイは怪訝そうな顔で振り返った。
    「おや。知らずにこの花を選んだのですか? その辺に生えている花でもないでしょうに」
     モクマはソファを回り込んできてチェズレイの隣に腰掛ける。そうして照れくさそうに頬をぽりぽりかきながら目線をさまよわせた。
    「いや~確かにそれは花屋で鉢植えを買ってきた花だけどさ。おじさん、チェズレイの色だなって以外は名前で選んじゃってたから」
    「それはそれは。――ちなみに名前には何か意味があるのですか?」
     興味津々と言ったふうにチェズレイが訊いてくるので、モクマはじっとチェズレイを見つめた。
    「ミカグラではさ、それ、人に贈るとだいたい嫌な顔される花なんだ。ほら、名前に『死』と『苦』が入ってるだろ?」
    「確かに……。で、なぜモクマさんは私にそんな花を?」
     チェズレイは眉尻を下げて若干傷ついたような表情をしてみせる。うわっ、だからその顔には弱いんだってば。そう思いつつ、モクマはそれに負けないように潤むアメジストの瞳を見つめ返した。なるべく顔を引き締めて、こう言う。
    「『死』も『苦』もお前さんとともに――
     ……なんてのは、クサすぎるかな?」
     やっぱり自分の台詞に耐えきれなくて、たはは、と力なくモクマは笑う。そのままぽりぽり襟足をかくと、チェズレイが口角を引き上げた。そのままべろりと自分の唇を舐める。
    「ああ……モクマさァん……そんなことを言われたら、私、トんでしまいそうです……」
     そう言ってチェズレイは栞をテーブルに置くと、モクマを抱きしめる。その腕の中は居心地が良くて、相変わらず石鹸のような香水の匂いがする。モクマは、やっぱり落ち着くなあ、とそっと目を閉じた。
    「モクマさん。キスしてもよろしいですか? 今回は、唇に」
    「えっ」
     思わず瞠目した。この潔癖症の男が、大丈夫なんだろうか。モクマはそれが心配だった。これまでチェズレイ相手には額や頬に軽くキスしたりされたりことはあるが、唇は初めてだ。モクマは身構える。キスした後に洗面所直行でもされた日にはお互いに心の傷を負うことになるが――。
     チェズレイはモクマの手を取り、自分の胸に当てさせた。慌ててモクマは手を引っ込めそうになってしまう。それくらい、チェズレイの心音は速く脈打っており、乱れていた。
    「恥ずかしながら、誰かに唇へのキスなんて初めてのことなので……とてつもなく緊張しています」
    「じゃ、じゃあそんな無理せんでも……」
    「モクマさんが本気で嫌だとおっしゃるならしません。けれど――」
     チェズレイの手がモクマの頬をするりと撫でた。そこで手のひらの冷たさに、自分の顔が紅潮しているのだと思い知らされてしまう。
    「あなた、期待してしまっているでしょう?」
     そう言われてしまえば返す言葉もない。ええい、ままよ。モクマはチェズレイの瞳を見つめるとへらりと笑ってみせた。
    「おじさん、初めてじゃないけどごめんね。こんな時が来るんだったら、お前さんのために取っといたんだけど」
    「あなたの過去のことをいちいち気にしていたらキリがありません。しかし今は本当にそれが口惜しい」
     そう言ってチェズレイのすらりと伸びた指がモクマのおとがいを捕らえる。観念したモクマはぎゅっと固く目をつぶった。こんなに緊張するキスなんて、初めてだった。数秒の間があったので、思わず目を開けてしまう。それを見計らったかのようにチェズレイの顔が近づいてモクマの唇を塞いだ。久方ぶりにその薄い皮膚で感じるひとの唇の柔らかさ。なんだかマシュマロみたいだ、と思ってしまって、モクマは微笑みながら目を閉じると、チェズレイの首に腕を回す。すると今度は角度を変えて、再度キスされる。そのぬくもりに、涙が出そうだった。
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    DOODLEチェズモク800字。結婚している。■いわゆるプロポーズ


