2万円の花束は清水の舞台に運べない/尾月 さて、どうしたもんか。
真昼間の公園で、新緑も眩く風も軽やかに微笑む中、晴天と真反対に位置するような男が偉そうに腕を組んで俺を横目に見ている。
これが見ず知らずの人間ならば逃げればいいだろう。季節の変わり目によく出現する変質者だ。もしくはその類だ。
しかし残念な事に、この初夏の青空に不似合いなごちゃごちゃした柄の開襟シャツと青っぽいサングラスを纏い、平穏な俗世と縁を切りたがるような見た目の男は知り合いである。オールバックに整えられたべタついた黒髪がより不穏たらしめている。
厳つい男は「なあ杉元よ」としっかり俺の名を呼んだ。
面倒くせえなと言いそうになったが、進まない話が余計に拗れそうな雰囲気を覚って飲み込む。
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