    「チェーズレイ、これよかったら使って」
     そう言ってモクマが書斎の机の上にラッピングされた細長い包みを置いた。ペンか何かでも入っているのだろうか。書き物をしていたチェズレイがそう思って開けてみると、塗り箸のような棒に藤色のとろりとした色合いのとんぼ玉がついている。
    「これは、かんざしですか?」
    「そうだよ。マイカの里じゃ女はよくこれを使って髪をまとめてるんだ。ほら、お前さん髪長くて時々邪魔そうにしてるから」
     言われてみれば、マイカの里で見かけた女性らが、結い髪にこういった飾りのようなものを挿していたのを思い出す。
     しかしチェズレイにはこんな棒一本で、どうやって髪をまとめるのかがわからない。そこでモクマは手元のタブレットで、かんざしでの髪の結い方動画を映して見せた。マイカの文化がブロッサムや他の国にも伝わりつつある今だから、こんな動画もある。一分ほどの短いものだが、聡いチェズレイにはそれだけで使い方がだいたいわかった。
    「なるほど、これは便利そうですね」
     そう言うとチェズレイは動画で見たとおりに髪を結い上げる。髪をまとめて上にねじると、地肌に近いところへか 849

    高間晴

    MAIKINGチェズモクの話。あとで少し手直ししたらpixivへ放る予定。■ポトフが冷めるまで


     極北の国、ヴィンウェイ。この国の冬は長い。だがチェズレイとモクマのセーフハウス内には暖房がしっかり効いており、寒さを感じることはない。
     キッチンでチェズレイはことことと煮える鍋を見つめていた。視線を上げればソファに座ってタブレットで通話しているモクマの姿が目に入る。おそらく次の仕事で向かう国で、ニンジャジャンのショーに出てくれないか打診しているのだろう。
     コンソメのいい香りが鍋から漂っている。チェズレイは煮えたかどうか、乱切りにした人参を小皿に取って吹き冷ますと口に入れた。それは味付けも火の通り具合も、我ながら完璧な出来栄え。
    「モクマさん、できましたよ」
     声をかければ、モクマは顔を上げて振り返り返事した。
    「あ、できた?
     ――ってわけで、アーロン。チェズレイが昼飯作ってくれたから、詳しい話はまた今度な」
     そう言ってモクマはさっさと通話を打ち切ってしまった。チェズレイがコンロの火を止め、二つの深い皿に出来上がった料理をよそうと、トレイに載せてダイニングへ移動する。モクマもソファから立ち上がってその後に付いていき、椅子を引くとテーブルにつく。その前に 2010

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。とある国の狭いセーフハウス。■たまには、


     たまにはあの人に任せてみようか。そう思ってチェズレイがモクマに確保を頼んだ極東の島国のセーフハウスは、1LKという手狭なものだった。古びたマンションの角部屋で、まずキッチンが狭いとチェズレイが文句をつける。シンク横の調理スペースは不十分だし、コンロもIHが一口だけだ。
    「これじゃあろくに料理も作れないじゃないですか」
    「まあそこは我慢してもらうしかないねえ」
     あはは、と笑うモクマをよそにチェズレイはバスルームを覗きに行く。バス・トイレが一緒だったら絶対にここでは暮らせない。引き戸を開けてみればシステムバスだが、トイレは別のようだ。清潔感もある。ほっと息をつく。
     そこでモクマに名前を呼ばれて手招きされる。なんだろうと思ってついていくとそこはベッドルームだった。そこでチェズレイはかすかに目を見開く。目の前にあるのは十分に広いダブルベッドだった。
    「いや~、寝室が広いみたいだからダブルベッドなんて入れちゃった」
     首の後ろ側をかきながらモクマが少し照れて笑うと、チェズレイがゆらりと顔を上げ振り返る。
    「モクマさァん……」
    「うん。お前さんがその顔する時って、嬉しいんだ 827

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    DOODLEチェズモク800字。年下の彼氏のわがままに付き合ったら反撃された。■月と太陽


    「あなたと、駆け落ちしたい」
     ――なんて突然夜中に年下の恋人が言うので、モクマは黙って笑うと車のキーを手にする。そうして携帯も持たずに二人でセーフハウスを出た。
     助手席にチェズレイを乗せ、運転席へ乗り込むとハンドルを握る。軽快なエンジン音で車は発進し、そのまま郊外の方へ向かっていく。
     なんであんなこと、言い出したんだか。モクマには思い当たる節があった。最近、チェズレイの率いる組織はだいぶ規模を広げてきた。その分、それをまとめる彼の負担も大きくなってきたのだ。
     ちらりと助手席を窺う。彼はぼうっとした様子で、車窓から街灯もまばらな外の風景を眺めていた。
     ま、たまには息抜きも必要だな。
     そんなことを考えながらモクマは無言で運転する。この時間帯ともなれば道には他の車などなく、二人の乗る車はただアスファルトを滑るように走っていく。
    「――着いたよ」
     路側帯に車を停めて声をかけると、チェズレイはやっとモクマの方を見た。エンジンを切ってライトも消してしまうと、そのまま二人、夜のしじまに呑み込まれてしまいそうな気さえする。
     チェズレイが窓から外を見る。黒く広い大海原。時 818